アドテク業界のキーパーソンが集結!「Ad Engineering Summit 2014」開催

2014年5月15日(木)と16日(金)の2日間、東京ミッドタウンホール(東京都港区)において、国内最大級のアドテクノロジーカンファレンス「Ad Engineering Summit 2014」が開催されました。

本イベントは、⁠株)サイバーエージェントが主催するカンファレンスで、インターネット/モバイル/広告/IT業界の技術者や経営者に向けて、最新の業界動向や専門技術についてのセッションと、来場者同士のつながりの場を提供するのが目的です。セッションには、国内外のアドテクノロジー業界の第一線で活躍するキーパーソン(約30名)が登壇しました。

本レポートでは、5月15日(木)に行われたキーセッション「モバイルDSP最前線」の模様を紹介します。

今の広告業界の変化を支えているのは「技術」

キーセッションに先立ち、本カンファレンスの責任者を務める⁠株⁠サイバーエージェントの渡邊大介氏より、イベント開催の主旨が説明されました。

渡邊大介氏(⁠⁠株)サイバーエージェント ビジネス事業部 事業責任者)
渡邊大介氏((株)サイバーエージェント ビジネス事業部 事業責任者)

渡邊氏は2006~2011年の5年間、同社にてネット広告の営業、マーケッターとして従事してきました。その後は一時、サービス開発のほうに移っていましたが、本カンファレンス開催にあたって再び広告分野に携わることになりました。

渡邊氏は広告分野に戻ってきて、業界で交わされるキーワードの変化に驚いたと言います。DSP、SSP、DMP、グロースハックなど、いずれも渡邊氏が広告分野にいたころにはまだなかった、あるいは注目されていなかった用語/技術です。これらの変化は、インターネット広告の主要なプレイヤーを変えるほどの大きな変化で、その根底にあるのは広告技術、およびそれに携わる技術者である、渡邊氏はそう考えています。その重要性をあらためて認知させるべく本カンファレンスを開催したとのことです。

また、渡邊氏は「これらの技術の重要性は認知されているものの、広告主や広告代理店の担当者は、技術に対するコンプレックスからか、まだまだ技術を十分に活かしきれていない。広告業界の人々と技術者は互いにもっと交流していくべき」と感じています。本カンファレンスは、そんな交流の場を提供するという目的もあるとのことです。

「世界中のアドテクノロジーの知識と知恵を集めたので、大量の情報を摂取し、参加者同士で交流し、ぜひこの機会を活用してほしい」と、渡邊氏は開催の挨拶をしめくくりました。

アドテク業界のキーパーソンによるパネルディスカッション

引き続き、キーセッションとして、海外のアドテクノロジーのスペシャリストたちによるパネルディスカッションが行われました。

パネリストとして登壇したのは、Criteo社のジェイソン・モース氏、Appier社のチハン・ユー氏、TapCommerce社のマーク・ヘール氏、StrikeAd社のマリオ・ピロ氏の4名。モデレーターは、⁠株)medibaの菅原健一氏です。

広告流通革命

実はこの数年で、Webサイトのバナー広告において、画期的な技術が確立されました。広告主からWebサイトの閲覧者(ユーザ)に適切な広告を瞬時に配信する技術です。ユーザの性別、年齢、居住地などの情報を基にユーザの嗜好を分析し、その嗜好や媒体(Webサイト)に合った複数の広告を洗い出し、広告主同士に広告枠をめぐって競売を行わせ、競売に勝った広告主の広告を画面に表示するという手法です。しかも、そのやりとりは、ユーザがWebサイトにアクセスしてからコンテンツが画面に表示されるまでの、わずか0.1秒程度の間に実施されます。このリアルタイムの広告入札の方式は、⁠RTB(Real Time Bidding⁠⁠」と呼ばれています。

この方式の導入のおかげもあって、今ではWebの1日の広告件数は45億件にものぼっています(2013年公益社団法人日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会調べ⁠⁠。新聞、雑誌、テレビ、ラジオの1日の広告件数はそれぞれ100万件にも満たないことを考えると、いかにWeb広告の規模が大きいかがわかります。このような現在の広告業界の状況を「広告流通革命」と言っています。

1日の広告件数
1日の広告件数

ディスカッションでは、この広告流通革命のこれからについて意見が交わされました。

広告流通革命のこれから

今後のアドテクノロジー分野共通の目標として、まずジェイソン氏が「よりパーソナルな広告を予測すること」を挙げました。

ジェイソン氏「2000~2010年の広告業界は、検索機能から得られるキーワードやその他の情報を基にユーザの意図を理解することが課題でした。今後は、さらに「より良く予測して行くにはどうすれば良いのか」を考えて行くことになるでしょう。何百ものインプットを基に「ユーザに最も適したな広告は何か、ユーザに関連性のある広告は何か」を予測していくこと、大量の情報を分析するための技術や投資は、すべてその目的のために向けられていると思います。予測モデルの研究はどんどん複雑化していますが、そのぶんだけ個人に適したものがリコメンドされるようになります。今後はそのような研究、技術開発に時間を要していくことになるでしょう。」

ジェイソン・モース氏(Criteo社 Mobile VP)
ジェイソン・モース氏(Criteo社 Mobile VP)

チハン氏はインプットの増加の要因として、デバイスの増加に注目しています。

チハン氏「広告というと、かつてはテレビなどが中心でしたが、今ではPC、モバイルなどが主流です。新しいデバイスも登場してきており、デバイスイノベーションはかなり速いスピードで進行しています。デバイスが増えれば、広告のフォーマットも増えます。アドテクノロジーはこれらに対応していかなければいけないという厳しい課題を背負っていますが、一方ではそこが一番魅力的だとも思っています。」

チハン・ユー氏(Appier社 CEO兼創業者)
チハン・ユー氏(Appier社 CEO兼創業者)(Criteo社 Mobile VP)

マリオ氏「私も同感です。アドテクノロジーの将来像を聞かれたときに思ったのは、映画『マイノリティリポート』のことです。映画ではトム・クルーズがさまざまなデバイスを通して世界とつながっています。そのような社会は、今後、現実のものになると思いますが、その際には今よりもっと多くのデバイス、多くのフォーマットが登場しているでしょう。そんな状況でも、我々はより良くユーザを分析し、適切なタイミングで適切な広告を提供していかなければなりません。」

マリオ・ピロ氏(StrikeAd社 Regional Sales Director APAC)
マリオ・ピロ氏(StrikeAd社 Regional Sales Director APAC)

Web広告は以前から存在していましたが、現在の状況が、以前と全然違うのは、スマートフォンを利用する人の割合が非常に高くなっていることです。スマートフォンの利用者が増えることで、インターネットの利用がWebからスマートフォンアプリに移ってきていると言います。そのため、広告は個々のアプリの中にまで表示されるようになり、アドテクノロジーはますます多様な環境に対応していかなければならない状況にあります。

この調子でこれからもデバイスが増え、広告フォーマットが増えたときに、果たして広告を出す側(広告主や広告プラットフォームを提供する企業など)が対応していけるのか、それがアドテクノロジー業界が直面している課題です。

フラグメンテーション

デバイスの増加がもたらしている課題は、実はもう1つあります。

デバイスが増えたことで、1人のユーザが複数のデバイスからWebを利用するようになりました。この「ユーザがさまざまなデバイスに分散した状況」「フラグメンテーション(Fragmentation⁠⁠」と呼んでいます。ユーザに合った広告を配信するためには、アドテクノロジー企業は、複数のデバイスに分散したユーザを、1つ1つつなげていく必要があります。つまり、ユーザをきちんと識別し、どのデバイスからアクセスしたときでも、同じようにユーザの嗜好に合った広告を配信する必要があるのです。

次のテーマでは、このフラグメンテーションに対して各社はどんな考えで取り組んでいるか、どのような解決策をしているのかについて、話し合われました。

マーク氏「複数のデバイスにまたがってユーザを追跡して広告を配信するというのは、パフォーマンスマーケッターの夢だと思います。ですが、問題は精度です。広告主が求めているのは、予測可能な形で、しかも信頼性の高い予測をもって、売り上げを伸ばして行くということです。ユーザを追跡するとは言っても、取れない情報があったりして、どうしても類推する部分が出てきてしまいます。その精度をどうやって上げて行くかが大きな問題だと考えています。」

マーク・ヘール氏(TapCommerce社 Executive Director APAC)
マーク・ヘール氏(TapCommerce社 Executive Director APAC)

マリオ氏「私たちはユーザの属性情報のデータベースを使って、まずは1つのデバイスでユーザを特定し、そのうえでほかのIDなどを見て行きます。たとえば、Cookie IDやiPhoneにおけるIDFA(Identification For Advertisers、Apple社が発行する広告用端末識別ID)などです。これにより1人のユーザが複数のデバイスからアクセスしても、すべて同じユーザとして認識できます。まずは、1つのデバイスで特定し、それを基にほかのデバイスと紐づけするわけです。それによってユーザのハンドリングが簡単になると思いますし、精度も高められると思っています。」

このように、ユーザが持つすべてのデバイスを紐づけるというやり方がある一方で、ターゲット層ごとにユーザを再統合するという方法も発表されました。

ジェイソン氏「私たちが採っているアプローチはユニークかもしれません。私たちが注力しているのは、まずは各バーティカル(特定のデバイスやユーザ層)ごとに最適なソリューションを提供していくということです。モバイルの広告ではベストなソリューションは何か、広告主に対してどういったものを提供できるか、またメディアに対してはどういうものを提供できるかを考え、対応を行っていきます。そうすることで断片化したユーザやオーディエンスをもう一度まとめられると思います。各バーティカルごとにベストな商品をきちんと提供していくことで、再統合していけるはずです。」

新しいデバイスが登場して便利に使われるようになってはじめて、そのデバイス向けの広告市場が形成されて行くため、アドテクノロジーの対応はデバイスの進化よりも、どうしても遅れてしまいます。そういったことからも、アドテクノロジーの業界には、まだまだイノベーションが必要であると語られました。

また、⁠PCからある商品を買ったら、スマートフォンでその商品に関連する広告が表示される」というのは、ユーザからすると少々びっくりすることでもあります。米国などではすでに当たり前になっていますが、日本国内では許されるのでしょうか? プライバシーポリシーの厳しいヨーロッパなどではどうなのでしょうか? ディスカッションではそんな問題提起も行われ、⁠信頼を得るためには、きちんとユーザの許諾を得るなど丁寧な対応が必要だ」という意見も挙げられました。

アドテク業界で求められる技術/スキル

最後に、登壇者が所属する各社の技術的な特徴や強みについて発表が行われました。各パネリストからは、⁠モバイルアプリにおけるディープリンク」⁠機械学習」⁠プライバシーに配慮したインフラ」⁠リターゲティング広告」など、さまざまなキーワードが挙がりました。

各社に共通していたのは、⁠大量のデータをさばけるインフラがあり、その中で分析をしている」ことと「分析で最適な解を出すには、ユーザ、広告主、自社のサービスについて、よく知っておかなければいけない」ことです。つまり、アドテクノロジーのエンジニアにも、単にモノを作るだけでなくユーザやサービスを理解するということが求められるのでしょう。

ディスカッションのまとめとして、菅原氏から次のような一言がありました。

菅原氏「現在の広告のしくみは1社の企業が実現しているわけではありません。⁠マイノリティリポート』のような世界は、いろいろな企業がつながることで実現されるでしょう。そうして行くためには、今後、APIやほかのしくみでもっとシームレスに企業同士がつながっていく必要があります。

海外ではこのようなイベントのあとには、人同士の交流が盛んに行われて、企業間の連携がどんどん実現されていきます。このカンファレンスでも、そういう交流のの時間を設けています。ぜひ、有効に活用してほしいと思います。」

菅原健一氏(⁠⁠株)mediba CMO)
菅原健一氏((株)mediba CMO)

アドテクノロジー業界は、日本ではまだ注目され始めたばかりですが、すでに多くの目標や課題を抱え、技術的にもビジネス的にも挑戦の余地がたくさんあることが感じられたセッションでした。

カンファレンス責任者の渡邊氏、ディスカッションのモデレータを務めた菅原氏、その両氏とも本イベントを通じてアドテクノロジー分野への参加/交流を呼びかけており、業界全体が優秀な人材を欲しているという印象を強く受けました。腕に覚えのあるエンジニアの方々は、ぜひアドテクノロジー業界に注目してみてください。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧