企業が“本当に求めているもの”提供する「AWS Summit Tokyo 2014」2日目キーノートレポート

7月17、18日に品川で開催された「AWS Summit Tokyo 2014⁠⁠、2日目のキーノートはアマゾン データ サービス ジャパン⁠株⁠代表取締役社長の長崎 忠雄氏が登壇しました。前日のAmazon.com CTO、Werner Vogels氏の話を引き継ぎ、おもにエンタープライズコンピューティングにおけるクラウド、そしてAWSの圧倒的なメリットをさまざまな例をあげて紹介していきます。

イノベーションを起こすには「どれだけたくさん失敗できるか」

長崎氏はこの1年で企業の規模を問わないAWSの利用がさらに進んだことを紹介し、今回のAWS Summit TokyoのセッションもほとんどがAWSの顧客によるセッションであると続けます。⁠世界を見ても、これだけお客様のセッションが多いイベントはない」⁠長崎氏⁠⁠。この流れから、今、コンピューティングはテクノロジの転換期を迎えていると言う長崎氏が引用したガートナーによるIaaSの調査報告では、⁠何がクラウドに移行できるか、ではなく、クラウドに移行できないものは何かを考える顧客が日々増えている」とその変化を表現しています。

長崎 忠雄氏
長崎 忠雄氏

クラウドが求められている一番の理由として、長崎氏は「アジリティ」⁠機敏性)を挙げました。Dropboxや前日のキーノートでVogels氏が例に挙げたAirbnbなど、わずか数人で始めたサービスが短期間のうちに世界規模になるという「凄まじい勢いの成長」⁠長崎氏)を達成できたのは、クラウドあってのものというのもうなずけます。

こうしたイノベーションを起こすには、できるだけ多くの実験を行い何回も失敗すること、そしてこのようなトライアル&エラーにかかる時間を短縮することが鍵となります。これをスピードアップすることで、イノベーションを起こす可能性は大きく高まります。⁠決められたレールを走るやり方より、これからはトライアル&エラーをできるだけ短期間に数多くこなすやり方が増えていく」⁠長崎氏⁠⁠。

スピードこそが重要に
スピードこそが重要に

また顧客企業を支援するため、AWSは新機能の追加を次々と行っていますが、機能だけはなく、それぞれの性能をグレードアップさせる動きも怠りません。たとえばEC2インスタンスタイプで言えばM1、T1からM3、T2へ、CPUタイプもC1等からC3へ…といったように個々の性能も世のハードウェアの動きに合わせて上がっています。さらにこれらはすべて自動的にグレードアップさせることも可能です。

ここで最初のゲストとして⁠株⁠ガリバーインターナショナル 行役員の許 哲氏が登壇しました。同社は中古車販売の大手ですが、LINEのAPIを使った自動車の情報通知システム「Drive+」を発表し、話題を呼んでいます。

Drive+はLINEのスタンプを送信するだけで情報を取得し、広い駐車場でのクルマの位置情報や駐車時間、あるいは走行距離に応じた燃料の残量を計算して給油のタイミングを通知するといったさまざまな情報機能をもつサービスです。自動車メーカが取り組んでいる今話題の「コネクティッドカー」に、今乗っているクルマを近づけるという発想だそうです。⁠こうした機能は未来のこと、これから販売される新車にしか語られていない。今日本だけでも7000万台以上走っている、その車に何ができるかを考えたい」⁠許氏⁠⁠。

このサービスの基盤として使われるのがAWSです。7月17日に東京リージョンでのサービス開始が発表されたKinesis、そしてモバイル同期、認証サービスのCognitoといった新しい機能が使われているのも特徴的です。

Drive+で使われているAWSコンポーネントを紹介する許 哲氏
Drive+で使われているAWSコンポーネントを紹介する許 哲氏

こうしたユーザの求める新しい機能をお客に代わって追加していくのもAWSの仕事だと言います。

2014年になってすでに160以上の機能を追加しているというAWSとオンプレミスを比較して、かたや1ヵ月で新しいサービスが次々追加され自動的にアップグレード、すぐに利用できる環境、もう一方は一度導入したら4、5年は同じものをメンテナンスするだけ、⁠どちらを選ぶかは明白でしょう」⁠長崎氏⁠⁠。

そして今、日本のユーザが最も望んでいるのが、UI、つまりマネジメントコンソールの日本語化です。そこで現在開発中の日本語マネジメントコンソールのプレビューが行われました。デモを行うのはアマゾン データ サービス ジャパン⁠株⁠のテクニカルエバンジェリスト、堀内康弘氏です。

日本語マネジメントコンソールをデモする堀内氏
日本語マネジメントコンソールをデモする堀内氏

こうした改良の他、AWSが特徴的なのは低価格路線です。前日のキーノートでも触れられた、2006年以降行われた44回の値下げの他、オンデマンドや予測してリソースを確保する「リザーブド」といった細かい特別料金の設定、そしてボリュームディスカウントや大口ユーザ向けのカスタム価格の設定など、さまざまな割引き設定がありますが、さらにこれらをどう組み合わせると安くなるかをアドバイスする仕組みもあります。⁠競合がない中でなぜ安くするのか? ─それがフィロソフィだから」⁠長崎氏⁠⁠。

企業がクラウドを使うとき

日本のAWSエコシステムについて語る際に外せないのがJAWS-UG(AWS User Group - Japan)の存在です。全国に45もの支部があり、勉強会やセミナーでさまざまな事例を共有し、日本のAWSの利用を強力にバックアップしています。その企業版と位置づけられているのが「Enterprise JAWS-UG」です。40以上の企業の情報部門が参加するこのグループのメンバーの1社、積水化学工業(株⁠⁠ 情報システムグループ長、寺嶋 一郎氏が次に壇上に立ちました。

同社では全グループ企業2万人のうち本社所属は2,000人と、関連会社の比率が多い人員構成となっています。これらグループの情報共有のため、⁠iSmile」というグループウェアを自社開発しました。ベースはLinux上で動き、複数のOSSを組み合わせたもので、世界中のグループ企業で利用してきましたが、利用を続けるうちにさまざまな課題を抱え、全面更新されることが決まりました。ここで主にコスト削減とBCP対策のため、AWSの利用を検討に入れたのです。

AWSを選んだ理由を説明する寺嶋氏
AWSを選んだ理由を説明する寺嶋氏

AWSで構築するにあたって、I/Oパフォーマンスやセキュリティなど懸念すべき点はいくつかあったものの、そこで決め手になったのが最初に長崎氏が口にした「アジリティ」です。最初に小さい環境ですぐに試して、それを元に懸念事項を潰していき、グローバルを含めた全社に展開していくことができたと寺島氏は言います。現在はオンプレミス2拠点、プラスAWS拠点という形で運営しているとのこと。

キーノート後半は、企業はAWSをどのように導入したらいいのか? 長崎氏がこれまで見てきたユーザ企業のパターンをいくつかに分け、例を挙げて説明していく形で進みました。大きく分けて次のようなパターンがあるそうです。

  • 開発、検証環境として導入
  • 新しいサービスを始めるにあたって導入
  • 既存アプリケーションの一部をクラウドに置き換えて補強
  • 既存のインフラをクラウドで補強
  • 既存のアプリケーションをクラウドに移行
  • すべてのITを丸ごとクラウドに

最後に挙げた「All-In」はハードルが高そうですが、丸紅、日本通運、ローソンなど、結構大きな組織が導入に成功しているそうです。

ここで最後に出てきた⁠株⁠ローソン 専務執行役員、加茂 正治氏が最後のゲストスピーカーとして登場しました。ローソンでは、チルド、ドライ、フローズン、新聞雑誌たばこ、といった商品別に、1日最高7便が全国1万2000店もの店舗に配送されます。その定時店着率は99.6%! 日本の物流はすごいですね。品物は1品から届けられ、毎日3000万個もの商品が店頭まで動くと言います。

ローソンのデータ活用はCRM(Customer Relationship Management)とSCM(Supply Chain Management)の2つから成ります。Pontaカードの会員から得られるユーザ(CRM)情報から、同じユーザが何を買いに来るか、月平均何回来店するかといった動き、あるいは週に数十回も来店するいわゆる「ロイヤルカスタマー」の動向など、さまざまなことがわかってきたと加茂氏は言います。これをSCMに生かすため、Hadoopを使った分析を行っており、さらにAWSのもつスピードで、リアルタイムの発注に生かしていきたいというのが同社の狙いです。

AWSに一本化したのは、40年にわたって作り上げてきたさまざまな系統のシステムが「ベンダーロックイン」⁠ハードウェアロックイン」の状態が端末だけでなくサブシステムのセンターレベルで起こっているほか、商品発送の締め切り時間間際に発注が殺到するといったクラウド向きの利用状況もあったと言います。ほかにも、リアルタイムで地域別の店舗在庫や気温による購買志向の変化等を分析することで、従来は勘に頼っていたような発注数の調節や発注の推奨などにつなげていきたいとのことです。

ただ、不安要素もあります。情報の安全性については「これで大丈夫」という決定版がない点、⁠昨今のベネッセのような事例を見ると不安になる」⁠加茂氏⁠⁠。またAWSに頼るあまり「アマゾン・ロックイン」にならないよう、できるだけオープンなプラットフォームを目指したいとのこと。-「アマゾン・ロックイン」というのは初めて聞きました。

最後にAWSへの期待を述べる加茂氏
最後にAWSへの期待を述べる加茂氏

「プライベート」なことはクラウドでもできる

最後の締めとして、長崎氏はまだクラウドに踏み出せないユーザが望んでいるものとして「プライベートネットワーク」⁠プライベートストレージ」⁠プライベート鍵管理」⁠ガバナンス」⁠セキュリティ」を挙げ、ひとつひとつAWSでは実現されていると説明。⁠プライベート⁠をキーワードにして出てくるサービスは、実はクラウドでできることばかり」⁠長崎氏⁠⁠。ガバナンスやセキュリティについても、ユーザと共に作り上げてきたノウハウがあり、さまざまな機関の認証や証明書も取得済みであること、さらに使い続けることで進化するAWSの特徴も持ち合わせている点を強調します。⁠お客様には、自分でやるよりよほど頑強と言われます」⁠長崎氏⁠⁠。

その上で再度、来場者に問いかけました。⁠ある機能、性能で固められ、自分で進化しないのに多額のメンテナンス費が発生するものと、必要とするプライベート機能を持ちつつ自分で進化を続け、導入費用を必要としないシステム、あなたはどちらを選びますか?」

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