「IoT(Internet of Things)はデバイスとクラウドが融合する技術。だがこれまで、ハード側の人間とクラウド側の人間が接点をもつ機会はほとんどなかった。ソラコムという存在がこの両者をつなぐ架け橋になってくれるのではと期待している」 ─12月11日、東京・渋谷で行われたソラコム初のユーザカンファレンス「SORACOM User Group #0」において、発起人のひとりであるアットマークテクノ 竹之下航洋氏はこう挨拶しました。        
「SORACOM User Group #0」の会場となったのは渋谷の「イベント&コミュニティスペース dots.」です    
 
 
冒頭の竹之下航洋氏によるSORACOM User Group設立の挨拶 
 
 
続いて発起人の皆さんによる挨拶がありました。cloudpack 後藤和貴氏 
 
 
クラスメソッド 横田聡氏 
 
 
ぷらっとホーム 松下享平氏。松下氏は全体の司会も担当されました 
 
 
2015年、IT業界のみならず、一般にもひろく認知されるに至ったIoTという言葉ですが、具体的にIoTで何が可能になるのかと聞かれると、答えに詰まった人も多かったのではないでしょうか。そんな中、国内発のIoTベンチャーとしてさっそうと登場したソラコム がローンチした「SORACOM Air」「 SORACOM Bean」といった各種サービスは、MVNOでありながら個人ユーザから大企業までを対象にしたレンジの広さと、SIMカードを挿入するだけであらゆるモノをクラウド経由で安全につなげるというわかりやすさが奏功し、大きな反響を呼びました。IoTという霞がかっていたバズワードを、誰もが手にできるテクノロジとして具現化したソラコムの功績はIT業界を超えて高く評価されています。           
9月にサービスをローンチして以来、すでに多くのユーザを獲得しているソラコムですが、ユーザどうしのより積極的な情報交換を推進することを目的に、パートナー企業のメンバーが中心となってユーザグループ「SORACOM User Group」が設立されました。IoTという分野には、デバイス関連だけでなく、ソフトウェアやクラウドのエンジニアも多く関わってきます。しかし冒頭の竹之下氏の言葉にもあるように、これまでデバイス側とクラウド側のエンジニアの接点はほとんど存在しませんでした。ソラコム 代表取締役社長の玉川憲氏は「IoTシステムの構築にはフルスケールエンジニアが必要」とよくコメントしていますが、その言葉通り、IoTの世界ではデバイスにもソフトにもクラウドにも精通していることが求められつつあります。そうした時代を生き抜く"フルスケールエンジニア"になるため、これまで接点をもたなかった者どうしでの学び合いを促進していく─SORACOM User Group発足の背景にはそうした意図が込められています。             
第0回とされたユーザグループ発足記念イベントでは、SORACOMの新機能アップデートの発表と数名のユーザによるLTが行われました。本稿ではその概要をレポートします。 
アップグレード情報も盛りだくさん 
ソラコムはサービスローンチを行った9月30日以降も、頻繁なアップデートを行っています。10月以降のアップデート内容について、ソラコム シニアソフトエンジニア 片山暁雄氏より説明がありました。  
当初発表を行う予定だった玉川氏は前の予定が押して間に合わず、急遽片山氏による発表となりました  
 
 
SORACOM AirのSIM(Air SIM)を使用するデバイスにカスタムDNS機能(独自のDNSサーバを指定)の追加     
SORACOM BeamにAWS IoT連携を追加 
Air SIMにメタデータサービス機能を追加、デバイス自身がSIMの情報をHTTP経由で取得/書き込み   
SORACOM Beamのプロトコル変換としてHTTP→UDPをサポート 
SIMのステータス変更時あるいは速度変更時にイベントを発生させる機能を追加、イベント発生後にAWS Lambdaと連携  
 
このほか、オリジナルのアイコンセット集が作成中であることや、2016年1月27日に東京・品川で開催されるソラコム主催イベント「SORACOM Conference "Connected"」の告知が行われました。     
続いて片山氏よりSORACOM Airに関するアナウンスが2つ行われました。ひとつは基本料金の長期契約割引、もうひとつは初期費用の値下げと直販サイトからも1枚単位での購入が可能になったことです。 
一部界隈で「トークがすべる」とウワサのソラコム 片山暁雄氏(ご本人によると「都市伝説」とのこと)      
 
 
基本料金の長期契約割引は、300回線以上契約の場合につき、1年/3年/5年の使用を約束することで基本料金が割引されるようになるという変更です。現在、SORACOM Airの基本料金は10円/日で、1カ月=30日で計算すると月額300円になりますが、もし1年間の継続使用を約束すれば月額270円まで下がります(一括前払いなら260円に) 。長期間利用することがあらかじめ判明している場合に適したプランだといえます。      
また、SIMの初期費用も従来の580円から560円に値下げされ、さらに直販サイトからも1枚単位での購入が可能になりました(従来は10枚単位から) 。   
息もつかせない頻繁なアップデートと、規模の拡大に応じた値下げによるユーザへの利益の還元、こうした動きを見ていると、玉川氏が古巣のAWSから継承したクラウドネイティブなDNAがソラコムの経営にもいかんなく表れていることを強く実感します。   
ユーザ会を盛り上げる多彩なチャレンジ 
LT中の会場風景 
 
 
ソラコム側からの発表に続いて、10名のユーザによるLTが行われました。ここではその中から2本を紹介します。 
SORACOM×Salesforce×AWSで農業クラウド … セールスフォース・ドットコム 岩谷昭宏氏  
岩谷昭宏氏 
 
 
ビニールハウス内のいくつかの区画にAir SIMを挿入したデバイス(Raspberry Pi)を設置し、SIMから上がってきた情報をリアルタイムに監視したり、ステータスや速度変更を実施するシステムです。SORACOM AirとAWS IoT、AWS Lambda、Amazon DynamoDBを連携してデバイス管理のバックエンドシステムを構築し、データ使用量などのレポート閲覧やCSVへのインポート、ダッシュボード分析などをマッシュアップで表示するフロントエンドシステムをHerokuで作成しています。特定のデバイスの通信量がしきい値を超えるとSORACOMから通知メールが届き、SIMの通信を遮断するデモが行われました。Salesforceのアプリケーションらしく、アクセス履歴や承認履歴などを細かく記録できる点も印象的でした。          
GUIベースでサービスを構築できるデモ 
 
 
ラズパイ×Twitterで家庭内IoT … 平愛美氏 
平愛美氏 
 
 
Twitterをセンサーデータの表示先にするユニークな使用例です。名のタイプのAir SIMを挿し込んだRaspberry Piと温湿度センサー、カメラモジュールを駅弁の空き箱とティッシュの空き箱に詰め込み、IoTデバイスを自作、ドコモのUSBモデムを使ってダイアルアップでSORACOMに接続しています。取得した温度や湿度などのセンサーデータをCRONでTwitterに送信、撮影した室内の画像も送信できています。Twitterは鍵をかければ公開先を限定できるため、セキュリティもある程度担保することが可能です。ランニングコストはSORACOM Airの月額料金(300円)のみ。IoTが個人でも十分に活用できることを示した好デモでした。       
平さんのデモの模様 
 
 
 
サービスローンチからわずか3ヵ月にもかかわらず、多くのユーザが率先して事例を紹介し、互いに情報を共有しあう場を作り上げているソラコム。これまでサイロ型ITのように互いに疎な関係であったデバイス、ソフトウェア、クラウドといった関係者をつなぐ架け橋のような存在に成長しつつあることを感じたイベントでした。次にソラコムが見せてくれるIoTの可能性は何なのか、2016年も同社の動きに引き続き注目していこうと思います。     
LTの途中で玉川氏が到着し、皆さんで乾杯が無事行われました