スキルも経歴もバラバラな参加者が即席でチームを組み、同じテーマのもと、数十時間でゲームを作って発表する「ゲームジャム」 。いわゆるハッカソンのことですが、それぞれのメンバーがジャズのセッションのように、臨機応変にゲームを作り上げる様から、ゲーム業界では「ゲームジャム」と呼称します。毎年1月末に開催される世界最大のゲームジャム「Global Game Jam」を筆頭に、さまざまなゲームジャムが開催されています。
当初は開発者コミュニティが草の根で開催してきましたが、次第に企業が参入し、人材採用や、新製品・新サービスの宣伝告知にからめて実施するものまで広がってきました。こうした中で2011年に、ゲーム会社大手のセガグループ社員による「課外活動」としてスタートしたのが「セガ・ゲームジャム」です。7月16日(土) ・17日(日)に開催された第9回の内容を取材しました。
セガ・ゲームジャムの様子
新しいチャレンジができるゲームジャム
1980年代から90年代にかけて、『 バーチャファイター』『 ソニック・ザ・ヘッジホッグ』などのゲームソフトや、セガサターン、ドリームキャストなどの家庭用ゲーム機で一世を風靡(ふうび)したセガ。現在は家庭用ゲームソフトを筆頭に、アーケードゲーム、スマホゲーム、玩具・映像事業、アミューズメント施設運営など、さまざまな分野にコンテンツやサービスを展開。2015年には大規模なグループ再編を行うなど、時代に即した取り組みを進めています。
こうした事情からセガ・ゲームジャムでもセガゲームス、セガ・インタラクティブ、ダーツライブ、『 ペルソナ』シリーズなどで知られるグループ傘下のアトラス、さらには来春入社予定の内定者など、幅広い属性の参加者が見られました。その後、投票とくじ引きの2段階で決まった「美少女」をテーマに、合計39名がゲーム開発に挑戦。34時間で個性豊かな8タイトルが作られました。
アトラスのアーティストがグラフィックを担当した「デスコン!」( 上)「 GIFT-オクルコトバ-」( 下)
完成したゲームの中には、VR(バーチャルリアリティ)HMDのHTC Vive専用ゲームや、PCのカメラ機能を活かして、画面の中にプレイヤーが入り込んでプレイするものなど、アイディアと技術力を活かしたゲームが多数見られました。また、ゲームジャムの多くがエンジニア中心になりがちなのに対して、今回はアーティストの参加比率が多く、見た目に華やかなゲームが多かったのも特徴。さまざまなスキルの参加者がいてこそ、ゲームの完成度が高まることが、改めて実感できました。
その中でも異彩を放っていたのが、カードゲームの『美少女革命』です。ゲームのベースは大富豪(大貧民)で、カードには「美しさ」「 若さ」「 色気」という3つのパラメータが存在し、各々の重要度が毎ターン変化するという、一筋縄ではいかない内容になっています。最大の特徴はスマホゲーム『キャンディクラッシュサーガ』などで有名な、King社製の2Dゲーム開発用エンジン「Defold 」を使用した点。内容もさることながら、技術面で尖ったゲームとなっていました。
『美少女革命』のゲーム画面
『美少女革命』を開発したチーム「美ホールド」は、プログラマー4名で構成されており、今回初めてDefoldを使用したといいます。実はゲームジャムでは開発時間が限られていることから、UnityやUnreal Engine 4など、信頼性が高く、普段から使い慣れているゲームエンジンやミドルウェアが使用されることが一般的です。実際、ゲームエンジンに不慣れなゆえのトラブルが発生したようで、楽しくも苦しいゲームジャムになったようでした。
もっとも、ゲームジャムの魅力の一つに、ふだんの業務から離れて、まったく新しい技術や役割に挑戦できる点があります(そのためエンジニアがパラパラマンガを描いてグラフィック素材を作ったり、みんなで歌を歌うなどしてオーディオ素材を作成することもあるほどです) 。
ゲームジャムでつかめたDefoldの特性
今回あえてDefoldでゲーム作りに挑戦した点に興味を惹かれ、イベント終了後に、チームメンバーの一人であるセガゲームスの竹原涼氏にインタビューを行いました。
Defoldで『美少女革命』を開発した「美ホールド」チーム(右から2人目が竹原氏)
——ゲームジャムではお疲れさまでした。今回Defoldの使用を決められた理由は何でしたか?
竹原: Defoldのことを知ったのは今年のGDC(Game Developers Conference、毎年3月に米サンフランシスコで開催される世界最大級のゲーム開発者会議)です。開発元のKing社が登壇したセッション(注 )で「ビルドが早い」「 動作が軽い」「 成果物のサイズが小さい」という点をプッシュしていた印象があったので、それがどれほどのものか実感してみようと思い選びました。
モバイル分野でUnityが圧倒的シェアを誇っているなかで、あえて投入されたこともあり、 King社としても、相当自信があるのだろうな、と想像していた点も大きかったです。
また、既にKing社からリリースされている『ブロッサム・ブラスト 』という、Defoldで開発されたスマホゲームのクオリティが一定以上の水準のものであったことも、セレクトの要因としてあげられます。
ただ、日本語の情報が少ない状態でしたので、最後まで迷っていたところはあります。
最終的には、参加者の中に「Defoldを使うぜ!」という熱意のある方がいたので便乗しました。
——今回のゲームジャムで具体的な検証ポイントなどを設定しましたか?
竹原: 制作で手一杯になることが目に見えていたので、ゲームジャム内では具体的な検証ポイントは設定していませんでした。
ゲームジャムが終わって一段落したので、これからジャムの経験を振り返りながら情報や感想をまとめる予定です。
——日本語の情報が少ない中で、ゲームジャムにのぞむに当たってどのような準備をしましたか?
竹原: CyberAgent社の技術ブログ にDefoldのチュートリアルの翻訳記事があがっており、これに目を通しながら実際に触ってみました。
感触として「なんとなく2Dゲームが作れそうだな」程度まで理解したところで、ゲームジャムに挑戦しました。
——そもそも、ゲームジャムで使い慣れないゲームエンジンや技術を使うというのは、かなり挑戦的な試みですよね。竹原さんは、よくこういった挑戦をされるのですか?
竹原: いえいえ、あまりゲームジャム経験が豊富でないのもあって、個人的にも初めてのチャレンジでした。
先ほど述べたとおり「Defold 使うぜ!」という方が他にいたので、この機会を逃す手はないと思い挑戦しました。
——当日はかなり苦戦されていたようでしたが、何が原因でしたか? 単純にバグですか? それともエンジンの癖などでしょうか?
竹原: エンジンの癖によるものが大半でした。
もともとUnityやUnreal Engine 4とは違った思想で作られているエンジンだったので、馴染むまでに相当時間がかかりましたね。
また、集団作業を行う上での環境セットアップのチュートリアルがなかったので、開発環境を整えるのに初日の午前中を費やしてしまいました。
このように、出たばかりのエンジンにつきものの、情報不足も大変な点でした。
一方でゲームエンジンに残されているバグもいくつか踏みましたが、フォーラムの情報が充実していたため、回避できないような致命的なものはありませんでした(もっとも、調査に時間がかかってしまいましたが……) 。
——Defoldの特性や使いこなしのコツなどの理解は深まりましたか? 既存ゲームエンジンに対する優位性はどういったところにあると感じましたか?
竹原: GDCでKing社が説明していたように、「 ビルドが早い」「 動作が軽い」「 成果物のサイズが小さい」という点が、既存エンジンに対する優位性としてそのまま感じられました。
本当に小規模な開発で(動作、仕様ともに)軽量なアプリを組むのに特化したエンジンといった印象です。
エンジンの仕様規模がそこまで大きくないので、ゲームジャムを通じて特性をある程度つかめたのは大きな収穫でした。
Defoldに興味がある方は一度ゲームジャムで触ってみるのをオススメします!
Defoldでの開発の様子
——短時間ながらエフェクトなども入り、楽しそうなゲームができていたと感じましたが、どういった点に苦労しましたか?
竹原: やはりゲームエンジンの癖をつかむのにとても苦労しましたね。
特にオブジェクトの生成とオブジェクト間の情報伝達がかなり独特で、初日の夜までは癖がつかめないなりに丁寧に実装しようとしていたのですが、「 やばいこのままでは間に合わないぞ」という状況まで追い込まれたため、その後は諦めて書き散らすような感じで実装しました(笑)
おかげで後半に気軽に仕様追加できない状態になってしまい、メンバーには迷惑をかけました……。
——実際のところ、Defoldは業務で使えそうですか?
竹原: 編集の競合に弱い(Defold上では解決できない)ので、正直なところ業務面、特に大規模開発で利用するのは厳しい印象が残りました。
ただ、動作やビルドの速さは魅力的ですので、エンジンの特性にあわせたプロジェクトを建てられれば、利用するメリットはあると思います。
——竹原さんの過去のゲームジャムの参加履歴について教えてください。ゲームジャムのどんなところが楽しいですか? または楽しかったですか?
竹原: 実はセガ・ゲームジャムには第1回・第8回・そして今回と、3回参加したのみです。
第1回に参加した後はタイミングがあわず、なかなか参加できませんでしたが、前回から運営兼参加者として再び参加できるようになり、非常に嬉しく思っています。
普段の業務は技術サポートが中心で、直接ゲームを作ることがほとんどないため、ゲームジャムでゲームが作れるのはすごく楽しいですね。
また、ジャムを通じて普段つながれないような、さまざまな開発者と知り合いになれるのも楽しみの一つです。
成長やチャレンジの場の重要性の高まり
竹原氏が実践したように、ゲームジャムは普段の業務から離れて、自由にゲームが作れる場所です。ときには失敗することもありますが、そこも含めてゲームジャムの魅力があります。特に近年、ゲームのビジネスモデルが買い切り型から運用型に移行しつつある中で、ヒットタイトルの運営に従事するゲーム開発者の中には、目の前の仕事に集中するあまり、技術の進歩におきざりにされるリスクがでてきました。こうした中、ゲームジャムを活かして、最新技術に挑戦しようとした竹原氏らのチームは、そのチャンスを十二分に活かしたといえるでしょう。
もっとも、こうしたゲームエンジンやミドルウェアの評価は、多くのゲーム会社で専門チームが行っています。しかし、評価を通して実際にゲームを一本作ってみるといった機会は、ほとんどありません。そして、往々にしてこれらのツールは、ゲーム開発の終盤の追い込まれた状況の中でこそ、その特性やメリット・デメリットが見えてくるもの。こうした側面からも、ゲームジャムで最新技術を試した上で、社内に情報をフィードバックするメリットは、大いにあるといえそうです。
一方で本ゲームジャムは冒頭にも示したとおり、セガグループの社員有志が業務時間外に、クラブ活動的なノリで主催・運営している点に特徴があります。実際、日程選びも業務に影響が出ないように、3連休の前半2日があてられているほど。いわば平日に業務でゲームを作り、週末に趣味でゲームを作るというわけです。これが可能なのも、業務時間外に「遊び」でゲームを作るからこそでしょう。「 楽しいゲームを楽しく作る」という、ゲーム作りの原点が伝わってきました。
セガ・ゲームジャムの詳細については、毎年秋に横浜で開催される日本最大のゲーム開発者会議、CEDECで「SEGA Game Jamがもたらした組織活性化の効果 」と題して講演も行われています。CEDECの講演資料が掲載されるウェブサイト「CEDiL(CEDEC Digital Library) 」でも講演資料が公開中。業務に行き詰まりを感じている開発者がいたら、有志を募って社内ゲームジャムを開催してみるのも一案……そんなふうに感じました。
第9回 セガ・ゲームジャム参加者の記念写真
第9回 セガ・ゲームジャム 開催スケジュール
7月16日(土)
8:30 受付開始
9:00 開始
9:05 テーマ決め
9:20 チーム分け
15:00 企画発表
21:00 α版発表(22時終了予定)
7月17日(日)
〜12:00 随時制作再開
12:00 β版発表(1チーム3〜5分)
12:30〜13:30 ランチ&ゲームプレイ時間
19:00 制作終了
19:15 発表会
20:00 撤収