5月30日(火) ~6月2日(金)の4日間、東京、グランドプリンスホテル新高輪にて、Amazon Web Services(AWS)の年次イベント「AWS Summit Tokyo 2017」が開催されました。3日目のキーノートには米Amazon.comのCTO、Werner Vogels氏をホストにさまざまなゲストスピーカーが登壇し、昨年のワールドイベント「re:Invent 2016」で発表されたAWSの最新サービスがいま日本でどのように利用されているのかを中心に、クラウドコンピューティングの最先端事例がわかりやすく紹介されました。
キーノート会場となった「グランドプリンスホテル新高輪 飛天」 、2,000人以上収容可能な大宴会場が講演前にはぎっしり。
冒頭、「 このAWS Summitは『教育のイベント』だと考えてください」と切り出したWerner氏。最初はインフラだけのサービスから始まったAWSが、いまやコンピューティングのあらゆるシーンを網羅し、さらに当初からは想像しえなかった領域に到達しようとしています。「 その現状を我々(AWS)側からだけではなく、参加している皆さんお互いに情報交換することで理解して欲しい」とイベントの趣旨を紹介しました。
AWSの現状を紹介するWerner Vogels氏
世界、そして日本におけるAWSの顧客やパートナー、ビジネスの拡大状況に触れ、「 AWSがクラウドのリーダーと呼ばれる条件」を上げました。その1つとして「世界中のいたるところにリージョンをもち、ユーザの近いところからアクセス可能かつワールドワイドで使える点」を強調します。これを大きく活用しているベンダとして、IoTに特化したMVNO事業を展開するソラコムが紹介されました。
「小さなチームで素早いイノベーションを起こす」クラウドの力
Werner氏の紹介を受けソラコム CTOの安川 健太氏が登壇しました。安川氏は「クラウドに関して薫陶を受けたWernerのキーノートに呼ばれて嬉しい」と挨拶し、同社とAWSのつながりについて紹介を始めました。
最初のゲストスピーカーとなった安川氏。キーノート後「最高の舞台に立てた」と嬉しそうでした。
ソラコムのIoT基盤はすべて、「 これまでクラウド上で作り上げられてきたインテリジェンスとつながることで価値を出してきた」と語る安川氏は、同社が構築した新時代のIoT基盤として、デバイスがインターネットを介してクラウドとつながるのではなく、デバイスから直接クラウドに接続して、その恩恵をフルに活用できるのが強みと説明します。こうした基盤によって同社は2015年秋の立ち上げから短期間のうちに、グローバルな顧客を多数獲得できました。なぜこれほど短期間に成長できたのか? それは「AWS上にAWSのベストプラクティスを適用しているから」と断言します。AWS出身者が多く、AWSを知り抜いたスタッフによるベンチャーならではの言葉ですね。
小さなスタートアップが急成長できた秘密
再び登壇したWerner氏は、いまAWSで実現できるさまざまな機能や技術は「スーパーパワー」であると語ります。「 もはや“ ITを活用しているだけ” では競合との差別化にまったくつながらない」( Werner氏) 。
CPU、メモリといったマシンパワーの発展を例に挙げ、昨年末発表したAmazon EC2の高性能インスタンスを紹介
クラウドを使うことで、最新のハードウェア、I/Oアーキテクチャ、ネットワーク環境がすぐに最適化できてしまいます。またクラウド上でFPGAを使ってカスタムロジックを実行できる「F1インスタンス」等、いままでクラウドでは実現できかなったことが次々と可能になっています。これらを使ってサービスの可能性も膨らみます。Werner氏は顧客から「あなたたちは僕らを“ ジェームズ・ボンド” にしてくれたね」と言われたそうです。「 これこそが絶対的な差別化、AWSは成長し続けるサービスにとって、007シリーズの“ Q” のような存在なのです」( Werner氏) 。
さまざまなレイヤ/分野で活用されるAWS
2人目のゲストスピーカーはNTT東日本 ビジネス開発本部 副本部長の中村 浩氏です。同社は社内ネットワークとAWS等のパブリッククラウドを超高速回線で直結して社内利用していましたが、これをフレッツ等の同社顧客に提供する「CloudGateway」というサービスを2016年から始めました。クラウド直結のためインターネットに入らずセキュリティが保たれ、安定した通信速度が期待できます。従量制のため利用時間によっては専用線よりもコストが抑えられ、NTTユーザなら事前工事なしですぐ使えるのも特長。Anmazonが社内で利用していたインフラをAWSとして提供したのと似た構図とのこと。
「CloudGatewayにより、日本がAWSに最も近い国になります」と語る中村氏
AWS Lambdaや2016年末の「re:Invent」で発表されたX-Rayといった新機能をわかりやすく紹介しているWerner氏ですが、このイベントでの新発表としてAmazon DynamoDB Accelerator(DAX)のプレビュー提供が開始となりました。これは文字通りDynamoDBのinメモリキャッシュを強化してクエリ応答のパフォーマンスを引き上げるサービスで、NoSQLの高速処理をさらに磨きあげ大量データに対応した者といえます。
Amazon DynamoDB Accelerator(DAX)とは?
3人目のスピーカーはソニーモバイルコミュニケーションズ 取締役の川西 泉氏。同社はスマートフォンXperiaシリーズで知られていますが、近年スマートフォンを中心にしたスマートホームサービスを手がけており、その基盤としてAWS IoTを利用しています。AWS IoTにより、クライアント認証でデバイスとセキュアに通信できたり、AWS IoTの特徴的な機能であるDevice Shadowを使って通信が切れたデバイスとの同期を簡単に取ることができるようになったとメリットを強調していました。
ソニーモバイルコミュニケーションズ 川西氏
壇上に戻ったWerner氏、今度はデータベース利用でよく言われる「ベンダーロックイン」の話です。従来の商用データベースでは、最大の利用キャパシティを考慮して、通常利用数より余分にライセンスを買わざるを得ませんでした(Werner氏は「懲罰的ライセンス」と呼んでいました) 。これを嫌ったユーザはオープンソースへの移行を考えます。オープンソースのデータベースで一貫した可用性、信頼性、そしてコストを考慮するとAWSは大きなメリットを持ちます。AWSオリジナルのDBエンジンであるAmazon AuroraはMySQL互換のエンジンでしたが、このほどPostgreSQL互換タイプのエンジンがプレビューで利用できるようになりました。PostgreSQLの方が移行がより用意であるとWerner氏は言います。
ここで紹介された4人目のゲストスピーカーはグリーのCTO、藤本 真樹氏です。冒頭から同社の業績が2013年ごろから下降したお話です。この2四半期で回復基調となっていますが、それまでの4年ほどはさまざまな試行錯誤がありました。その中にはうまく行ったこと、行かなかったことがもちろんあります。うまく行った施策の1つが、同社がオンプレミスで運用していた数千台のサーバをAWSに移行したことでした。
「まず決める。そしてやり通す」が座右の銘という藤本氏。ラクス様のセリフですね。
対象のサービスは20以上あったそうですが、約1年で移行を完了、計画開始から準備期間を含めても2年で移行できたと言います。移行は3段階で行われ、まずDirect ConnectでオンプレミスとAWSをL3で接続し、サーバのレプリケーション、並行書き込みでレプリカを構築、そしてマイグレートという手順です。もちろん細かいAWSのサービスは数多く利用していますが、キーとなったのはDirect Connectだそうで、これがないと実現できなかったと言います。
まとめとして、技術を選択するときは未来を予測するのと同じ難しさがある、決め手はないのがだ1つだけ上げるとしたら「速いかどうか」という点だと述べました。決断のポイントは人それぞれですが、ぶれない決め手を持つのはリーダーの要件ですね。
速さは裏切らない
これから企業が成長するための条件とは?
ゲストの退場後、最後にWerner氏は「企業はこれからイノベータたるべき」と説きました。GE(General Electric)を例に挙げ、家電製品の製造業であったGEはその後ソフトウェア産業、そしてクラウドを活用したサービスに乗り出し、浮き沈みの激しい業界で安定した業績を上げています。このように自分たちを再定義しながら進化できる組織でないと、今後の存続は厳しいと警鐘を鳴らします。「 以前はFortune 150に入っている企業が生き残っている平均年数は60年くらいでしたが今は平均15年。2025年には今ある企業はほとんど生き残れないということです」( Werner氏) 。では生き残るために何が必要か? 「 継続的に競争に自分を晒していくしかない」( Werner氏) 。
今日はビルドを始めるのに良い日だ
そして「AWSは2016年も1,000以上のサービスアップデートを行ってきた。これかも皆さんが求めるものを提供し続けていきます。No better time!(いまが絶好のタイミング) 」と来場者にメッセージを送りキーノートを締めました。
キーノート後にスピーカー全員が集合して記念撮影会がありました。この日は出番のなかったAWSジャパン社長の長崎 忠雄氏(右端)も揃って笑顔で。