世界を動かすオープンソースコミュニティのポテンシャル「Open Source Summit Japan 2017/Automotive Linux Summit 2017」キーノートレポート

Linuxの普及をサポートするNPO団体Linux Foundationは、2017年5月31~6月2日、有明にある東京コンファレンスセンターにて「Open Source Summit Japan 2017」を開催しました。今まで開催されていたLinuxCon+ContainerCon+CloudOpenは、⁠Open Source Summit」という名称で生まれ変わりました。Open Source Summitは、Linuxだけでなく、さまざまなオープンソースコミュニティが参加して、オープンソースエコシステム全体の広がりを示すイベントとなります。

同時に、Linuxベースの車載情報機器関連のオープンソースプロジェクトAutomotive Grade Linuxイベント「Automotive Linux Summit 2017」も開催されました。当日の展示コーナーでは、企業向けのオープンソースだけでなく、AGLを利用した車載向けシステムも多数展示されていました。

名称が変わったとしても、引き続き、Linuxテクノロジーの話題も多いですし、最も注目されているテクノロジー分野であるコンテナ、ブロックチェーン、セキュリティに関するオープンソースプロジェクトに注目したセッションも多数ありました。特に、今年は、Automotive Linux Summitへの注目がメディアを含めて非常に高かったのではないかと思います。

本稿では、この中でもAutomotive Linux Summit分野にフォーカスして当日のイベントを紹介したいと思います。

コミュニティの「持続可能性」を生み出すポイントとは?

初日の基調講演では、Linux FoundationのExecutive Director Jim Zemlin氏がまず登壇。いつものように日本語でジョークを話すところから始めたZemlin氏(90年代に上智大学に留学経験がある)が、最近の基調講演で強調しているのは、オープンソースプロジェクトに必要なのは「持続可能なエコシステム」であることです。

Jim Zemlin氏
Jim Zemlin氏

持続可能なエコシステムというのは、豊かな開発コミュニティがビジネスに利益を与えるコマーシャルプロダクトを製品化できるコードを生み出し、再びそのプロジェクトに投資するといいます。

このようなエコシステムを作り上げるには、ガバナンスモデルやメンバーシップの決定と推進、リリースプロセスなどの開発プロセス、セキュリティおよび信頼性を担保するインフラストラクチャ、イベントやトレーニングなどのエコシステム開発、トレードマークなどの知的財産管理などの実務的な業務が必要だとします。

持続可能なエコシステムを構築するために
持続可能なエコシステムを構築するために

標準化の決め手は「ソースコードファースト」

このようなプロジェクトで、近年活発な活動を見せているのが、2012に発足したAutomotive Grade Linuxプロジェクトです。5月31日にメディア向けの記者説明会に参加することができましたので、注目点を紹介します。

多くの自動車メーカーが、車載システム用にプロプライエタリなOSを使用しています。プロプライエタリなOSを利用しているため、アプリケーション開発には、移植性/再利用性が低いため、コストがかかりスピードを持って開発することができません。そのため、オープンなOSを開発すればコードの再利用も効率的な開発プロセスも可能になる、ということから発足したプロジェクトが、Automotive Grade Linuxプロジェクトです。

AGLでは、Unified Code Base(UCB)を基本的な概念として標準化を進めています。そして、ソースコードが一番重要(⁠⁠Code First」である)と位置づけ、開発サイクルを高速化することに重点を置いて活動をしています。Automotive Grade Linux エグゼクティブ ディレクターのDan Cauchy氏は、⁠現状ではスマートフォンのイノベーションには追いつけていない」状態であり、⁠コードを標準化していくことで再利用度を高め、イノベーションやお客様との関係に時間をさらに使うことができる」と主張します。

Automotive Grade Linuxエグゼクティブ ディレクターのDan Cauchy氏
Automotive Grade Linuxエグゼクティブ ディレクターのDan Cauchy氏

今回、AGLの活動の成果の1つとして、AGLの中心的メンバーであるトヨタ自動車が2018年新型トヨタカムリ米国モデルに、車載インフォテイメントシステムのプラットフォームとして、Automotive Grade Linux(AGL)プラットフォームを採用したことを発表しました。米国においてAGLベースシステムを搭載して発売される初めてのトヨタ車となります。当日のプレスリリースによれば、新型カムリ以降もレクサスブランドなど他の車種に展開していくそうです。

AGLは、コネクテッドカー向けのオープンプラットフォーム共同開発プロジェクトです。2012年9月に結成され、トヨタ自動車は当初からのメンバーとして活動しています。AGL発足当時は国産メーカーが多かったのですが、現在は、フォードやダイムラーなどの欧米自動車メーカーも参加し、大きな発展を示しています。

今回、新型カムリに採用されたのは、車載インフォテイメントシステムです。インフォテイメントとは、インフォメーションとエンターテインメントの語を組み合わせた造語です。そして、カーナビなどの情報、カーオーディオやTVなどのエンターテインメントをコントロールするシステムが、車載インフォテイメントシステムと呼ばれます。

本プロジェクトをリードするトヨタ自動車 村田賢一氏によれば、今回開発したIVIは、AGLのコードを70%を利用し、さらに30%を車種向けにカスタマイズ/機能追加をしたそうです。ベースとなるAGLは、2016年1月の発表のUCB(ユニファイドコードベース)1.0の仕様要件を満たしていますが、⁠開発はそれ以前に始まったため、UCB 1.0は存在していなかった。しかし、今回開発した成果は、UCB 1.0に戻している」⁠村田氏)とのことです。

トヨタ自動車 村田賢一氏
トヨタ自動車 村田賢一氏

AGLプラットフォームは、当初IVIに注力してきましたが、IVIだけに利用されるLinuxという意味ではありません。AGLは、今後、自動運転などの機能開発にも取り組んでいくそうです(ただし、トヨタ自動車としては、今回の発表はIVIに限っており、村田氏は、自動運転などの担当部署とは話すことがあるものの、こうした用途でAGLを使うことを話をしているわけではないとのことです⁠⁠。

AGLプラットフォームのデモンストレーション
AGLプラットフォームのデモンストレーション

AGLには、国産メーカーだけでなく、欧米の自動車メーカーがメンバーとして参加しています。これらのメンバーが今後、AGLを利用したさまざまな自動車を発表するかも知れません。楽しみですね。

グローバルイベントの雰囲気を味わうなら

今回のOpen Source Summitには、海外から多数の方が参加され、年々その人数は増えているそうです。また、今年も多くのボランティアスタッフの方々が、日本全国から参加されていました。講演者、参加者とボランティアが作り上げるという海外カンファレスの雰囲気を一番日本で感じることができるイベントとして、ますます発展が期待されるのではと思います。

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