救急時に役立つロボット開発、そして、人材育成を目指して
被災地で人命を救うレスキューロボットの技術開発と人材育成、そして災害救助のあり方を啓発することを目的とした「第17回 レスキューロボットコンテスト」が、8月11、12日に神戸サンボーホール(兵庫)で開催されました。
第17回 レスキューロボットコンテスト(レスコン)
https://www.rescue-robot-contest.org/17th-contest/
今回で17回目を迎える“ レスコン” は、阪神淡路大震災をきっかけに1999年に提案され、2001年から毎年開催されています。特徴は、単なるロボットの開発技術だけでなく、実際の災害救助現場を想定した課題解決を目的としていること。競技は、国際レスキュー工学研究所内に設置された、大地震で倒壊した市街地を6分の1スケールで模擬した実験フィールド(約9m X 9m)という想定で行われ、ガレキの中に倒れている、被災者のダミー人形ことダミヤンを時間内に救助、搬送する技術やチームワークを競います。
競技は2チーム同時に行われ、ロボットの構成や救助方法を説明するプレゼンテーション、作戦会議、レスキュー活動という流れで、平地と高台に置かれたダミヤンを時間内に救助、搬送するミッションポイントを競います。テレビでも放送されているロボコンとは違い、レスコンは基本的に毎年同じルールで、入場ゲート(高さ450ミリ×幅1,200ミリ)を通過できる潜れるサイズであれば、使用するロボットの数や種類に制限はありません。
ただし、チーム人数は最大15名、うちミッションを行うメンバーは8名まで。現実の被災地と同様に、現場が直接見えない場所からリモートコントロールするため、フィールド内の状況は、天井に取り付けられたヘリテレカメラ、もしくはロボットに搭載したカメラの映像や様々なセンサ類から把握しなければならず、そうした状況に対応できるロボットの開発が求められます。
災害救助に対する「やさしさ」がコアコンセプト
本レスコンの大きな特徴は、ただ単に救助活動の技術を競うのではなく、救助作業に「やさしさ」を求めていることです。ダミヤンには圧力や振動を感知するセンサが内蔵されており、強く掴んだり振動を与えるとダメージを受けます。目の色や音の周波数、鳴動パターン、QRコードによって状態を把握し、的確に対応しながら救助できるかがフィジカルポイントとして審査されます。
救助活動は、相手チームとも助け合いながら行う必要があり、そのためにチーム間で使えるチャットや通信が用意されています。また、災害情報をサイネージで表示したり、避難ルートの確保するといった、ミッションポイントには直接関係ない救助活動への配慮も、審査評価の対象になっています。
このようにコンテストのルールはかなり複雑で高度な技術が求められますが、年々参加者のレベルは上がっており、今年は制限時間内に救助活動を終了するチームが続出。そこで決勝では、フィールド内の上半分をヘリテレカメラから見えなくしたり、ガレキやダミヤンの配置を難しくしましたが、それでも半分が目標をクリアし、中には4分近く時間を残しているチームもありました。
全国から選ばれた14チームが参加
レスコン参加は、工業高校や高専、大学で構成されたチームが多く、今年は全国から応募があった25チーム中、書類選考された22チームが神戸と東京で予選を行い、14チームが本選に参加しています。毎回、様々なアイデアを凝らした様々なタイプのロボットが出場し、今年はドローンや自律型、VRといった最新技術を導入し、実際に競技に活用していたチームもありました。また、審査は2月の書類選考から行われ、チームワークやアピールシートなど、競技とは別の部分も評価しており、実行委員長の横小路泰義博士も「これほどきめ細かい審査を行っているロボコンはないと自負している」と言います。
今回、最優秀チームの「レスキュー工学大賞」に選ばれたのは「MCT(松江高専機械工学科) 」で、総合得点の最も高いベストパフォーマンス賞とスポンサー賞のinrevium杯もあわせて受賞。ピンク色に統一したロボット3台というシンプルな構成で、ガレキ撤去とベルトコンベアを備えた2台で救助活動を行い、パンタグラフの上に高画質なビデオカメラを備えたサポートロボットが、高い位置から全体を把握し迅速な救助活動につなげたことが評価されました。
活動中
特徴
MCT(松江高専機械工学科)
質の高いレスキュー活動を行っていたチームに贈られる「ベストチームワーク賞(消防防災ロボット技術ネットワーク賞) 」は「長湫ボーダーズ(愛知工業大学 レスキューロボット研究会) 」が受賞。ロボットをキャラクター化し、表情を付けることで要救助者の気持ちを落ち着かせるというアイデアや、トリアージの情報共有、相手チームとの情報共有などが評価されていました。
活動中
長湫ボーダーズ(愛知工業大学 レスキューロボット研究会)
「ベストテレオペレーション賞(サンリツオートメイション賞) 」を受賞した「とくふぁい!(徳島大学 ロボコンプロジェクト) 」は、エアロスミスと名付けられたマルチコプター(ドローン)を搭載したロボットで、注目を集めていました。ミッション中の状況確認にも使われ、偵察を含む、支援、救助という5台のロボットを駆使して活動を行っていた技術力が評価されていました。
外観
ドローンからの視野
とくふぁい!(徳島大学 ロボコンプロジェクト)
「ベストプレゼンテーション賞」を受賞した「メヒャ!(岡山県立大学 ロボット研究サークル) 」は、最初のミッションはトラブルで最低点だったのが、敗者復活戦で調子を取り戻し、ファイナルでは最高得点を出すというパフォーマンスが評価されました。驚くほど高速なのにダミヤンにダメージを与えずに搬送できるロボットや、360度カメラで状況を把握するなど、昨年のレスキュー工学大賞受賞チームならではの技術力を見せていました。
活動中
メヒャ!(岡山県立大学 ロボット研究サークル)
「ベストロボット賞」に選ばれた「都工機械電気(大阪市立都島工業高校 機械電気科) 」の3号機「ヨコタンカ」は、その名の通り、伸縮性のある布製ベッドを備えたロボットで、多軸アームでガレキを除去し、屋根で要救助者を守りながら搬送するという、多機能さが評価されました。
「消防庁長官賞」を受賞した「大工大エンジュニア(大阪工業大学 モノラボロボットプロジェクト) 」は、リーダーだけでなく操縦者全員が状況を把握し、救助活動を行える情報伝達システムを開発。さらに、自律誘導、搬送ロボットによる救助も成功させ、高い技術力を見せていました。
活動中
イメージ
大工大エンジュニア(大阪工業大学 モノラボロボットプロジェクト)
「日本消防検定協会理事長賞(自治体消防制度70周年記念賞) 」に選ばれた「なだよりあいをこめて(神戸市立科学技術高校 科学技術研究会) 」は、津波を想定して被災者が避難できるハシゴをかけたり、現状を知らせるサイネージを備え、さらに、簡易待避所になるなど、レスキューに注目したロボット開発で、こうした観点は消防の現場でも見習いたいとコメントされていました。
活動中
なだよりあいをこめて(神戸市立科学技術高校 科学技術研究会)
ファイナルには出場できなかった「レスキューHOT君(近畿大学 ロボット工作研究会) 」は、VRを活用して現場状況を立体的に可視化するという挑戦が評価され、「 第13回竸基弘賞2017年レスキューロボットコンテスト奨励賞(特定非営利活動法人 国際レスキューシステム研究機構」を受賞しています。
近畿大学 ロボット工作研究会
展示会や特別講演も開催。国際化を目指す
本イベントは、フィールド内を駆け巡るさまざまなタイプのロボットを見るだけでも十分に楽しめますが、活動の実況中継やインジケーターの画面表示など、イベントが楽しめるよう運営側が工夫されているのがよくわかります。夏休み中で子どもたちもたくさん参加していて、フィールドに釘付けになっていました。
イベントの様子
また、会場ではこうした子どもたちやレスコンに興味を持った人たちへ、ロボット技術や救助活動を紹介する展示会も併催。子ども向けのロボットコンテストのデモも行われていました。
「韓国におけるロボットコンテストを活用した人材育成」と題した特別講演では、韓国が力を入れているロボット教育や小学生向けコンテストなどの状況をデータで紹介。あわせて人気が高まっているという、二足歩行型ロボットの格闘技大会「R0BO-ONE」の対戦デモと、K-POPで踊るロボットのパフォーマンスも披露されました。来年は韓国チームもレスコンへの参加を計画しており、それにあわせてレスコン側も英語版ページを用意するなど、国際化を目指していくとしています。
最後に審査員から本コンテストについて、自律やAI化といった最新技術を、人間と機械の役割バランスを考えながら取り入れたり、種類の災害に対応できるレスキューのあり方を考える機会にしていきたい、とのコメントも寄せられていました。
レスコンは来年も開催予定で、参加要項や応募方法、コンテストの詳しいルール、過去の競技結果などの情報は公式サイトで公開されています。
第17回 レスキューロボットコンテスト
https://www.rescue-robot-contest.org/17th-contest/