9月23日、
第1部
HHKBの生みの親、和田先生によるインターフェース論
第1部の開始に先立って、
和田先生は80歳を超えた今もプログラミングが大好きで、
HHKB20周年に際して、
世界でもっとも完成した形には何があるか? ラグビーのボール、
バイオリン、 そしてフォルクスワーゲン
20年使われ続けたHHKBもその1つであったならうれしいということ、
第1部 HHKBのこれまで
HHKBの開発や販売に携わった人、
【登壇者】
- 八幡 勇一さん
- 元(株)
PFUエンジニア、 HHKB開発においてはハードウェアを担当。現テラテクノス (株) 取締役CTO - 白神 一久さん
- 元(株)
PFUエンジニア、 HHKB開発においてはソフトウェアを担当。現富士通システム統合研究所所属 - 後藤 敏也さん
- HHKB黎明期の再販を担当。ぷらっとホーム
(株) IoTビジネス開発部所属 - 前田 薫さん
- キーボード愛好家。漢字直接入力
「T-Code」 開発者
DOS/
- 八幡さん
「PFUにいたころはワークステーションの開発に関わっていて、 SPARCstationの互換機やSONY NEWSを使っていました」 - 白神さん
「私も同じく、 PFUでUNIXのワークステーション互換機を作っており、 付属のキーボードを使っていました。それ以前にはダム端末を使っていた時代もありました」 - 後藤さん
「Sun Type3キーボードを使っていた期間が一番長く、 自分のルーツですね。また当時はApple IIの互換キーボードを自作するのが流行っていて、 秋葉原のジャンクパーツ屋でHC-20のキーボード部分を買い、 改造したものをApple IIのキーボードとして使っていたりしました」 - 前田さん
「90年代まではキーボードにこだわりはなく、 X端末のXMiNTに出会ってからはそれを愛用していました。HHKB発売前にKinesisに出会ってしまい、 実はHHKBにはそこまで慣れていません……」
1992年、
- 八幡さん
「大きさについては、 A4の半分のサイズというのが和田先生の提案でしたね。左端にControlキーがあり、 右端にDeleteキーがあるという配列についてですが、 和田先生やWIDEプロジェクトの方々は基本的にEmacsユーザで、 AlephキーボードもEmacsありきの配列になっていました。ControlキーがAの隣というのは絶対でしたね」 - 白神さん
「私はソフトウェア開発者だったのですが、 和田先生の論文にたいへん共感し、 開発に参加したという経緯があります。AlephキーボードをもとにHHKBのモックアップを制作しようとしたときは、 NCD社のX端末用のフルサイズキーボードを電動ノコギリで切断したりして作りましたね」
1996年12月、
- 後藤さん
「本多弘男 (ぷらっとホームの初代会長) は、 八幡さんがHHKBのモックアップを持参して飛び込み営業にきたときにすごく気に入って、 100でも200でもすぐに卸してほしいと言っていました。僕も本多も人に先を越されるのがすごく嫌いで、 HHKBも採算度外視で良いからどこよりもは早く売りたいと話していたのを覚えています。ちなみに、 HHKBの一番の客はぷらっとホームの店員でしたね」
HHKBの廉価版として1999年にHHKB Lite、
- 八幡さん
「廉価版を出したのは、 製品の幅を出し、 オリジナルのHHKBを売り続けたいという気持ちもあったからです。小さなアピール点として、 カーソルキーの奥が沈んでいて、 爪の長い人も打てるようになっています」
2002年には世界で累計10万台を突破し、
- 八幡さん
「実はこのころ、 富士通高見澤コンポーネント (現富士通コンポーネント) でキーボードの生産が中止になり、 HHKBのハイエンド版がなくなってしまう危険性がありました。そこで当時、 静電容量無接点方式で評判の良かった東プレさんに依頼したという経緯があります」 - 前田さん
「無刻印で言うと、 他社のキーボードになりますが、 コールセンターで無刻印キーボードを導入すると、 オペレータが手元を見ることがなくなり、 能率が上がったという話を聞いたことがあります」
2006年にはアルミ削り出しのHHKB Professional HG
- 前田さん
「HG Jpanaは石川県輪島市の職人さんに依頼されたとのことですが、 『輪島塗』 の名前は入れられなかったのでしょうか」 - 松本さん
「実際には輪島塗なのですが、 そのブランド名を冠するには、 素材が木である必要があるなど条件があったんです。輪島漆器組合に何度も掛け合ったのですが、 そういった理由から、 結局輪島塗という名前は付けられませんでした」
2011年に高速タイピング性と静音性を向上させたHHKB Professional Type-S、
質疑応答の時間、
- 八幡さん
「Happy Hackingという名前で商標登録をしようとしたとき、 特許庁から “ハック” という言葉は公序良俗に反するのでは、 と最初は拒絶されてしまいました。スティーブン・ レビー著の 『ハッカーズ』 という本のコピーを持参して説得して、 なんとか登録ができました。昔の 『Happy Hacking』 というロゴは社内の人間が間に合わせで作ったもので、 いずれは変えたいという気持ちがあり、 現在の 『HHKB』 というロゴはアメリカのデザイナに作ってもらったものです」
会場ではHHKB歴代機の展示のほか、
第2部 HHKBのこれから
HHKBは今後どのように進化していくべきなのか、
【登壇者】
- 有山 圭二さん
- 高校生の時点からHHKBを愛用。現在は有限会社シーリスにてAndroidエンジニア
- 増井 俊之さん
- ユーザインターフェース研究科。慶應義塾大学環境情報学部教授
- 栗間 友章さん
- 競技タイピスト。全日本タイピスト連合所属、
HHKB Professional Type-S商品アドバイザ - 松本 秀樹さん
- (株)
PFU ドキュメントイメージビジネスユニット 販売推進統括部長
最初の議題は
- 松本さん
「Windows環境、 Visual Studioで開発されているユーザさんからは、 アローキー (矢印キー) がほしいという要望もよく聞いています。Windowsユーザ的にはどうなんでしょう」 - 会場の参加者
「Windowsで開発していますが、 AutoHotkeyで適宜アローキーをほかのキーに割り当てているので、 そこまで不便は感じません」 - 増井さん
「Surface Bookを使おうとしたことがあったが挫折してしまった。MacではCommand+Cでコピー、 Ctrl+Cで実行中止だけど、 Windowsでは逆にコピーがCtrl+Cなので、 結局慣れなかった。複数の端末を使う人はどういう切り替えをしているんでしょう」 - 会場の参加者
「AutoHotkeyなどのソフトウェア側で解決するしかないのでは、 と思います。たとえばEmacsが最前面にあるときは、 無変換キーにCommandを割り当てるなどの設定を組んでいます」 - 八幡さん
「キー割り当てに関する知見をまとめたサイトがあっても良いと思いますね」 - 松本さん
「JP配列にはアローキーがあるので、 そこに逃げるという手もありますね」
次の議題は、
- 松本さん
「メーカとしては品質保障外だが、 HHKB界隈は濃い人が多いので、 やはりカスタマイズする人が多いのはしかたないと思います」 - 有山さん
「無刻印が出ているからには、 OS側ではなくキーボード側でキーコードが書き換えられてしかるべきなのかな、 と思います。最近はNorman配列をErgoDoxで練習していますが、 HHKBでもやってみたい気持ちがあります」 - 松本さん
「ファームウェアの書き換えやカスタマイズツールの提供は検討させていただきます」 - 有山さん
「追加の要望ですが、 BTは現在、 有線が給電専用なのでサーバ機には使えません。有線にも対応させてほしいです」 - 増井さん
「どのキーボードでも必ずやっていることがあって、 それは右手の小指を解放するため、 セミコロン (;) をすべてリターンキーに設定仕直しているんですね。理想は、 遅く見えるが実はすごいことをやっているという 『スローハンド』 なので、 やはりカスタマイズ性は重要です」
会場からはそのほかの案として、
- 松本さん
「アローキーの話がメインになるかと思いきや、 予想以上に濃い話が多くてびっくりしました」
次はHHKBの
- 小山さん
「TrackPadとHHKBを併用しているので高さを合わせるような台はほしいですね。そのほか何かありますでしょうか」 - 会場の参加者
「HHKBは高さがあるので、 奥のキーが押しにくい。元のHHKBを薄くして、 オプションで高さを調節したい」 - 会場の参加者
「MacBookにHHKBを乗っけて使っている※と、 端子が画面に当たってしまったり、 標準のケーブルが長過ぎたりする。Macにぴったりの周辺製品がほしい」
- ※)
- 尊師スタイルと呼ばれる。
- 斉藤さん
「Macセットとして、 検討したいですね」 - 会場の参加者
「MacBookにHHKBを乗せるとき、 HHKBの裏の爪を立たせながらも、 MacBookのキーを押させないようなものがほしい」 - 斉藤さん
「そういう商品は実はすでにあって、 キーボードのうえで伝票が書ける 『MacBookルーフ』 がちょうど良いと思う。今は販売休止しているが、 再開を検討したいです」
そのほか、
第2部最後は、
- 増井さん
「強調したいのは、 打つことが目的ではなく、 文章やコードを入力するのが目的ということです。私が開発したDynamic Macroというシステムでは、 プログラムとして繰り返しキーを実装していましたが、 キーボード側でできれば、 あらゆることが簡単になると思う。キーボードが今よりもインテリジェントになって、 キーの履歴を持てるようになれば十分可能だし、 かな漢字変換もキーボード側でできるようになれば、 どんなマシンでも同じように操作できるマイキーボードの実現にもつながると思います。ハードウェアの議論だけでなく、 目的も考慮したうえでのキーボードを考えるべきなんですよ」 - 小山さん
「目的から、 理想のハードウェアを導くことは可能でしょうか」 - 増井さん
「人それぞれ目的は違うので、 今のキーボードとはまったく違うものが生まれる可能性はありますよね。Amazon Dash Buttonも極端に言えばキーボードなんですよ」 - 栗間さん
「競技タイピングでは30分間打ち続けるので、 HHKBでもさすがに疲れてタイプミスが増えます。一番多いタイプミスが、 Aキーを打とうとしてSキーに指がかすってしまい、 aとsが入ってしまうこと。そんなときのsは打ち消すように、 キーボードが学習していくというのは良いと思います。競技タイピングのその他の話題ですが、 日本人で多かったのは東プレのキーボードを使っている人。海外の人はあまりこだわりがない印象ですが、 道具にこだわればもっと成績が上がってしまうかもしれません」 - 増井さん
「実はキーストロークが深いのが嫌いで、 和田先生の考え方とは反してしまっています。手を動かさなくて良いから、 浅いほうが良いんですよね」 - 小山さん
「HHKBのストロークは、 プログラミングしているときの快感がありますよね。ただHHKBは無接点方式なので奥まで押し込む必要もなく、 ユーザに任す部分が良いと思います」
会場からはそのほか、
第2部は、
- 松本さん
「今日は本当にいろいろな意見が聞けました。優先順位を付けて、 取り組めるものから取り組んでいきたいと思います。これからもHHKBをよろしくお願いします」
懇親会とLT
参加者が愛用のHHKBを持ち寄り、
LTは次の7本で、
- 最高の刀、
それがHHKB (MiracleTShirt09さん) - HHKBにまつわる周囲の誤解あるある
(TanakanoAnchanさん) - 真っ白なキーボードでスーパーハカーを気取る
(Northさん) - パステルHHKBへの試み
(内山 直樹さん) - 自作キーボードのご紹介
(Hiroshi Higuchi (hrhg) さん) - HHKBの魅力について
(キム ジュヒョンさん) - HHKBのHUTA作りから
(yohewiさん)