8月3、4日の2日間、KRP(京都リサーチパーク)で「オープンソースカンファレンス2018 Kyoto 」( OSC2018 Kyoto)が開催されました。
オープンソースカンファレンス(OSC)は、1年を通して日本各地で開催されているイベントで、北海道から沖縄まで全国で行われています。オープンソース関連のセミナー、ブースでの展示、ライトニングトーク(LT)などで構成され、コミュニティ・個人・企業を問わずオープンソースにかかわるすべての人々が幅広く発信を行う場として運営されています。
本記事ではOSC2018 Kyoto 2日目の、基調講演を含めた4つのセッションとLT大会、閉会式の模様をお伝えします。
基調講演:OSC参加10周年、Pasta-Kと考えるOSC Kyotoのこれまでとこれから
OSCは全国に渡って開催されるイベントのため、その運営は各地のローカルスタッフが担当しています。OSC Kyotoでローカルスタッフを10年間務めてきたPasta-K氏が基調講演に登壇し、OSC2008 Kansai(当時はまだOSC Kyotoという名前ではなかった)から今年のOSC2018 Kyotoに至るまでの10年間を振り返りました。
OSC Kyoto ローカルスタッフPasta-K氏
OSCと初めて出会った少年時代
Pasta-K氏がOSCとかかわりを持ち始めたのは2008年、中学3年生のころ。Shibuya.jsというJavaScriptのセミナーイベントがOSC2008 Kansaiにて開催されると知り、OSC Kansaiに初参加してそこから興味を持つに至ったとのこと。
Pasta-K氏が2年目に参加したOSC Kansai 2009の懇親会で、当時の主要スタッフから勧誘(同氏曰く「肩を組まれた」 )を受け、翌年の2010年からスタッフとして活動を始めたといいます。
2011年からは実行委員会が立ち上がり、本格的なローカルスタッフ活動がスタート。『 UNIX USER』( 2006年休刊、SBクリエイティブ)の連載「よしだともこのルート訪問記」で知られる京都ノートルダム女子大学 人間文化学部教授の吉田智子氏が実行委員長となり、OSC Kansai初のローカル企画に登壇しました。そこで学生スタッフとトーク形式のセミナーを行い、立ち見の参加者が出るほどの盛況になったといいます。
独自企画へのチャレンジ
これを機に、さまざまなローカルスタッフによる独自企画が生まれることになります。次の2012年には、初心者向けに「オープンソース入門塾」というブースをスタッフが一丸となって立ち上げました。内容は、スタッフの1人がLEGO マインドストームにリアルタイムでプログラミングを行い、参加者が改善提案を付箋でホワイトボードに貼っていくというものでした。また、2013~2014年にかけては、ArduinoやRaspberry-Piなどのマイコンを使い、コンピュータの原理を学べるような展示を行いました 。
ローカルスタッフによる、OSSハードウェアを使ったマイコンボードの展示
緑色の付箋に書かれたIssue(改善提案)に対して、下段の青色の付箋で実装報告している
OSSを支えるコミュニティとして
10年間の活動を通じて、ずっとOSCローカルスタッフというコミュニティに見守られてきたと語るPasta-K氏。はじめは右も左もわからない状態でしたが、今では毎年会うのが恒例な参加者もいるとのことです。
現在もOSC京都のローカルスタッフには毎年新たなメンバーが入り、さまざまなチャレンジに意欲的に励んでいます。Pasta-K氏は「京都圏内でOSSを支えるコミュニティに飛び込んでみたいという方は、OSC京都ローカルスタッフはいかがでしょうか」と呼びかけ、講演を締めくくりました。
招待講演:すがやみつる先生の「学ぶ」ということについて
今回のOSC2018 Kyotoの目玉講演ともいえるのが、漫画家であり京都精華大学マンガ学科の教授も勤める、すがやみつる氏の招待講演です。インベーダーゲームが社会現象となっていた70年代後半に一世を風靡した『ゲームセンターあらし』( 1978年、小学館)や、プログラミングを漫画でわかりやすく解説した『こんにちはマイコン』( 1982年、小学館)で知られるすがや氏が、マンガ学科の教授になるまでの自身の経緯を振り返りつつ「大人の学び直し」について語りました。
京都精華大学 マンガ学部 マンガ学科 キャラクターデザインコース 教授、漫画家 すがやみつる氏
漫画家時代:機械いじりの趣味を漫画へと昇華
『仮面ライダー』の原作者として知られる石ノ森章太郎に憧れ、中学生のころから漫画家を目指していたすがや氏。漫画と並行して機械いじりにも没頭しており、中学生でアマチュア無線の免許に挑戦したこともあるといいます。高校に進学してからは一切勉強せず、漫画家としての基礎体力を付けるために水泳に励んでいました。高校卒業後、アシスタントや編集プロダクションを経て念願の石森プロに参加。そして漫画版『仮面ライダー』( 1972年、講談社)でデビューし、少年漫画誌で『ゲームセンターあらし』などのヒット作を生みます。漫画家となってからも趣味の機械いじりは欠かさず、睡眠時間を削ってアマチュア無線やBASICによるプログラミングを楽しんでいたそうです。
そんな折、海外で子供向けプログラミング専門書が売れていることに目を付けた同氏は、漫画でマイコンやプログラミングを解説するという企画を出版社に持ち込むようになりました。そうして出版されたのが『こんにちはマイコン』( 1982年、小学館)です。この作品で小学館漫画賞を受賞した同氏は、実用的な内容を漫画で表現する仕事に取り組むようになりました。
『こんにちはマイコン』( 1982年、小学館)
50代からはじめるキャンパスライフ、そのコツとは
すがや氏が教師を目指すきっかけになったのが、京都精華大学で初めて開設されたマンガ学部です。20倍を超える入試倍率となったこの人気学部の成功に続き、次々とマンガを教える大学が増え始めたのです。すがや氏もいろいろな大学から教職の誘いを受けました。しかし、マンガを経験則として教えるのでは学問と言えない、という考えがすがや氏にはありました。そこで、教授になることを志して早稲田大学人間科学部eスクールに入学。がむしゃらに勉強を重ね大学院の修士課程へと進んだすがや氏は、50代後半に修士課程の次席卒業を果たしました。
高齢にもかかわらず高成績をおさめた秘訣の1つが、年長者としてのプライドを捨てることだとすがや氏は語ります。eスクールには社会人として経験を積んできたビジネスマンが多く在学していますが、ティーチングアシスタントなどを務める20代の若者に指導されるとき、プライドが邪魔をしてなかなか素直に教わることができないことが多いとのこと。それに対してすがや氏は、自分が18歳の学生になったつもりで授業に臨んでいたといいます。
また、加齢とともに記憶力が落ちていくのは避けがたく、そこですがや氏が気づいたのは、ものごとを暗記することにこだわらず、検索エンジンとWeb上に広がるデータベースを使い倒していくことが重要だということでした。
2年ぶりのLTS、Ubuntu 18.04 LTSについて
Ubuntu Japanese Teamに所属し、『 Software Design』でも連載「Ubuntu Monthly Report」を執筆しているあわしろいくや氏が登壇したセッション。Ubuntuの現行バージョンとなるUbuntu 18.04 LTS、そして10月にリリースを控えるUbuntu 18.10についての紹介がなされました。
Ubuntu Japanese Team あわしろいくや氏
デスクトップ版の新機能
はじめに、2年ぶりの長期サポート版として今年4月にリリースされたUbuntu 18.04 LTS(コードネームBionic Beaver)についての紹介がありました。あわしろ氏はデスクトップ版の主な変更点として、今までUnityであったデスクトップ環境がGNOME Shellに変わること、その影響で、キーボードからの入力を文字に変換するインプットメソッド(IE)が、FcirxからIBusに置き換わることなどを挙げました。Ubuntu16.04を使っていてIBusをインストールしていない場合は、アップグレード前にibus-mozcパッケージを入れておくと後の設定がスムーズになるとのこと。また、デフォルトの日本語フォントはTakaoゴシック/明朝からNoto Sans/Serif CJKへ変更されました。
18.04 LTSから盛り込まれた新機能として、Ubuntuにログインしたまま更新パッチを適用できるlivepatch、初回ログイン時に新機能や新たなソフトウェアを紹介するUbuntu Welcome、Ubuntuインストール時に必要最低限のアプリケーションだけを導入する最小インストール機能が紹介されました。また、新しいデスクトップフレーバーとして、シンプルで親しみやすいデザインのUbuntu Badgieについての紹介もありました。
サーバ版の新機能
次に、Ubuntu 18.04 LTSのサーバ版で実装された変更点について紹介がありました。今回のアップデートでは、従来のDebian Installerに代わり「Subiquity」という新たなインストーラが実装され、デスクトップ版とほぼ同じ手順でインストールが可能です。また、ネットワーク設定にnetplanが採用されることで、従来の/etc/network/interfaces/と比較して、バックエンドに関係なく共通のフォーマットでネットワーク設定を記述できるようになっています。
Ubuntu 18.10 Cosmic Cuttlefish
最後に、今年10月にリリース予定のUbuntu 18.10(コードネームCosmic Cuttlefish)が紹介されました。サポート期間は通常と同じく9ヵ月間です。
Ubuntu 18.10の主な追加要素として、「 Yaru」という新たなデスクトップテーマ(アイコンテーマの名前は「Suru」 )についての紹介がありました。日本語の「やる、する」に対応している名前らしく、あわしろ氏は「日本語がソフトウェア名に使われる例が増えてきた」と語ります。Yaruテーマは「sudo snap install communitheme」コマンドを入力すれば、Ubuntu 18.04でも試すことができるとのことです。
あわしろ氏は、ほかに予定されている新機能として、KDE connectの導入によるスマートフォンとの統合により、無線ファイル転送や着信の通知が可能になること、GNOME Shellとファイル(Nautilus)が全文検索エンジンのTrackerをサポートすることなどを挙げています。
平成生まれのためのUNIX&IT歴史講座
jus(日本UNIXユーザ会)の幹事を務める法林浩之氏、榎真治氏が登壇したこのセッションは、jusの会報「/etc/wall」に記された35年分の活動記録から、UNIXにまつわるトピックを含め、IT分野全般に渡る当時の状況を紹介するという内容。シリーズものの講演として企画されており、年代別に5年前後の範囲を取り上げていきます。今回の対象時期は2010年代前半です。
日本UNIXユーザ会 法林浩之氏
日本UNIXユーザ会 榎真治氏
2009~2012年:クラウド時代の幕開けとJavaScriptの台頭
2009年~2012年ごろにかけては、クラウドやスマートフォンの登場が大きなトピックといえます。jusが協賛・後援している「LLイベント」「 Internet Week」などのイベントの記録では、クラウドや仮想化をテーマとしたセッションが実施され始めたのがこのころです。
HTML5の話題が盛んになったのもこの時期であり、法林氏は、ブラウザがHTML5に対応しはじめたこと、iPhoneがスマートフォン版Webサイトの作成にFlashではなくHTML5への対応を求めたことなどが理由ではないかと推測していました。また、非同期通信を利用したGoogle MapsなどのWebアプリが登場し、Node.jsの出現によってサーバサイドの実装もできるようになったことでJavaScriptの注目度が急上昇した、との話もありました。
ネットワーク関係では、IPv4アドレスの枯渇問題についてもさまざまな動きや議論があったといいます。日本においてはIPv4アドレス枯渇への対応を進めるためのタスクフォースが設立され、jusも参加しています。
2013~2014年:AWSがコミュニティ主体で版図を拡大
2013年~2014年ごろにかけては、継続的インテグレーション(CI)の普及とAWS(Amazon Web Service)の台頭が主なトピックとして挙げられました。榎氏は、Jenkinsをキーワードにしたセッションが、LLイベントやjusの勉強会などで多く見られたと報告。また、AWSコミュニティが全国に拡大したことで、AWS関連のイベントが増加したといいます。このころからAWSがクラウド分野をリードするようになり、コミュニティ主体のマーケティング方法が注目されるようになったのではないか、と榎氏は推測していました。
次回は1990年代前半がテーマ
次回のjusによる講演は、11/10(土)に開催されるKOF(関西オープンフォーラム)にて行われます。その際には、1990年代前半を対象時期とした講演を行うとのことです。
LT大会&閉会式
恒例のLT大会
今年のOSC Kyotoも、恒例のライトニングトーク(LT)大会が行われました。熱中症対策というタイムリーな話題から、一転して「雪」にまつわるシビックテックの紹介が続き、分散型SNS「Mastodon」についてなど、多種多様な話題で盛り上がりました。OSC実行委員会を運営している宮原徹氏も登壇し、Sctatchを用いてArduino経由でドローンをワンクリックで飛ばすというパフォーマンスで場を盛り上げました。
Scratchを使って飛ばしたドローンを回収する宮原徹氏
来場者数1万人への期待
その後に開かれた閉会式では、OSC2018 Kyoto実行委員長の宮下健輔氏が登壇。2011年からの来場者数は通算で8,500人にのぼり、2020年までに1万人を突破するかもしれないとのこと。そして、「 もしサマータイムが導入されたら、みなさん(忙しくて)ここに来れないかも」という冗談も交えて、会場に笑いを巻き起こしました。
OSC2018 Kyoto実行委員長 京都女子大学 現代社会学部 宮下健輔氏
Scratchのフォーマットで定義された、OSC閉会式から家へ帰るまでのフロー
食べ過ぎ注意の懇親会
閉会式のあと、OSC恒例の懇親会が開かれました。一般の参加者でも、講演の登壇者や企業ブースの担当と自由に語りあうことができるフランクな場です。
懇親会では、OSC名物である大量の焼きそば、カレー、パスタなどが振る舞われ、関西ならではのサービスとして山盛りのたこ焼きが目を引きました。食欲旺盛な若者のために出されるようになったといいます。筆者はタイムテーブルの関係上、興味のあったセッションをすべて回ることは残念ながらできませんでしたが、オープンソースコミュニティが持つ熱量を実感できた1日でした。