米航空宇宙局、通称"NASA"には宇宙開発初期の時代から今日に至るまでの膨大な写真やビデオがアーカイブされており、その多くが人類共通の資産としてネットを通じて世界中に公開されています。本コラムでは毎回その中から1枚を選び、ごくごく簡単な解説とともに、NASAという地球最大のスコープを通して見えてくる遠くて近い宇宙の世界 ─NASAの世界を紹介していきます。しばしお付き合いいただければ幸いです。
連載第1回めは火星探査機「オポチュニティ(Opportunity)」が先日送ってきた写真を取り上げてみたいと思います。
ちょうど10年前の2003年7月7日(米国時間)、米フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から打ち上げられたオポチュニティは、半年間の旅路を経た後、2004年1月に火星にランディングしました。以降、オポチュニティよりもすこし先に到着していた双子の無人探査機「スピリット(Spirit)」とともに、数々のすばらしい業績を上げてきました。最もよく知られている成果は、かつて火星に水が満ちあふれていた証拠として大部分がヘマタイト(赤鉄鉱)で組成される直径数ミリの球"ブルーベリー"を見つけ出したこと(2004年)。
ヘマタイトは湖のように水の流れがない水中で形成される場合が多く、それが球状になっているのは長い期間に渡って水底に集積していたことを意味します。オポチュニティが送ってきた、小さなブルーベリーがぎっしり詰まっているように見えるその写真は、いまは赤錆びた褐色の大地だけが拡がるこの星に、数十億年前は地球と同じように大量の水をたたえた湖、あるいは海が拡がっていた事実を示していました。
オポチュニティは6週間前、2011年から作業をしていたエンデバークレーター(Endeavour Crater)内のヨーク岬(Cape York)を離れ、南に2km先にある次の調査地点ソランダーポイント(Solander Point)に向かって走行中です。今回の写真はその旅路の約半分、800m進んだあたりに拡がるボタニー湾(Botany Bay)をオポチュニティ自身が撮ったもの。白っぽく見えるモザイク状の岩盤の間を、おなじみのブルーベリーが詰まった玄武岩質の土壌が埋めています。
南半球にあるエンデバークレーターはまもなく火星の冬を迎えます。気候がきびしくなる前に可能な限り調査を進めるためにも、ソランダーポイントにはできるだけ早く到達しなければなりません。NASAによれば、フラットでゆるやかなスロープが続くボタニー湾はオポチュニティにとっても快適なドライブのようで、至極順調に走行しているとのこと。無事到着の報せが待たれます。