Nの世界 ─NASAアーカイブから垣間見る宇宙

#3宇宙ステーションから眺める雲と光の共同作業

地上から400km上空を秒速7.7kmという超高速で地球を周回する国際宇宙ステーションISS036では、日々さまざまな観測や実験が行われています。宇宙だけでなく地球の観測も重要なミッションのひとつで、そこで撮影された画像は気象観測などにおける重要なデータとなります。

今回紹介する画像は、6月24日、ISS036のクルーがニコンの一眼レフカメラ「D3S」に50mmの望遠レンズを付けて撮影した、五大湖最大の面積を誇るスペリオル湖(Lake Superior)です。スペリオル湖はアメリカとカナダに領土が分かれていますが、この写真に写る緑の森はカナダ・オンタリオ州の南部にあたり、右側にはプカスクワ国立公園が拡がります。淡水湖としては世界最大、北海道がすっぽりと収まる面積と聞けば、スペリオル湖がいかに巨大な湖かがわかります。

森から湖へとうねるように伸びる白い雲は、よく見ると2層に分離しているかのように見えます。このように不思議な形をしているのは重力波(gravity waves ※)が原因です。スペリオル湖の沿岸付近にはこの季節、水分をたっぷり含んだ重たい空気が運ばれてきます。この暖かく湿った空気が、もともとあった冷たくてドライな空気に急激にぶつかると、それぞれの空気がもとの温度に戻ろうとする強力な波動が生じ、空気が上へ下へと振動を繰り返し、やがて冷たい空気は上に、温かい空気は下にと移動していきます。その空気の動きが雲を変形させ、風の力も加わってこのように波打つ雲の帯が織り上がるというわけです。

そして空の上で生じた波動とは別の動きが水面では起こっています。鏡のように青く輝くスペリオル湖においても、いちだんと光を反射する領域がスペリオル湖最大の島であるアイル・ロイヤル(Isle Royale)周辺で、はるか上空の宇宙ステーションから湖面のさざなみがはっきりと確認できるほどです。これはサングリント(sunglint)と呼ばれる現象で、太陽光が水面に対し、ほぼダイレクトに反射する鏡面反射が起こっているためです。一般的に海面などは光が拡散しやすいため、サングリント領域はあまり多くないのですが、スペリオル湖を含む五大湖はサングリントがよく見られる場所として知られています。

ISS036から送られて来る地球のある場所のある瞬間を捉えたスナップショットは、地球がいかにダイナミックで多彩な表情をもつ星であるかを我々に教えてくれます。

左下の雲に囲まれた緑の領域がアイル・ロイヤルの先端部分。この周辺から右側に見えるミシピコテン島(Michipicoten Island)のあたりまで、湖面のさざなみがはっきり確認できる鏡面反射が起こっている。重力波による雲のうねりとさざなみの向きが同じことから、2つの現象ともに、陸からの風に影響されていることがわかる。
左下の雲に囲まれた緑の領域がアイル・ロイヤルの先端部分。この周辺から右側に見えるミシピコテン島(Michipicoten Island)のあたりまで、湖面のさざなみがはっきり確認できる鏡面反射が起こっている。重力波による雲のうねりとさざなみの向きが同じことから、2つの現象ともに、陸からの風に影響されていることがわかる。
上の写真のミシピコテン島付近を拡大したもの。サングリントが確認できる。
上の写真のミシピコテン島付近を拡大したもの。サングリントが確認できる。

ここで言う重力波は流体力学で定義されているもので、相対論における重力波(gravitational wave)とは異なります。

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