Nの世界 ─NASAアーカイブから垣間見る宇宙

#6そして次の25マイルへ ─偉大な記録を更新し続ける火星探査機オポチュニティ

「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」⁠That's one small step for a man, one giant leap for mankind.⁠⁠ ─1969年、人類として初めて月に降り立った故ニール・アームストロング船長の名言は今も広く人々に知られています。そして45年後の現在、月よりもはるか離れた火星の地において、新しい"偉大な飛躍"が記録されました。7月27日(米国時間⁠⁠、NASAの火星探査機「オポチュニティ(Opportunity⁠⁠」が走行距離25.01マイル(40.25km)を達成、1970年に旧ソ連の月面探査機「ルノホート2号(Lunokhod 2⁠⁠」が記録した24.2マイル(39km)を抜いて、地球外での最長走行距離を更新したのです。

オポチュニティが火星にランディングしたのは今から10年前の2004年1月のことです。先に到着していた双子の探査機「スピリット(Spirit⁠⁠」とともに火星の調査を続け、衝撃的な新発見を次々と伝えてきたのは周知のとおり。両機とも「90日も動けば成功」と言われていましたが、火星の過酷な気候に耐え、電力不足に悩まされつつ、そして深い砂地やむき出しの岩石に何度もホイールを取られながら、毎日毎日、数十メートルずつ走行距離を伸ばしてきました。残念ながらスピリットは2010年に完全に身動きが取れなくなったため活動を停止してしまいましたが、オポチュニティは10年を超えても精力的な活動を続け、ついに今回、新たな記録を樹立するに至ったというわけです。

オポチュニティは現在、南半球にある「エンデバークレーター」の西側の縁にあたる地域、その名も「ルノホート2 クレーター(Lunokhod 2 Crater⁠⁠」を走行中です。エンデバークレーターでは2011年から作業を行っており、太古の昔、この付近には弱酸性(あるいは中性)の水が押し寄せていて、湿った環境が形成されていた証拠を発見するなど、この星に関する新たな事実をいくつも知らせてくれています。

もちろん、新たな記録を樹立したからといってオポチュニティの旅が終わるわけではありません。次の目標の地はルノホート2よりやや南にある「マラソンバレー(Marathon Valley⁠⁠、NASAの科学者たちはここの土壌に数種類の粘土鉱物が含まれていると見ており、それが証明されればエンデバークレーター付近の地層形成のプロセスがより明らかになると期待しています。

「偉大な記録ではあるが、いまのオポチュニティにとってはひとつの通過点⁠⁠ ─10年の歳月をかけてオポチュニティが走りきった25マイルという記録は、NASAと科学者たちが火星に残してきた闘いの軌跡でもあり、ひとつの大きなマイルストーンでもあります。次の25マイル、そして2030年頃に実現すると言われる人類の火星到着に先駆け、オポチュニティはすでに新たな飛躍を始めています。

オポチュニティは2004年1月に写真左上のイーグルクレーター(Eagle Crator)にランディングし、10年に渡って黄色のライン通りに25マイルを走行してきた。火星の一昼夜(24時間37分)はソル(sol)と呼ばれるが、オポチュニティは3735ソルかけてこの記録を達成したことになる。現在は1年前に到達したソランダーポイントの南にあるルノホート2で作業中、次は南のマラソンバレーをめざす。
オポチュニティは2004年1月に写真左上のイーグルクレーター(Eagle Crator)にランディングし、10年に渡って黄色のライン通りに25マイルを走行してきた。火星の一昼夜(24時間37分)はソル(sol)と呼ばれるが、オポチュニティは3735ソルかけてこの記録を達成したことになる。現在は1年前に到達したソランダーポイントの南にあるルノホート2で作業中、次は南のマラソンバレーをめざす。

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