今月のお天気なんでも通信

第11回8代目スーパーコンピュータの性能

現在の天気予報の方法は、将来の大気の状態を予想し、その大気の状態から生ずる天気を予想するというものです。例えば、低気圧がどこに発生し、移動、発達してくるかを予想し、その予想位置、発達の程度から、予報を発表する場所や地域の風向風速、天気、降水量を予想するというものです。

この将来の大気の状態を予想するためには、コンピュータを用いた数値予報という方法を用いますが、気象庁ではこの3月1日に数値予報用のスーパーコンピュータを更新しました。第1代目の数値予報用のコンピュータは1959年に設置され、今回のコンピュータはこれから数えて第8代目にあたります。新しいスーパーコンピュータの計算能力は、ヨーロッパやアメリカなど世界の気象センターの中でも第1位の能力で、最大1秒間に27兆5千億回の計算をすることができます。

数値予報では、大気を水平・鉛直方向に分けた格子状に分割し、その格子の交わる格子点の気圧、風向風速、温度、湿度などが時間が経つにしたがってどのように変わるかということを計算します。例えば24時間後の大気の状態を計算するためには、一回の計算ではできないため、まず最初の観測時間から数十秒後の全ての格子点上の値を計算し、次にその状態を初期値としてさらに数十秒後を計算するという方法を何度も続けることによって求めます。このため、非常に高速な計算が可能なスーパーコンピュータが必要と言うわけです。

メソモデルと全球モデル

新しいスーパーコンピュータで行う数値予報には大きく分けて、半日程度先までの小さなスケールを精度良く予想する「メソモデル」と、1か月~3か月先までの大きなスケールのおおまかな傾向を予想する「全球モデル」があります。この両方のモデルとも、新しいスーパーコンピュータでは新しい計算方法をとります。

メソモデルでは、従来の水平の格子間隔が10kmだったものが5kmに、鉛直方向に40層に分けていたものを50層に分けるという精密化が測られます。また、計算を開始する間隔を6時間から3時間に短縮し、1日8回計算することになります。

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この結果、短時間に強く降る雨の分布を精度良く計算することが可能になると考えられています。右の図は福井豪雨を数値予報ではどのように表現できるかを示したものです。一番上の図が実際に降った雨の様子、その次の図が格子間隔5kmのモデル、一番下の図が10kmのモデルです。5kmのモデルの方が、実際に近い予想になっているのが良く分かります。

全球モデルでも、水平・鉛直方向の格子間隔が細かくなりますが、それよりも大きな変更は、初期値を色々と変えて計算できるようになることです。数値予報は観測したデータを初期値にして計算しますが、その観測値には必ず誤差があります。長期の予測をすると、初期値のちょっとした差が大きな誤差となって現れます。このため、観測誤差を考慮して、少しずつ違う初期値で計算を行う「アンサンブル予報」という手法が長期予報の主流となっています。

アンサンブル予報では沢山の計算を行うため、非常に高い計算機の能力を必要とします。従来の計算機では、長期予報のための計算は26種類の初期値で行っていましたが、新しい計算機ではこれを一気に倍増し、50種類の初期値で計算を行うことにしています。また、長期予報に加えて週間予報の初期値数も増加させるだけでなく、台風予報にも新たにこのアンサンブル予報の手法を利用する計画です。

新しいスーパーコンピュータにすれば、全てぴたりと当たるようになるということではありませんが、確実に予報は進歩しています。

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