エンジニアに捧げる起業幻想

第1回 昨今の起業ブームについて

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起業に対する1つの考え方

今回から10回の連載で「エンジニアに捧げる起業幻想」というタイトルでお送りします。よろしくお願いします。

この連載は,起業論について,それも主にエンジニアによる起業論についての内容となります。起業論というのはだいたい持論であることが多いですが,この連載の内容も主に私の個人的な経験や考察による持論です。

「こういう考え方もあるのか」というスタンスで読んでいただければ幸いです。

私はこれまでgihyo.jpで,自分の経験を元にしたエンジニアの心構えや,ECサイトにおける検索エンジンの役割などの連載をしてきましたが,今回なぜエンジニア起業論についての連載をすることになったかについて,まず簡単に述べてみたいと思います。

起業ブーム

まず1つの理由として,いわゆる「起業ブーム」があります。今回はここについて,簡単に触れてみることにします。

以前,「起業なんてただの選択肢」というブログを書きました。このときの背景にも「起業ブーム」があったのですが,いわゆる「起業ブーム」と呼ばれるものがあることは,これは私の主観だけではなく,事実として存在すると考えています。 こうしたブームを眺めている中で,本来,起業は目的のための手段にすぎないものが,目的として起業してしまっているような本末転倒なケースが多々見られるように思います。

なぜ,本来は手段であるはずの起業というものが,目的となってしまっているのでしょうか。

いくつかの要因があるとは思いますが,その中で大きなものの1つが,「起業についての情報発信や情報流通が多い」ということが挙げられます。先のブログにも書いたように,なんとなく「起業はカッコいい」というような変な思い込みがあるために,起業して成功した事例というのは,情報を流通させる立場からすれば良いネタになります。

起業して成功に導いた本人はそう思っていなくても,周りの評論家やニュースメディアが見つければそれを放っておきません。また,会社に勤務している人のストーリーが脚光を浴びることはほとんどありませんが,起業ストーリーというのは耳目を集めやすいため,記事やネタとしてもよく扱われます。その結果として「起業」に注目が集まるのです。

加えて,周りが取り上げるだけではなく,起業した人の中には「脚光を浴びるのが好きな」人たちが一定の割合でいることも要因の1つです。しかもそういった人は,「手段ではなく目的として起業した人たち」の中に多くいるように思います。こうした脚光を浴びるのが好き,自分語りをするのが好きな人たちがいて,そういったストーリーを面白おかしく読む人たちがいて,そういったネタを扱うのが好きなメディアがあることで,いわゆる起業ストーリーがどんどん増えていくのです。

起業にまつわるストーリーは「プラスの話のほうが流通しやすい」

続いて,取り上げられるストーリーについて考えてみましょう。

起業ストーリーで語られる内容の多くは,成功ストーリーであったり,まだ成功していないにしても「こんな素晴らしいことをやっているんだ」「こんな充実した毎日だ」というような大変前向きなものばかりです。逆に,「ものすごい失敗をしたんです」「起業したのは大きな失敗でした」という話を積極的にしたがる人は少ないですし,あまりみかけません(もちろん,ハイパーネットやワイズノットのように,失敗したケースをその本人が語るという稀有なケースもありますが)。このように,取り上げやすい・話しやすいといった理由から,起業にまつわるストーリーはそもそも「プラスの話のほうが流通しやすい」というフィルターをかけられています。そして,絶対数で言えば前向きでポジティブな話,起業をプラスに評価する話のほうが圧倒的に多いでしょう。仮に,起業の成功例も失敗例も等しく扱われて情報として流通していたら,失敗ストーリーのほうが圧倒的に多くなるはずです。

話はそれますが,私の好きな本に『シリコンバレー・アドベンチャー―ザ・起業物語』という,プラスに偏らずに起業から失敗までを語ったものがあります。現在絶版ですが良い本なのでぜひ復刻してほしいところです。

起業を支援する人たちは情報発信が好き

起業を取り上げるメディア以外に,起業を支援する人たちもまた情報発信が大好きです。これも「起業」がブームになっている要因の1つと考えています。

「若者はもっと起業すべきだ」とか,「日本はまだまだ起業文化が遅れている」とか,「この会社の立ち上げに協力してこんな成功を収めました」とか,「起業を目指している人で集まって意見交換をしよう」とか,枚挙にいとまがありません。起業にまつわるイベントも連日のように開催されています。

起業支援する人たちというのは,起業を支援するのが仕事なので,起業する人がいないことには仕事になりません。なので積極的な起業を奨励するような情報発信をすることは,それはある意味正しいことであり健全であるとも言えます。商品を販売している会社が「うちの商品は素晴らしいです」というのと同じことです。つまり,起業支援をする人たちは,「起業マインド」を販売しているようなものです。

こうした背景から,今の世の中には起業に関する情報や,起業を奨励する意見が多くあふれています。ですから,もはやこれは「起業ブーム」という1つの社会現象と言えるのです。

起業ブームという1つの社会現象を考える

ここで1つ誤解のないように述べておきますが,私は起業自体については良いとも悪いとも思っていません。先のブログにもあるように,起業というのはただの選択肢です。目的のためには,もしくは状況を鑑みれば,起業のほうが良い選択肢となるのであれば,それは起業するべきなのでしょう。

ただ,目的のためには起業するという手段が,良い選択肢に「ならない」のに起業しているケースがあることは問題だと思っています。単に状況判断を誤って選択ミスで起業を選んだというのであればともかく,「目的として起業してしまう」「ブームに乗せられて起業してしまう」という正直論外な人たちがいるのも事実です。

もちろんその中から成功するケースが出ることもあるでしょうが,それは結果論です。目的を遂行するには,無理に起業せず,企業に所属するほうが良いケースというのもたくさんあります。個人的見解としては,目的のための手段としては,起業よりも企業に所属しているほうが良いケースのほうが多いと思っています。

私自身2回の起業を経験していますが,なぜそういう選択肢となったのかについては,次回以降紹介する予定です。ともあれ,この連載の目的としては,起業というものがどういうものであるかについて本質的に考えていき,それが取るべき選択肢として選ばれるようになることの一助になればと思っています。

また,私自身がエンジニア出身ということもあり,エンジニア固有の事情や状況,エンジニアが起業することのメリットとデメリットなどについても掘り下げていければと考えています。

著者プロフィール

山崎徳之(やまざきのりゆき)

青山学院大学卒業後,アスキー,So-netなどでネットワーク,サーバエンジニアを経験。オン・ザ・エッヂ(現ライブドア)のデータセンターである「データホテル」を構築,運営。2003年にベイエリアにおいてVoIPベンチャーであるRedSIP Inc.を創業。2006年6月に株式会社ゼロスタートコミュニケーションズ(現 株式会社ゼロスタート)を設立,代表取締役就任(現任)。ECソリューションの「ZERO-ZONE」シリーズとして検索エンジンやレコメンドエンジンを開発,販売している。

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