IT業界の病理学

[表紙]IT業界の病理学

A5判/176ページ

定価(本体1,680円+税)

ISBN 978-4-297-10857-1

電子版
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書籍の概要

この本の概要

なんちゃってアジャイル症候群,「運用でカバー」依存症,永遠の進捗90%……IT業界の問題とその原因,対処法を体系化

「流行っているものに闇雲に飛びつきマネするも,うまくいかなければ『ウチには合わない』と早々に捨て去ってしまう」
「リスクをまるで無視して,目先のマイルストーンだけを目指してひたすら突進し,プロジェクトが破綻」
「トラブルの原因を十分に分析しないまま,もっともらしい再発防止策はとられるものの,問題が再発」

今日もIT業界のどこかの現場で猛威をふるっている“病気”の原因と背景,そして治療法と予防法を,現場の一線で活躍するエンジニアたちが体系化。開発,レビュー・テスト,保守・運用,マネジメント,業界まで,「あるある」で終わらせず,一歩先に踏み出すためのヒントが満載。

こんな方におすすめ

  • IT業界で働いている方
  • IT業界への就職を考えている方
  • システムの発注者・ユーザー

著者の一言

「IT業界には問題が山積みされている」

まるで決まり文句のように,さまざまな人が口をそろえて指摘しています。

「アジャイル開発を導入するも,表面的なプラクティスをなぞるだけ。実施すべき作業を『面倒だから』と単純に省略して骨抜きにし,プロジェクトを行き当たりばったりで進め,火を吹いてしまう」
「コストと納期が非常に厳しい状況下では計画を立てるのは無意味であると,リスクをまるで無視して,目先のマイルストーンだけを目指してひたすら突進し,破たんしてしまう」 「何か新しい技法を取り入れようとしても,『理想と現実は違う』『作業が増えてしまう』『すぐに効果が見込めない』と突っぱねられてしまう」
「流行っているものに闇雲に飛びつきマネするも,うまくいかなければ『ウチには合わない』と早々に捨て去ってしまう」
「トラブルの原因を十分に分析しないまま,もっともらしい再発防止策はとられるものの,問題が再発する」

そんな「思考停止」「責任転嫁」「独善」「妥当でない価値観」「悪い状況や習慣への慣れと麻痺」といった,ドロドロしたネガティブな要因に起因する問題ばかり。問題に気づいた者が技術論・方法論をいくら説いても,問題が問題として扱われずに軽視されることもあります。一生懸命に取り組んでいるのにわかってもらえず,歯がゆさを味わうばかり。いつしか徒労感や無力感にさいなまれて,「現実はこんなものさ」と悪く達観し,先に進む力を徐々に失ってしまうことにもなってしまいます。

こんな状況でいいはずがありません。では,どうすればいいのでしょうか。IT業界では,優れた知見が書籍,記事,論文などで広く共有されていますが,それらを取り入れようとすれば問題は解決していく,という単純な話ではありません。

まずは,どんな問題があるかを把握し,チームメンバーや組織で共有することが不可欠です。そして,問題はなぜ起きるのかをよく分析し,適切な対策を打つのが大事です。

本書では,ソフトウェア開発や保守にまつわる問題を「病気」に見立てて列挙し,それらが起きてしまっている原因や対処方法などを以下の形でまとめています。

  • 症状と影響
    その病気が示す症状と,どこにどんな悪さを及ぼすのかをかんたんにまとめています。
  • 原因・背景
    その病気が発病する原因,罹患しやすい背景を記しています。
  • 治療法
    可能な限り,その病気の治療法を記しています。すぐに治療可能なものもありますし,ある程度の時間が必要なものもあります。現在では根治が難しいものもありますが,それについては将来への展望を記してあります。
  • 予防法
    その病気に罹らずにすむ方法を記しています。病気に罹ってから治療するよりも,病気に罹らないように予防するのが最善です。
  • 異説
    本当は病気に罹っている状態なのに「病気でない」と誤診したり,本当は健康な状態なのに「病気に罹っている」と誤診したりするケースなどの違った見方を記し,筆者らの一方的な決めつけにならないように留意しています。
  • 補足
    本文中では記載しきれない補足事項を記してあります。

読みやすくするため,開発,レビュー・テスト,運用・保守,マネジメント,業界といった章を設けていますが,最初から順に読み進める必要はなく,どこから読んでもいいようにしてあります。

本書で扱っている病気たちは,エンタープライズ系や組み込み系など,特定の分野に限定していません。想定読者も,特定の職種に限定していません。ソフトウェア開発,テスト,品質管理,改善推進,マネージャーなど,IT業界に関わる方々に広く共感していただけるものを目指して執筆しました。執筆者たちは,高いところから説を唱えているわけではありません。本書の執筆者の各人も,ドロドロしたネガティブ要因の中でもがいている者の1人です。

まずは「こんな病気って見たことがある」「自分たちも罹ってしまっているかも」と笑い飛ばし,楽しんでください。そのうえで,何か困ったことがあった時や行き詰まった時に読み返していただき,病気の治療と予防に本書が少しでもヒントになれば,筆者たちにとってこれほどうれしいことはありません。

目次

1章 開発の病気

  • 1-1 仕様を決められないユーザー (司馬)
  • 1-2 「現行どおり」の要件定義 (佐々木)
  • 1-3 要求に対する問題がリリースの直前になって見つかる (秋山)
  • 1-4 スパゲッティ・ドキュメント (森)
  • 1-5 T.B.D依存症 (都築)
  • 1-6 なんちゃってアジャイル症候群 (司馬)
  • 1-7 絶対にさわれないソースコード (森)
  • 1-8 だれも見ない開発標準 (秋山)

2章 レビュー・テストの病気

  • 2-1 全部そろってからレビュー (森)
  • 2-2 メールレビューという名のアリバイ作り (秋山)
  • 2-3 腐敗したテスト仕様書 (都築)
  • 2-4 絶対に見ないエビデンス (森)
  • 2-5 重荷にしかならない不具合管理 (鈴木昭)
  • 2-6 テストケース肥大病 (鈴木昭)

3章 保守・運用の病気

  • 3-1 困りごとが解決されないヘルプデスク (秋山)
  • 3-2 マニュアルどおりにしか動けない運用者 (司馬)
  • 3-3 「運用でカバー」依存症 (司馬)
  • 3-4 なんちゃってDevOps症候群 (司馬)
  • 3-5 高齢化するばかりの運用現場 (司馬)

4章 マネジメントの病気

  • 4-1 プロジェクト管理無計画病 (司馬)
  • 4-2 有識者をつれてきたから安心病 (鈴木準)
  • 4-3 リリース可否判定会議直後の重大バグ報告 (秋山)
  • 4-4 杓子定規な監査 (堀)
  • 4-5 プログラマのモチベーションが一番大事病 (司馬)
  • 4-6 問題解決のための会議に当事者が参加していない (秋山)
  • 4-7 再発防止につながらないトラブル解析 (秋山)
  • 4-8 永遠の進捗90% (司馬)
  • 4-9 失敗だらけのPoC (司馬)
  • 4-10 部署名錯乱病 (司馬)

5章 業界の病気

  • 5-1 勉強会は業務ですか? (秋山)
  • 5-2 受注のジレンマ (森)
  • 5-3 超多段階下請け開発 (司馬)
  • 5-4 プログラマ→SE→プロマネのキャリアパス病 (司馬)
  • 5-5 学生のキャリアアンマッチ病 (司馬)

著者プロフィール

司馬紅太郎(しばこうたろう)

法学部卒業後,IT業界へ。プログラマから始まり,さまざまなプロジェクトでシステム開発を経験,近年は大手ベンダーで,PM,PMO,PM支援を務める。取得資格はPMP,CISA,ITコーディネータなど。
著書に『空想プロジェクトマネジメント読本』『観察系エンジニアの告白』(以上技術評論社),『ニッポンエンジニア転職図鑑』(幻冬舎メディアコンサルティング)など多数。趣味ゲーで,船団「まったりお茶」所属。
Twitter:@shiba_koutaro


秋山浩一(あきやまこういち)

HAYST法のコンサルタント。博士(工学)。日本品質管理学会代議員。
ASTER理事,SQiP研究会,ISO/IEC JTC 1/SC7 WG26委員。
著書に『ソフトウェアテスト技法ドリル』『事例とツールで学ぶHAYST法』(日科技連出版社)など。
Twitter:@akiyama924


森龍二(もりりゅうじ)

SIerで技術支援やレビュー組織リーダーを経験後,第三者検証会社に転職。不具合分析を中心に,現場の検証サービスを支援している。システム開発プロジェクトにおいてさまざまな不条理を目の当たりにしたことと,Capers Jonesの『ソフトウェア病理学』(構造計画研究所)に感銘をうけ,読書会を主催したことが本書の執筆につながっている。趣味はピアノ演奏。訳書に『システムテスト自動化標準ガイド』(翔泳社)。


鈴木昭吾(すずきしょうご)

電機メーカー系企業に入社後,企業向けシステムの設計,導入,カスタマイズなどをおこなうSE(システムエンジニア)を経験したのち,品質保証部門に異動。SI案件や自社プロダクトを対象に,設計レビューやリリース管理,プロセス改善などに従事している。ソフトウェア開発現場の課題や高品質なプロダクトを設計・開発するためのヒントをつかむために,ソフトウェア品質やソフトウェアテスト関係のコミュニティで活動している。
Twitter:@rin2_


都築将夫(つづきまさお)

2005~2018年3月,東海地方の製造業系子会社の開発部署でソフトウェアテストを担当し,探索的テストを実践。2018年4月以降,SEPG&PMOとして親会社に出向して,定量的開発管理など,さまざまな開発部署を支援中。


堀明広(ほりあきひろ)

組込み系プログラマー,ソフトウェア品質管理を経て,現職はバルテス株式会社R&C部 担当部長 兼 上席研究員。担当業務は社内人材育成,検証・分析の技術開発,標準化,セミナー講師。おもな訳書は『ソフトウェアテスト293の鉄則』(日経BP,共訳),著書は『ソフトウェア見積りガイドブック』(オーム社,共著),『続・定量的品質予測のススメ』(佐伯印刷,共著)。論文発表・講演多数。得意分野はバグ分析。


佐々木誠(ささきまこと)

1978年生まれ。北海道旭川市出身。現職はアイエックス・ナレッジ株式会社。
Webシステム構築の要件定義から,開発,テスト,保守運用,廃止まで一貫して携わる。関心をテスト領域へ移して,現在は受入テストに従事するテストエンジニアとして活動。Capers Jones著『ソフトウェア病理学』(構造計画研究所)に関心を持っていたところ,日本語版執筆のSQiP SIGに出会い,本書の執筆活動に参加。


鈴木準一(すずきじゅんいち)

ソフトウェアQA一筋30年。
1962年生まれ。10歳で半田ごてを握り,14歳でマイコンに機械語を打ち込む。
1986年,日本大学生産工学部数理工学科を卒業後,大手ITベンダーに入社。サーバOSやHAソフトウェアのテスターとして耐故障性テストの腕を鍛え,基幹業務系やパブリッククラウドのシステム基盤といった大規模システムのQAを得意とする。