概要
なんちゃってアジャイル症候群,「運用でカバー」依存症,永遠の進捗90%……IT業界の問題とその原因,対処法を体系化
「流行っているものに闇雲に飛びつきマネするも,うまくいかなければ『ウチには合わない』と早々に捨て去ってしまう」
「リスクをまるで無視して,目先のマイルストーンだけを目指してひたすら突進し,プロジェクトが破綻」
「トラブルの原因を十分に分析しないまま,もっともらしい再発防止策はとられるものの,問題が再発」
今日もIT業界のどこかの現場で猛威をふるっている“病気”の原因と背景,そして治療法と予防法を,現場の一線で活躍するエンジニアたちが体系化。開発,レビュー・テスト,保守・運用,マネジメント,業界まで,「あるある」で終わらせず,一歩先に踏み出すためのヒントが満載。
こんな方におすすめ
- IT業界で働いている方
- IT業界への就職を考えている方
- システムの発注者・ユーザー
著者から一言
「IT業界には問題が山積みされている」
まるで決まり文句のように,さまざまな人が口をそろえて指摘しています。
「アジャイル開発を導入するも,表面的なプラクティスをなぞるだけ。実施すべき作業を『面倒だから』と単純に省略して骨抜きにし,プロジェクトを行き当たりばったりで進め,火を吹いてしまう」
「コストと納期が非常に厳しい状況下では計画を立てるのは無意味であると,リスクをまるで無視して,目先のマイルストーンだけを目指してひたすら突進し,破たんしてしまう」
「何か新しい技法を取り入れようとしても,『理想と現実は違う』『作業が増えてしまう』『すぐに効果が見込めない』と突っぱねられてしまう」
「流行っているものに闇雲に飛びつきマネするも,うまくいかなければ『ウチには合わない』と早々に捨て去ってしまう」
「トラブルの原因を十分に分析しないまま,もっともらしい再発防止策はとられるものの,問題が再発する」
そんな「思考停止」「責任転嫁」「独善」「妥当でない価値観」「悪い状況や習慣への慣れと麻痺」といった,ドロドロしたネガティブな要因に起因する問題ばかり。問題に気づいた者が技術論・方法論をいくら説いても,問題が問題として扱われずに軽視されることもあります。一生懸命に取り組んでいるのにわかってもらえず,歯がゆさを味わうばかり。いつしか徒労感や無力感にさいなまれて,「現実はこんなものさ」と悪く達観し,先に進む力を徐々に失ってしまうことにもなってしまいます。
こんな状況でいいはずがありません。では,どうすればいいのでしょうか。IT業界では,優れた知見が書籍,記事,論文などで広く共有されていますが,それらを取り入れようとすれば問題は解決していく,という単純な話ではありません。
まずは,どんな問題があるかを把握し,チームメンバーや組織で共有することが不可欠です。そして,問題はなぜ起きるのかをよく分析し,適切な対策を打つのが大事です。
本書では,ソフトウェア開発や保守にまつわる問題を「病気」に見立てて列挙し,それらが起きてしまっている原因や対処方法などを以下の形でまとめています。
- 症状と影響
その病気が示す症状と,どこにどんな悪さを及ぼすのかをかんたんにまとめています。
- 原因・背景
その病気が発病する原因,罹患しやすい背景を記しています。
- 治療法
可能な限り,その病気の治療法を記しています。すぐに治療可能なものもありますし,ある程度の時間が必要なものもあります。現在では根治が難しいものもありますが,それについては将来への展望を記してあります。
- 予防法
その病気に罹らずにすむ方法を記しています。病気に罹ってから治療するよりも,病気に罹らないように予防するのが最善です。
- 異説
本当は病気に罹っている状態なのに「病気でない」と誤診したり,本当は健康な状態なのに「病気に罹っている」と誤診したりするケースなどの違った見方を記し,筆者らの一方的な決めつけにならないように留意しています。
- 補足
本文中では記載しきれない補足事項を記してあります。
読みやすくするため,開発,レビュー・テスト,運用・保守,マネジメント,業界といった章を設けていますが,最初から順に読み進める必要はなく,どこから読んでもいいようにしてあります。
本書で扱っている病気たちは,エンタープライズ系や組み込み系など,特定の分野に限定していません。想定読者も,特定の職種に限定していません。ソフトウェア開発,テスト,品質管理,改善推進,マネージャーなど,IT業界に関わる方々に広く共感していただけるものを目指して執筆しました。執筆者たちは,高いところから説を唱えているわけではありません。本書の執筆者の各人も,ドロドロしたネガティブ要因の中でもがいている者の1人です。
まずは「こんな病気って見たことがある」「自分たちも罹ってしまっているかも」と笑い飛ばし,楽しんでください。そのうえで,何か困ったことがあった時や行き詰まった時に読み返していただき,病気の治療と予防に本書が少しでもヒントになれば,筆者たちにとってこれほどうれしいことはありません。