新春特別企画

2012年のソーシャルWeb

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あけましておめでとうございます。よういちろう です。新春企画でソーシャルというキーワードを担当して今年で3年目となりました。さっそく2012年のソーシャルWebがどうなっていくのか,占っていきたいと思います。

前回,そして前々回にどんなことを書いていたか気になる方は,以下のリンクからお読みください。

ソーシャルゲーム分野

まずは,IT業界において昨年最も注目を集めたソーシャルゲーム分野を取り上げます。

ソーシャルゲーム市場拡大の鈍化

インターネットにおける2011年度の最大の出来事,それはソーシャルゲーム市場の急速な拡大でした。その代表格がGREEおよびモバゲータウンであったことは,誰の目にも明らかでした。一昨年のソーシャルゲームの市場規模は1036億円という発表がされましたが,昨年は2385億円で着地したと見られています。これは2010年から2.3倍の伸び率であり,さらに2009年からすると約7.9倍に拡大しました。

三菱UFJモルガンスタンレー証券による今後の国内ソーシャルゲームの市場規模予測では,今年以降もこの市場は成長を続け,来年度には4000億円に到達すると発表されています。伸び率では,今年末で前年比42%,今年末から来年末では20%という予測です。

これはソーシャルゲーム市場が大きく評価されている結果と言えますが,現実にはこのような伸びは記録されないと思っています。つまり,国内の市場規模は継続的に大きくなるとは言え,昨年のような急拡大は起きず,さらに三菱UFJモルガンスタンレー証券の予測を下回る結果になると考えています。その根拠は以下です。

  • ソーシャルゲーム利用ユーザ数の飽和
  • 主要ソーシャルゲームベンダーのグローバル展開の加速
  • マネタイズ主導による利用ユーザ層の固定

コンシューマ向けゲーム機やスマートフォン向けのゲームアプリなどでは,タイトルあたりの制作費が年々大きくなり,その結果携帯ゲーム機などで「低コストな開発費でより多くのユーザが持つ端末をターゲットに」という方向性が非常に強くなっています。現在流行しているソーシャルゲームのほとんどは「カードゲーム」の延長上にあり,これはコンシューマ向けゲームを開発していた企業の方向性ととても一致します。そのため,ソーシャルゲーム市場に今年は数多くの新規タイトルがそういった企業から盛んに投入されるでしょう。しかし,それがソーシャルゲーム市場の拡大に寄与する割合はそう多くなく,鈍化を止められるほどのインパクトは発生しないでしょう。

普及期と言える期間は昨年までで終わり,今年からは「固定化した利用ユーザ(特に課金ユーザ)のシェアの奪い合い」という市場と捉えた方が正確ではないかと考えます。⁠消費量増加率の減少」「市場参入の増加」という相反する方向性となるため,競争は昨年以上に加速するでしょう。

ソーシャルゲームの技術的進化も鈍いものに

mixiがPC向けソーシャルアプリケーションを開始した2009年8月から今日まで,新しいデバイスに向けた対応スピードは世界でも類を見ないほど日本は速いものでした。PC向けには,OpenSocial Specificationおよびその参照実装であるApache Shindigを使ってプラットフォームが構築されました。フィーチャーフォン向けには,プロキシモデルのアーキテクチャが独自に策定され,これはOpenSocial WAP extensionとしてopensocial.orgに正式にフィードバックされました。スマートフォン向けには,Webブラウザ上ではiframe+RESTful API,ネイティブアプリケーション向けには各社がSDKの提供やngCoreまたはOpenFeintなどのゲームエンジンが採用されています。

全体を考えた場合,ほとんど互換性がないように見えますが,特にAPIの分野においては各社がOpenSocialをベースにしているため,最低限の可搬性が確保されている状態です。特にゲーム分野であれば,表現力や2D,3Dといったグラフィック性能が非常に重要であり,各社がゲームエンジンを買収し力を入れているのは必然であると言えるでしょう。昨年であれば,多くのユーザに使われてきたソーシャルゲームはWebブラウザ(またはWebkit)上で動作するものであり,ページ遷移および部分的に効果的なアニメーションを入れた構成がほとんどでした。今年は多くの大手ゲームメーカーから,ゲームエンジンを使ったリッチなソーシャルゲームが登場するはずです。

ただし,これが商業的に成功するかどうかは,非常に懐疑的です。それは,AppStoreやAndroid Marketが定める規約やガイドラインにソーシャルゲームプラットフォームが縛られることになり,課金に対する整備を自由に行うことができないことが大きな要因です。プラットフォームに更にプラットフォームを乗せようということですので,ベースとなるプラットフォームの規約変更によってビジネスが潰されるリスクは無視できません。このため,比較的影響を受けづらいWebブラウザベースでのプラットフォーム構築は,今年もなくなることなく,むしろ中心的な立ち位置となる可能性が高いと考えられます。グレーゾーンである「アプリ内Webkit利用」が増えるかもしれませんが,これも時間の問題かもしれません。

ゲームエンジンを備えた各ソーシャルゲームについては,今年その提供本数は昨年に比べて飛躍的に伸びるでしょう。しかし,各ソーシャルネットワーキングサービスでは,収益率を見てWebブラウザベースでのプラットフォーム構築に昨年以上の力を注ぐはずであり,その結果今年はソーシャルゲーム向けにHTML5を中心としたWeb標準技術の適用が進むことが予想されます。ソーシャルゲーム提供ベンダーは,どちらも対応を求められる非常に厳しい状況に置かれますので,開発コストをできるだけ下げる意味において,Androidアプリ,iOSアプリ,そしてHTML5アプリの3つを同時にサポート可能な環境がより多く使われるようになるでしょう。そういったゲームエンジンの取捨選択が進むのも,今年かもしれません。

OpenSocialはどこに?

ソーシャルアプリケーション分野を牽引してきた標準仕様,それはOpenSocialでした。今でもmixiやYahoo!モバゲーではこのOpenSocial準拠であり,フィーチャーフォン向けにもOpenSocialが適用されています。各種APIの仕様においても,OpenSocial RESTful APIが大きな影響を現在でも与えています。

ただし,昨年のOpenSocial Union Eventでも感じたことですが,現在のOpenSocialの仕様策定の方向性はエンタープライズ領域での適用を目指したものが多く,エンターテイメント向けの仕様としては十分に枯れている,という印象があります。そのため,現在バージョン2.0.1が最新ですが,全ての仕様を満たしているソーシャルネットワーキングサービスは皆無といってもいいでしょう。実際にはバージョン0.9もしくは1.0のサポートがほとんどです。

さらに,スマートフォン向けのプラットフォームにおいては,iframeとAPIの組み合わせが主流であり,AndroidアプリやiOSアプリにおいてはソーシャルネットワーキングサービスごとに異なる仕様が採用されています。そのため,スマートフォンの普及率に従って,OpenSocialの優位性は下がる一方だと考えて良いでしょう。今年はそれが加速する1年になると予想できます。

その代わりに,OpenSocialを構成している要素であるPortable ContactsおよびActivity Streamsは,個別にその重要性が今年大きく向上すると考えられます。これについてはソーシャルゲーム分野に限定されない話ですので,後述します。

著者プロフィール

田中洋一郎(たなかよういちろう)

株式会社ミクシィ所属。Google API Expert(Social分野担当)。Mash up Award 3rd 3部門同時受賞。書籍「OpenSocial入門」「mixiアプリ開発&運用コンプリートブック」を出版。

Bloghttp://www.eisbahn.jp/yoichiro
Twitter: http://twitter.com/yoichiro

著書

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