ライフハック交差点

第7回誕生から4年たったライフハックの「今」

Danny O'Brienが非常に生産性の高いハッカーたちの実践している小さな習慣を指してLife Hackという言葉を生み出してもう4年弱になります。

最初はプログラマーが実践している小さなテクニックなどを指す言葉だったのが、爆発的に流行してゆく中で拡大解釈が繰り返されて、今では私たちの仕事や生活一般を改善するためのテクニックの総称のように用いられるようになりました。

今回はちょっと横道にそれて、誕生から4年が経過しようとしているライフハックの「今」をみてみたいと思いますが、それはライフハックの「未来」をみることでもあります。ここ数年で日本でも定着したライフハックは今後どこへ向かってゆくのでしょうか?

爆発的な流行から集約へ

2004年から2005年頃に生まれたライフハックは、当初「大きな違いを生み出す小さな習慣」を指す言葉としてギークを中心に爆発的な人気を呼びました。GTDや、Hipster PDAのような流行が同時に生まれたことによってその人気は急上昇し、2005年頃にはさまざまなライフハックがLifehackerのようなブログで紹介されたり、43 FoldersのWikiに書き込まれたりするようになりました。

しかし急速な流行とともに、⁠これってライフハックか?」と疑いたくなるようなマイナーすぎる話題も多く混在するようになったのも事実です。たとえば43FoldersのWikiには「シャワーを短時間で浴びる方法」「痛くない鼻うがいのしかた」など、確かに便利ですが、それでもって私たちの毎日の生産性が上がるわけではないテクニックが数多く紹介されていた時期があります。この頃は「ライフハック」という言葉の意味自体が大きく拡大する時期であったのと同時に、ライフハックと「おばあちゃんの知恵袋」との違いがわからなくなった混乱の時期でもありました。

こうした一時期を経て、しだいにブログで扱われるライフハックは(乱暴に分けてしまうと)2つに集約されていったようです。それらは、

  1. アナログであれデジタルツールであれ「テクニック」に特化して生産性を上げる方法の紹介
  2. 自己啓発法やライフスタイルのアドバイスを紹介する方法

です。前者に特化したブログが43 Foldersのようなブログとするなら、後者はLifeRemixに掲載されているようなや自己啓発系のブログにあたります。そしてこれらを横断的に集めるポータルとしてLifehackerのようなサイトが人気を集めるようになったのはご存じの通りだと思います。

しかし、さらに大きな変化が今まさに進行中なのです。

ハックの数!=その人の生産性

ライフハック系のブログエントリーといえば「○○を○○するための○○個の方法」というタイトルが定番といわれるほどになり、あとは空欄だけが入れ替わりながら大量のアドバイスが日々やりとりされるようになりました。

私もこういうエントリーを書いたことが何度もあるので自分でも責任を感じるのですが、いかがでしょうか?こうしたアドバイスをいくつも繰り返し読んでゆくうちに、どことなしか「ああ、もう聞き飽きたよ...」という倦怠感が生まれてはいないでしょうか?

確かに一つ一つのアドバイスに書かれていることは大事なことばかりなのでしょうけれども、ライフハックの話題を毎日のようにフォローして実践しようとしても、その人の生産性は比例して上がるわけではありません。お昼の健康テレビ番組と同じように、体に良いアドバイスを毎日耳にしたとしても一度に実践することのできるアドバイスには限度があります。

そうするうちに、ライフハックを追求しすぎること自体が重荷のようになって、結果的に生産性を下げているということも言われるようになりました(参照:43FoldersのMerlinのIDEOでの講演⁠。Lifehackerを毎日愛読しているものの、実践が伴わないために結局新しい時間の浪費を生み出しているにすぎないということだってあり得ます。

こうした意味で、ライフハックは「原点回帰」という第2の集約の時期に入っているのだと私は思います。

ムダはぶきと排除の習慣、そしてライフスタイル・デザイン

本連載でも紹介したTim Ferrisの著書、The 4 Hour Workweekの人気は、こうした原点回帰を促す静かな変化を呼び起こしました。ナレッジ・ワーカーにとって最も大事なリソースは「時間」「アテンション」⁠注意力、エネルギーなど)であることを再確認して、Unclutter(無駄省き)とElimination(排除)を前面に押し出そうという話題が多くみられるようになりました。

Unclutter(無駄省き)
周囲のモノの整理、頭のなかの整理、繰り返し行う作業のバッチ処理など、時間とアテンションを生み出す手法
Eliminate(排除)
利益の少ない活動や人間関係を最初から断ってしまい、自分の時間とエネルギーを大事なことに集中させる

たとえばメールを15分に一度チェックしていたとしたら、それは1日の仕事時間を8時間、週に5日間働いたとしてメールによる中断回数は160回にもなります。1回あたりのメールチェックに2分しかかけていないとしても、週に5時間が消えている計算になります。こうした状況を改善するためにメールのチェック回数を1日2回に減らせるように周囲の人と約束をとりつけることは無駄省きの一種となります。こうしたテクニックを集めたブログの代表格にUncluttererがあります。

また、最近私は「情報集め」と称していつも時間を無駄にすごしてしまうウェブサイトを、そもそも自分のパソコンからアクセスできないように設定にしてしまいましたが、これは排除の一種になります。本連載で紹介した情報ダイエットの一種になわけです。Tim Ferrisのブログでも1時間で外国語を覚える手法から友人を選別するという過激な方法まで、普通なら時間のかかる活動を非常な短時間に圧縮する試みについて記事が書かれていて人気を博しています。

1つの傾向としていえるのは、やみくもに新しいハックを導入する前に、それが自分の毎日の生活におけるどのような無駄を消してくれるのかを見積もり、そしてそのハックによって空いた時間にポジティブな結果をもたらす新しい習慣を導入するという、排除と学習のワンセットが次第に意識されるようになっている点です。

それを自分のライフスタイル全般に応用していったのが、以前に紹介したライフスタイル・ハッキングといえるでしょう。

自分を最適化しよう:一歩進んだライフハックへ

ここから先は希望的観測ですが、舞台はまた変わりつつあるのではないかという予感がしています。質問は「どうやったら24時間のうちにもっと仕事を詰め込めるだろう?」ではなく、

「あの人は成果をあげていながら、いつも人生を楽しんでいるように見える。その秘密はなんだろう?」

というものに、もう一度回帰しようとしているのです。これまでライフハックを追い続けてきた人には当然のことでしょうけれども、その秘密は数あるテクニックを機械的に適用するのではなく、時間とアテンションを生み出すためのライフハックの取捨選択と一歩進んだ使い方にあるのだと思います。

今後日本でもそうしたライフハックの取捨選択や自分の生活全体を見直すライフスタイル・デザインが取り上げられてゆくのではないでしょうか。

それがみんなにとって、無駄を省いてより幸せな人生(ライフ)に生きるための、自分を変えてゆく習慣作り(ハック)につながると良いなと願っています。

こんなことを念頭に、次回からは本連載の2巡目としまして、次第に飽和してきたライフハックの数々をツールや場面ごとにスポットをあてて整理してゆこうと思います。

それでは次回まで。Happy Lifehacking!

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