エンジニアと経営のクロスオーバー

第1回なぜ、エンジニア出身の社長は少ないのか

ゼロスタートという12年目を迎えるIT企業で、創業以来社長を務めている山崎です。いちエンジニアだった私が企業の取締役に就任し、またその後自分で起業し、経営というものに取り組んできた中で感じたこと、考える事などについて、紹介していければと思います。

以前にもgihyo.jpでは、

という連載をしていましたが、その締めくくりとも言える内容にできればと思います。インフラエンジニアの心得は純粋に(インフラ)エンジニアとしての視点、起業幻想はエンジニアとして独立しようとしている視点でしたが、今回はタイトルどおりエンジニア出身で社長をやってみた(やっている)という視点です。

「エンジニア出身の経営者」「エンジニア出身の社長」の違いとは

さて、今回の内容が「エンジニア出身の経営者」ではなくて「エンジニア出身の社長」と書いているのは意味があります。もちろん社長は経営者の1人ではありますが、経営者として特殊?なポジションでもあります。言うまでもなくそれは、⁠企業の継続的な発展について最終的な責任を負う」というものです。

たとえば社長以外のエンジニア系経営者としては、CTOや技術担当取締役などもあります。これらの場合、企業の継続性について最終的な責任を負うというよりは、企業運営の技術的な部分について責任を負う、というほうが適切です。つまりそれは、技術力の向上であったり、エンジニアチームの取りまとめであったり、各種の経営判断における技術的観点からのアドバイスであったりとさまざまですが、⁠企業の継続性」というものの責任を一手に引き受けているわけではありません。

「企業の継続的な発展については○○という方針で臨む」という中で、⁠その方針においては技術的にはこうであるべき」という、いち側面を支えているといえるでしょう。これに対して、社長というものは基本的には企業の継続性における最終責任を負いますから、これは役割としてけっこう違うといえます。

エンジニア出身の社長というのはいないわけではないですが、相対的に見るとあまり多くないのは、企業の継続的な発展に対する責任を負う、という点についてほかの職種にくらべ適正がないケースが多いからではないでしょうか。

私も今の会社を創業して12年目になりますが、正直なことをいって軌道に乗ってきたといえるのはここ2~3年のことです。3年目からずっと黒字経営ではありましたが、それは「なんとかやっている」というレベルで、企業は継続してはいましたが、継続性というとちょっと違う、継続的な発展とは言えないような状態が6~7年ほど続きました。⁠なんとか継続させている」というほうが適切かもしれません。

ちなみに企業をなんとか継続させる、というのは、それほど難しくはありません。人並みの能力があり、人並み以上の努力を続ければ、企業というのは発展はしなくても継続はできるものです。ただ、そういう状態を10年20年と続けるのはなかなか難しいものです。

前置きはさておき、ここまでで言いたかったのは、エンジニア出身の(経営者ではなく)社長で企業を継続的に発展させているケースはあまり多くはなく、またそうした視点での経験というのは参考になる点があるかもしれないということです。⁠エンジニア出身の社長」を対比させるとき、それは「エンジニア出身じゃない社長」「エンジニア出身の社長以外の経営者・マネージャー」「エンジニア」などがあるかと思いますが、なるべくその各ケースを網羅していければと思います。

エンジニアはビジネスモデルを考えるのがあまり得意ではない

まず第1に、なぜエンジニア出身の社長というのは企業の継続的な発展というものがあまり得意ではないのでしょうか。私が思うにそれは、エンジニアというのはビジネスモデルを考えるのがあまり得意ではないから、という理由が大きなものの1つではないかと思います。

そもそも自身がいちエンジニアとして働いているとき、ビジネスモデルを考えることを求められるケースがほとんどありません。そうした経験を積んでいないのですから、いざ社長になっていきなり良いビジネスモデルを考えようとしてもなかなかうまくいかないのは当たり前かもしれません。

エンジニアは「技術を売りたい」と考えがち

またほかの理由として、エンジニアというのは社長かどうかに関係なく「技術を売りたい」と考えがちであるというものもあるかと思います。良い技術であれば売れるというのは、企業をがんばれば継続させることは可能かもしれませんが、企業が継続的に発展することにはなかなかつながらないものです。やはり本質的には、技術というのはビジネスモデルを実現する道具として存在するものだと言えるでしょう。

たまに非常に優れたテクノロジーがそのままビジネスモデルになっているようなケースもありますが、それは技術を売っているというよりも、ビジネスモデルのほとんどをそのテクノロジーが構成していると考えればすっきりします。

たとえばGoogleは、1999年くらいに一気にそれまでメジャーだったアルタビスタあたりをしのぐ検索エンジンになりましたが、それでも当時は収益というものはほとんどありませんでした。ところが2000年にオーバーチュアを真似した検索連動広告を開始したことで、一気にその検索におけるテクノロジーが莫大な収益を上げる柱となりました。

つまり当時の(そして今も)Googleを支えるのは検索のテクノロジーですが、それ自体がビジネスモデルなのではなく、そこに検索連動広告という皮?を1枚かぶせることによって素晴らしいビジネスモデルに変貌したといえます。

「社長という肩書を持つエンジニア」から「エンジニア出身の社長」になる条件とは

ビジネスモデルを考えるのが得意ではない、もしくは十分な知見がない状態は、⁠エンジニア出身の社長」ではなく「社長という肩書を持っているエンジニア」だと言えます。まれに創業当初から素晴らしいビジネスモデルを持っているエンジニア出身の社長というのも存在するかとは思いますが、一般的には創業当初はビジネスモデルの策定や、⁠技術を売る」というスタンスに悪戦苦闘することが多いのではないでしょうか。

そうした中で、企業経営が行き詰まる前に、社長としての役割すなわち「企業を継続的に発展させる」ために必要な取り組みに着手し、また成果を挙げられるかが、⁠社長という肩書を持つエンジニア」から「エンジニア出身の社長」になる必要条件であるといえます。

次回ももう少し、ビジネスモデルについてと、エンジニア社長の得手不得手について考えてみます。

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