Re:PoIC~ライフハッカーのためのPoIC入門

第2回PoIC入門~PoICの始め方

PoICの最初の壁

第2回目はPoICの始め方と続けるための工夫、そして若干の失敗についてお話しします。

PoICを始めるにはカードをひたすら書き、ドックに貯めること以外ありません。何故なら、PoICでは、カード情報が一定量以上になって初めて見えてくるものがあるからです。その初期においては、質よりもまず量をとにかく優先することになります。

PoIC考案者であるHawk氏はコレクト社のMDF製のカードボックスを、カードを蓄積するためのドックとして使用しています。このカードボックスひとつで情報カードがおよそ1000枚は収納できるそうです。やはり、このカードボックスひとつが満たされるほどのカードが蓄積されなければ、PoICの本領は発揮されないのだと思います。

しかし、それだけの量が貯まる間、ただひたすらカードを書き続けるのは非常に苦痛です。

1000枚貯まるまでカードを書き続けることが続くのだろうか、あるいは、1000枚に到達したところで本当に役に立つのだろうか、といった心配が尽きない、あやふやなゴール(実はスタートラインなのです)に向けて、ただひたすらカードを書き貯めていくというのは、ある種、精神修養のような状態で、不屈のモチベーションが必要なのではなかろうとか不安になってしまいます。

こうした精神状態がPoICの最初の壁であり、手を出しにくさを感じさせる原因なのではないのでしょうか。

最初の一枚

PoICマニュアルでは、最初の一枚は日記から書くと良いと記されていますが、これは「その日の最初の一枚」であり、PoICの最初の一枚のことではありません。PoICの最初の一枚目に書くことは、⁠今日からPoICを始める」ですが、問題はその次の実質的な最初の一枚です。

正直に告白すれば、僕はPoICを始めようと思ってから、実際にカードを書き始めるまでに、およそ一か月ほどのブランクがあります。というのも、Hipstar PDA以外の情報カードの使い方になれていなかったので、京大式カードよりも小さい5×3インチサイズとはいえ、一件一枚の原則がとてももったいなく思えたためです。また、本当にPoICが役に立つのかどうか判らず、大量に書き貯めたカードが、無駄になるのではないかという不安が払拭しきれなかったからです。

最初の一か月間は、情報カード100枚の束を鞄に入れたまま、毎日取り出しては何も書かずにしばらくもてあそび、また戻すということを繰り返していました。そのカードの束の四隅が少しへたってきた頃、やっと(実質的な)最初の一枚を書き出すことが出来ました。

最初のカードに書かれたもの、それは今日使った分のお金の記録。つまり家計簿でした。役に立つのか判らないので不安というのなら、最初は役に立つ情報を集めていけばよい、というわけです。

インスタントPoIC

PoICが使い物になるかどうか判らないなら、使えるデータから収集していけば良い、という結論を得た僕は、家計簿から始めることにしました。PoICを始めたばかりで、情報カードの使い方に戸惑っている時には、文章よりも数値データなどを書いていった方が良いと思います。文章よりも書くことに対する心理的障壁がかなり低くなります。

僕は、その日に使った分の金額のうち、レシートを貰えないものを野帳に記録し、それを毎晩カードに転記し、一週間ごとにMac上の家計簿ソフトに入力していくことを始めました。これですでに小タスクフォース[1]を編成したことになります。ただし、これは小タスクフォースなので、転記したカードはドックの元の位置に戻すことが肝心です。

どうせデータを記録するならば、毎日記録した方が良いデータから始めると効率的です。家計簿のほかに、例えば体重の増減、昼食のメニュー、たばこの本数、飲酒の量、ガソリン給油量、かかった病院と処方された薬などです。これらはすべて定点観測された多変量データと言えます。

家計簿、昼食のメニュー、体重の記録の3枚を毎日記録していけば、一か月で100枚近くのカードが貯まることになります。これだけで、それぞれ関連する立派な時系列データになっています。今日はこれだけお金を使って、これこれの昼食を食べ、体重は何キロだった、というカードを並べたストーリーを見れば「今日は高くてこってりした北京料理を食べ過ぎたな」などといった、それ相応の感想が出てきます。それもカードに記します。そうしていくことで、段々とカードに文章を書くということに対する心理的障壁がなくなっていきます。

また、毎日自分の生活をデータとして見直すことにもなり、無駄遣いや食べ過ぎ、運動不足などに思いが向き、それらの改善にもつながります。何となく思っていることでも、やはりデータの蓄積として見せられてしまうと、何とかしなくてはという思いが起こるものです。こうした振り返りの結果、いままで仕事場の最寄駅まで乗り換えて利用していた地下鉄を、乗り換えずに一駅分歩くことで、毎月の交通費が三千円ほど節約でき、なおかつ体重が(多少)減少するという効果がありました。

やがて、仕事上の文書の書式、支払い明細などと、カードに書き記すデータの範囲が広がっていきました。毎日の日記を記すのは、データに書き慣れてからでも構いません。無論、これは僕に日記を書き記す習慣がなかったと言うだけで、そうした習慣がすでにある方は、やはり日記から始めるほうがいいと思います。

実例として、今まで書いたカードの中で最近役に立ったものを紹介します。

その1 文房具のサイズカード

鞄やその中に入れるポーチなどの購入を検討する際に、いちいち計るのが面倒くさいので、文房具を買った際にはそのサイズをカードに書いています。カードには、買った日付けと店名、値段、そしてサイズを特に大きく記してあります。筆記具の場合にはとうぜん軸の径も計ります。成果としては、携帯書斎セットPoIC用ポーチなどを購入する際に役に立ちました。副産物として、今現在自分がどんな文房具をもっているのかが判ります。多分、こちらが本来的な利用法だと思いますが。

その2 餃子カード

レシピカードの中でも、餃子を作るたびに記しているカードです。

自分好みの餃子を作りたいので、餃子を作る際には毎回分量や手順等を記しています。カードは食後の感想を記入することで完成します。

餃子を作ろうと思った時に、直前回のカードを取り出し、改良点を考えます。前回のカードと比較することで、段々と自分の好みの餃子が判ってきます。例えば、使う野菜は白菜よりキャベツの方が好みだとか、ひき肉とキャベツの分量比は1:1.2だとか、餃子ひとつ分の具の量は12~13グラムが包みやすく食べやすい、等ということが判ります。多分いつか(自分にとっての⁠⁠、究極の餃子に行き着くのではないかと期待しています。

野帳での失敗

PoICを始めるようになり、Hipstar PDAを止めて、PoICマニュアルでHawk氏が推奨するコクヨの測量野帳のスケッチブックを使い始めました。内紙寸法160×91mmというサイズは大きめながら、7mmという厚みは薄く、ゆえに軽く、青い3mm方眼罫の入った上質紙の紙面は、思いのほか厚く丈夫で、紙質も油性ボールペンのノリが良いものでした。

野帳の裏表紙の見返しには、エクセルで作成した160×180mmサイズの万年カレンダーを、各月毎にプリントアウトしたものをダブルクリップで留め、そのダブルクリップにプラチナ万年筆の三色油性ボールペン、Double Action 3 Mini(BWBM-1000)の、#98ガンメタルのクリップを挿して携帯しています。

当初、意気込んで一日の出来事を仔細漏らさずに記録していこうと、作業時間や休憩時間、その間に何をしていたか、あるいはトイレの時間や電車に乗っていた時間、昼食の時間、何を食べたか等々記入していましたが、一日実践したところでこれが間違いであると悟りました。野帳に一時記録するのは「すべての行動」ではなく、⁠すべての発想」「ちょっと特別な行動」だけで良かったのです。無論、家計簿用に使ったお金の金額と用途も記録しています。

専用PoIC

もうひとつのPoICの始め方は、専用PoICです。

通常のPoICを汎用PoIC、目的をひとつに絞ったものを専用PoICと仮に呼ぶことにします。これはPoICマニュアルの再生産に関するページにあるトップダウン(演繹的:えんえきてき)方式のことです。最初に目標を設定し、そのための情報を収集していく方法で、これは通常の情報カードの使い方にPoICの書式をプラスしたものです。

例えば、論文執筆、レポート、企画書など差し迫った用件があるならば、まずは専用PoICから始めるといいのではないでしょうか。

まず、GTDカードでスケジュールを見積もります。着手日と締切日のカードをそれぞれ作り、その間に資料収集、構想を練る、下書き、執筆開始日などのスケジュールをカレンダーと相談しながら切っていきます。それぞれの着手日はスケジュールを組んだ後に記入します。

タイムスケジュールが見積もれたら、次は参照カードで資料を編んでいきます。参考資料リストや資料からの引用、抜粋など、逐次カードに記していきます。

資料がまとまったら、カードを捲りながら読み、発見カードに自分の意見をまとめていきます。そして、毎日の進捗状況を記録カードに記していきます。これは作業に遅延などが生じた場合のリカバリーのためです。

PoICの4種類のカードを駆使することで、執筆を効率良く進めることが出来ますし、なにより強制的にPoICを開始することが出来ます。

タグの失敗

PoICでは、5mm方眼罫入りの情報カードの升目を利用して、上辺左端にタグと呼ばれる升目の塗りつぶしを行います。左端最初の升目は裁断の際の犠牲となる為に、左から2番目の升目から順に、記録、発見、GTD、参照、の4つに割り当てられています。

まだ、このタグの意味を理解していなかった頃、タグの数を増やすことでPoICがもっと便利になるのではないかと勘違いしたことがありました。情報カードの右辺の升目を利用して記録、発見、GTD、参照、の4つをさらに再分化しようと試みたのです。

タグ拡張の失敗案
タグ拡張の失敗案

しかし、これは明らかな失敗でした。タグを細分化して増やした結果、カードを書くたびにこのカードは何に分類すべきかと考えてしまい、手と思考が停止してしまうのです。これではカードを書くたびにストレスを感じるようになり、このままではカードを書くこと自体面倒くさくなってしまいかねません。タグを増やすというアイデアは一週間ほどで廃止しました。そして、そこから「そもそもPoICのタグはカードを分類するためのものではない」という洞察を得たのでした。この点は次回説明します。

パイルドライブ~積み重ねたカードの使い方

では、PoIC活用事例として、この連載原稿がどのように書かれているかを説明したいと思います。

僕はPoICのドックにパイル(Pile:積み重ね)したカードを、ドライブ(駆使)する方法という意味で、蓄積したカードを用いる作業全体をパイルドライブと呼んでいます。

まず、以前にBlogを書くために用いて退役となった43Tabsのタスクフォースと、その時に使用せずにドックの中に残したカードをピックアップします。この時、PoICのカードすべてを使い尽くしてやろうと思わないことです。すべてを何らかのタスクフォースに組み込み、ドックの中を空にしなければならないということはありません。

そして、ピックアップしたカードをめくりながら関連のありそうなものをまとめ、それをデスクトップに並べながら、アフィニティダイヤグラムを作成していきます。アフィニティダイヤグラムとは、多くのカードを関連するもの同士グルーピングし、並べ替えながら考えをまとめていく手法です。

次いでそれぞれの束を、⁠1)背景、⁠2)問題意識、⁠3)アイデアの要点、にまとめます。すると、⁠1)の背景は(1-a)PoICを始めるまでと、⁠1-b)PoICを始めてからに、⁠2)の問題意識は(2-a)GTDとPoICの比較と、⁠2-b)PoICの問題点に、⁠3)のアイデアの要点は(3-a)43Tabsと、⁠3-b)カード以外でのPoIC、に分類できました。無論、どこにも属さないカードも存在します。それらはとりあえずひとまとめにして別にしておきます。

この分類したカードを見ながらジュニアリーガルパッド(後述参照)に、各回ごとに書いていくべきことを、箇条書きでまとめていきます。さらにジュニアリーガルパッドを見ながら、足りない部分をカードに書いて補完していきます。この時、新しいアイデアが出たら、それもカードに記入して加えていきます。

6つに分けたカードの束をMoleskine Memo Pockets(ポケットの数が6つでちょうど良かったので)に入れ、家や職場、カフェ等で見直しながら、暫時カードを書き足していきます。構想に変更が加われば、そのつどジュニアリーガルパッドの内容も書き換えていきます。この辺りは、常にカードとジュニアリーガルパッド間のフィードバック状態です。

アフィニティダイアグラムの手順
アフィニティダイアグラムの手順

そして、いよいよ各回のカードの束とジュニア・リーガルパッドを基に、Macintosh上のアウトライナーに、センテンスごとに箇条書きしていきます。ここからの作業はデジタルがメインになります。

まず、各センテンスとセンテンスの間をさらに充実させていきます。センテンスの量が伝えたいことを充分に満足させる量になれば、これを肉付けし、文章化していきます。完成したアウトライナー上の文章は、書き出し機能でテキストファイルに書き出し、不要なタブや記号などを削除し整形します。

書き出したテキストファイルをGoogleドキュメントにアップロードして家や職場で校正します。大体、全体の3分の1くらいは切り捨てます。USBメモリなどで持ち歩くという手段もありますが、面倒くさいので僕はGooleドキュメントを使用しています。

完成した原稿は、再びテキストに書き出してメールで入稿する、という手順で執筆しています。

ジュニア・リーガルパッドを使う理由

PoICでの再生産に際して、僕はオフィス・デポのジュニアリーガルパッドを使っています。正式名称は、オフィス・デポ レターパッド 12冊パック ジュニア イエローと言います。

その理由は、まず価格が安いということがあげられます。1冊50枚(両面使用可)×12冊セットで599円ですので、ページ1枚あたりの単価は0.998円ほどになります。そして何より、そのサイズが、5×3インチサイズの情報カードと一緒に使うのに相性が良いのです。ジュニアリーガルパッドのサイズは縦203(切離し後182)mm×横127mmで、文字を書くスペースは156mm×127mmになります。5×3カードの大きさが125mm×75mmですので、これはほぼ5×3カード2枚を並べたときの大きさになります。

片岡義男はその著作文房具を買いにの中で、インデックス・カード(情報カード)とジュニアリーガルパッド、及びリーガルパッドに関して考察しています。片岡は、1枚につき断片をひとつだけ書き込まれたインデックスカード(情報カード)は、やがて構築され組み上げられるであろう全体という可能性を、もっとも小さな断片という位置から予感させている、と書いています。

そして、ジュニアリーガルパッドは、インデックスカードに書き留めたいくつかの断片を組み立ててひとつのパラグラフを書くものであると言い、そのワン・パラグラフを推敲していく為のスペースがリーガルパッドであると結論しています。リーガルパッドは、ジュニアリーガルパッドを単純に二倍したサイズで、合理的かつ論理的です。僕はそのリーガルパッドの役割をMacintosh上のアウトライナーに任せているというわけです。

まとめ

今回は、僕なりに試行錯誤しながらPoICを始めた経緯と、実際の活用方法と失敗例などについて説明しました。しかし、これはあくまでも僕個人の環境での話で、それぞれの人にそれぞれのやり方があると思います。PoICを始めるのに「さて」と気負う必要はありません。PoICのシンプルなルールは、書いて貯めるというシンブルな手順を保証します。

PoICを知的生産とはあまり関係のない餃子づくりなどに活用していたりと、かなり恥ずかしいことも書きましたが、それによってPoICを始めることをためらっている方が、少しでも「やってみようかな」と思ってもらえれば、僕としては望外の幸せです。

第1回の連載の概要において、第3回にはGTDとPoICについて記すと書きましたが、先に第4回として予定していたPoICの特性について説明したいと思います。アウトラインを作成するうちにこちらの順序の方が論旨がよく伝わるのではないかと思えたためです。ご了承下さい。

よって次回は「ハンドリング・バイ・PoIC~PoICの考え方」と題して、PoICの特性を理解し、PoICとは何であり、かつ何でないのかについて考えていきたいと思います。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧