UDS-L
11月16~20日(現地時間)にかけて、UDS-L(Ubuntu Developer Summit - Lucid)が開催されています。UDS-LはUbuntu 10.04 “Lucid Lynx”フェーズの「開発者会議」にあたります。この「開発者会議」(Ubuntuでは「UDS」と呼び習わされます)は、Ubuntuの開発において、「次のバージョンで搭載すべき機能」「今後の開発の方向性」を議論するための重要な会議です。
多くのコア開発者が一カ所に集まり、さらにオンライン経由で多くの開発者が意見を述べる形で事前に寄せられた提案について議論を行い、方向性を決定していきます。この会議でGoサインを得ることで新バージョンの「新機能」や「改善された機能」が確定し、リリースに向けた実装が開始されます。議論が紛糾した場合はさらにオンライン上でディスカッションが続くことがありますが(ubuntu-devel-discuss)、UDSで行われたプレゼンテーションがUbuntuの新機能を左右すると言っても過言ではありません。このニュースが掲載された時点ではあと1日弱(日本時間との時差があるので、早い時間に確認された場合は「丸一日」)が残されています。
前述の通り、UDSにはリモートから参加したり、あるいはリアルタイムで議論の様子を確認するためのさまざまなインターフェースが準備されています。公開される参加者リストをよく見てみると中には「おや?」と思われる人も含まれていることが多く、Canonicalの今後の展開方針がほの見えることもしばしばです。開催後にはビデオやBlueprint・開催資料などで状況を確認することが可能です。また、多くのプレゼンテーションや、会議の様子は参加者のblogなどでも公開されるため、実際に参加しなくてもその様子を把握することができます。10.04の新機能や方向性に興味がある場合、これらを用いて追いかけてみてください。
10.04の開発
先週に引き続き、UDS-Lに向けて登録された、あるいはUDS-Lで議論されたBlueprintのアイテムのうち、筆者の主観に基づいて「気になるもの」「凄そうなもの」をお届けします。
各項目にはUDSの議論の結果はまだ反映されていないため、下記の文章のほとんどに「かもしれません」や「たぶん。きっと」といった語尾を補って頂く必要があることに注意してください。なお、「UDSで議論されていない新機能」がCanonicalから隠し球として追加されることもあるため、Blueprintに掲載されたものが新機能のすべてではありません。
Ubuntu 10.04では、「Ubuntu Netbook Remix」(UNR)は終了となり、リリースされません。……というのは全貌の一部でしかなく、「UNR」の後継として、「Ubuntu Netbook Edition」(UNE)が準備されます(ただし、「UDSで承認されれば」という条件が付きます。承認されなかった場合、UNRはそのまま継続となります)。
UNRとUNEの違いは、単純ですが大きなものです。Ubuntuでは、非公式あるいは「補助的」な派生物には『Remix』を、CanonicalやUbuntuコアチームが認定した、正式な派生物には『Edition』という単語を用いる、という区分けが存在します。これまで「Ubuntu Desktopの派生物」という扱いであった「Netbook向け」Ubuntuが、「Ubuntu Desktop」や「Ubuntu Server」と同じレベルのものとしてが扱われるようになる、ということです。
このことは、Canonicalがビジネスの一部として、「Netbook向け」Ubuntuをより強く推進する、ということも同時に意味します。ユーザーが受け取れるメリットとしては、「Canonicalの人員がより多く割り振られるようになることで、安定した環境や幅広いハードウェアサポートが行われるようになる」「新機能の搭載が積極的に行われる」「OEMでUbuntuを見かける機会が増える」といったことが考えられます[2]。
9.10で追加されたオンラインストレージサービス “Ubuntu One”を利用した、新しいサービスです。その名前の通り、「オンラインミュージックストア」をUbuntu Oneストレージを使って配信する、というものです。自動同期機能を持ったオンラインストレージと、オンラインミュージックストアを組み合わせることで、「自動的に音楽ライブラリが同期され、どのデスクトップでも自分の所有する音楽にアクセスできる」という環境になる、ということが既存のオンラインミュージックストアに対する優位点になると考えられます。
配信された音楽ファイルはRhythmboxやBansheeを用いて再生し、ファイル購入のためのインターフェース(Webブラウザプラグイン)をこれらの音楽プレイヤーに追加する、という作業がセットになっています。ファイルそのものはUbuntu Oneを用いて「~/Music」に落とすことが想定されています。Ubuntuで手軽に音楽を購入・再生できるようになるかもしれません。
9.04でPidginがEmpathyに置き換えられたことは記憶に新しいところですが、同じようにデフォルトアプリケーションの構成変更が検討されています。具体的な方向性としては、Cheese(GNOMEのWebカメラ利用ツール)の追加、デフォルトで導入されるゲーム類の見直し、ビデオ編集ソフト(PiTiVi)の追加などです。UDSで議論され、主な方向性が確定するはずです。
なお、このSPECのSummaryには「Removing Synaptic」という記述もあります。議論の行方次第では「将来的に」(10.04とは限らず、将来のUbuntuのリリースにおいて)Synapticがデフォルトから削除され、パッケージのインストールはソフトウェア・センターに一本化される可能性が高そうです[3]。
Ubuntu Weekly Newsletter #168
Ubuntu Weekly Newsletter #168がリリースされています。
その他のニュース
今週のセキュリティアップデート
- usn-853-2:Firefox・Xulrunnerの再アップデート
- https://lists.ubuntu.com/archives/ubuntu-security-announce/2009-November/000998.html
- Ubuntu 9.10用の再アップデートパッケージがリリースされています。usn-853-1の再修正です。3.5.5+nobinonly-0ubuntu0.9.10.1(以降)にアップデートしてください。
- usn-853-1で提供されたFirefox 3.5.x用のアップデータに問題があり、壊れたGIF画像・フォント・HTMLを表示しようとした際に、クラッシュが発生することがありました。
- 対処方法:アップデータを適用した上で、Firefox(またはXulrunnerを利用するアプリケーション)を再起動してください。
- 備考:9.10よりも古いUbuntuを利用していて、かつPPA等からFirefox3.5を導入している場合、同様のバグの影響を受けます。PPA等からこのUSNに相当するアップデート版を入手してください。
- usn-858-1:OpenLDAPのセキュリティアップデート
- https://lists.ubuntu.com/archives/ubuntu-security-announce/2009-November/000999.html
- Ubuntu 6.06 LTS用のアップデータがリリースされています。CVE-2009-3767を修正します。
- CVE-2009-3767はOpenLDAPがSSL証明書を検証する際に、CN(≒Subject DN)にNULL文字が含まれていた場合、検証すべき文字列をNULL文字までで区切ってしまう問題です。問題の性質はCVE-2009-2666と同様です。2009年8月21日号を参照してください。
- 対処方法:通常の場合、アップデータを適用することで問題を解決できます。
- usn-859-1:OpenJDKのセキュリティアップデート
- https://lists.ubuntu.com/archives/ubuntu-security-announce/2009-November/001000.html
- OpenJDKを含むすべてのUbuntu(8.10・9.04・9.10)用のアップデータがリリースされています。JRE/JDK u17に相当するセキュリティアップデートです。Sun JRE/JDKのリリースノートを参照してください。
- 対処方法:アップデータを適用した上で、すべてのJAVAアプリケーションを再起動してください。Tomcatなどでサーバとして運用している場合、サーバの再起動により一時的なサービス断が必要になります。