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第189回実在するシンセサイザーのエミュレーター

本連載の第184回では、アナログシンセサイザー・ソフトウェアであるamSynthを扱い、黎明期のアナログシンセサイザーの基本的な使い方を説明しました。

当然ながらamSynthに相当するシンセサイザーは現存していませんが、Ubuntuでは、現在するシンセサイザーをエミュレートしたソフトウェアのパッケージが、いくつか提供されています。そこで今回は、実在するシンセサイザーのエミュレーターをいくつか紹介します。

BristolとmonoBristol

1970年代、Korg社、Roland社や、かつてのMoog社、ARP instruments社、Sequential Circuits社など、さまざまなメーカーがシンセサイザーを発売しました。その中には高い評価を受けたものも数多く、ハードウェアとしてメンテナンスが難しいものがあるにも関わらず、現在でも愛用している方がいると聞いています。

Bristolはこういった数々の「クラシックな」シンセサイザーを、ひとつのソフトウェアにまとめてしまおうという野心的なプロジェクトです。その数たるや、40ものシンセサイザーをエミュレートしています。

図1 アナログシンセサイザーの金字塔、Minimoogエミュレーションを起動した画面
図1 アナログシンセサイザーの金字塔、Minimoogエミュレーションを起動した画面

BristolはもともとLinux向けに開発されましたが、2010年よりAndroidへの移植も始まりました。Android版は現在、Minimoogのエミュレーションのみ可能なAPK(Android application package)が提供されています。

さて、本連載の第184回でも言及しましたが、こういったシンセサイザーの大部分は、基本的にはモジュールを組み合わせた構造を持ちます。これを踏まえBristolは、同じ役割のモジュールを共通化するというアプローチで開発されています。加えて、十分な再現性を実現するため、各モジュールにオプションを与えて複数のモードを持たせるなどしています。

アナログシンセサイザーはその部品の特性から、通電時間や温度、湿度などの影響で出る音が変化するといいます。そのため、Bristolに限らず、シンセサイザーのエミュレーターは必ずしも、実物とそっくり同じ音を出せるわけではありません。しかし、同じ使い勝手を持つ「新しい楽器」という考え方をすることで、音楽の幅が広がるのではないかと、筆者は考えています。

インストール

それでは、Bristolを使ってみましょう。Bristolは端末においてコマンド「startBristol」にオプションを与えて実行することで起動しますが、これを画面操作で行うことができるようにするmonoBristolが開発されていますので、こちらで起動するのが便利です。

図2 monoBristolの操作画面。ボタンひとつでBristolの40弱のシンセサイザーを起動可能
図2 monoBristolの操作画面。ボタンひとつでBristolの40弱のシンセサイザーを起動可能

monoBristolを使うには、UbuntuソフトウェアセンターやSynapticパッケージマネジャーを使いパッケージ「monobristol」をインストールしてください。依存関係により、bristol本体やmonoのランタイム一式[1]もインストールされます。

起動と設定

monoBristolを起動するには、Unityのダッシュボードでmonobristolを実行するか、端末などでコマンド「monobristol」を実行します。

BristolはMIDI音源として振る舞います。monoBristolの操作画面のタブ「configure」でMIDI入出力と音声入出力に関する設定を見てみましょう。

図3 Easy Modeで音声とMIDIの入出力を設定
図3 Easy Modeで音声とMIDIの入出力を設定

「Easy Mode」「Advanced Mode」がありますが、Ubuntuの標準状態では「Easy Mode」「ALSA」を選択しておけば間違いないでしょう。JACKサウンドサーバーを併用するユーザーであれば「jack」を選択してください。

図4 Aconnectguiとサウンドの設定(gnome-volume-control)で接続状態を確認
図4 Aconnectguiとサウンドの設定(gnome-volume-control)で接続状態を確認

「Advanced Mode」は、MIDI入出力にALSAシーケンサー機能を指定して、音声の入出力はJACKサウンドサーバーを経由させたい上級ユーザー向けとなります。設定を変更した場合は、ボタン「適用」をクリックするのを忘れないでください。

図5 Advanced Modeではより細かな指定が可能
図5 Advanced Modeではより細かな指定が可能

MIDIと音声の入出力とその接続を確認したら、準備完了です。タブ「Synths」に移り、お気に入りのシンセサイザーを起動してみましょう。

図6 シンセサイザーの一例。左上からARP Odyssey、Sequential Circuits Prophet-5、Roland Juno-6、Korg MonoPoly
図6 シンセサイザーの一例。左上からARP Odyssey、Sequential Circuits Prophet-5、Roland Juno-6、Korg MonoPoly

シンセサイザーの操作画面が小さいようであれば、ウィンドウの縁をクリックアンドドラックして拡大することができます。

なお、NattyのパッケージにはBug#820276: [patch] four synthesizers cannot be called.で筆者が報告したバグがあるため、4種類のシンセサイザーは起動することができません。筆者のPPAでNatty向けの修正版パッケージを提供しているので、リスクを考慮した上でこちらをご利用ください。PPAの利用の仕方に関しては、本連載の第46回が参考になるでしょう。

YAMAHA DX-7とFM音源

ここまで紹介したアナログシンセサイザーは、おおよそ「減算型シンセサイザー」と呼ばれるタイプでした。この類のシンセサイザーは、VCOで生成した波形をフィルターで削っていくことで音を作って行きます。このタイプのシンセサイザーは時代が経つとデジタル回路を使うようになっていきますが、音を作る仕組みは大差ありません。

1980年代になるとFM音源を用いたシンセサイザーが市場に投入されました。FM音源は周波数変調を基礎理論とし、これまで紹介したアナログシンセサイザーとは異なる音声合成を行います。FM音源を用いたシンセサイザーで有名なのは、日本のYAMAHA社が1983年に発売したDX-7でしょう。

Bristol/monoBristolは、このYAMAHA DX-7のエミュレーションも提供しています。

図7 Yamaha DX-7のエミュレーション
図7 Yamaha DX-7のエミュレーション

Hexter

また、本連載の第176回で簡単に扱ったDSSI(Disposable Soft Synth Interface)プラグインにも、このYAMAHA DX-7のエミュレーターがあります。Hexterです。

図8 Hexterの操作画面。一般的なDSSIプラグインと同様の画面となっている
図8 Hexterの操作画面。一般的なDSSIプラグインと同様の画面となっている

Hexterはパッケージ名「hexter」で提供されていますが、このパッケージをインストールしただけでは起動できません。なぜかというと、hexterはDSSIプラグインとして作られているため、使用の際はプラグインのホストプログラムが必要であるからです。

現状、DSSIプラグインのホストプログラムはパッケージ「dssi-host-jack」のみが提供されています。名前から推測できるとおり、このホストプログラムはJACKサウンドサーバーに対して音声出力を行います。そのため、PulseAudioサウンドサーバーを利用するUbuntuの標準状態では音声出力ができません。あらかじめパッケージ「dssi-host-jack⁠⁠、⁠jackd⁠⁠、⁠qjackctl」などのJACK関連パッケージをインストールし、JACKサウンドサーバーを起動しておいてください。JACKサウンドサーバーの起動や設定に関しては、本連載の第161回が助けとなるでしょう。

また、DSSIプラグインのホストプログラムを内蔵しているDAWであれば、それぞれの作法にしたがってhexterを利用できます。Rosegardenであれば、本連載の第176回でFluidSynth DSSI pluginを使ったのと同じようにして、hexterを使うことができます。

図9 RosegardenのDSSIプラグイン一覧にHexterを見ることができるようになる
図9 RosegardenのDSSIプラグイン一覧にHexterを見ることができるようになる

前回・今回と減算型/FM音源シンセサイザーのソフトウェアを紹介してきました。Ubuntuではここで紹介した以外にも、YoshimiZynAddSubFXPhasexmx44といった減算型/FM音源シンセサイザーのパッケージが利用可能です。

さて、もっと時代が経ってデジタル処理の技術、特にメモリーの技術が進歩すると、今度はサンプラーの流れを組むPCM音源シンセサイザーが台頭してきます。次回の筆者の担当回では、このPCM音源を実装したソフトウェア・シンセサイザーを扱おうと思います。

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