Ubuntu Weekly Recipe

第632回 AMD Ryzen 7 PRO 4750Gを使用する[後編]

この記事を読むのに必要な時間:およそ 2.5 分

前回に続き,AMD Ryzen 7 PRO 4750G搭載PCでUbuntuを動作させ,ベンチマークを行った結果を報告します。比較対象のハードウェアについては,第631回の前編をご覧ください。

前編の補足

前編である第631回の補足事項が2つあります。

まずはチップセットというかマザーボードの選択で、⁠一部の例外を除くと現状はチップセットにX570とB550を採用しているモデルであることが必須で」と述べましたが,先週末からA520チップセットを搭載したマザーボードの販売が開始されました。Mini-ITXでもNMVe SSDスロットが2つ必要などということでもなければ,安価なためこちらのほうがいいかもしれません。採用しているチップ的に有線LANにも無線LANにも悩む必要がなさそうです。

前編ではグラフィックが正しく認識されないということでMainline Kernelの5.8を使用しましたが、試しにRadeon Software for Linux 20.30から取得したドライバーをインストールしてみると,対応機種一覧にはなさそうに見えるのですが,正常に認識するようになりました。何らかの事情でカーネル5.4を使う必要がある場合には試してみてください。なお、この環境でのベンチマークのやり直しは行いませんが,第528回での結果を鑑みると大差はないものと思われます。

CPUベンチマーク

その1:LibreOfficeビルド編

では実際にベンチマーク結果を見ていきましょう。まずは(たぶん)世界でここだけでしか見られないLibreOfficeのビルドベンチマークです。Ubuntu 20.04 LTSでLibreOffice 6.4.4のビルドを行った時間をtimeコマンドで計測しました。

Ubuntu 20.04 LTSのLibreOffice(少なくとも6.4.4)はどうも依存関係に問題があるらしく,fonts-opensymbolパッケージをアンインストールしないとLibreOfficeのビルドができません。もちろんこのパッケージを削除するとLibreOfficeが動作しなくなりますので,気をつけください。

今回はわかりやすくLibreOffice Calcで作成したグラフにしてみました。図1です。

図1 パッケージ版LibreOffice 6.4.4のビルド時間。数字は分と秒を⁠.⁠で区切っている

画像

Ryzen 5 3400Gはコア数・スレッド数が半分なのでダントツで遅いのは当然の結果です。Ryzen 7 PRO 4750Gがあまり振るわないことに気づきます。Ryzen 5 3400Gの半分の時間なんて夢のまた夢で,Ryzen 7 3700Xと比較しても約1.3倍もの時間がかかっています。Ryzen 7 3700Xは圧倒的で,Ryzen 5 3400Gの半分以下とは恐れ入ります。

Ryzen 7 PRO 4750Gは遅すぎではないかと思ってCPUファンを交換してみましたが,結果は誤差程度にしか変わりませんでした。すなわちサーマルスロットリングは発生していないことがわかります。次に考えられるのは,LibreOfficeのビルド時間はCPU性能を正しく反映していないということですが,この推測は過去の経験からも棄却されます。とはいえ別のベンチマークを走らせれば白黒つくことです。

その2:Phoronix Test Suite編

次に実行したのはPhoronix Test Suiteで,バージョンは9.8.0です。可能な限りたくさんのベンチマークを実行しましたが,そのうちのいくつかを紹介します。

Phoronix Test Suiteにはカーネルのビルド時間を計測するベンチマークがあります。まずはこれを見ていきましょう。

図2のとおり,LibreOfficeのビルドとおおむね同じ傾向であることがわかります。ということはLibreOfficeでの結果はRyzen 7 PRO 4750Gの実力と見ていいでしょう。しかもRyzen 5 3400Gの半分以下の時間という希望もかなっています。

図2 偶然ではあるもののUbuntu 20.04 LTSと同じカーネル5.4のビルド時間のベンチマーク

画像

もうひとつマルチスレッドの結果であるXZの圧縮は図3です。

図3 マルチスレッドに対応したXZ 5.2.4の圧縮のベンチマーク

画像

これもほぼ同じ傾向で,よりLibreOfficeでの結果に近い感じになっています。

ではシングルスレッドの性能はどうでしょう。Coremarkの結果がわかりやすいので,図4を見てみましょう。

図4 Coremarkのベンチマーク

画像

純粋なシングルスレッド性能は,Ryzen 7 PRO 4750GもRyzen 7 3700Xもほぼ同等であることがわかります。

あとマルチスレッドでの性能差を説明できそうなこととしては,L3キャッシュのサイズと内部構造の違いです。

残念ながらベンチマークからL3キャッシュの差が明確にわかるものはありませんが,内部構造の違いはわかるものがありました。図5はCPUコア間のレイテンシを計測しています。

図5 CPUのコア間のレイテンシを計測するベンチマーク

画像

Ryzen 7 PRO 4750G,Ryzen 7 3700Xともに,Ryzen 5 3400Gのほぼ倍の時間がかかっています。Ryzen 7 PRO 4750GとRyzen 7 3700Xはわずかな差ではありますが,もともと単位がns(ナノセカンド)であり,少しの差が積もり積もって大きな差になっている可能性は否定できません。

一般的な用途(?)のベンチマークをいくつか見ていくと,x264のエンコード結果が図6のとおりです。シングルスレッドの結果のように見えますが,マルチスレッドでの結果です。

図6 x264でH.264形式にエンコードするベンチマーク

画像

7-Zipでの圧縮が図7のとおりです。

図7 7-Zipで圧縮するベンチマーク

画像

パスワードクラックツールであるJohn The Ripperの結果が図8のとおりです。

図8 John The Ripperのベンチマーク

画像

7-ZipとJohn The Ripperの傾向はよく似ています。LibreOfficeとのビルド時間の傾向とも似ているため,リアルな実力差なのかもしれません。

著者プロフィール

あわしろいくや

Ubuntu Japanese Teamのメンバー。VirtualBoxなどの翻訳を手がける。技術同人サークルteam zpn主宰。ほか原稿執筆を少々。