アクセシビリティを組織で向上させる──社内外の認知・効果測定から、新規開発への組み込みまで

第2回アクセシビリティを広報⁠プレスリリースによって社外へつなげる

本連載は『Webアプリケーションアクセシビリティ─⁠─今日から始める現場からの改善』を補うものです。紙幅の都合で同書に収められなかった原稿を再構成しました。
同書の第7章「アクセシビリティの組織導入」の続編にあたります。同書第7章は、会社内でたった一人でアクセシビリティの取り組みを始めてから、正式なチームを立ち上げるまでのノウハウを紹介しました。本連載はそこからさらに取り組みを広げていくためのノウハウをまとめます。

2024年4月22日追記:同書の第7章「アクセシビリティの組織導入」アクセシビリティを組織で向上させる ─⁠─たった一人から始めて、社内に認知されるまでとして公開しました。

ある程度がまとまった形で改善が進んだら、社外に公式に発信しましょう。取り組みを知る人は増え、会社のとらえられ方が変化するきっかけになります。意外かもしれませんが、社外に発信された記事を通して、社内の人にも認知されます。社外との対話を通して、会社のブランドイメージが内側から作られていくきっかけになります。

これが広報の強みです。

会社の広報に連携を持ちかける

取り組みをアウトプットできそうであれば、広報担当に声をかけましょう。

広報はアピールできる切り口を探している

広報担当は会社をアピールできる切り口を常に探しています。そして、情報を掲載するメディア側も、アクセシビリティの切り口は「社会面」として一定の枠を持っていて、紹介できる情報を日々探しています。

アクセシビリティに取り組むことは、広報を通じた「社会との架け橋」のテーマをひとつ増やします。きっと歓迎されるでしょう(ただし、新製品発表や決算期などの繁忙期に声をかけるのは避けましょう⁠⁠。

広報担当に取り組みの背景を説明する

広報担当に声がけしたら時間を取って、取り組みの背景を説明します。

広報担当は今後強力なパートナーになります。ですが、現時点ではアクセシビリティに理解があるとは限りません。⁠なぜこの改善をわざわざ記事化すべきなのか?」という疑問を持つ可能性もありますし、そうでなくとも障害者・高齢者対応という理解にとどまる可能性もあります。

アンテナが高い担当者であればダイバーシティやインクルージョンが取り沙汰される状況は知っているでしょう。しかし、それはあくまで従業員に対してのものと理解していて、自社のプロダクトと紐付くと思っていないかもしれません。

連載第1回で検討した内容をもとに、アクセシビリティとは何なのか、Webアプリケーションにおけるアクセシビリティの意義はどこにあるのか、自社が取り組む理由はどこにあるのか、丁寧に伝えましょう。

これらは今後記事にしてもらうにあたって必要なインプットです。お知らせやプレスリリースの冒頭や末尾にこうした内容が入っているかどうかが、会社の姿勢の伝え方に直結します。今後、取り組みを強化するためには、技術的なバグ修正ではなく、意思を持って取り組んでいることを記載すべきです。

こういった背景を理解してもらえれば、広報はチャンスを逃さずに動けます。メディア露出の際にアクセシビリティの話を併記してもらったり、こちらからアクセシビリティをテーマにした取材記事を打診したりといった動きにつながります。

アクセシビリティ向上をプレスリリースする

広報担当に背景を理解してもらえたら、具体的なプレスリリースの内容を考えます。

プレスリリースにはまとまった単位が必要

プレスリリースの目的は、取材の申し込みを受けたり、メディアが記事化してくれたりといった反響を起こすことです。リリースの中身は人目をひく必要があります。たとえば「従業員が利用する勤怠打刻アプリが視覚障害者でもスクリーンリーダーで利用可能になった」といった、まとまった単位が必要です図1図2⁠。

図1 freeeが「人事労務freee」のモバイルアプリをリリース。モバイルアプリの活用と勤怠機能の強化で、日々の勤怠入力を効率化 (https://corp.freee.co.jp/news/mobilehrfreee-8372.html
図1 スクリーンショット:freeeのプレスリリース記事。「freeeが「人事労務freee」のモバイルアプリをリリース。モバイルアプリの活用と勤怠機能の強化で、日々の勤怠入力を効率化」
図2 人事労務freee、年末調整をスクリーンリーダーで利用可能 画面内の項目を音声で読み上げて操作が可能に (https://corp.freee.co.jp/news/freee-nentchou-9650.html
図2 スクリーンショット:freeeのお知らせ記事。「人事労務freee、年末調整をスクリーンリーダーで利用可能 画面内の項目を音声で読み上げて操作が可能に」

むしろ、改善の目標を立てるには、このような形で「プレスリリースが出せる単位」から考えるというのが良い手です。⁠提供形態」×「機能単位」×「特定のアクセシビリティ観点」の交点を見いだすことで、この単位を見いだすことができます。

  • 「提供形態」とは、どのプロダクトの、どのプラットフォームでの提供版を対象にするか
  • 「機能単位」とは、アプリケーションのどの部分をアクセシブルにするか
  • 「特定のアクセシビリティ観点」とは、多数あるアクセシビリティの改善ポイントのうちのどこに対応するか

このように、⁠ある製品の特定機能が特定の使い方において改善された」という形を目指すのです(同書の7.5節「小規模な改善にトライする」では具体的なノウハウを紹介しています⁠⁠。このように改善を進めれば、広報するタイミングで取り組みをそのまま伝えればよく、スムーズに記事化できます。

プレスリリースの骨子は自分で書く

プレスリリースの文章は、まず自分で骨子を書きます。最終的な調整は広報に任せるべきですが、最初は最も理解が深いあなたが書くべきです。これまで社内に向けて取り組みを進めてきたあなたであれば書けます。

プレスリリースに書くこと

以下の内容を盛り込み、アレンジします。

  • 今回改善された範囲と、使えるようになった状況(タイトル)
  • アクセシビリティの概要説明
  • 今回の改善に関係する支援技術(スクリーンリーダーなど)の大まかな解説
  • 具体的にどこの何が使えるようになったのか
  • どういった利用状況でアクセスできるようになったのか
  • 改善前はどのようにアクセスできない状況だったのか
  • 会社がアクセシビリティに取り組む背景
  • 今後どのように取り組みを進めていくか
  • フィードバックや問い合わせに関する案内

アクセシビリティに関する他社のプレスリリースを参考にしてもよいでしょう。プレスリリースを横断検索できるサイトを「アクセシビリティ」で検索すると、いろいろな事例が見つかります。図3PR TIMESの例です。

図3 PR TIMESで「アクセシビリティ」で検索した結果
図3 スクリーンショット:PR TIMESで「アクセシビリティ」で検索した結果。989件の記事があると表示され、各社のプレスリリースが一覧されている。

はじめてのテーマでの配信であり、また障害に関する発信は繊細な表現が求められるのではないか? と不安もあるかもしれません。しかし、これもフィードバックを受けて改善していけばよい話です。まずは誠意を持って取り組みを世に公開しましょう。

社外にPRされたことを社内に伝える

今はSNSによって、社員全員が広報の役を担います。SNSでシェアしてもらえると、メディアの目にもとどまりやすくなります。社内に呼びかけて協力してもらいましょう。

「しつこいかな?」と思われるくらいに伝える

「ちょっとしつこいかな?」と思うぐらいいろんな場所で呼びかけましょう。社内チャットや社内SNSはフロー情報であり、それが書き込まれたときに目にしていなければ気付きません。やりすぎかなと思うぐらいやって、やっと目に入るくらいです。

コメント付きでシェアしてもらう

SNSでシェアする際は、無言でシェアするのではなく図4⁠、一言でもコメントを付けてもらえるようにお願いをします。プレスリリースの内容に言及するコメントを付けたうえでシェアやツイートを行うと、拡散度合いが変わっています。

図4 もう一息!な例:公式アカウントのツイートをコメントなしでリツイートしようとする様子
図4 スクリーンショット:Twitterで記事を単純にリツイートしようとする例。ツイートは株式会社SmartHR @SmartHR_jpのもの。「【プレスリリース】ユニバーサルデザインの推進を支援するミライロに「SmartHR」の「人事評価」が導入されました。従業員情報や人事評価の結果を一元管理できる点や、アクセシビリティを含むUIが決め手になりました。」

Twitterの場合、会社の公式アカウントのツイートをリツイートすると記事までが1ステップ遠くなるため図5⁠、プレスリリースURLを直接ツイートするようにしたほうがよいでしょう図6⁠。

図5 もう一息!な例:公式アカウントのツイートを引用リツイートしようとする様子
図5 スクリーンショット:Twitterで、会社の公式アカウントのツイートを引用リツイートしようとする例。先ほどのツイートに対して、引用で「これはすごいぞ!まさにアクセシビリティがビジネスに資すると言えるようになった事例だ」というコメントを付けている。ツイートの引用ツイートなのでTwitter Card画像が出ていない。
図6 ベストな例:公式アカウントのツイートにあるURLをじかに貼って新規ツイートを行おうとする様子
図6 スクリーンショット:Twitterで、公式アカウントのツイートにあるURLをじかに貼って新規ツイートを行おうとする様子。「これはすごいぞ!まさにアクセシビリティがビジネスに資すると言えるようになった事例だ」というコメントとともにURLを掲載した新規ツイートを書いている。URLから取得したTwitter Card画像も出ている。

「アクセシビリティとの関わりを公言した」と社員に理解してもらう

このように、社外にアクセシビリティの発信が公開されたことを社内に伝えていくことには、別の理由もあります。それは「会社がアクセシビリティとの関わりを公言した」ことを既成事実として社員に理解してもらえることです。

「この会社はこれからアクセシビリティに取り組んでいくんだな」と受け取ってもられば、今後の社内への取り組みを広げやすくなります。

外への発信が内を変える起爆剤に

アクセシビリティの取り組みが外に発信されるたびに社内でシェアの協力をもらっていくと、さらに社内認知が高まります。アクセシビリティが本格化しているというイメージにつながります。

またシェアの際に一言コメントを入れてもらうことで、自身がその取り組みに一部でも関わっているという認識に変化していきます。外に発信することが、実は内側の認識を変えていく起爆剤になるのです。

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