OSSデータベース取り取り時報

第106回長期サポート版MySQL 8.4 LTS登場⁠PostgreSQL 17ベータ版など新リリース目白押し

この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

[MySQL]2024年5月の主な出来事

2024年4月30日にMySQL 8.4.0がリリースされました。このMySQL 8.4.0はMySQLのLTS(Long Term Support)リリースの第1弾です。MySQLのLTSは長期にわたって安定してシステムを運用していただけるよう、リリース後は機能追加を最小限に抑え、基本的にはバグ修正やセキュリティ・パッチのみを提供していくバージョンとなっています。なおLTSとは別に、3ヵ月ごとに新機能を追加していくイノベーション・リリースも用意されており、MySQL 8.1から8.3はイノベーション・リリースとしてリリースされていました。

MySQL 8.4.0のリリースと同時に、MySQL NDB Cluster、 接続部品群の各種Connector、 MySQL Shell、 MySQL Router、 MySQL Operator for k8s、 Enterprise Backupなどの各製品の8.4.0がリリースされています。またMySQL 8.0.37やMySQL NDB Cluster 7.6.30、 7.5.34などもあわせてリリースされています。

なおNode.js向けのConnector/JS、GUIツールのMySQL Workbench、2025年1月にEnd of Lifeとなることが発表されているMySQL Enterprise Monitor(MEM)は、8.4 LTSのリリースはありません。MySQL Workbenchの後継としてはMySQL Shell for VS Codeが、MEMの後継製品としてはOracle Enterprise Manager for MySQLが案内されています。

MySQL 8.4 LTS

MySQL 8.4.0は長期間安定的にご利用いただくことに主眼を置いたため、MySQL 8.0と比較しても大きく目立つ新機能は追加されていません。一方でデフォルトの設定値の変更や、すでに利用される機会が限られる機能やパラメタの削除は多数行われています。特にInnoDB関連のデフォルト設定は多数変更されています。

MySQL 8.0およびそれ以前のバージョンのMySQL向けに開発されているアプリケーションやフレームワークにとって影響があるのが、MySQLネイティブ認証関連です。MySQLネイティブ認証はMySQL 8.0.34で非推奨となり、MySQL 8.2ではプラグイン化され起動時に無効にすることが可能になりました。MySQL 8.4.0ではデフォルトでこの機能が無効となっているため、下位互換のためにはMySQLサーバーの起動パラメタに--mysql-native-password=ONを加え、クライアント側も--default-auth=mysql_native_password、および該当する設定を追加する必要があります。

MySQL 8.4 LTSに関する主な情報源は下記の通りです。

なおバージョン間でのパラメタ、SQL関数、構文、インフォメーション・スキーマやパフォーマンス・スキーマ、エラーコードなどの際の確認は、日本MySQLユーザ会代表 とみた まさひろさん作成のツールMySQL Parametersの利用がおすすめです。

MySQL and HeatWave Summit 2024とMySQL Customer Advisory Board

5月1日には、シリコンバレーにあるオラクルの旧本社(現在の本社はテキサス州オースティン)のカンファレンスセンターにて、MySQL and HeatWave Summit 2024が開催されました。開催前日の4月30日にMySQL 8.4.0がリリースされ、イベントでは重要なトピックとして取り上げられていました。このイベントの中で、

  • 次のイノベーション・リリースがMySQL 9.0.0として7月にリリース予定
  • 次のLTSとしてMySQL 9.7.0が2年後の2026年にリリース予定

であることも、初めて正式に発表されました。

またこのイベントではMySQLやHeatWaveの最新情報だけではなく、MySQLを利用中のお客様の講演がありました。その中には、パナソニックのグループ企業で航空機向け電子機器を開発するパナソニック アビオニクスでの機内エンターテインメントシステムのデータの集計システムをはじめ、CERN(欧州原子核研究機構)やMetaでのMySQL導入事例や運用例などがありました。日本からはLINEヤフーの大塚さんが登壇し、InnoDBをRedo Logの観点から分析しMySQLサーバーの挙動を理解しようというディープなテーマで講演。大塚さんの講演内容とともにMySQLに対する情熱に、参加者からは絶賛の声が上がっていました。大塚さんの講演の模様はYouTubeで公開されていますのでぜひご覧ください。

翌日の5月2日には招待制のイベントMySQL Customer Advisory Boardが開催され、MySQLの開発チームから今後のロードマップの全体感や注力領域を解説するとともに、MySQLのユーザーからのフィードバックをいただいてロードマップの改善につなげる議論の場となっていました。

[PostgreSQL]2024年5月の主な出来事

5月は新しいバージョンや製品のリリースが目白押しでした。次期メジャーバージョンのベータ版がついにお目見えしました。その他、既存バージョンのマイナーバージョンアップと、エンタープライズDBによるLLMにも対応する新たな製品の発表を取り上げます。

次期メジャーバージョン17のベータ版が登場

5月23日、PostgreSQL 17の最初のベータ版がダウンロード可能になりました。このリリースには、一般公開されたときに利用できる予定のすべての機能のプレビューが含まれていますが、一部はベータ期間中に変更される可能性があります。PostgreSQL 17のすべての機能と変更点の情報はリリースノートに記載されています。今後はベータ版とリリース候補版の後、2024年9月~10月ごろに正式版がリリースされる予定です。

PostgreSQL Global Development Groupのトップページでのバージョン17ベータ1リリースのお知らせ
PostgreSQL Global Development Groupのトップページでのバージョン17ベータ1リリースのお知らせ

以下に、今回のベータ1での機能ハイライトの中からパフォーマンス改善関連を中心にいくつか紹介します。

パフォーマンスの改善
  • ストレージの再利用を行うVacuumで新しい内部データ構造が採用され、最大20倍のメモリ削減や、作業完了までの時間短縮が期待できます。さらに、使用できるメモリに制限がなくなり、Vacuum処理に多くのリソースを適用できるようになりました。
  • ストリームI/Oへのインターフェースが導入され、シーケンシャルスキャンやANALYSE実行時にパフォーマンスが向上します。
  • トランザクション、サブトランザクション、マルチトランザクションバッファのスケーラビリティを制御できる構成パラメータも含まれています。
  • プランナ統計と共通テーブル式(WITHクエリ)のソート順の両方を使用して、これらのクエリを最適化し、迅速に実行できるようになりました。
  • BツリーインデックスでIN句を使用するクエリの実行時間が大幅に改善されました。
  • NOT NULL制約のある列での実行から冗長なIS NOT NULLステートメントを削除できるようになり、IS NOT NULL列でIS NULL句を含むクエリを処理する必要がなくなりました。
  • BRINインデックスに並列インデックス構築が使用できるようになりました。
  • ログ先行書き込み(WAL)ロックの管理方法が改善され、同時変更の頻度が高いワークロードの一部テストではパフォーマンスが最大2倍向上しています。
  • bit_count関数のAVX-512サポートなど、より明示的なSIMD命令が追加されました。
パーティション分割および分散ワークロードの強化
  • パーティション管理の柔軟性が向上し、パーティションの分割とマージの両方の機能が追加され、パーティションテーブルにID列と排他制約のサポートが追加されました。
  • 外部データラッパー(postgres_fdw)はEXISTSおよびINサブクエリをリモートサーバにプッシュダウンでき、クエリによるパフォーマンスの向上を実現できます。
開発者エクスペリエンス
  • 引き続き SQL/JSON 標準に基づいて構築されており、JSON を標準 PostgreSQL テーブルに変換できる JSON_TABLE 機能、SQL/JSON コンストラクタ(JSON、JSON_SCALAR、JSON_SERIALIZE)およびクエリ関数(JSON_EXISTS、JSON_QUERY、JSON_VALUE)のサポートが追加されています。これらの機能は当初PostgreSQL 15リリース用に計画されていましたが、設計上の考慮事項によりベータ期間中に取り消されていました。
  • MERGEコマンドはRETURNING句をサポートするようになり、変更された行をさらに操作できるようになりました。
  • COPYは、大きな行をエクスポートする際のパフォーマンスが最大2倍向上する可能性があります。

上記以外にも、多数の機能改善がなされており、セキュリティ機能、バックアップとエクスポートの管理、監視、などの項目も含まれています。

PostgreSQL 16.3⁠15.7⁠14.12⁠13.15⁠12.19がリリース

次期バージョン17のベータ版リリースに先立つ5月9日には、現在サポート中のバージョンに対するマイナーバージョンアップがリリースされています。

このリリースではセキュリティ上の問題についての修正が含まれています。日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)の報告によれば、14.xから16.xのマイナーバージョン系列が該当するとのこと。この修正ではpg_stats_extとpg_stats_ext_exprsの行の可視性がテーブル所有者だけに制限されました。これまでは権限を持たないユーザが統計情報を通して行内容を参照できてしまう脆弱性があったとのことです(CVE-2024-4317⁠⁠。

また、SRA OSS Tech Blogにて、これらのリリースについての詳細な解説が公開されています。バージョン16.3 については「PostgreSQL 16.3に関する技術情報」を。また、他の15.7や14.12などについてもバージョン別に整理されています。前述のセキュリティ脆弱性につてのより詳しい説明もあります。

EDB PostgresAIがエンタープライズDBから発表

5月23日、エンタープライズDB(EDB)から、データ分析やAIワークロードのためのプラットフォームとなるEDB PostgresAIが発表になりました。このEDB PostgresAIは次のような特徴の製品です。

  • データソースに直接アクセスしてクラスター分析が可能に。また、EDB Postgres Lakehouse機能を使用することで、カラムフォーマットで保存して超高速分析用に最適化。
  • オンプレミスデータベースとクラウドデータベースの両方を管理可能に。
  • pgvectorをサポートし、データをベクトル化して生成AIアプリケーションとLLMをサポート。
  • さらに、高可用性やレガシーシステムの最新化の点でもメリットが見込めそうです。

このEDB PostgresAIの機能ハイライトはThe Postgres Builders Blogで詳しく解説されています

2024年6月以降開催予定のセミナーやイベント⁠ユーザ会の活動

イベントごとに利便性のあるオンライン開催や、従来通りのオンサイト(会場)開催、またはハイブリットが混在するようになっています。興味を持たれて参加したいイベントの開催形態にご注意ください。

MySQL & HeatWaveツアー東京

日程 2024年6月18日(火)13:00~17:00
場所 日本オラクル株式会社 本社 セミナールーム
内容 データベースの最新のイノベーションを知る特別なイベントへご招待! 5月に開催されたMySQL and HeatWave SummitでのMySQLチームの講演をベースにMySQL及びMySQL HeatWaveの最新イノベーションである生成AIやベクトル・ストアなどの新機能を一挙にご紹介します。さらに、データベースを効率的かつ安全に利用する上で重要なセキュリティや、運用監視、アプリケーション開発などのトピックを盛りだくさんでお届けします。
現在データベースをご利用の方はもちろん、これから利用される方にも参考になる情報を提供しますので、皆様是非ご参加ください。ぜこの機会に、MySQL & HeatWaveの最新情報をご確認いただき、データ基盤の未来について一緒に考えてみませんか?
主催 日本オラクル株式会社 MySQL Global Business Unit

オープンソースカンファレンス2024 Hokkaido/Kyoto

日程 〔Hokkaido〕2024年6月29日(土)10:00~18:00
〔Kyoto〕2024年7月27日(土)10:00~18:00
場所 〔Hokkaido〕札幌市産業振興センター(札幌市)
〔Kyoto〕京都リサーチパーク(京都市)(予定)
内容 今回お知らせするHokkaido、Kyotoはいずれも展示とセミナーの両方を会場にて開催します。セミナーのオンライン配信は予定されていません。ただし、出展者が独自に配信を行うセミナー枠はあるかもしれません。OSSデータベース関連の展示やセミナーは、出展者の決定後に各開催回のWebページをご参照ください。
主催 オープンソースカンファレンス実行委員会

光電融合で実現するリアルタイム分散データベースⅡ~分散データベース技術(次世代OSS-RDB Tsurugi)とエラステックネットワークアーキテクチャ~(Interop Tokyo 2024にて)

日程 2024年6月12日(水)15:10~15:50
場所 幕張メッセ(千葉市美浜区)開催のInterop Tokyo 2024 展示会場内Room D
内容 Interop Tokyo 2024で劔⁠Tsurugi⁠に関するセミナーがあります。NEDOの支援により、次世代ITインフラのための最新のアーキテクチャを採用し、OSS-RDBとして開発されている劔⁠Tsurugi⁠が、光電融合ネットワーク上で分散DBとしてリリースされます。次世代の光ネットワークにより、シリアライザブル分散トランザクション・分散レプリケーション等を実現し、今までとは次元の違う分散RDBが提供されます。本講演ではその概要を解説します。
また、そのリアルタイム分散データベースを実現するために必須となるネットワークインフラ技術として、コンピュータリソース間に需要に応じた光の直結パスを提供可能とする多方路エラスティックネットワーク技術も紹介します。このセッションは技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)と株式会社ノーチラス・テクノロジーズによるセッションです。
主催 Interop Tokyo 実行委員会

アシストフォーラム2024(PostgreSQLセッション有り)

日程 2024年7月8日(月)10:00~7月26日(金)17:00(配信期間)
場所 ウェビナー(オンデマンド配信)
内容 株式会社アシストによるさまざまな分野にまたがる総合的なイベントですが、ユーザ企業によるPostgreSQLの事例発表が含まれています。
  • PostgreSQLへの移行から定着・普及に向けたポイントとは
  • 現場DXの葛藤!リスキリング推進への挑戦とEDB(PostgreSQL)移行の物語
主催 株式会社アシスト

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