3DP ジャングル

3Dプリント部品にネジをはやして結合しよう

3Dプリントをしていくと、すべての部品が1度の出力だけで作成可能というわけではありません。そのため、別々に出力した部品どうしを接合して組み合わせる必要がでてきます。前回は3Dプリントで河合継手を作成しました。河合継手は面白い構造なのですが、実際の強度や部品をつなげるという意味で言うとあまり実用性はありません。

一度接合した部品を再びはずす必要がなければ、接着剤を使うのが簡単です。大きい部品などはこの方法が楽だと思いますが、個人的には部品を再利用できないのは好きではないので、ここでは他の方法を見ていきましょう。

今回は3Dプリントする部品自体にネジとネジ穴を作成して、部品を結合してみます。

ネジといっても、ここでは単体のネジ部品ではなく、3Dプリント部品にネジとネジ山を生やしてしまいます。3Dプリントのよいところは部品に合わせてこのようなカスタムな形をつけられることです。ここでは四つ足の台を作ってみます。板と足部分との結合方法をネジ式にしておけば、あとで高さを変えることもできます。

3Dプリントネジの特性

ネジをデザインする前に、3Dプリントネジの特性を考えます。

あとでプリントしてみるとわかりますが、普通のネジを3Dプリントすると以下の図のようにネジ山が地面にたいして平行になるようにしかプリントできません(横にするとネジ山の形が崩れてしまう⁠⁠。この方向でプリントすると、レイヤが地面にたいして平行にならぶので、横方向への力にたいして弱くなります。つまりネジの直径が十分に大きくないと比較的折れやすくなってしまいます。

このため3Dプリントでネジを使う場合ある程度以上の大きさ(太さ)のものが使えるときに限定したほうがよいでしょう。個人的な感覚では直径15mmかそれ以上のネジに限ったほうがよいと思いますが、これは使用用途やデザインのしかたによっても変わってくるはずですので色々試してみてください。

台のデザイン

今回は板も足もすべて3Dプリントで出力して以下のようなものを作成します。

筆者も実際似たようなパーツをプリントして使用していますが、そちらではプリントできる最大サイズと、強度を考えて木製の1x4材を板として使うデザインを使いました。上に乗せる重量によっては3Dプリントした板では使えないかもしれませんのでご注意ください。

まず板部分を作成します。今回はただのまっすぐな板にフィレットを施しただけのものですので、新規コンポーネントを作成後、120mm x 240mmの板を作成し、5mmのフィレットを施しました。本当は400mmくらいの台のほうが実用的かと思いますが、一般的な3Dプリンタでは300mm以上の板のプリントはなかなか難しいのでこのサイズにしてあります。これ以上のサイズを求める場合は、前述の通り1x4材などを板として利用するとよいでしょう。

次に板にネジを生やすため、足の位置(円柱の中心)を決めます。今回はネジ部分を15mmの円柱をベースにするので、板の底面の端から15mmずつ移動した位置に中心を据え、そこにネジ部分の円柱を15mm押し出しました。この際、押し出しは結合ではなく新規ボディとして作成するようにしてください。

この円柱にネジ山をつけていきます。Fusionにはネジ山を作成するツールが実装されていますので、作成>ネジを選び、ネジツールで今作った円柱の側面を選択します。するとFusionがサイズなどを適当に選んでくれます。基本的にはサイズ等は変更しなくても大丈夫なはずですが、円柱の直径とネジツールに表示されているサイズがあっているかどうか確認しましょう。

また、OKを押す前にモデル化にチェックが入っていることを確認してください。ネジは自分でデザインして出力するより、購入してきたものを使うことが圧倒的に多いため、デフォルトではネジツールはあくまで視覚的な装飾を施すだけという仕様になっておりネジ山を実際に作りません。そのため「モデル化」を選択しないでそのまま出力すると、ただの円柱が出力されてしまいます。ですが今回は実際にネジ部分をプリントするので、この「モデル化」オプションが必須となります。

今度は足を作ります。新規コンポーネントを作成し、そこにネジの円柱を作成する際に利用した円から半径が3mm長い円を描きます。この円を45mm分押し出します。

ネジをこの足に入れるにはネジ穴を開ける必要があります。これには足部分からネジ山を切り取ればいいのですが、ひとつ前のステップで作っていたネジ山をそのまま切り取ると、ネジと全く同じ大きさのネジ穴ができてしまいます。ネジと穴のサイズが全く一緒だとネジをはめこむことはできませんので、一工夫必要となります。

そのため、まず前のステップで作ったネジ山のボディを右クリックし、移動/コピーを選択します。全く同じ位置にコピーするので、 コピーを作成オプションをチェックする以外は何も変更しなくて大丈夫です。

今度は複製したネジを横方向(X/Y軸)のみに拡大します。修正>尺度を選択し、尺度ツールで複製したネジを選択します。つづいて尺度のタイプ「不均一」に変更します。均一を選択していると、X, Y, Z軸すべてにたいして同じ係数で拡大・縮小が行われますが、不均一にすることによって、各軸に別の値を指定できるようになります。Z尺度は1に保ったまま、残りのX尺度とY尺度を1.05に変更します。後述しますが、この値は環境やネジのサイズによって調整が必要かもしれません。

足コンポーネントを選択し、足から拡大したネジを切り取ります。修正>結合を選択し、ターゲットボディに足のボディを選択します。さらにツールボディには拡大したほうのネジを選択し、操作を「切り取り」に指定します。切り取りに使ったネジはこの後必要ありませんので、ツールを維持オプションははずしておきます。これで、足に実際のネジより横方向に少しだけ大きいネジ穴が作成できました。

これで込み入った部分は終了です。あとはネジと足をミラーするか、パターンを使うことによって正しい位置に増やし、ネジと板を結合すれば完成です。以下の図ではわかりやすいように足を二つ表示していません。またいくつか追加の面取りを施してあります。

台のプリント

プリントする際に板は必ずネジのないほうを下にする必要があります。足は穴を上にしたほうが接地面が増えて安定するでしょう。

またいきなりすべてをプリントするのではなく、最初はネジと穴部分を一つずつプリントし、ちゃんとネジがはまるか確認してから行うようにしたほうがいいかもしれません。その場合は使用しているスライサで任意の位置でモデルをカットするとよいでしょう。以下はPrusaSlicerで、板をカットしてネジが載っている部分だけを残そうとしている状態です。詳しい方法についてはそれぞれのスライサのマニュアルを参照してみてください。

今回の題材とは少し形が違いますが、以下の写真で私が実際に使っている台のようすがわかるかと思います。1x4をはめこめるようにしていることと、足部分も安定のために下駄をはかせていますが、結合は今回紹介したものと同じように3Dプリントしたネジをはめこんでいます。

ネジはわかりやすいモデルの結合方法ですが、3Dプリントでは使いどころが限られるかもしれません。結合強度としてはやはり金属製のボルト/ナットを使ったり接着剤を使ったりするほうがよいでしょう。しかし3Dプリント部品だけでなんとかなるというのはやはり魅力的ではあります。今後もネジ以外の3Dプリントで使える結合方法を紹介していきたいと思います。

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