2025年2月1日、GMOペパボ株式会社が提供するECプラットフォーム「カラーミーショップ byGMOペパボ(以下カラーミーショップ)」が20周年を迎えました。この20年間は、いわゆるWeb 2.0ブーム以降、さまざまなインターネットサービス、Webアプリが登場し、日本に限らず世界の日常・社会を変えてきました。
今回、GMOペパボ株式会社 執行役員兼EC事業部部長 寺井秀明氏に「カラーミーショップ」の20年、そして、ECの過去・現在・未来について伺いました。
GMOペパボ株式会社 執行役員兼EC事業部部長 寺井秀明氏
ECプラットフォーム界隈の20年
――「カラーミーショップ」、誕生20周年おめでとうございます。今日はこの20年を振り返りながら、これからの「カラーミーショップ」、そして、ECプラットフォームやECそのものがどう変化・進化していくか伺いたいと思っています。
まず、寺井さんご自身の経歴について簡単に教えてください。
寺井:ありがとうございます。
はい、ではまず私の経歴について簡単にお話します。GMOペパボ(当時の社名はpaperboy&co.)に入社したのが2011年7月でした。最初に所属した企業は、システムLSIの設計を行う会社、2社目がWindowsパッケージのソフトウェアエンジニアで、GMOペパボが3社目です。
入社時は、「カラメル byGMOペパボ」(2006年サービスイン、2018年終了の「カラーミーショップの姉妹サービス)のソフトウェアエンジニアとして採用されました。私の中では、当時のペパボはおもしろいインターネットサービスをたくさん出して、中の人がそれを積極的に発信しているというイメージで、転職を決めたのも当時のエンジニアの発信を見たのがきっかけでした。
その後、「カラメル byGMOペパボ(以下、カラメル)」「カラーミーショップの機能開発を担当し、ペパボがハンドメイドマーケット「minne byGMOペパボ」に注力するタイミングで、社内でマネジメントレイヤの人材が必要となり、手を上げ、マネージャへジョブチェンジを行い、今に至ります。
ガラケーからスマホ、API公開、コロナ禍
――ペパボへの所属が2011年からとのことで、「カラメル」や「カラーミーショップ」の認知度も上がり、サービスとしてさらに成長していくタイミングだったと記憶します。その当時を含め、リリース初期のころから成長期に入っていくタイミングでの「カラーミーショップ」について簡単に教えていただけますか。
寺井:まず、私がペパボに入るまでの「カラーミーショップ」について紹介します。
ペパボと言うと「ロリポップ! byGMOペパボ(以下ロリポップ!)」(個人向けレンタルサーバ(2011年当時、現在は企業も多く利用))が有名で、たくさんのクリエイター、エンジニアが使ってくれていました。その背景もあって、ペパボ=個人向けというイメージが強く、「カラーミーショップ」も個人で利用している方たちから「ロリポップで作ったWebで物を売りたい」というニーズが高まり、「ロリポップ」のオプション機能として、「カラーミーショップ」が提供されるようになりました。
そして、利用者が多くなり、1つのサービスとして現「カラーミーショップ」の原型となる「カラーミーショッププロ」が独立したサービスとして提供されるようになったのが2005年2月です。
いわゆるカート機能と基本的な商品管理だけの、個店ECというものでした。ちなみに現「カラーミーショップ」がサービスとしてリリースされた前年の2004年、日本のBtoC-EC市場(個人向けEC市場)規模が初めて5兆円を超えたタイミングでもあります※。
※:経済産業省「平成16年度電子商取引に関する実態・市場規模調査(PDF)」による。
初期のカラーミーショップ
――まさに、日本でも物の売買をネットを通じて行うことが日常化し始めたタイミングだったわけですね。その後、何か印象に残っている出来事はありますか?
寺井:思い返すときりがないのですが、私が印象に残っている出来事の中から3つ紹介します。
まず、2013年の「カラーミーショップ」APIの機能拡張のリリースです。このタイミングは、いわゆるガラケーからスマホへシフトした転換年でした(市場として、モバイル端末市場において初めて一般携帯電話(ガラケー)よりもスマートフォン(iPhone、Android他)の出荷台数が多くなった)。
日本においては2008年のiPhone 3G登場以降、スマホユーザが増えていく中で、ECの利用者もPCではなくスマホでという方たちも並行して少しずつ増えていきました。その背景から、カラーミーショップではAPIの形で、「カラーミーショップ」の機能を開放し、アプリ連携の基盤を準備し始めました。
Web 2.0の当時からAPIの公開は開発者たちにとっては非常に受け入れてもらいやすいもので、私たち「カラーミーショップ」のAPI公開も開発者にとってインパクトを提供できたことを覚えています。このAPI公開が、その後の2019年のアプリストア提供にもつながっていますね。
2つ目はちょうど10年前に第1回を開催した「カラーミーショップ大賞」のスタートです。私たちの立場としては、ECでビジネスをするのではなくて、ECでビジネスをする事業者の方を支えることがミッションとなります。
ですから、「カラーミーショップ」が成長するにつれ、機能面はもちろん、他のアプローチで、「カラーミーショップ」をご利用いただいている事業者の皆さんにとってモチベーションが高まる機会を何か作れないか、そう思って始めたのが「カラーミーショップ大賞」でした。
第1回目の「カラーミーショップ大賞」で大賞を受賞した「北欧、暮らしの道具店」さんは今ではさらに成長をされていますが、その当時のこと、とくに当時持たれていた課題や「カラーミーショップ」を選択した理由、その後に向けての考えなどは、今振り返ってもとても参考になります。
そして、3つ目はまだ記憶に新しいコロナ禍です。
日本では、2020年4月に発出された1回目の緊急事態宣言以降、本当に暮らし方が変わり、そして、人々の考え方そのものがまったく違うものになったことは、記憶している皆さんも多いのではないでしょうか。
コロナ禍が変えた購買行動とEC市場
――スマホシフトへの舵切り、表彰という形でのユーザを支える考えなど、まさにインターネットの進化やそれに伴うコミュニティの価値の向上にも紐づいている出来事ですね。そして、3つ目のコロナ禍。これは「カラーミーショップ」に限らず、社会全体にとってとても大きな、そして、ときにネガティブなインパクトを残しました。
寺井:そうですね。「明日から突然人と会ってはいけない」なんていきなり言われるなんて、コロナ禍の前にはまったく想像もしなかったことでした。他にも、3密を避ける、非接触など、それまでのあたりまえがあたりまえでなくなったわけです。
ただ、ECという視点で見ると利用状況を一気に前進させた面もありました。
まず、シンプルにECで物を買う、いわゆる人の購買行動がリアルからインターネットへ一気にシフトしました。「カラーミーショップ」はもちろん、日本国内、世界各国のEC事業社たちにとって、コロナ禍でビジネスが成長した事実は否めません。
そして、購買行動の変化で見えたのが、利用者にとってたくさんの選択肢を提供することが、次のEC市場にとって重要だということです。具体的には、利用者の決済手段の多様化です。
私たち「カラーミーショップ」では、コロナ禍の前の2010年後半にさまざまな取り組みを始めていました。1つは2016年12月にAmazon Payとの連携をスタート、その後も2017年11月にはヤマト運輸の「EC自宅外受け取り」の採用など、ECの“利用者”の皆さんにとっての価値提供をつねに考え、取り組んでいました。
そして、コロナ禍で社会的にキャッシュレスが浸透し始めたことも当然考え、2020年8月にPayPay採用など、日々社会の変化と合わせながら、EC事業者、EC利用者、どちらにとっても有用なサービスであり続けることを目指しています。
ECビジネスの拡大、それに伴う個人向けから法人(企業)向けへのシフト
――コロナ禍、そして、社会変容はさまざまな業界に大きな影響を与え、そして、変化の後押しをしたと感じます。ところで、コロナ禍でビジネス成長のスピードが加速したとのこと、それとともにビジネス的な観点で何か変化したこと、進化したことはありますか?
寺井:コロナ禍で、というわけではないのですが、サービス開始から10年近く経ったあたりから、「カラーミーショップ」のターゲットが個人向けから企業向け、いわゆる法人ビジネスへシフトし始めました。
これは先ほども話した、日本におけるBtoC-EC市場の成長に伴い、企業側がEC採用・EC構築に取り組むようになり、結果として私たちの直接的なお客様が個人から法人へ変 わり始めたのです。また、それに合わせて、私たちも法人利用に活用できる機能強化を意識的に行っていたことも、要因の1つです。
そして、サービスの戦略としても中小企業・法人向けにフィットする機能をより増やし、強化していこうと意思決定したのが2015年頃でした。
ECプラットフォームに必要なスキルセット・マインドセット――提供する側としての本質は変わらない
――個人向けから法人向けで、開発体制や運用で変わったことはありますか。
寺井:まず、ビジネスの成長に合わせてチームの人数が増えました。当初数名で始まった「カラーミーショップ」が現在は70名の規模になっています。
開発という観点でいうと、ペパボのエンジニアとして重要視している3つの項目、
を持つことはつねに必要としており、これもまた個人・法人向けにかかわらず求めている能力です。
また、変わらないこととしては、個人であっても法人であっても、つねに「顧客の声を聞く」意識は必要という点です。というのも、私たちはインターネットサービスのプロであって、製造業や小売業のように物理的なものを直接扱っていないからです。
この“物理的なもの”の扱いについては、顧客の皆様の知見が重要であり、また、ビジネスの成功に向けての正解に近いと考えています。ですから、私たちはサポートする側の立場として、顧客の皆様にとって使いやすいもの、ビジネスに効果のある機能を提供するために、まず事業者やその先の利用者に何が必要なのか、しっかりと声を聞くことが大事と考えています。
こうした部分は言葉にするのは難しいのですが、EC市場規模そのものの拡大とともに、顧客ビジネスの成長と私たちのサービスの成長が良い形でマッチして伴走してここまで来ていると感じています。
一方で、対法人という点で強く感じたのが、トラフィック量の想定以上の増加に伴う意識の変化と対策の必要性です。とくにコロナ禍での取引量の増加、それに伴うトラフィックの増加はものすごく、一方でそれは裏を返せばビジネス面での成功・成長なわけで、そのタイミングでサービスを止めることはできません。
もちろん対個人のときもサービスを止めてはいけない意識はありましたが、トラフィック量そのものがまったく違うので、それに対応するサーバ運用管理の知識、スキルが必要となりました。
その他、法人間でのビジネスであったり、また、その業界に合った商流など、とくに決済の多様化に向けての技術選定や保守、また、動向チェックと言った部分への注力も増えてきました。
――ECプラットフォームとしての本質は変わらない一方で、対法人だからこそ起きる変化とその対応が求められてきているわけですね。少し答えづらい質問かもしれませんが、お聞きします。会社としての「ペパボ」が持つイメージは、個人向け、個人が楽しむという部分が強い印象です。その中で、扱うビジネスが対法人に寄っていくことで気になったこと、あるいは、やりづらかったことなどはありますか。
寺井:難しい質問ですし、鋭い質問ですね苦笑
率直に言えば、今まで個人に向けてやっていたフットワークの軽さ、あるいは、おもしろさを求める進め方とは異なる部分があります。
ただ、これもまた本質的なところで、結局は私たちペパボが目指すのは企業理念でもある「もっとおもしろくできる」です。これは相手が個人でも法人でも、相手の立場での「おもしろさ」を目指すことなわけですから、そこはブレないですね。
また、おもしろさの先には(利用者に対しての)ファンづくりの考えがあります。ですから、対個人で行っていたファンづくりと同様に、対法人におけるファンづくりを目指すようになりました。
そこで2023年1月に提供を開始したのが『プレミアムプラン』です。『プレミアムプラン』はより大規模なネットショップ運営を支援するためのプランで、ECアドバイザーが伴走し、成長に必要な機能提案などのサポートを受けることができます。
――もう少し具体的な技術面にフォーカスして、「カラーミーショップ」の技術選定などを教えてもらえますか。
寺井:「カラーミーショップ」は、他のペパボのサービスと同様もともとPHPベースでの開発でスタートしました。ただ、APIを整備し、公開しはじめ タイミングぐらいから徐々にRails(Ruby on Rails)を中心としたシステムへ移行していきました。
フロントエンドは時代に合わせたJavaScriptフレームワークを活用し、2015 年ごろはAngulaJSを採用、アプリストアをオープンした2019年ごろからはVue.jsを積極的に利用しています。
インフラに関してはもともとオンプレミスのサーバを直接利用していましたが、2015年ごろにOpenStackによるプライベートクラウドを構築、コロナ禍のタイミングでAWSを含めたハイブリットクラウドでのシステム運用をしています。
こうした技術選定に関しては、大きな方針はGMOペパボのCTOである栗林健太郎を中心に決めますが、「カラーミーショップ」個別の技術については、事業部CTOという立場の人間を配置し、事業部側で決めています。
「カラーミーショップ」の利用者が快適に使えるためにはどうするか、それが根底にありますね。
AI時代到来、ECビジネスはどう変わっていくか
――「カラーミーショップ」の変遷について、日本のEC市場・業界の変化とともに教えていただけました。最後に、まさに今また変わろうとしている「生成AI」による影響、それによる社会変化とECの未来について、どのように考えているか教えてください。
寺井:2023年以降、世の中は一気に生成AI一色の様相を呈してきました。これはインターネットの登場やスマートフォンの浸透と同じぐらい、社会へのインパクトを与えてきていると感じます。
では、ECにはどのような影響があるかと考えると、物を売ったり買ったりする行為そのものは普遍で、日常的に生活をしていくうえではなくならないと考えています。
そこで私たちが考えられることは何か――それはEC運営の効率化、それに伴う生産性の向上です。この20年で「カラーミーショップ」で行ってきたアップデート、たとえば、先ほどお話ししたプレミアムプランの提供もその一環です。
そして、生成AIの登場はさらに効率的な機能、生産性向上につながる機能提供を支えてくれるものと考えています。たとえば、2025年1月から提供を開始した事業者向けの電話自動応答もその1つで、自動化できるところはどんどん自動化していきたいですし、それに生成AIの活用は最適と考えています。
また、日本は少子高齢化がますます進んでいくので、その面からも生成AIを活用した自動化、少ない人材リソースによるEC運営は時代にもマッチしていくはずです。
もちろん、人口減少による地方の過疎化という観点でも、ECの活用を支援することで、大都市だけではない人口の大小にかかわらない経済圏の構築もできるはずです。
それは技術的な話だけではなくて、人と人とのつながりも重要と考えており、今は「カラーミーショップ」の地域ごとのコミュニティづくり、そのコミュニティを中心とした事業者間の連携強化なども取り組んでいる最中です。
今、世の中にはさまざまな世代の人がいます。それこそインターネットがまったく存在しない時代から商売をしていた方たち、インターネットの成長とともに年令を重ねてきた世代、生まれたときからスマホがある世代などなど。
最近では、タイパ・コスパなんていう考え方を意識する人が増えているのも事実ですから、そういった多様な価値観を受け入れながら、次の世代にも続いていくEC市場への貢献、事業者、利用者のサポート、そのためのサービス開発・サービス運営を心がけていきたいですね。
――ありがとうございました。