PyCon China 2025 参加レポート ―中国のPython事情を初見聞

鈴木たかのりです。Pythonの国際カンファレンスPyConは世界中で開催されています。今回筆者は中国で開催されたPyCon China 2025に初めて参加してきたので、その様子をレポートします。

中国自体に行くことも初めてだったので、行く前はいろいろとドキドキしていましたが、文化の違いを感じつつも楽しくカンファレンスに参加してきました。

PyCon Chinaとは

PyCon Chinaは中国で開催されるPyConです。PyCon Chinaのイベント概要は以下の通りです。

項目 内容
URL https://cn.pycon.org/2025/en/
日程 2025年9月20日(土)
場所 中国、上海
会場 上海对外经贸大学
参加費 79元(約1,600円)
主催 PyChina
PyCon China 2025サイト
PyCon China 2025サイト

かなり昔ですが、他の方がPyCon Chinaに参加したレポートがあるので、紹介します。

なお、以前はPyCon Chinaは同じ年に複数の都市(北京、上海、杭州など)で開催されていましたが、2025は上海のみでの開催です。

カンファレンス前日まで

今回は以下の旅程でPyCon Chinaに参加しました。PyCon JP 2025直前(1週間前です!)ということもあり、初めての中国なので観光も楽しみたかったのですが、あまりゆっくりはせずにサクッと参加してきました。

  • 9月18日(木)移動日
  • 9月19日(金)LEGOLAND上海
  • 9月20日(土)PyCon China 2025
  • 9月21日(日)移動日

上海浦東国際空港から上海市内へ移動する際に、リニアモーターカーに乗ってみました。漢字表記だとリニアモーターカーは「磁浮」と書きます(英語表記はMaglev⁠⁠。わかりやすい!チケット代は片道50元(約1,000円)と手頃な値段ですが、上海は全体的に地下鉄、タクシーなどどの交通手段も安かったです。

リニアモーターカー
リニアモーターカー

浮いているので揺れは速度の割には感じません。最高速度は300km/hです。車内に表示があるので最高速度が出ていることがわかります。カーブを減速せずに曲がるために、かなり車体が傾いているなと感じました。

車内の速度表示
車内の速度表示

リニアモーターカーを降りたら地下鉄を乗り継いでホテルの最寄り駅まで移動します。上海では駅に入るときに必ず荷物検査があります(めんどい⁠⁠。⁠Suicaみたいなカードはどこで買えるんだろう?」と思いながら荷物検査を通ってキョロキョロしていると、地下鉄の改札に見慣れたクレジットカードのマークが見えました。⁠これはもしや?」と思ってスマートフォンをかざすと、クレジットカードのタッチ決済で改札が開きました!! これは旅行者にとってはめちゃめちゃ便利です。

カード決済に対応した地下鉄の改札
カード決済に対応した地下鉄の改札

調べてみたところ、このサービスは2025年6月28日から始まったそうです[1]。最初に15元(約300円)が引き落とされて「高っ!!」と一瞬思いますが、改札を降りると15元は返金され、実際の運賃(3元、4元など安い)が再度引き落とされます。

この日は一人だったので、ホテルから歩いて行けるクラフトビールのお店で晩ご飯を食べました。訪れたのはTap Thatというお店で、中国各地のクラフトビールを扱っており、当たりだな!と思いました。

ビールを頼んで一息ついたところで店長らしき方に料理を頼もうとすると、ぜんぜん英語が通じません。翻訳アプリを使用して確認したところ、入り口にあるショーケースから食材を選ぶと串焼きにして出してくれるようです。おすすめの食材などを聞きながら、肉や野菜などを選んで串焼きとクラフトビールを楽しみました。

ここから食べたいものを選ぶ
ここから食べたいものを選ぶ

カンファレンス会場へ

カンファレンス当日の朝、会場へは散歩がてら徒歩で向かいました。ホテルから30分ほどで会場である上海对外经贸大学に到着しました。入り口に警備員がおり「PyConで来たんだけど」みたいなことを伝えたけど、英語なのでやっぱり通じません。しかも私はスピーカーで、事前のチケット購入は不要と言われていたので、参加者であることを証明するものもありません…。

PyCon Chinaに参加するっぽい人がチケットを見せて通っていたので、⁠あの人と同じです!!」みたいなことを身振り手振りで伝えて(?)なんとか通してもらうことができました。中に入るとPyCon Chinaの大きなパネルがお出迎えです。テンションが上がりますね!

大きなパネル
大きなパネル

会場で受付を済ませると台湾から参加しているRex氏がいたので、あいさつをして立ち話をしました。Rex氏はPyCon Taiwan 2025のCo-Chairであり、今年はPyCon US 2025にも一緒に参加していました。

「PyCon Taiwanどうでしたー?」⁠China主催者とのやりとりを私に教えてくれてありがとう」といった話をしていると、PyCon ChinaのOrganizerであるManjusaka氏「takanoryさんですか?」と声をかけてきました。Manjusaka氏とはWeChat(事前のスピーカーへの連絡はWeChatです)で少しやりとりしており、名前が印象的だったので覚えていました。X(Twitter)のプロフィールによると「ゆるキャン△」のスーパーファンらしいです(確かにアイコンがゆるキャン△のキャラでした⁠⁠。台湾のWei Leeといい、⁠ゆるキャン△」は中華系の方を惹きつけるなにかがあるんでしょうか。謎です。

オープニング

時間になったのでメイン会場に入りオープニングに参加します。オープニングでは先ほど話したManjusaka氏があいさつをしていました。中国語なので当然ですが何を言っているかはわかりません。また、会場を提供している大学関係者と思われる方のあいさつもありました。

オープニング
オープニング

オープンニングトーク⁠Python for Everything

オープニング直後のトークは伊洪氏による「Python for Everything」です。イベントとしては特に「キーノート[2]と明言はしていませんが、⁠おそらく)中国のPythonコミュニティに長く関わっている伊洪氏から、Python全般について語られた、キーノート的なトークでした。

伊洪氏のトーク
伊洪氏のトーク

トークは「Python for ◯◯」という形で、Pythonでさまざまなことができる、Pythonはいろいろなものをもたらしてくれるという話でした。

Python for Goodでは多くのスポンサー、スピーカーによってPyConなどのイベント運営がされていることが紹介されました。Python for Dataでは自身のPandasでのデータ分析の実例や、Excel、SQLなどさまざまなデータ分析用のツールが揃っていることが紹介されました。

Python for Runでは自身のランニングの記録をするサイトyihong.runが紹介されました。GeoJSON[3]のデータを可視化しているそうです。

Python for FunではPython製の面白いプロダクトがいくつか紹介されました。

Python for Funの図形描画の例
Python for Funの図形描画の例

Python for Lifeでは自らの活動をGitHubのyihong0618/gitblogで記録していることを紹介していました。Python for RustではPyO3やruff、uvなどのRust製のツールを紹介し、Python for LLMではPyTorch、LangChainなどLLMで活用されるライブラリが紹介されました。

Python for FriendsではおそらくPythonの友達をアイコンと共に紹介していましたが、当然ですがまったくわかりませんでした。

自分の発表⁠How to learn Japanese with Python

筆者のトークでは「How to learn Japanese with Python」と題して、日本語を勉強している海外の方に対して、Pythonの自然言語処理ライブラリが学習のサポートとして使える、という内容の発表をしました。

筆者の発表の様子の写真がなかったので、発表についてポストされているものを紹介します。

発表内容はPyCon US 2025などで行ったものと同じですが、今回は中国での発表ということで、いくつか追加で工夫をしました。

  • タイトル、サブタイトルの一部に中国語を併記
  • 中国語では1つの漢字に対して発音は1つ、日本語は複数の読みがある、という説明を追加

中国人の参加者は当然ですが漢字の意味を知っているので、ある漢字や熟語の意味は簡単に推測できます。しかし、日本語での読み方を説明すると「マジで?」みたいな反応が多くて、狙い通り日本語の難しいポイントが伝わったかなと思います。

質疑応答でもいくつか質問をしてもらえました。最初の質問者は日本語で質問をしていたので、参加者に質問の意味を英語で伝えようと思ったんですが、まてよ?と思って「中国語で質問の意味をみなさんに伝えてもらえますか?」と伝えて、質問者自身で2ヵ国語で話してもらいました。効率よくコミュニケーションができました。

以下は質疑応答の内容のメモです。

  • 質問:アクセントの情報は取得できますか?

  • 回答:SudachiPyでは読みの情報だけしか取得できません。他の自然言語処理ライブラリだと発音情報がとれるものもありますが、アクセントまで取得できるかはちょっとわかりません。Text to Speech(TTS)を使うと音声データが取得できるので、アクセントの把握に使えるかもしれません。私は他でAmazon Pollyを使用したTTSについて発表しているので、参考になるかもしれません

  • 質問:日本語の初心者です。⁠買い増し」のような2つの単語がくっついて短くなった単語(複合語)が難しいです。どのように勉強すればよいでしょうか

  • 回答:私は日本語のプロや教師ではないので、日本語の文法については説明できません。次回の発表に向けてチャレンジとして、この問題点について認識しておきます。

    • 最初の質問者の方から追加で「知り合いは、日本語の複合語について博士課程で研究しており、それくらい難しい問題である」という、それくらい難しい問題であるとのことが補足されました。

初めての中国でのトークは、日本語に興味を持っている方がたくさん集まってくれて、質疑応答もできて、とても有意義でした。

Python 打包和环境管理方案研究

このトークではPythonのパッケージとその配布、また仮想環境についてどのようなツールがあるか、その使い方やツールの動作原理などを解説していました。

Shell氏の発表の様子(ディスプレイが横長で見にくい…)
Shell氏の発表の様子

まず環境を管理するツールとしてvenv、virtualenv、pyenv、poetry、uvがあげられ、それぞれの使い方が示されました。トークの後半では自作の仮想環境を作成することによって、仮想環境がどのように動作しているかの詳細な解説が行われました。

仮想環境の構築手順を自作することによって深掘りしていく流れはなかなか興味深かったです。英語または日本語で同じトークを聞いてみたいなと思いました。

ライトニングトーク

タイムテーブルを見るとわかりますが、PyCon Chinaのライトニングトーク(LT)はメインホールではなく他のセッションと並行して行われます[4]。筆者はトークとライトニングトークの両方に申し込んだのですが、両方通ったのでライトニングトークでも発表をしました。

タイトルは「Put 🐱 Cat Emojis in your documents!」で、自作のSphinx拡張sphinx-nekochanの紹介です。ライトニングトークの制限時間は10分と長いので、少しゆっくりめで丁寧に説明しました。トーク自体は、ネコチャン絵文字のかわいさもあって、興味を持ってもらえたかな?と思っています。

こちらのスライドも一部に中国語を併記しています。中国語のチェックを、この記事でコラムを書いている卿さんにしてもらいました、ありがとうございます。

筆者のライトニングトークの様子
筆者のライトニングトークの様子

クロージングがない

PyCon Chinaではライトニングトークが他セッションと並行で実施されることも驚きましたが、クロージングがないことにも驚きました[5]

再度タイムテーブルを見てみると、最後のセッションはメインホールで17:00~18:00に行われたAgent、AIについてのパネルディスカッションです。他の部屋のセッションは17:10や17:30に終了しています。

クロージングで「また来年!!」みたいなやりとりがなく終わってちょっと残念です。筆者はスピーカーディナーに誘われていたので、パネルディスカッションが終わる少し前に会場を後にしました。

スピーカーディナー

スピーカーを招待したディナーがあるとのことで、参加してきました。会場は上海の中心部(外灘:バンド)にあるビル上階のSky Lobbyです多分ここ⁠。かなり高い位置にあり、眼下に上海の夜景を見ることができました。なんかSFみたいです。

SFみたいな上海の夜景
SFみたいな上海の夜景

ディナーはケータリングでアジアや中華料理系がメインでした。おいしかったですが予想通りビールはありません。それと寿司がありました。

Co-ChairのCynthiaさんから清華大学(北京の有名な大学)のパンダを記念品にもらいました。海外から参加した筆者と台湾のRex氏が記念品をもらいました。かわいい。

ひまわりを持った清華大学パンダ
ひまわりを持った清華大学パンダ
夜景をバックにCynthia氏と記念撮影
夜景をバックにCynthia氏と記念撮影

スピーカーディナーのあとはクラフトビール好きの上海メンバーにおすすめしてもらったお店「筝歌啤酒屋」に行きましたbaidu地図⁠。12種類くらいのオリジナルのクラフトビールを提供しており、なかなかいい感じのお店です。かなり混んでいて雑然とした感じで、多くのお客さんが店先の道路で立ち飲みをしていました(コップもプラカップ⁠⁠。

筝歌啤酒屋
筝歌啤酒屋

ビールを飲んでいるときに驚くことがありました。店の外で立ち飲みしているところに物乞いらしき人が来ました。その人は首から提げたQRコードを指さして「マネーマネー」と言っているのです。QRコード決済で物乞いをするとは、中国すごいなーと感じました。確かに私も今回現金は1元も持ち歩かなかったので、現金を要求されても「持っていません」となるので、QRコードの方が確実なのかもしれません。

日本へ

カンファレンスの次の日は日本への移動日です。ホテルで朝食を食べてから、近所のスーパーにお土産を物色しに出かけました。カルビーのフルグラは中国でもカタカナで「フルグラ」と書いて売っていました。価格は500gで48.05元(1,030円)とすごく高くてびっくりしました。

中国のフルグラ
中国のフルグラ

その後、電車を乗り継いで上海空港に到着し、スムーズに出国検査を受けて制限エリアに入りました。すると目の前に「上海蟹」のショーケースがありました。空港で上海蟹を売ってるんですね、さすが上海。

空港で売っている上海蟹
空港で売っている上海蟹

無事に成田空港に到着し、筆者の初めての中国、そしてPyCon Chinaの旅は終わりました。

中国のインターネットとアプリ事情

筆者は今回初めて中国を訪問しましたが、インターネットやアプリについていろいろと気をつける点があるので、そのことを共有したいと思います。

インターネットはVPNが必要

まず中国でインターネットに接続するとグレート・ファイアウォールがあるため、筆者が普段使っているさまざまなサービスが使用できません。たとえばGmail、Googleドライブ、YouTubeなどのGoogleのサービス全般、X(Twitter⁠⁠、Facebook、GitHubなどが使用できません。これらのサービスを使用するために多くの人はVPNを使用しているようです。

筆者はTrip.comが提供している、中国からでも各種サービスに接続可能なeSIMを使用しました。PCからアクセスする場合は、スマートフォンからテザリングしていました。おかげで現地でGmailやX(Twitter)への投稿が問題なくできました。他にはahamoの国際ローミングでも各種サービスは利用可能なようです。

PyCon Chinaの発表を見ていると、普通にGitHubとかX(Twitter)の情報をスライドに載せているので、みなさん基本的にVPNを使っているようです。

地図アプリ

接続ができてもまだ問題はあります。中国に行く前に、ホテルからLEGOLAND上海(カンファレンス前日に行く予定)へのルートを調べようとしました、するとGoogleマップでは徒歩と自動車のルートしか出てきません。そうです、Googleマップでは中国の電車を使ったルート検索ができないのです。調べてみると地図アプリとしては「高徳地図」または「百度地図」を使用するのが一般的のようです。筆者は高徳地図をインストールして利用していました。ただ、目的地名などを中国語で正しく入力することが難しいため、ルート検索などはなかなか大変でした。

Googleマップのルート検索では徒歩か自動車しか出ない
Googleマップのルート検索では徒歩か自動車しか出ない

QRコード決済アプリ

中国ではQRコード決済が基本です(前述したように物乞いの方にも広まっています⁠⁠。決済手段としてはAlipayまたはWeChat Payのどちらかを使用します。筆者はAlipayにSony Bank WALLETのVisaデビットを紐付けて使用していました(すぐに決済金額がわかるので安心です⁠⁠。

ビールを飲んだとき、コンビニでの買い物など地下鉄以外はすべてAlipayで決済していました。アプリの使い方が分からないときも、画面を見せると店員さんが代わりに操作してくれるのでなんとかなりました。

また、Alipayの中からDiDi(タクシーアプリ)を使用できるため、タクシーの支払いもAlipayで行えて便利でした。

コミュニケーションはWeChat

チャットコミュニケーションとしてはWeChatが主流のようで、スピーカーへの連絡にWeChatのグループチャットが使用されていました。筆者はWeChatアカウントを持っていなかったため、台湾のRex氏からスピーカーへの連絡事項を教えてもらっていました。その後WeChatアカウントをとりあえず作成し、スピーカーのグループにRex氏が招待してくれたので、他のスピーカーや主催者と事前の連絡が取れるようになりました。

WeChatはチャット画面の中で翻訳が実行できるため、中国語でアナウンスがあっても翻訳して内容を把握できるので便利です。

終わりに

PyCon China 2025のレポートは以上です。初めての中国とPyCon Chinaは、まさに異文化を感じる体験でした。

主催者、スピーカー集合写真
主催者、スピーカー集合写真

もう少し英語トークがあるとうれしいですが、中国語が多少でもわかるともっと楽しめたのかなとも思います。筆者の2025年の海外PyConの旅はこれで終わりです。来年はどこに行こうかなぁ。

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