トレンドを振り返りながら考える⁠Web制作の今とこれから ――SmartRelease Uが目指すリリース環境の民主化

インターネットが登場し、誰もがホームページ(Webサイト)を持てるようになって20年以上が経過しました。とくに2000年以降、誰でも利用しやすい価格帯・機能のレンタルサーバ(ホスティングサービス)が登場してからは、大企業だけではなく中小企業や個人事業主など、自身の情報発信や営業ツールとして、Webを活用しています。

今回は、その当時からWeb制作に関わる業務を行ってきた5名のパネリストをお招きし、過去のトレンドを踏まえながら「Web制作の今」を考察し、これからについて展望します。
そして、5名がエバンジェリストとして関わる新サービス「SmartRelease U」を紹介します。

Web制作の需要は「なくならない」が⁠その「形は変わった」

――皆さん、さまざまな形でWeb、とくにWeb制作に長い期間関わってきたと思います。改めて、今のWeb制作についてどう感じているか教えていただけますか。

深沢: 私の場合、Web制作の中でもWordPressを中心としたCMSによる制作・開発・運用案件を多数手がけてきました。もちろん、今もWordPressの案件は多くあるのですが、それでもここ数年で見てみると、CMSの覇権を取っていたWordPressの立ち位置が変わってきたように思います。たとえば、StudioのようなSaaS型、ノーコードCMSでの依頼も増えていますし、私も提案しています。他にもWixも流行っている印象です。

古川: 私は約20年間、今の業務を行ってきた中で感じた変化があります。それは、制作側だけではなく、発注者側、運用者側にも知見が溜まってきているという点です。結果として、案件初期に行うヒアリングの内容も変わってきていますね。
たとえば、今であれば、更新性を優先するのか?あるいはコンテンツの制作を優先するのか?など、相手側からある程度明確に回答してもらえるようになりました。
ですから、それほど変動のない情報を目的としたWebであれば、あえて静的なサイトにするということもあります。⁠何でもまずはCMSで」という少し前の状況と比べて、おもしろい変化ですね。

水交デザインオフィス
Webデザイナー/ディレクター
深沢幸治郎

目新しさではなく⁠目的ありきがあたりまえに

――この20年で、Webがあたりまえになったということの裏返しとも言えるお話です。Webであることが目的ではなく、届けたい情報を、届けたい人に届けたい、という本質的な課題解決の実現ではないでしょうか。

深沢: まさにそのとおりと思います。とくに2008年のiPhone登場以降、発注側も含めたWeb制作の捉え方が、まさにあたりまえになったと感じます。

前川: これは言い換えると、タッチポイントを持っているエンドクライアントの意識の変化とも言えます。
私は、今は教育分野でのシステム開発をしていて、今の立場ではWeb制作側の立場ではない部分が大きいのですが、Web制作に関わっていたころからの変化として、広告代理店中心だったものが、マーケティング事業者中心に変わりつつあり、Web制作をするにしても、まずWebマーケティングありきになってきたからではないかと考えています。Webと合わせてSNS運用が一般化しているのも、その一例と言えます。
その流れとともに、CMS自体の操作性が簡易化し、先ほど挙がったようなStudioやWixのようにWebの構築には手間をかけず、コンテンツ、つまり、目的に集中できる時代になったわけです。

オフィスマエカワ
前川昌幸

「保守切れ」対応案件の増加

――⁠Web制作⁠という業務が一般化した結果、より目的ありきでWebが生まれていることがわかります。その他、何か、感じる変化やトピックはありますか?

山川: それで言うと、私の場合はこれまでのお話とはまた別の切り口での変化を実感することが増えました。
業務としてのWeb制作は継続してお請けする中で、いわゆるゼロベースの新規サイトではなく、⁠前任の担当者が辞めてしまい運用方法がわからなくなってしまった」⁠PHPのバージョンが古くなってしまった」など、いわゆる「保守切れ」対応案件が増えてきています。少し前には、PHP5系のままなので……というものがありました。
たいていの場合、計画的な制作ではなく、トラブルが合った場合に急遽こちらに来ることが多くて、その点も変化した点でしょうか。ただ、もともと使っていたレンタルサーバと同等のプランがなくて、完全に入れ替えることもありますし、先ほど深沢さんがおっしゃっていたように、SaaS型に切り替えてしまうことも増えてきました。

――お話を伺っているとWeb制作という業務・案件はなくなるどころか、増えている一方で、時代とともに進化した技術、それによる利用者の変化によって起きた、今のWeb制作の姿と言えそうです。

HTML/CSSの知識の重要性

デザインの意図を正確にするためには必須の知識

――Web制作の移り変わり、そして、2025年の状況がわかりました。Web制作をもう少しブレイクダウンして話を進めましょう。
Webを制作したり、開発するうえで、基本的な技術の知識、スキルが必須です。その中でも、HTMLやCSSはとても大事と思いますが、この点については皆さんどのように考えますか?

前川: 基礎知識としては必須だと私は考えます。すべてのタグを理解しておくレベルまであれば言うことはないですが、まず、⁠マークアップでこういうことができる」⁠Web(ページ)の構造としてのHTMLやCSS」など、Webの存在の解像度の高さとしての知識という意味です。
一方で、このあとの話にも出てくるかもしれませんが、生成AIの存在がHTMLやCSSの「記述スキル」はそこまで必要ではなくなったかもしれません。JavaScriptもそうですね。
その結果として、最低限ここまで知っていなきゃいけないという水準が上がり、プロとしてWeb制作を含めたWebに関わっていくには、その上(の知識やスキル)を目指していかなければ行けない時代になったと感じます。

山川: 私も同意です。実際、自分で手を動かせるときはできる限り、きちんとマークアップするように心がけています。一方で、コスト的、時間的なものなどの制約がある場合に生成AIを活用することは賛成です。それでも、2025年現在の生成AIが必ずしも正解(コード)を出してくれるとは限らないので、そのチェックを自分で行うような使い方です。
Web制作の中でも、Webデザインにおいては情報構造が非常に重要なわけですし、その点では、やはりHTML/CSSの知識は重要で必須と考えますし、これが欠けてしまうとそのデザインが目指す意図が正しく実現できません。

山川製作所
代表 山川祐一郎

分業時代⁠改めて日本語が大事な時代に

古川: 少し違った視点でお話させてください。私は制作というよりは、開発(デベロップメント)という観点でWebに関わることが多いのですが、今話に出ていた生成AIの利用に関して言えば、出力物の妥当性の判断は利用者、つまり、自分自身の知識に直結すると考えています。ですから、基礎知識としてのHTMLやCSS、また、各種プログラミング言語については、正しく理解しておくことが大切です。
妥当性の判断の観点で言えば、生成AIの登場前から、Web制作もWeb開発もチームによる作業、いわゆる分業が一般化しています。そこで重要なのがコミュニケーション能力となるわけですが、生成AIが加わったことで、生成AIの使い方の意識合わせも重要になります。
ご存知の通り、今の多くの生成AIは自然言語の指示から、さまざまな出力を出せるわけですが、その指示内容の理解がチーム内でずれていると、最終的な成果物が目指すものからかけ離れてしまう危険性があるからです。
ですから、私は今の時代、改めて「日本語(会話)能力」が必要と感じています。これは生成するだけではなく、修正する際のフィードバックなどにも当てはまることではないでしょうか。

CalmTech(カームテック)
代表 古川勝也

Webアクセシビリティの観点からも

――さまざまな視点から、HTMLやCSSの知識が必要・重要と感じました。その中で、文書構造の話題に関して言えば、Webアクセシビリティの観点からも欠かせないように思いますが、この点、神森さんはどのように考えますか?

神森: Webアクセシビリティは私が専門的に扱っている分野の1つで、ぜひお話したいトピックです。結論から言えば、今の生成AIが生み出すものは、誤解を恐れずに言えば1つ1つの要素(部品)です。
Webページ、Webサイトと考えると、それを見て、読んで、利用するのは人間ですから、利用者が理解できるかどうかが大事なわけで、そのコンテンツが持つ意味・文脈、つまり、文書構造を正しくできるかどうかが、Webアクセシビリティの観点でとても重要になります。
この部分に関しては、今現在はまだ、生成AIにすべて任せられないと思いますし、その意味でもHTMLやCSSは持つべき知識と、私は考えます。

株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ
ディレクター/プロデューサー 神森勉

前川: この場の総意としては、HTMLやCSSの知識は必要ということかと思います。最後に、ではどう学ぶか?について、現状と今後の課題についても話したいと思います。
おそらく今回参加しているメンバーは、皆、何かしらのイベント・セミナー・勉強会への参加経験があるはずですし、運営側に立ったこともあるでしょう。
ところが、コロナ禍という社会変化から、そういった「場」の意義や意味が変わり、また、聞いた限りでは、リアルの場での開催が減っている状況です。結果的に横のつながりが減っている印象です。
本来そういった「場」からも学び、吸収できた知識や経験、体験が減ってきていることが、今後、知識習得にますます影響が出てくるかもしれません。
もちろん、生成AIが、別の意味で知識習得に大きな影響(良い意味でも悪い意味でも)を与えることも考えられますね。

リリース作業の民主化を実現するSmartRelease U

――最後に、2026年以降のWeb制作という観点で、今の課題とそのための解決策、意識しておくべきポイントについて教えてください。また、皆さんがエバンジェリストとして関わるSmartRelease Uについて紹介してもらえますか。

FTPからの脱却とサーバを選ばないという選択肢

古川: 冒頭でも述べたように、発注する事業者サイドの意識や知識が変わり、Web制作やWeb開発の在り方も変わってきています。その中で、まだ変わっていない点の1つが、テスト環境やリリースのために必要なFTPの存在です。
とくにFTPを通じて本番環境を直接操作できることは、そのままヒューマンエラーによるトラブルの原因にもなりかねません。

深沢: この点は私も同感です。私はデザイナーの立場で、直接サーバを扱わないケースもありますが、ただ、発注者側にその権限を渡した結果、誤ってサイトを壊されてしまった案件を見たことがあります。
ですから、Web制作に関わるすべての人が、サーバ環境の「危険な領域」に直接触れることなく、安全なワークフローで完結できることが、これから求められる状況と考えます。

前川 システム開発の観点で見ても、そもそもシステムは人が頻繁に触るものではないですし、最近のトレンドから言えば一定のルールを設定して、あとは自動化して運用しています。Web制作の分野ではまだまだ手作業で公開という部分がありますが、ここは課題の1つと言えますね。

山川 公開作業はその作業ができる人に集中しがちで、属人性が強くなるケースが多いです。公開作業を含め、メンテナンス作業を誰もが同じレベルでできるようにできることが望ましいですし、SmartRelease Uはそれを実現していると感じました。

神森: 皆さま、いろいろなご意見、ありがとうございます。SmartRelease Uは、まさにそういった声を聞いて生まれたサービスです。
リリース作業の制約を少なくし、リリース作業を特別なことにしないための「リリース作業の民主化」を目指しました。
もう1つ、大きな点としては、サーバを選ばない(どんなレンタルサーバでも利用できる)点です。元々は私たちCPIのホスティングサービスの機能の1つだったものを切り出し、他社のホスティングサービスでも利用できるようにしました。
⁠サーバを選ばないという選択肢」を提供できるのもSmartRelease Uの注目してもらいたい点です。
これをきっかけに、さらに1人でも多くWebに関われる状況を増やしていけたらと考えています。

――ありがとうございました。

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