パワーポイント・デザインブック 伝わるビジュアルをつくる考え方と技術のすべて

著者の一言:[はじめに]ようこそ,デザインの世界へ

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「伝える」ことが重要な世界だからこそ,「伝わる」ものを生み出すデザインの力を身につけよう

私たちが暮らすこの世界は,年々「伝える」ことがより大切になってきています。日常の会話から,企画のプレゼン,研究発表,教育,商品の宣伝,SNSでのやりとりまで……一人ひとりの考えや専門性を尊重し,仲間と共に新しいものを生み出し,その良さを皆でシェアする時代だからこそ,自分の考えを相手に伝え,情報や理解を共有することが,かつてなく重要になってきているのです。

しかし,いざ「伝えよう」とすると,これがなかなか難しい。特に昨今はビジュアルで伝えることが重要視されるものの,本来はデザイナーの領域。今の自分には難しい,でも“伝わるもの”はつくれるようになりたい,あわよくば魅力的なデザインができるように……と,本書を開いているのではないでしょうか(ありがとうございます!⁠⁠。

なりましょう。デザインできるように。プロ用ソフトも,美的センスも要りません。道具はPowerPointだけで十分。必要なのは,あなたの「伝えたい気持ち」「考える力」だけ。本書が,⁠伝える」ことを「伝わる」ものに生まれ変わらせるデザインの考え方と技術であなたを支えます。ここが,⁠伝わるビジュアル」づくりのスタートライン。デザインの力で実現するべく,その門を叩きましょう!

これから必要なデザイン力は,“キレイ”なビジュアルをつくるスキル,だけではない

本書が案内するデザインの世界は,世間一般でよく語られる“デザイン”より少し広い範囲で捉えてみます。いわゆる“キレイなビジュアル”づくりだけにフォーカスせず,より確実に「伝える」ために「何が,なぜ必要なのか」から考えていきたいのです。それは,デザインの本質的な一面に触れられるだけでなく,なにより,これから習得するあなたにとって本当に必要なことだからです。

PowerPointに限らず,気軽にビジュアルをつくれるツールはどんどん増えています。遠くない未来には,AIを活用することで簡単に魅力的なビジュアルを制作できるツール,なんてものも充実しているでしょう。つまり,“キレイなビジュアル”をつくるだけなら本当に誰でもできる時代は遠くなく,そのときに真価が問われるのは「本当に良いもの」がなにかを判断し,テーマから技法まで全てをコントロールできる基礎的な実力なのです。

だからこそ,本書ではビジュアルをつくる技術だけではなく,その考え方から巡っていきます。自分の実力として,確実に「デザインできる力」の習得を目指しましょう!

ただし,実践に勝る実力はありません。本書を読んで満足せず,ひたすら手を動かし試行錯誤してみてくださいね。

あらゆる場面に応用できる力をつけるため,デザインの「考え方と技術」を客観的に深めていきます

伝えることも,ビジュアルデザインも,どちらも「人」が受け取り解釈するもの。つまり,相手の感覚と感性に大きく左右されてしまいます。

ゆえに,どちらも「答え」はありません。人間の認識の曖昧さ,身体的な多様性,社会情勢と価値観,年齢など,個々の違いや時代によって,最適解すら大きく変わります。私たちにできるのは,その複雑さにひとつずつ向き合い,その時々のベストを見いだすことだけです。

そのため,本書では「~すべき」⁠~した方がいい」といった断定的な答えも,⁠オススメの~」といった筆者の主観に依存してしまう紹介も,なるべく避けています。このような紹介は,一つの「答え」になってしまうからです。

あなたにはぜひ,ひたすら考えてほしいのです。仕事で,学業で,遊びで,忙しいことは知っています。でも,その時間の1%だけでもいいから,考える時間に充ててほしいのです。良いものを生み出そうと考えた時間の積み重ねが,知識と経験につながり,将来的な質と時短につながるはず。

本書は,考えるための材料と判断基準,実践のための技術に特化して,徹底的に紹介しています。身の周りにあふれている“作例”と共に,新たな一歩を踏み出しましょう!

著者プロフィール

山内俊幸(やまうちとしゆき)

1990年生まれ。科学コミュニケーター/デザイナー。関西学院大学大学院理工学研究科修了。科学技術と人,社会との関係をつむぐ「科学コミュニケーション」にデザインの領域から挑戦するため,天文学を学びながらグラフィックデザイナーとしての活動を展開。日本科学未来館の科学コミュニケーターを経て,フリーランスに転向。Wimdac Studioとして,科学技術にまつわるプロジェクトを中心に,展示やイベントなどの企画立案,編集,執筆,制作,実施までの幅広い領域で「デザイン」している。また同時に,本書のもとになった同人誌「PowerPoint Re-Master」の発行などを通じて,誰もが「コミュニケーション」をデザインできるようになることを目指した活動を行っている。