「何をすればいいのかわかりません」
SDGsに取り組もうとしている企業からの相談が増えています。経営コンサルタントという仕事柄、私もSDGsについていろいろ調べたのですが、みなさんと同じで「何をすればいいのかわかりません」という回答しか導き出すことはできませんでした。
なぜ、これほどまでにSDGsはわからないものなのでしょうか?
理由は3つあります。
①SDGsの事例は大企業が多い
大手ハウスメーカーが植林したり、有名アパレルブランドが海洋ゴミで洋服を作ったり、素晴らしい取り組み事例を目にする機会は多々あります。しかし、資本力のない中小企業から見れば「そんなスケールの大きいSDGsの取り組みはうちの会社ではできない」というのが実情です。
物価や人件費の高騰で、中小企業は大変な経営状況に追い込まれています。声を大にしては言えませんが「SDGsどころじゃない」というのが本音だと思います。
②SDGsへの後ろめたさ
地球温暖化やジェンダー平等、貧富の格差など、世界は多くの課題に直面しています。それらを解決することが企業の使命であり、そのような活動が消費者から高い評価を得られることも十分に理解しています。
しかし、自分たちの生活に直接的な影響がなければ、これらの課題もピンとこないのが現状です。二酸化炭素が増えても、貧困層が増えても、自分にすぐに影響しないことであれば、率先して動けるほど、人は寛容ではありません。そのため、SDGsに取り組むことに対して、後ろめたさのような罪悪感を覚えてしまう人も少なくないのです。
「環境や人権に関して興味がないのに、SDGsに取り組んでもいいのだろうか?」
そんな思いもあって、堂々と胸を張ってSDGsに取り組めない企業は思いのほか多いと思います。
③儲からない
企業として事業に投資するのであれば、必ずリターンがなければいけません。特に中小企業の場合、売上に貢献しない事業を続けることは、資金繰りの悪化に直結してしまいます。
SDGsは世のため人のためというのは理解していますが、SDGsの事業を展開するためには人手もお金もかかります。儲かりそうにない事業を続けられるほど、今の小さな会社とお店には余裕がないのです。
これらの事情から、SDGsに関して多くの中小企業が「何をすればいいのかわかりません」という状況に陥っているのではないかと思います。私自身、経営者から質問されても、「SDGsはこれをやりなさい」と自信を持って勧めることができませんでした。
一方で、今のご時世、中小企業に「SDGsに取り組まない」という選択肢は残されていないのが現状です。消費者は企業のSDGsの取り組みを細かくチェックしており、SDGsの活動が人材採用にも影響し始めています。製造業でも、脱炭素やトレーサビリティなどのSDGsに取り組んでいることを条件に、新しい取引先を探しているケースも増えてきています。
コロナの感染拡大で、今まで以上に医療と健康が注目されるようになりました。ロシアによるウクライナへの侵攻をきっかけに、世界平和と人権について真剣に考える人も増えました。度重なるゲリラ豪雨の被害の拡大によって、温暖化ガスの影響についてネットで調べる人が増え、芸能人や有名人がLGBTQを告白することで、ジェンダーに対しての認識が多くの人に広まりました。
お金がかかり、なんとなく後ろめたさもあって、儲からなくて面倒臭いSDGsと距離を置きたい経営者は多いと思います。しかし、今後、SDGsに取り組んでいない企業は明らかに世の中のトレンドから取り残されていく現実を考えれば、SDGsに“取り組まざるをえない”というのが、中小企業の未来の姿なのではないかと思います。
本書は、SDGsで「何をすればいいのかわかりません」と頭を抱える中小企業に向けて、SDGsへの取り組みのアイデアをまとめた“ネタ帳”になります。執筆にあたり、次の3点を意識しました。
- できるだけ手間がかからないSDGs
- できるだけ人手がかからないSDGs
- できるだけ続けられそうなSDGs
もちろん、事例の中にはスケールの大きいものもあれば、実践するにはハードルの高いアイデアもあります。しかし、それらをヒントにすれば、「うちの会社でもできる」というSDGsの事案に本書を通じて巡り合えるのではないかと思います。
できるだけ本業の片手間でできることで、なおかつ、経営者やスタッフの負担が少なく、平易に取り組めることを意識して“ネタ”をピックアップしました。取り組んだ事案ができるだけ売上や利益、集客やブランド力のアップにつながることを考えたうえで事例を紹介しています。
そのため、「これもSDGsなの?」と思われるような視点や事例も出てくるかもしれません。しかし、それだけSDGsの取り組みはハードルが低く、だれでもかんたんに取り組めるものだということを、これを機会に理解してもらえればと思います。
いろいろな角度でSDGsの取り組みのイメージしてほしいと思い、販促手法は64、事例は104を揃えました。おそらく、過去に発売されたSDGs関連の本で、これだけ多くの中小企業の事例にフォーカスしたものはないと思います。「なるほど、そんなSDGsの取り組みもあるのか」と思ってもらえるような、新しくてユニークなアイデアを1冊に詰め込みました。
もし、紹介した事例の中に、すでに自分たちが取り組んでいる活動があれば、胸を張ってSDGsの取り組みであることを、自社のブログやSNSで公開してください。そして、その取り組みを通じて、もっとSDGsの目標達成に貢献できるよう、ブラッシュアップしていきましょう。それが、私たち中小企業が“今”できるSDGsの取り組みではないかと思います。
本書ではSDGsの取り組み事例のほかに、SDGsを支援するNPO法人の団体やSDGsに貢献するサービスを提供している企業も紹介しています。また、取り組む活動のレベル感をイメージしてもらうために、「SDGs取り組みやすさ度」を5段階で表記し、すぐに活動内容をネットで公開できるよう、それぞれの販促ノウハウがSDGsの17のゴールのどれに該当するかも併記しました。
私は中小企業がSDGsに取り組んで社会に大きな影響を与えることよりも、「考えるきっかけ」を作ることのほうが大切だと思っています。取り組む内容は地球全体から見れば些細なことかもしれませんが、その活動をきっかけに経営者やスタッフ、お客が真剣にSDGsについて考える機会になれば、巡り巡ってSDGsの大きな動きに変わっていくのではないかと考えています。
「何をすればいいのかわかりません」という人が、本書を通じて「これってSDGsなの?」と半信半疑でもいいので、行動を起こしてもらえるようになればと思います。やがて「次はもっとこうすればSDGsっぽくなるんじゃないか」と、前のめりでサステナブルな活動に取り組んでもらえるようになれば、著者としてうれしい限りです。