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無駄な仕事でみんなイライラ……どうしたらいい? ~ITを使いこなすために必要な本当の知識

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うんざり・もやもやが止まらない……

仕事をしていて,いろいろな気持ちになることがあるかと思います。この中に思い当たる単語はありますか?

もやもやする。イライラばっかり。意味不明。改善って何? 同じところをぐるぐる回り続けていて前に進んでいない感。現状へのダメ出しばっかり。迷路のよう。徒労感。無駄ばっかり。解決しろって言うだけかよ。閉塞感。どうすりゃいいのさ。

……などなど。一言でいうと

  • 「うんざりワールド」

の住人になってるような感じでしょうか。私が現場にて若手の方々からよく聞くのは「意味不明」という言葉です。なんでこんな意味のわからない無駄な仕事をしないといけないの? というわけです。ここでは,こうした問題にどう取り組んだらよいのか,考えてみることにします。

さて,こうした問題はそのまま放置しておいてもよくなることはありません。そこで,昨今ではITを活用して何とか業務改善や事業変革を実現しようという取り組みもあちこちで行われています。しかしこちらもみんながみんな薔薇色の素敵な結果を得られているかというとそうではなく,いささか残念な状況に陥ってしまっているケースも多く見受けられます。

ではいったい,どうしてこのような状況にはまり込んでしまっているのでしょう。そこで考えるべきなのが「ビジネスデザイン」です。

原因は「ビジネスデザイン」の不備

ビジネスデザインとは何でしょうか。⁠ビジネス」という言葉には商売や事業などいろくるいろな意味がありますが,ここでは引っくるめて「仕事」としておきます。そしてデザインは「設計」と訳すことができます。つまりビジネスデザインとは「仕事を設計する」ことです。具体的には,

  • だれが(=たいていは「私たち⁠⁠)
  • だれに(=顧客の定義)
  • 何を(=提供する価値の定義)
  • どのように(=提供するために行う仕事)

提供するかを明確にすることです。

これだけなら何も難しくないし,⁠そんなわかりきったことはとっくにやってるよ」と思われるかもしれません。実はこれに加えて「2つのなぜ」が明確になっている必要があります。ひとつは

  • なぜ,顧客はそれを提供して欲しいのか(=顧客ニーズ)

です。もうひとつは

  • なぜ,私たちはそれを提供するのか(=ビジョン)

です。そしてこの「ビジョン」こそがとても大切なのですが,ビジョンをしっかりと組み立ててある企業や組織は意外なほどに少数なのです。

真の原因は「ビジョン」の不在

ではビジョンとは何でしょうか。端的に言うと,⁠展望」⁠未来図」です。そして実は「本当の意味での」モチベーション(動機づけ要因)です。

モチベーションという言葉は,1990年代後半からゼロ年代にかけて,本来の「動機づけ要因」ではなく単なる「やる気」を意味するようになってしまいました。ですから「モチベーションを与える」という言葉は本来「やる気になるような動機づけ要因を与える」という意味だったのですが,いつしか「やる気を与える」にすり替わってしまい,気がつけば「モチベーションを上げる」などという表現が定着してしまいました。その結果,何に動機づけされて仕事をするのか,ということをしっかりと定義する行為が失われていきました。では,そんなモチベーションあるいはビジョンが不備・不在だと,どうして「うんざりワールド」になってしまうのでしょう。

おそらく結構な数の会社が,社是・社訓的なものなどを含めて「我が社にはしっかりしたビジョンがある」おっしゃられることでしょう。たいていは社是や社訓には「世界一になる」⁠社会に貢献する」といった言葉が含まれていたりします。こういう言葉自体が悪いわけではありません。問題はそのビジョンを見た人,特に実際に仕事をしている人はいったいそれをどのように受け止めているのかということです。

  • もっともらしいこと言ってるけど,ぶっちゃけ嘘でしょ
  • SO WHAT?(だから何? で?)
  • 本気じゃないくせに

のような感想を持っている人が大半のようです。また経営陣が皆,すらすらと暗唱してその心をとくとくと語るかというと,残念なことに,そういう方はほとんど見ません(もちろん中には本当にすごい方もいらっしゃいますが⁠⁠。

つまり,ビジョンはあることになっているけど,機能していないという点においてビジョンが不在なのです。そして先ほど述べたように,ビジョンとは「展望」⁠未来図」です。つまり自分たちは何を目指しているのかという未来を指し示すものです。それが空疎くうそである・不在であるというのはつまり,未来が見えないということです。未来が見えないと,人間は不安になります。そして不安は人を臆病にさせ,臆病おくびょうは行動を躊躇ちゅうちょさせます。つまり成果が出づらい状態におちいっていくのです。

これが工場のようにそもそも「こういうものを作るのだ」ということが明確な上で工程設計された仕事であれば,理想は「何を何分で何個作ること」のように定義できます。そこに至らないとギャップが目に見えるので,原因を究明して改善しましょうということになります。しかし「契約書の内容を確認する」「取引先からの問い合わせメールに返信する」などだとどうでしょうか? ⁠なる早で」⁠とりあえず急いで」⁠手の空いているときでいいから」のようにふんわりしていることが実は相当量あります。理想が不在なのです。

ビジョンに基づくビジネスデザインの重要性

ではこの状況を打破するにはどうすればいいのでしょうか。ビジョンをしっかりと作れば良いのです。しかし,単にビジョンを作るだけではいけません。それではまた同じことを繰り返すだけです。大切なのは「ビジネスデザインの一部として,きちんと他のパーツと整合性が取れた状態のビジョンである」ことです。言い換えると「ビジネスデザインとは,ビジョンを起点にして各パーツの論理的な一貫性を考えること」になります。


『ビジネスデザイン—未来をつくるビジョンとプロセスとITの話』では,このようなビジョンを起点としたビジネスデザインの方法について説明しています。また,今どきはITの活用が当たり前の時代です。ですからもちろん,ITありきのビジネスデザインをお伝えします。具体的には下図のように,⁠ビジョン設計」⁠プロセス設計」⁠IT要件定義」という手順で進めていきます。ITの知識がない,という方にご理解いただけるように解説していますので,ぜひ,手にとって本書をご覧になってみてください。

ビジネスデザインの全体構造

ビジネスデザインの全体構造

(⁠⁠はじめに」より抜粋・一部修正)

著者プロフィール

羽生章洋(はぶあきひろ)

ストーリーデザイナー/ビジネスデザイナー。桃山学院大学社会学部社会学科中退。業界歴は30年以上に及び,製造業や金融業・自治体・流通などさまざまな業種において,企業システムからゲームまでの企画・要件定義・設計・開発・運用に携わる。IT企業の受注側・発注側双方における,現場担当者から経営上の意思決定までの経験をもとに,「経営戦略からソースコードまでをきちんとつなげて語り,実装できる」日本では稀有な人材。現在はエークリッパー・インク代表として「“できる” を増やす」を掲げ,人材育成研修を中心に活動しており,大企業を中心に多くのファンを抱える。著書に『はじめよう! 要件定義』,『はじめよう! プロセス設計』,『はじめよう! システム設計』,『すらすらと手が動くようになる SQL書き方ドリル』(以上,技術評論社 刊),『楽々ERD レッスン』(翔泳社 刊),『いきいきする仕事とやる気のつくり方』(ソフトリサーチセンター 刊)など。