スマートフォン決済の進化系、Squareの足音が聞こえてきた

2010年10月23日に、友人が主催したBizTechDayというイベントが、サンフランシスコにて開催された。このイベントは地元の中小企業の経営者向けにテクノロジーをビジネスにどのように活用すれば良いかを学ぶことを趣旨とした一日セミナー。著名なプレゼンター数名のスピーチの合間にIT系スタートアップのプレゼンも⁠つなぎ⁠として行われる。

そこにRandy Reddingという男が現れた。iPhoneをポケットから取り出し、正方形のフリスクの箱のような物をヘッドフォンジャックに挿し込んだ。そして一言、⁠これで誰でもどこでもクレジットカードの支払いを受けることができるようになります⁠⁠。

プレゼン後、直接彼に聞いた、⁠どういうことですか?⁠⁠ すると彼は、⁠君の1ドルをチャリティーに寄付してくれないか, 支払いはクレジットカードで⁠⁠。AMEXのカードを差し出すと、そのアダプタにスワイプし、表示されている画面に⁠1.00⁠と入力。画面上に指でサインをし、メールアドレスを教えると、⁠これで完了。レシートはメールで届いているはずだ⁠⁠。

彼の説明は実際のアプリ利用で完了した。

スマートフォンで決済を行う
スマートフォンで決済を行う

そしてそれは可能になった

それから約半年以上、最近では彼の会社、Square社のニュースを見ない日はないほどになっている。同社が提供するソリューションは、スマートフォンアプリ+ハードウェアで構成されるサービスで、これを導入することによりiPhoneやAndroidなどのスマートフォンがクレジットカードリーダーに早変わりする。

たとえば、出先での支払いを受ける際や、通常クレジット回線のないような、屋台、イベント会場、ファーマーズマーケットなどの場所でもクレジットカードでの支払いを受け付けることが可能になる。場合によっては、個人的に物を売買する際にも使えるわけだ。

アメリカはかなりのカード社会で、10ドル以下の小さな額の支払いでもカードを利用するユーザが多い。一方で、店舗にカード読み取り端末設置するためにはクレジットカード会社の審査をパスし、数百ドルする端末を購入し、初期費用を支払わなければならないなど、個人はもちろん、小規模のビジネスをしてい る側にとってはなかなかハードルが高い。また、設置後も月々最低でも30~50ドル+2.8%程度の費用がかかる。

一方で、このSquareは審査プロセスも単純な上に、セットアップ費用や月々費用もない。また、驚くべきことに、Squareアカウントを開設した場合、通常は別ルート/費用であるAMEXもまったく同じレートでチャージ可能になる。もちろん携帯を利用するので、どこでも持ち運びが可能だ。

客の視点から見てもより多くの場所でカードが使えることにより、利便性がかなりアップする。たとえば、ふらりと立ち寄ったフリマで気になるものを見つけても、現金の持ち合わせがない場合、ATMで現金をおろすかあきらめるしかなかっのが、販売者がSquareを利用していればカードで支払うことができるのだ。

また、同サービスを利用しているレストランやカフェでも、伝票を受け取ると同時に支払いを済ませることができるので、ウェイターが戻ってくるのを待ったり、レジでの面倒な手続きも不要になる。アップルストアでスタッフがカード端末を利用しているケースと同じ状態が実現可能になる。

Sauareサービス詳細

Twitter共同創設者の一人、Jack Dorsey氏が2009年からベータ公開をしていたSquare(スクエア)は、どこでも誰でも簡単にクレジット決済ができる画期的なサービスである。 小さなカードリーダーをヘッドフォンジャックに挿し込み、専用アプリを開くだけの簡単設定で、スキャン・チャージごとにかかる手数料(金額の2.75%)以外は、カードリーダーもアプリも無料。面倒な初期費用や契約料なども発生せず、手持ちのVISA、MasterCard、AMEX、Discoverなどの主要クレジットカードがそのまま使える。

実際にこのスクエアのサービスを導入しているレストランで食事をしてみると、会計がいかにスムーズになるかが実感できる。 食事を済ませたころにウェイターが、専用カードリーダーを挿し込んだiPadを持って颯爽と現れてその場でクレジットカードをスキャン、支払う側は画面上 に人差し指でさらっとサインをしておしまい。メールで送られて来るレシートには金額だけでなくどこで何を注文したかやチャージが行われた場所+Google Maps、商品の写真なども記載されている。このスムーズさはレストラン側にとっても、客側にとってもまさに⁠美味しい⁠ものである。支払う側にとってはシンプルで使いやすく、指でサインという動作がどこか新鮮で楽しい。店舗側にとっては高額なカード読み取り端末を新たに導入する必要がない。また両者にとっても、バリバリにハイテク過ぎないユー ザーエクスペリエンス感が優しい。これが現在、スクエアが急成長を遂げている大きな理由である。

レシート例
レシート例

Square社について

Square社は2009年初頭ににTwitter共同創設者のJack DorseyとJim McKelveyによってサンフランシスコからスタートし、シリーズA時点で異例の1千万ドル(約8億円)の投資を受けた。投資家の例としては Twitterの共同創設者Biz Stoneや投資家のRon Conway、GoogleのMarissa Mayer、Foursquare共同創設者Dennis Crowleyなどそうそうたる顔ぶれが挙げられる。

2010年3月にサービスをリリース後、現在までの従業員は約70名。セントルイスとニューヨークシティにもオフィスを構える。

また、同社COOのKeith Raboisによると、今年の始めのシリーズB時にはSequoia Capitalを始め、VISAおよびKhosla Venturesの両社から2,750万ドル(およそ22億円)のファンディングを獲得し、現在までのファンディング合計額は1億6,900万ドル(およそ150億円⁠⁠。

さらにはSequoia Captalの共同出資者でVCのRoelof Botha氏がSquare社の役員メンバーに就任したと公表した。同氏はPayPalのCFOを歴任したことでも知られている人物である。

さらに驚くべきことに2011年の6月中頃、同社は1999年から2001年までアメリカの財務長官をつとめ、最近ではオバマ政権の国家経済会議委員長であるLawrence Summersを引き入れることを発表。これにより政府との太いパイプを作り、名実共に一躍メインプレーヤとなる。この辺も日本ではマネの出来ない、ITがメインストリームであるアメリカだからこそできる技である。

Square社の今後

最近Square社が発表したCard Caseというアプリでは、クレジットカードをスキャンする必要もなくなっており、⁠購入からレシート発行までのプロセスをすべて1つにするべきである」とDorsey氏が述べている通り、さらなる一本化が実現しつつある。ちなみに現在このサービスを利用できるのはニューヨークを始めとする、アメリカの主要都市サンフランシスコ、ワシントン、セントルイス、ロサンゼルスにある50店舗のみ。

同様に、ニューヨークとサンフランシスコを中心とした一部の地域においてではあるが、GoogleがVerifoneと提携を結んで、 Android端末を用いての支払いが可能になるGoogle Walletというサービスを展開し始めたのも記憶に新しい。これらサービスは日本で言う所のお財布携帯と同じコンセプトである。

iPhoneの累計出荷数が1億台を超えたことをはじめ、アンドロイド端末の急激な普及数拡大と、著しく拡大しているスマートフォン市場の波に乗っ て、今後のスクエアサービスのシェアは一気に拡がると予想されるが、実際にカードを使わずに名前と顔写真だけで決済が行われるCard Caseに懸念を抱く利用者も多いことから、まだまだNFCリーダーに対する信頼度のほうが圧倒的に高いのが現状である。

今後のスクエアの成長はこれら のセキュリティ面に対する懸念をどれだけ払拭できるかにかかってくると言える。

Squareイメージビデオ

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