多様化する消費者心理に響く、イマドキのプロモーション

第5回オウンドメディアとペイドメディアの活用方法

前回までは、オウンドメディアとアーンドメディア(ソーシャルメディア)の活用法を説明しました。今回と次回の2回に分けて、オウンドメディアとペイドメディアをどのように活用すれば、事業の収益に結び付くのか提示していきます。

ペイドメディアとは?

ペイドメディアとは、テレビや新聞などのオフライン広告やオンライン広告の「枠」を企業が購入し、自社から消費者へ1方向の情報発信を行うメディアです。費用を多くかけるほど多数の消費者に自社を認知させることができ、潜在顧客の掘り起こしにつながります。ペイドメディアはオンライン広告とオフライン広告に分けられますが、本記事ではオンライン広告にとくに焦点を当てて紹介します。

オンライン広告がもてはやされる理由

「新聞や雑誌に広告掲載しても収益に結び付かない」という声をよく耳にするようになりました。これはインターネット使用者の増加に伴い、消費者の動向が以前よりもオンラインにシフトし、新聞や雑誌などの紙媒体の購読率が低下しているからだと考えられます。

体力のある企業の中には戦略を考慮して「あえてオフライン広告しか使用しない」という企業も中にはあり成果を得ているケースがありますが、大多数はターゲットとなる消費者の行動を意識してオンライン広告を使用するようになってきています。それでは、現代の消費者動向から必須のツールとなっている「オンライン広告」をどのように活用すればいいのでしょうか?

オンライン広告の特徴

収益につながるプロモーション設計をするには、オンライン広告の特徴を正しく理解する必要があります。以下に「オンライン広告の特徴」を挙げていきますのでご覧ください。

媒体の種類が多い

現在、国内の主要なインターネット媒体だけで数百社あり、それぞれの媒体社が持つ複数の広告枠を合わせると数千種類の媒体メニューがあります。媒体の選択肢が多い分、より深く、より綿密で高度なターゲティングが可能なので、成果に結び付くプランニングが可能です。

部分的に少しずつ改善していくことが可能

オンライン広告の出稿メディアや出稿枠、オンライン広告のクリエイティブはオンライン上での変更が容易なため、分析結果を基に、クリエイティブプランやメディアプランを少しずつ改善していくことで顧客獲得効率が確実に上がります。

より詳細な情報を伝えることが可能

オウンドメディア※1は、雑誌やチラシなどと比べると詳細な情報を伝える事ができ、オンライン広告はオウンドメディアの詳細情報を伝えるための「ハブ」となります。

※1)オウンドメディアとは、自社が所有し情報発信しているメディアです。具体的には、自社のコーポレートサイト、ブランドサイト、メールマガジンなどのオンラインツールや、企業広報誌、カタログ、パンフレットなどの印刷物、セミナーや自社社員/アルバイトなどのオフラインツール・メディアすべてのことを指します。しかし、ここでは、自社のコーポレートサイト、ブランドサイト、メールマガジンなどオンラインツールの意味で使用します。

広告効果がデータ化されている

いつ、だれが、どれくらい見たか(滞在時間やクリック率⁠⁠、どれくらいの販売数があったか、というような広告効果のデータ化が可能です。消費者動向の複雑化から、データを基に購買動機、興味の切り口、実際の利用シーンなどを把握する事が今、重要視されています。データを基に適切なクリエイティブプランやメディアプランを創造することで、現在のオンラインマーケティング環境における勝者になり得るのです。

オンライン広告の種類

オンライン広告で戦術を考案するためには、オンライン広告の種類を把握しておく必要がありますので、代表的なものを取り上げ、それぞれの特徴と活用事例を紹介します。オンライン広告には、大きく2種類「認知度を高めるもの(バナー広告やリターゲティング広告⁠⁠」と「即売り上げを求めるもの(リスティング広告やアフィリエイト広告⁠⁠」があります。

「即売り上げにつながる広告だけ出稿していたらいいのでは?」と感じるかもしれませんが、リスティング広告とアフィリエイト広告はリーチが狭く、ニッチで小規模な販促にとどまってしまう事になり、売上の大幅な増加は望めません。

リーチが広いバナー広告、リターゲティング広告とバランスよく活用することで「伸びしろがあるプロモーション」となるのです。

バナー広告

バナー広告は、リスティングやアフィリエイトと比較すると即時的な効果は低くなりますが、⁠リーチ数が多く、認知度を高めることができる」というメリットがあります。しかし、一概にユーザが多いWebサイトに掲載すれば良いというものではなく、より商品やサービスに適したWebサイトに掲載することが重要です。

さらに、初めは広く浅く広告出稿し、どの広告メディアの反応が良いか、どのデザインが良いかを判断したり、商品力とサイトのユーザ層の親和性をよく見比べるなど、それぞれのメディア枠の特性に応じた戦略が必要不可欠です。

KGIを「認知度向上⁠⁠、KPIを「インプレッション数増加」とする場合は、Yahoo! JAPANのトップページやlivedoorのトップページなどのバナー広告に出稿することで効果が期待できます。しかし、中小企業の場合はそう簡単にはいかず「通販事業」ならば、KGIを「通信販売での売上増加⁠⁠、KPIを「オウンドメディアへの誘導数増加」⁠サービス事業」ならKGIを「来店数(来館数、来院数)増加⁠⁠、KPIを「オウンドメディアへの誘導数増加」と設定し、バナー広告の中でも「ターゲティング広告」を活用することが多いでしょう。

これはターゲティング広告の「見込み客以外への広告配信を回避できる」というメリットを活用し、低予算でも効果を得るためです。

ここで、具体的な企業のバナー広告活用事例として、⁠エイチ・アイ・エス」のバナー広告戦略を紹介します。

エイチ・アイ・エスでは、新商品やフェアの告知の際にYahoo! JAPANのブランドパネル※2を利用しています。ブランドパネルでは、ユーザ属性ごとにクリエイティブを出し分けることができるため、たとえば、関西の地域属性を持ったユーザに、関西発着の商品を見せるなどの露出を行っていました。

これにより、商品の認知度を高めています。一方で、問い合わせや予約など実利につなげる目的で、旅行への関心が高いユーザが集まるYahoo!トラベル内への掲載も行っています。

エイチ・アイ・エスでは、⁠インプレッション重視のプロモーション⁠⁠、⁠コンバージョンにつなげるプロモーション」としてバナー広告を活用し、実際にオンラインの売上は飛躍的に伸びているようです。

※2)ブランドパネルとは、Yahoo! JAPANおよびYahoo! BBのトップページに掲載される、注目度の高い広告枠。

リターゲティング広告

リターゲティング広告は、1度Webサイトへの訪問があったユーザにコンバージョンに至るまで何度もメッセージを投げかけ、再来訪を促すものです。しかし、ただ同じ広告を打てばいいというわけではなく、効果を検証してより訴求力のある広告を出稿し続けます。

たとえば、リターゲティング広告を使えば、在庫切れで一旦離脱してしまっていた顧客に対し、⁠お客様の欲しいものがそろいました」という広告を発信することができます。ユーザが入力した検索ワードごとにリターゲティングできるので、より細かいセグメントが可能なことも特徴の1つです。

具体的な企業のリターゲティング広告活用事例として、⁠TBC」のリターゲティング広告を紹介します。

TBCでは、従来よりリスティング広告を出稿していましたが、よりコンバージョン獲得数を高めるため、Googleのリターゲティング広告を使い露出を行っています。TBCではさまざまなサービスを展開していますが、その中でも主力サービスへ訪問したユーザをリスト化し、リマーケティング広告を配信しています。脱毛関連のページに訪問したユーザには「脱毛」の広告、シェイプ関連のページに訪問したユーザには「ダイエット」の広告を表示させるなどです。

その結果、クリックスルーコンバージョン率(クリック後のコンバージョン率)は、同社のディスプレイ広告に比べ約5.9 倍、クリックスルーコンバージョン(コンバージョン1件あたりにかけた費用)は4分の1以下となるなど、大幅改善しました。

リスティング広告(検索連動型広告)

リスティング広告は、広告主が「広告を表示させたい検索キーワード」を購入すると、ユーザがそのキーワードで検索した際の検索結果に、自社の広告を表示することができます。ユーザへの接触が特定のキーワードに依存するため、⁠能動的なユーザ」にアプローチでき、売り上げに起因しやすいのですが、リーチ数に限界があるため大量の売上にはつながりにくいと言えます。

また、指定した検索キーワードの人気によりクリック単価が変動するので、キーワードによっては、⁠競合が多い」⁠商品やサービスから派生するキーワードが少ない」⁠客単価が高い」などの理由から、クリック単価が高騰します。⁠例「ローン」⁠保険」など)

競合が少ない「スモールワード」は検索回数が圧倒的に少なくなりますが、その反面、検索内容がユーザのニーズにマッチしている確率が高まるためコンバージョン率は高くなります。ターゲットを特定し、自社の戦略に合ったキーワードは追加していくようにしましょう。

「全売り上げの80%は全商品の20%の品種の売上によって占められており、ニッチな8割の商品がメジャーな2割の商品を超える売り上げをもたらす」と言われているように、スモールワードの網を張っておけるかどうかで集客力が決まってきます。

具体的な企業のリスティング広告活用事例として、⁠日本航空」のリスティング広告を紹介します。

近年、オンライン経由での航空券販売に注力してきた同社では、リスティング広告を「顧客誘導のためのツール」として活用しており、季節要因や顧客層、エリアごとの露出など、積極的な展開を行っています。

全世界の航空券・航空関連サービスを探している個人・法人の顧客をターゲットとし、エリアやニーズごとのデータをもとに効果測定やPDCAサイクルを回しています。同じキーワードで検索しても、その地域ごとに異なる結果が表示される『地域別配信』を使用し、航空券販売に関するキーワードを網羅、圧倒的な集客力とコスト削減効果があったようです。

アフィリエイト広告

アフィリエイト広告とは、あらかじめ設定したコンバージョンが満たされなければ、費用がかからない「成果報酬型」と呼ばれる広告です。成果報酬型というのは、ブログなどのWebサイトから通販サイトや企業のWebサイトへリンクを張り、消費者がそのリンクを経由して当該企業のWebサイトで会員登録や商品購入、サービスの予約をした場合に、リンク元Webサイトの運営者に報酬が支払われるというものです。

リスティング広告のように関心のあるユーザをピンポイントで獲得するのではなく、⁠潜在的に関心を持つユーザ」に露出するため、より低単価で、かつ幅広く訴求することが可能です。

アフィリエイト広告を実施することにより、ウェブ上での認知を向上し、結果的にリスティング経由、自然検索経由でのユーザ数にも影響を与えます。報酬単価、報酬の発生地点、プロモーションの詳細内容が企業の戦略に合っているもの、オウンドメディアとも相関性のあるものを利用するようにしましょう。

オウンドメディアとオンライン広告のプロモーション設計

オンライン広告の種類、特徴や事例を紹介してきましたが、問題視されていることもあります。オフライン広告に比べ出稿費用が安価なオンライン広告は、企業規模を問わず出稿が可能なため、オンライン上に情報が氾濫し、年々消費者に認知してもらうことが困難になっています。

こうした状況では、露出すればするほど費用がかかるオンライン広告に頼るのではなく、誘導させてから認知してもらうオウンドメディアのクオリティを高める事が重要です。

オウンドメディアのクオリティを高めるには?

まずオウンドメディアで発信する情報は、企業が発信したいメッセージではなく、⁠消費者が必要とするメッセージ」であることを意識しなければなりません。たとえば、通販事業で商品購入を促したい場合、消費者のプロフィールや価値観、興味や関心、さらには購買行動のどの段階にあるか、商品をどんな悩みを持った人に使ってもらいたいのか、商品を使ってもらうことでどんなHAPPYを与えたいのかを意識した情報が必要です。

そして、企業がターゲットとする消費者像を細かく絞り込みします。ターゲットは絞り込めば絞り込むほど、オンライン広告の成果が出やすくなるのです。

オウンドメディアのクオリティを高めるにはペイドメディアとともに「デザインテスト」を行うことが最も重要です。最低でもキャッチコピーのテストは行っておいたほうが良いでしょう。弊社では4~6つのキャッチコピーを作り、低予算で広告出稿しテストを行っています。その中でクリエイティブが一番良かったものを起用し本番の広告出稿に活用しています。本番前にこのテストを実施していない企業を多く見受けられますが、結局成果につながっていません。

回りくどく感じるかもしれませんが、本番前には必ずテストを行うようにしましょう。

たとえば、弊社でキャッチコピーを考案する際に留意していることは、⁠消費者に商品やサービスのメリットが伝わるようなキャッチコピーにする」⁠商品やサービスを使用する具体的なシチュエーションを含めたキャッチコピーにする」⁠あえて数字を入れたキャッチコピーにする」⁠ユニークな情報だと感じられるキャッチコピーにする」⁠悩みが解決できると感じられるキャッチコピーにする」⁠パラパラ漫画のように続きが気になるようなキャッチコピーにする」などです。

Webサイトではデザインだけで評価しがちですが、収益に結び付けるためには、キャッチコピーを念入りに考案する必要があるのです。

また、クリエイティブのレスポンス率はキャッチコピーだけではなく、構成、写真、デザインの組み合わせも影響があります。より精度を高めるためには、キャッチコピー、写真、構成、デザインの組み合わせを分解して、クリエイティブのテストをします。

オウンドメディアとオンライン広告との相関性があって初めて、⁠収益に結び付くプロモーション」となります。ですので、オウンドメディアのクリエイティブだけ、オンライン広告のメディア選定だけではなく、広域な観点で設計する必要があることを覚えていてほしいと思います。

以上のようにオンライン広告単体では、事業の収益に結びきません。

潜在顧客の掘り起こしにつなげるオンライン広告と、消費者の理解につなげるオウンドメディアを相互させることで、中長期的な収益につながるのです。

以前のような「企業が発信したいメッセージだけを訴えるオンライン広告」は、嫌がられ廃れていくと考えられます。情報過多の時代に求められていることは、消費者の欲求や関心により沿う形での制作やプロモーションでなければいけないのです。

参考文献
http://adwords-ja.blogspot.jp/2010/12/google-roi-tbc.html

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