キーパーソンが見るWeb業界

第13回 ソーシャルメディアから見えてきたコーポレートサイトの本質

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コーポレートブランドとプロダクトブランド

阿部:最近のアメリカの事例を見ていて思うのが,Facebookを利用した,特定のプロダクトにフォーカスしたソーシャルメディアマーケティングです。従来のマスは広く伝えやすかったことに比べて,ソーシャルメディアでは,セグメント化して効率的に伝えやすくなります。アメリカではこれを意識した事例が増えていて,とくに,Facebook用のアプリ,いわゆるソーシャルアプリがたくさん出てきていますね。

ただ,僕自身はそれだけで良いかというと疑問があります。たしかに,効果的だし新しい流れではありますが,ソーシャルアプリばかりが目立つというのも……。セグメント化したターゲティング以外に,コーポレートブランドというのはもっと広義なもののはずです。

本間:たしかに。顧客にとって,コーポレートブランドとプロダクトブランドというのは本来同じです。ところが,多くの企業がコーポレートブランドの目的を持たず,プロダクトブランドの強調ばかりしています。

長谷川:それは本質的な問題ですね。コーポレートサイトのリニューアル時にはコーポレートブランドとプロダクトブランドの整理が必要となりますが,この部分について明確な方針を持っていない企業も多くあります。

本間:コーポレートブランドとプロダクトブランドに上下関係はないですが,依存関係があるということですよね。日本企業の多くが,それらを担当する部署が別々になっていることが多いため,きちんと理解されないのだと思います。

主導権は広告主にない?

本間:ブランドから少し広告寄りの話に戻しますが,6月の初旬に開催された「ad:tech Singapore」で言われていたのが,広告の遷移は,⁠声を大きく伝える(発信側に主導権がある⁠⁠→⁠インターネットでバズを作る⁠⁠→⁠ソーシャルメディアでのブランドのファンとコミュニケーションする(主導権がお客様側にある⁠⁠」という流れになってきているということです。今のソーシャルメディアには,ファンに届くシンプルなメッセージが大切だと言われていました。

長谷川:同じようなところでは,ユーザエクスペリエンスデザインを扱ってきて,これまでは商品とサービスという分け方がされてきたのですが,最近はTangible(触れるもの)とIntangible(触れないもの)という分け方をされています。つまり,Webサイトが抽象的に触れるものとして認識されてきているからです。これは今のシンプルなメッセージにも通ずるもので,ソーシャルメディアでもメッセージが必要だということです。

森田:WebはTangibleなんですか?

長谷川:そうなってきていると思います。⁠企業の)思想や概念的なものは触れませんが,Webサイトを通じて体験できるようになってきているからです。

森田:B2Bの企業でもですか?

長谷川:本質は同じですね。たとえば,信頼性を表すときに堅い鉄板のようなイメージを採用して見せるということもあります。

本間:私のところでは,B2BもB2Cもやっていて,同じ手法で,それぞれにコミュニケーションしたいターゲットを分けてつくっています。各ターゲットごとに,サイトで知ってほしい,感じてほしいことを決めています。つまり,WebサイトはB2Bも,やはりTangibleなものになってきているのだと思います。

長谷川:Webサイトでは,企業のブランドも伝えなければいけないわけですし,最近ではソーシャルな内容も扱います。つまり,Webサイトは誰もが参照できる場所なので,企業が思っていること,思想をきちんと反映させていく必要があるわけです。どこを強く出していくか,リンクを強めるかなどを意識してつくらなければなりません。

本間:今難しくなっているのは,企業のそういった思想や思いというのを表したとしても,主導権は企業,広告主側にはなくなってきている点です。すべて消費者,すなわちお客様側にシフトしています。それは,閲覧するために使うデバイスもそうですし,見え方についてもリッチな状態で見るかどうかなどをお客様が選べるからです。

そういった(伝わり方が複雑になってきている)状況に対応できるよう,企業側が準備・対応していなければいけないと思います。

阿部:それでも,実際は,たとえばPC用のサイトのメニューと,iPhoneやiPadに最適化したサイトのメニューの項目は違う場合があります。こういうケースも生まれてくるわけですよね。本来ならば,ユーザはどちらのデバイスでも同じように見たいと思うのでは?

本間:その問題もあると思います。PCとモバイル端末の両方を持っている人で,かつ両方を使いこなしている人にとっては,どちらでも続けて使いたいと思うはずです。1つのキラーデバイス中心にWebサイトを設計すると,デバイスごとに情報量が異なる危険性があります。

なぜ,Webで情報を発信するのかという本質的な部分を,忘れてはいけないのです。

長谷川:一方で,キラーデバイスが出てくれば,ユーザはそれに期待をします。たとえば,iPadがその存在になってくれば,ユーザが「iPadに最適化したもの」を期待します。

森田:それはつまり,ユーザのセグメントが属性ではなく,状況になってくることでもありますね。デバイス自体も利用シーンによって,ユーザの体験が変わるわけですから。たとえばさらに,移動という状況ひとつとっても,ノートPCなのかスマートフォンなのか,ということも意識しなければなりません。

本間:まさにそのとおりで,これまでF1層,M1層という分け方で済んできたものが,今は,状況までも分けて考える必要があるわけです。

長谷川:それらを含め,一般的にコンテクストというと難しくなりますが,結局,コーポレートサイトを作る場合,まずニュートラルなものを作ることが前提となります。その上で,状況を意識したものやスペシャルなもの,いわゆるスペシャルサイト,キャンペーンサイトと呼ばれるものが求められるわけです。

森田:そこまでくれば,阿部さんの会社のようなところがどんどんつくっていけばいいわけですよね(笑⁠⁠。

それから,今はiPhone/iPadが騒がれていますけど,実際のところ3キャリアに対してどうアプローチするかも必要だと思います。携帯電話の今の使われ方を見ていると,細切れされた時間を埋めるものというケースが多いように感じています。ここでコミュニケーションができるようになれば,企業にとっても良いと思うのですが。

その点で,Twitterの存在はすごく良いですね。

本間:おっしゃるとおり,たとえば私の会社はコンシューマ向けの商品を扱う企業なわけで,とくに主婦層に対する製品が多くあります。主婦の多くが携帯電話を使いこなしていて,さらにパケット定額プランを採用している人が増えている状況であれば,それを活かすべきですよね。実際はまだそこをきちんと捉えられておらず,対応できていないため,もったいないのですが。

ソーシャルメディアはエコシステムになれるか?

本間:今の利用者の話をふまえてソーシャルメディアの話に戻ると,まだ多くの人がソーシャルメディアを体験しきれていないのです。であれば,まず,実際に自分たちでやってみることが大事。企業もソーシャルメディアのプラットフォームの一員なのですから。

そして,使いながら「ここまでは大丈夫」⁠ここから先は注意しなければいけない」といった判断基準を,経験として積めるわけです。ネット空間でできることが複雑になったり未体験なものが増えるのであれば,もっと体験していくべきです。

それが進んでいくと,ソーシャルメディアがエコシステムになっていくように思います。ソーシャルメディアがあるから,企業が回るというような意味合いです。今,多くのソーシャルメディアサービスが誕生し良い形で使われてきているので,さらに真剣に取り組んでいくべきだと思っています。

つまり,ソーシャルメディアの活用は,もっともっと組織全体で行っていかなければいけないと思いますし,そのためには自分たちが何を行うか,企業に属している人間がもっと意識しなければならないと思います。

長谷川:最初の日本とアメリカの比較に戻ると,アメリカの企業のほうが,企業のコアが何であるかを意識せざるをえない状況にいるのかもしれないですね。日本の企業の場合,そこが弱いかもしれません。

森田:日本企業もコミュニケーションや変革の過渡期に来ていますから,そうなると,もっと自分たちのコアが何なのか,一人ひとりが意識していく必要があるわけですよね。

長谷川:今日の話のポイントは,ソーシャルメディアの流行によって,コーポレートサイトの本質が見えたという部分にあると思います。それは,今の組織で活用するということもそうですし,コアが何かを意識するかということでもあります。

阿部:現在,企業のWeb担当者にも本間さんのような方が増えてきました。花王のWeb作成部のように,きちんとした組織,経験を積んだ人が増えているわけです。結果として企業側,制作・デザイン側の意識が高まってやれることも増えているのですから,その部分をもっと広げていきたいですね。

※今回は,森田氏の新会社「株式会社ツルカメ」オフィスにて収録いたしました。長谷川氏はSkypeを通じての参加でした。

※今回は,森田氏の新会社「株式会社ツルカメ」オフィスにて収録いたしました。長谷川氏はSkypeを通じての参加でした。

以上,今回はソーシャルメディアを軸に,企業としての取り組み方,そして,そのコアとなるコーポレートサイトの在り方について話が進みました。話にも上がっていたように,ソーシャルメディアの登場により,企業側・顧客側の関係性が変わりつつあります。その中で,自分たちが何をすべきか,今まで以上に強く意識していく必要があるのでしょう。

著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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