キーパーソンが見るWeb業界

第18回 “拡張”する意義

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ARのビジネス的ターニングポイント

阿部:これまで取り組んできた中で,どのあたりがAR三兄弟にとってのターニングポイントになりました?

川田:初めて(対価をもらえた)仕事になったARが日産の広告でした。あの当時は,AR三兄弟はもちろん,ARすらまったく認知されていない時期で,かつiPhoneも普及していませんでした。つまり「前例のないもの」という点で,ターニングポイントになったARだと思っています。

あれ以降,僕は,

  • 情報を入力する
  • 情報を出力する
  • 通信する

この3つがあればARが実現できると考えています。そして,これを固有に実現させた最初のデバイスがiPhoneだったように思います。

iPhoneが登場してからは,街に出ればなんでもできると思いましたし,可能性が広がりました。日産の事例で言えば,iPhoneや携帯電話を使い,パルコ前広場をジャックする,いわば広い世界を拡張するというARをいきなりやったことが大きかったですね。

森田:ちなみに,川田さんから見て,セミトラ(Semitrans parent Design)のSONY「Bravia」の事例(銀座ソニービルの壁の色をネットから遠隔で操作できるクロスメディアプロモーション)はどうですか?

川田:あれ,かっこ良かったですよね。僕の中ではセミトラリアリティって読んでいます(笑)あれも1つのARではないでしょうか。

それから,阿部さんが以前にやったインターネットスイカ割り(インターネットを通じて,ブラウザで操作した水着美女が画面の向こうでスイカ割りをするというコンテンツ)は,すごい衝撃的で。あれもARですし,あの面白さに影響を受けました。

阿部:ありがとうございます。最近のカンヌなどで賞を取る表現やコンテンツもそうですが,今の時代はリアルタイムでインタラクティブなものが増えてきている。当然ながらそれらと同様のことだと思います。

川田:この概念を伝えるのが難しくて,ただ,たとえば(広告のように)受託するものについては,発注する側が概念から入りがちで,コンテンツとして難しくなってしまう傾向がありますね。

阿部:僕がインターネットスイカ割りを作った最大の理由は「コンテンツの面白さ」を追求したかったからです。Webのコンテンツってどうしても技術や仕掛けにフォーカスしがちで,コンテンツそのものの面白みが後付になっています。そこで,とにかく面白いコンテンツを作ろうという発想が,あのような形になりました。

働き方の拡張

川田:あと,ARを作る上で,働き方についても意識している点があります。たとえば,僕たちAR三兄弟の場合,

  • 長男=企画+設計(音楽)
  • 次男=映像+運営
  • 三男=音楽+実装

というような役割分担です。ここにいるお三方は立場上偉いので(笑⁠⁠,少しニュアンスが変わるかもしれませんが,僕がクリエイティブチームを作るときにどうすればフラットにできるかを考えた結果,⁠家族みたいに」という思いになり,兄弟に行き着きました。以前,⁠Web Designing』さん他が主催した「dotFes 2009 KYOTO」に行ったときなんかは,うっかり家族旅行になりましたし,そこで,兄弟というパッケージが強く印象づけられました。

持論ではあるのですが,日本人って家族が好きなんだと思います。たとえば,ウルトラマンとか。そこが日本的でもあり,没入しやすい環境なのかなと。おそらく,日本で仕事をするには「家族感」を持ち込めると成功しやすいんじゃないかと思っています。

森田:同じ釜の飯,っていう話ですね。

川田:概念はそうですね。ただ,実際の働き方でいうと,兄弟それぞれが自宅で業務をすることが多いので,その点は,今風に言うと「クラウド的」っていうことでしょうか。

阿部:無理やり今風の言葉を入れなくても(笑)

森田:その⁠家族感⁠で見る働き方,組織というのは面白いですね。僕自身,bA(ビジネス・アーキテクツ)時代に組織づくりやプロジェクト運営に取り組んでいたので興味があります。たとえば,阿部さんは僕から見ると「アニキ」的存在のように思います。

阿部:よく言われますよ。ただ,最近は社員も18名になり,自分の立ち位置のようなものが変わってきました。

森田:それって,社員をどう成長させるか,ある意味,拡張のさせ方にも通ずるところだと思っています。たとえば,アニキ的なポジションで組織を作るのか,額面通り「社長」的なポジションで組織を作るのかで,異なりますよね。

阿部:そうですね。理想は川田君と同じように,兄弟,今だったら18兄弟で,言いたいこと言える関係でいられる組織です。少しそれますが,先日うちのディレクターと話をする機会があって「ワンパクの価値,行きたい方向って何?」っていう話題になりました。そのとき,彼からは「対外的に楽しそうに見える,上下関係ではなく仲の良い雰囲気,マインドの共有」といった答えが返ってきました。たぶん,それですね。家族という呼び方なのかどうかはわかりませんが,マインドの共有というのを第一に置いています。

ただ,これから人数が増えると難しいと思っていて。そのあたり,長谷川さんはどうですか?

長谷川:コンセントは先日,グループ会社であったアレフ・ゼロとの合併がありました。もともと私が在籍していたコンセントの社員数は40名ぐらいで,今回の合併により新コンセントとしては150名ぐらいになりました。

それぞれWeb,エディトリアル(紙)といったメディアの違いはありましたが,根本の「伝わるしくみとしてのデザイン」を指向している部分は共通していたので,考え方のぶれはあまりありません。

人数が増えたことによって考えるようになったのは,どうやってフォーメーションを組むかということですね。

森田:それはどの立ち位置で考えています?アニキ的?お父さん的?

長谷川:お世話してもらっているのでおじいちゃんかな(笑)冗談はさておき,自分がディレクションするケースが多いのでリーダーシップを取ることは多いですが,組織の中のヒエラルキーはできるだけない状態でいたいですね。

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著者プロフィール

馮富久(ふぉんとみひさ)

株式会社技術評論社クロスメディア事業室室長。

1975年生まれ。横浜市出身。1999年4月株式会社技術評論社に入社。入社後から『Software Design』編集部に配属され,2004年1月に編集長へ就任。同2004年9月に『Web Site Expert』を立ち上げ,同誌編集長に就任,現在に至る。その後,2008年9月に設立したクロスメディア事業部(現クロスメディア事業室)に配属。現在,社外活動として電子書籍を考える出版社の会の代表幹事やWebSig 24/7のモデレーター,TechLIONプロデューサーなども務める。過去にIPAオープンソースデータベースワーキンググループ委員やアックゼロヨン・アワード他各賞審査員などの経験を持つ。

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