新春特別企画

2013年のソーシャルWeb

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ソーシャルメディア分野

ここからは,主に企業から見た時のソーシャルWebとして,ソーシャルメディア市場を考えてみましょう。

ソーシャルページの衰退

昨年日本ではFacebookが本格的に利用され始め,多くの企業がFacebook上でのマーケティングに取り組んだ年と言えます。しかし,うまくいったという事例は,ほとんどなかったと言っても良いかもしれません。ソーシャルページは長く着々と運用することで,その効果がじわじわと出てくる代物なのですが,すぐに効果が期待できると考えて参入した企業は,その運用のあまりの難しさと効果のなさに「こんなはずではなかった」という感想を持っていると思います。

ソーシャルメディアのパワーは「バイラル力」です。そのバイラル力が必ず働くと考えていた人が多かったのではないかとみています。残念ながらそんなことはなく,やはりユーザにとって魅力的なコンテンツでなければ,バイラルはしません。そのことがわからずに,単にFacebookに情報を投下すればバイラルし認知度が上がると考えていた傾向は強く,しかも企業をそのようにけしかけたコンサルタントが非常に多かったのではないでしょうか。

ソーシャルページの設置と運営が如何に難しいかをもっと多くの人が知ることになるには,もう少し時間が必要そうです。今年の前半は,相変わらずソーシャルマーケティングの主役はソーシャルページの利用であると継続されるでしょう。もちろんこれはずっと続くわけではなく,今年後半にはそれが難しく簡単に手を出せるものではない,ということが事例とともに徐々に浸透してくると思われます。

特に日本においては,ソーシャルページの開設数は今年ぐっと減ると予想しています。

認証&シェアによるソーシャルWebの広がり

ソーシャルというと,⁠ソーシャルグラフをどう扱うか」という点に議論が集まってしまいますが,今年はそれ以前の基本的なことが見直されると考えています。それは「ユーザのアイデンティティ」です。

企業が自社サイトでソーシャルというものを取り入れようとするとき,すごく難しく考えてきたのではないかと思っています。何をどうすればいいか,なかなかわかりにくいのがソーシャルの特徴かもしれませんが,今年は次の2点に絞られた方法で,企業の自社サイトにおけるソーシャル対応が進んでいくと考えています。ほとんどのWebサービスにおいて,ソーシャル化をするためにはこの2点のみで十分です。

  • 認証「○○でログイン」
  • 共有「△△を知り合いにシェア」

ソーシャルメディアには,ユーザ間の関連以前に,ユーザのアイデンティティが集まっています。従来であれば,企業の自社サイトにて独自に行ってきた会員登録ですが,今後は「SNSへのログイン」⁠SNSを使って登録/参加」というものに置き換わっていくでしょう。これは,企業の自社サイトにユーザの基本情報を渡すということになるのですが,そこにソーシャルグラフはありません。単に訪問者の情報をもらうのみです。まずはこれにより,会員登録という行為の敷居を下げます。

技術的には,OpenIDやOpenID Connect,またはOAuthとPeople APIの組み合わせが使われます。ここ数年は,数多くのAPIの認可制御にOAuthを適用するという話が中心でした。しかし今年は認証系のAPIが見直され,盛んに使われる年になるのではないかとみています。昨年Yahoo JapanはOpenID Connectのサポートを開始しましたが,他のソーシャルメディアにおいても,OpenID Connectがサポートされるかもしれません。なにはともあれ,認証を目的とした連携が中心となると考えられます。

「そんなことならOpenIDは歴史が深いし,前から行われているのでは?」と思ったかもしれません。しかし,今まではOpenID Providerがあれど,そのProvider自体の普及度が低かったなどの理由で,なかなか企業のWebサイトまで組み込まれることは稀でした。FacebookやTwitter,Google,そしてYahoo!などのアカウントを持つユーザがかなり増えてきたこともあり,企業がそういったユーザアイデンティティに魅力を感じる土壌がやっとできてきた,ということになります。

認証がされれば,企業の自社サイトで訪問者が行ったことをソーシャルメディアに投稿し,シェアすることができるようになります。ソーシャルページでは企業側が自主的に情報を投下しなければなりませんが,訪問者が自社サイト上で行ったことを自然な流れで投下できるようになれば,あとはソーシャルメディアが持つバイラル性によって,他のユーザに認識がされていきます。さらにユーザの気持ちがそこに入れば,効果は倍増します。加えて,シェアボタンの設置だけでなく,APIを明示的にコールすることで,工夫されたフィードを飛ばすことができます。あとはフィードの内容をどう工夫するかを考えてれば良いわけです。

上記は一例ですが,こういったシンプルなソーシャル化により,大きな効果を出す企業が今年は増えてくると考えられます。

独自SNSでのプロモーション

ソーシャルマーケティングという言葉は,現在多くの人々が「FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアを使ってあれこれすること」だと考えていると思います。もちろん今年もそれが主流になるでしょう。しかし,それだけではなさそうです。

昨年,レディガガが独自のSNS「Little Monsters」を立ち上げたのはご存じでしょうか? もちろんレディガガは,オフィシャルホームページも持っていますし,TwitterやFacebookも活用しています。それだけでも十分そうですが,さらにどのソーシャルメディアでもない独自のものを開始したのです。

Little Monsters

Little Monsters

画面はPinterestに似ていて,ファンがレディガガに関する写真や動画をアップロードできるようになっています。そのサイト上で画像を加工することができ,ファンの投票によってトップページ掲載されるものが選択されるようです。このサイトは完全招待制で,登録後すぐには使えずに,招待状を待つことになります。

FacebookやTwitterといったソーシャルメディアには,現在非常に多くの企業が押し寄せてきています。その中には,有名人をプロモーションするための芸能事務所も数多くいることでしょう。あるソーシャルメディア上でランキングを上げ,多くのファンを獲得し,そしてフォロワーがいつも注目してくれるフィードを流し続けるのは,かなり難易度の高いことになります。レディガガほどの知名度とソーシャルメディア上での成功があれば,独自にサイトを立ち上げてもそこが活性化すると踏んでいたのでしょう。実際にその思惑は正しかったと言えます。アクティブなファンをちゃんと集客できれば,何も既存のソーシャルメディアにとらわれることはないのです。

日本においても,今年そういった試みを行う有名人が数人出てくると思われます。その誰もが成功するとは思えませんが,日本のベンチャー企業が独自ソーシャルメディアの構築に目をつけ,有名人と組んで挑戦をしたというニュースを,数本目にすることでしょう。

著者プロフィール

田中洋一郎(たなかよういちろう)

株式会社ミクシィ所属。Google API Expert(Social分野担当)。Mash up Award 3rd 3部門同時受賞。書籍「OpenSocial入門」「mixiアプリ開発&運用コンプリートブック」を出版。

Bloghttp://www.eisbahn.jp/yoichiro
Twitter: http://twitter.com/yoichiro

著書