この連載では、OSSコンソーシアム データベース部会のメンバーが、さまざまなオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。
オープンソースカンファレンスがオンラインで大盛り上がり
オープンソースカンファレンス(OSC) は、 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)への対応として、2月の東京春、4月の浜名湖、そして5月予定の名古屋も開催中止となりました。OSSは本来的に多くの人の協力で成り立っているものです。同じ場所に集まることができなくても、共創の場を持ちたいという皆の思いから、オンラインでの開催、「オープンソースカンファレンス2020 Online/Spring」 が4月24日(金)と25日(土)に実現しました。本連載の前号 でお知らせできませんでしたが、実はこのイベントが4月に入ってから決定したものだったからです。スタッフのみなさんは決定から約2週間という全力疾走での準備となりました。
元々Web会議のZoom(ズーム)で開催予定でしたが、募集期間が短いのにもかかわらず参加表明 が数日前には500人を超え(最終的には800名超) 、各トラックが100人では収容しきれないことが明らかでした。そこで急遽、ZoomとYouTubeライブ配信(OSPN.jpチャネル) の組合せとなりました。セミナーは2日間とも3トラック構成でしたが、どのセミナーもほぼ100名かそれ以上、多いもので300名近くの方に聴講いただけた様です。2日目のセミナー修了後は約100名の大規模オンライン懇親会でした。
以下では、 OSSデータベース関連セッションの内容を報告します。OSSコンソーシアム データベース部会でも、オープンソースビジネス推進協議会(OBCI) やその他の企業にも協力をいただいて、セミナーとパネルディスカッションを実施しました。
Apache Cassandra 最前線 ―冨田和孝さん(日本Cassandraコミュニティー/INTHEFOREST 代表取締役)
データベース部会の仲間でもある冨田さんによる、Apache Cassandraの最新情報です。今回は次期メジャーバージョンである4.0のトピックスを解説いただきました。
まず、Java 11がサポートされるようになりました。Java 8とJava 11の両方がサポートされますが、ビルド環境と実行環境の組み合わせでは注意が必要になります。Cassandraの場合に限らず、Javaのバージョンはちょっと面倒な問題です。
システム内部情報をCQL(Cassandra Query Language)で取得する仮想テーブルや、監査ログの実装、クエリログの保存が可能になるなど、安心して運用するための整備がすすんでいる様です。これらはRDB系の定番DBでも発展と共に整備されてきた機能ですので、Cassandraが運用機能の面でもキャッチアップしつつあることの表れでしょう。
この4.0ですが、現在α版の段階で、今後ベータ版、RC版と続き、2020年中か2021年前半に正式リリースされるだろうとのことです。
冨田さんの発表画面(Cassandra Roadmap)
昨今ではデータを取り巻く大変革が起きています。たとえば、データ量の爆発、データタイプの多様化、可変的構成、高速処理要求、分析手段の多様化などです。これら多様なデータを獲物だとすると、獲物が豊富だと捕食者も繁栄することになり、DBの種類も多様化しています。現在世界には14のカテゴリ、355のDBMSが存在します。複数種類のDBの利用(使い分け)があたりまえになりますが、その際にはどの様なデータモデルかが決め手になります。この観点を礎として、MongoDBとNeo4jの概要を解説されました。
MongoDB
ドキュメント型に分類されるMongoDBは、設計・開発のスピードアップにコミットしたDBということになります。JSONの利便性と柔軟性を活かしたデータモデルと、スキーマレスという特徴を持ちます。MongoDBの用語でいうところのEmbedded Data Models(非正規化)を正とし、Normalized Data Models(正規化)を副して、これらを併用することで“ 過不足が無い” 設計が可能になるとのこと。これは、言葉では説明しにくいので、発表のスライド資料などを参照していただくのが良いと思います。
Neo4j
グラフDBの代名詞とも言えるのがNeo4jです。特徴を簡潔に表現すると「非常に複雑なデータ処理に特化したDBである」とのこと。複雑な処理ならRDBだって複雑なことを処理するだろうとも言えますが、聴講内容を筆者流に言い換えてみます。グラフDB的な考え方では「データ分析の大半は複雑な“ つながり” を理解しようとしている」ので、Neo4jはその様な複雑なつながりを処理することが他のDBよりも得意だということでしょう。つまり、複数種類のデータ間の関係は、RDBでは複数テーブルのJOINで実現することになりますが、多数のJOINは性能が大きく悪化します。Neo4jではデータ(ノード)間の関係(リレーション)を効率よく表現できることが長所だということですね。
李さんの発表画面(DBの主要4カテゴリとデータモデル)
OSCでは常連のMySQLセミナーですが、今回は複数種類のDBを並べたトラック構成を踏まえて再入門的な内容となりました。MySQLとはどんなDBなのかを把握できるように、過去から近い将来に向けての全体像をまとめた内容です。たとえば、5.7から8.0に飛んだバージョン番号の逸話や、ライセンスの両立性の話、そして、まもなく開始されるクラウドサービスについて説明しました。また、SQLデータベースとしての面だけでなく、NoSQL APIを持った多機能なDBとしての面についても解説しました。
梶山さんの発表画面(RDBMSとNoSQLデータストアの併用)
その他のセミナーセッション
上記で詳解したセッション以外にも、時系列DBの比較や、OSSデータベースへのマイグレーションの発表がありました。
1日目の最終セッションとして、前述の冨田さん(INTHEFOREST) 、梶山(日本オラクル)に、PostgreSQLスペシャリストとして高塚遙さん(日本PostgreSQLユーザ会 理事/SRA OSS Inc. 日本支社)にもパネリストとして加わっていただき、溝口(TIS)がモデレータとなってパネルディスカッションを行いました。
「多様性時代のDB選択」というテーマの背景には次の様な思いがあります。今ではさまざまな特徴ある優れたOSSデータベースが実用可能なレベルになっているのに、現場、特にエンタープライズ系の現場では、特徴に合わせた使い分けが進んでいないので、その硬直性を打破するきっかけやヒントを得たいという思いです。
パネリストに投げかけた質問の一つは、「 使い慣れた商用RDBに固執する状況に賛成か反対か、または賛成じゃ無いけど同情するか」というものです。これについては、DBを切り替えるのはたいへんなパワーが掛かるので、なかなか思い切って進められないことに同情する(事情は理解できる)という意見が多かった様です。また、それぞれMySQLやPostgreSQL、Cassandraのスペシャリストとして活動している方たちのところには、DBを変えたくないというのとは逆に「早く変えたい」というユーザの相談もあり、「 ゆっくり慎重にやりましょう」とブレーキを掛けるケースすらあるとのことで、逆向きの力が拮抗している様子が見受けられます。
もうひとつ「いろんなDBに目を向けてもらうためには誰を攻めるのがいいと思うか」という質問も投げかけてみました。これについては、「 攻める相手は経営者一択」という意見、「 開発を発注した先(SIerでしょうか)が壁になっている場合が多い(のでそれ以外を攻める) 」という意見、「 ( 既存システムのDBを切り替えるのはしんどいので)新しいビジネスを始めるところから新しい道具を」という意見がありました。OSSの推進が技術者目線・現場目線であることが多いのですが、今以上にビジネス目線で進める重要性が増しているのでしょう。
パネルディスカッション動画配信の様子
さて、今回の様に全員が離れた場所からのパネルディスカッションは、OSCとしても私たち登壇者としても初の試みでした。もしトラブルがあったらその場で考えようという、出たとこ勝負での強行でした。ときどき回線のつながりにくさがあった以外は、予想以上に無事に実施できたと思います。これはOSCを支える事務局とボランティアスタッフの皆さんの献身的なサポートのおかげです。心から感謝いたします。
資料や発表ビデオの公開について
今回の発表資料については、すべてではありませんが、資料公開ページ にまとめられています。また、ZoomおよびYouTubeで配信した動画も、講演者が承諾したものについては順次公開される予定です。
上記で紹介したOSSデータベース関連の情報については、OSSコンソーシアムのWebサイト にもまとめておきます。
[MySQL]2020年4月の主な出来事
2020年4月の製品リリースはありませんでした。
新型コロナウィルスに関する緊急事態宣言にともなう外出自粛要請により、MySQLのセミナーもオンラインでの開催となっています。4月は大好評のパフォーマンスチューニングをテーマにしたセミナーと2020年1月にリリースされたMySQL NDB Cluster 8.0の技術セミナーがZoomを利用したオンラインセミナーが開催されました。それぞれのセミナーの資料はダウンロード可能 となっています。
またMySQL Casual Talksのオンラインイベントも第2回 が開催され、グループ・レプリケーションのベースとなった論文を読み解くというディープなネタやリファレンスマニュアルの中から次のマイナーバージョンに関する情報を見つけることなど、いつものMySQL Casual Talksの雰囲気そのままのオンラインイベントとなっていました。
5月以降も引き続きオンラインでのセミナーが予定されています。
スクウェア・エニックスのMySQL Enterprise Edition導入事例
国内のMySQLセミナーのみならず2018年のOracle OpenWorldや2019年の台湾でのCOSCUPなどさまざまなイベントでMySQLの導入事例の講演をされているスクウェア・エニックスのMySQL Enterprise Edition導入事例 が公開されました。
スクウェア・エニックスではMySQLを数多くのオンラインゲームのバックエンドでMySQLが活用されています。主にMySQL Enterprise Backupによるバックアップ/リカバリ処理時間の短縮などをメリットとして挙げている事例です。世界的なゲームメーカーのMySQL導入事例ということで英語版事例資料もあわせて用意 されています。
[PostgreSQL]2020年4月の主な出来事
今回もPostgreSQL本体や関連ツールで目立ったリリース情報はありませんでした。技術情報ではありませんが、最新情報をいくつかお伝えします。
海外のカンファレンスもオンライン開催で参加のチャンス!?
イベントが通常開催できないのは残念なことなのは間違いありませんが、オンライン開催になると、地理的制約がなくなるというメリットもあります。言葉の壁はありますが、海外のイベントの雰囲気を知る機会としていかがでしょうか。
5月26日から29日に開催される、PostgreSQLの年次世界大会です。前号にて急遽オンライン開催に決定した旨をお知らせしました。オンライン参加の場合の登録方法や料金などは、まだ発表されていません。
PostgreSQLの機能拡張版の販売をしているEnterprise DB社が毎年開催しているイベントも、オンライン開催になりました。6月23日~24日の開催です。登壇予定者一覧からは、いろいろなユーザ企業による事例発表がありそうです。
また、感染症が収束して、通常の形式で集まれるイベントが開催できるようになるのが待たれますので、通常開催が期待できる情報をひとつ。
かなり気の早い話ですが、11月開催予定の「PostgreSQL Conference Japan 2020」が、日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)からもう発表されました。
その他の情報
PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアムの成果物
PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons) は4月から3月を年度として活動しています。例年、5月に前年度の成果を報告するセミナーを開催していますが、今年は通常のセミナー開催ができません。現在、コンソーシアムにて成果の発表の仕方を検討中ですので、あとしばらくお待ちください。3つのワーキンググループ(WG)のひとつ、WG3がどのような成果をまとめているのかがブログとして発表 されています。
技術認定資格 OSS-DB Silver/Goldの有意性の期限の延長(再延長)
前号 で5月1日までの延長をお知らせしましたが、さらに7月1日までの延長が発表 されています。
OSS-DB Silver[Ver.2.0]対応の問題集が発刊
教科書は2019年10月に出版済み でしたが、今回、問題集も発刊されました 。
2020年5月以降開催予定のセミナーやイベント、ユーザ会の活動
本稿は4月27日時点の公開情報に基づいて記載をしていますが、オンラインではない通常開催のセミナーやイベント等は開催が中止になるケースが増えています。ここに掲載した下記のイベントも予定が変更になる可能性がありますので、各セミナーやイベントのWebサイトなどにご注意ください。
日程
2020年5月28日(木)
内容
オラクルのテクノロジーに限定しない、開発者による開発者のための開発者向けコミュニティ Meeutp セミナー「Oracle Code Tokyo Night」の企画として開催されているMySQL Technology Caféの第7回開催。今回のTechnology CafeではOCI+MySQLにフォーカスし、ベータプログラムを開始したMySQL Database Serviceの最新情報をお伝えします。どのようにMySQLをOCI上で効率的に活用できるのかについてイメージしていただればと思います。
主催
Oracle Code Night
日程
2020年5月30日(土)10:00~18:00(通常開催予定だった5月16日から変更になっています)
場所
オンライン会場
内容
オープンソースカンファレンスは、オープンソースの「今」を伝える総合イベントとして、東京だけでなく、北は北海道、南は沖縄まで全国各地で開催しています。セミナープログラムはおおむね開催の1ヵ月前には確定し公開されます。名古屋の通常開催(5月16日予定)は会場の閉鎖期間が延びたために中止となりました。替わりにオンライン版が開催されます。OSSデータベース関連のセミナーについては後日公開されるプログラムをご参照ください。
主催
オープンソースカンファレンス実行委員会
日程
2020年6月27日 ( 土) 10:00-18:00 ( 展示は16:00まで)
場所
ACU札幌 (アスティ45/ACU-A、OSC受付16F)
内容
オープンソースカンファレンスは、オープンソースの「今」を伝える総合イベントとして、東京だけでなく、北は北海道、南は沖縄まで全国各地で開催しています。セミナープログラムはおおむね開催の1ヶ月前には確定し公開されます。OSSデータベース関連のセミナーについては公開されるプログラムをご参照ください。北海道については4月下旬時点では開催の予定になっています。
主催
オープンソースカンファレンス実行委員会