OSSデータベース取り取り時報

第76回 MySQL Database ServiceとHeatWaveの事例,PostgreSQL Conference Japanがオンサイト開催

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この連載はOSSコンソーシアム データベース部会のメンバーがオープンソースデータベースの毎月の出来事をお伝えしています。

[MySQL]2021年11月の主な出来事

2021年11月のMySQLの製品リリースはありませんでした。MySQLのマネージドサービスMySQL Database Serviceでは,Oracle Cloud InfrastructureのIdentity and Access Management(OCI IAM)を利用してMySQLサーバーのユーザーアカウントを集中管理できるようになりました。MySQL Database Serviceにauthentication_ociプラグインが追加され,mysqlクライアントプログラムやMySQL Shellや各Connector側でもOCI API Keyを渡すことでOCI IAMを利用した認証が可能となります。

MySQL Database ServiceとHeatWaveの導入事例

2021年11月中旬には3つのオンラインイベントで,MySQL Database ServiceとHeatWaveの導入事例について,サービスを実際にご利用されているお客様が講演されました。

Oracle Cloud Days 2021でのお客様講演

日本オラクルが主催したイベントでは以下の3つの講演でMySQL Database ServiceおよびHeatWaveの事例講演がありました。このイベントにおける講演はイベントサイトにて動画が視聴可能になっていますのでぜひご確認ください。

1.トヨタ自動車株式会社でのHeatWave検証事例

コネクティッドカーの普及とつながることによる利便性の向上を推進し,新しいモビリティ社会の創造を推進する同社において,新たなAIアルゴリズム開発の中で求められる機械学習の前処理を効率化する基盤としてMySQL HeatWaveが候補として取り上げられました。検証としては他社の分析基盤やRedisとの性能比較が行われ,多くのテストにおいてHeatWaveが高い費用対効果を有していることが確認されたと報告されていました。

2.株式会社りらくにおけるAWSからのマイグレーション事例

全国で600店舗を超えるリラクゼーション店を展開する株式会社りらくでは,セラピストや予約情報,店舗を利用する会員の情報を管理するサブシステムが乱立していました。DBを統合してデータの一元管理することを目的にMySQL Database Serviceを導入し,またETLツールを使わずにデータ分析を高速に実行するためにHeatWaveの採用を決めました。マイグレーションにより関連するシステムのコストは半減し,オンラインシステムの画面表示の高速化され,バッチ処理時間が最大で10分の1に短縮するなどの効果を上げています。

3.株式会社ファンコミュニケーションズにおけるマイグレーション事例

300万サイト以上に24時間365日「アフィリエイト広告」を提供するサービスプロバイダであるファンコミュニケーションズでは,基幹システムをAWS RDS for OracleからOCIのAutonomous Databaseに,分析システムをAWS AuroraからMySQL HeatWaveにマイグレーションし,元の環境で課題となっていた性能不足を解消。さらに運用負荷の軽減を実現しました。HeatWaveを利用することでこれまで性能が課題となり実行できなかったSQLも数秒以内で返ってくる環境を利用でき,コストの面でも予算内に収まる点を評価されていました。

db tech showcase 2021でのMySQL導入事例講演

データベースエンジニアの祭典ともいえるdb tech showcaseでは,データベースの専門集団である株式会社データベーステクノロジが構築を担当したMySQL Database Serviceの導入事例として,高野豆腐の「新あさひ豆腐」や即席みそ汁の「生みそずい」でもおなじみの旭松食品株式会社での需給管理などのクラウド化が紹介されていました。またデータベーステクノロジが行った検証におけるMySQL Database ServiceのRDSに対する性能や拡張性の優位性も紹介されており,特に同時接続数が増加した場合にMySQL Database Serviceは性能を落とさずに処理し続けられる点が強調されていました。

ASEAN Cloud Connectでのお客様講演

Oracle Cloud Infrastructureの33番目のリージョンとしてシンガポール・リージョンが開設されました。2021年11月末現在は全世界で34のリージョンを展開中です。

Oracle Cloud Infrastructureのリージョン

Oracle Cloud Infrastructureのリージョン

シンガポールリージョンの開設を記念したイベントとしてASEAN Cloud Connectが開催され,このなかでMySQL Database Serviceの導入事例としてパキスタンのソフトウェア開発企業CWare Technologyが講演し,オンプレミスでもクラウドでも同じデータベースを利用でき,互換性の心配がいらないMySQLとMySQL Database Serviceの安心感を選定理由として挙げていました。ちなみにこれまでMySQLの公開事例にパキスタン企業は無かったため,MySQL Database Serviceの導入事例が同国での初の事例となりました。

[PostgreSQL]2021年11月の主な出来事

11月は主要なイベントであるPostgreSQL Conference Japan 2021とdb tech showcase 2021が開催されましたので,それらの様子をお伝えします。また,リリースされたばかりのバージョン14を含めマイナーバージョンがリリースされています。そして,バージョン9.xの最後のメジャーバージョンである9.6がいよいよサポート終了となります。

PostgreSQL Conference Japan 2021がオンサイト開催

11月12日に日本PostgreSQLユーザ会(JPUG)の秋の恒例行事である「PostgreSQL Conference Japan 2021」が開催されました。昨年も幸いなことに会場での開催が実現したのですが,今年もオンラインではなく会場でのオンサイト開催が実現しました。十分に余裕のある広めの会場で,受講証を兼ねたマスクを全員に配布するなどの,入念な感染対策を施しての開催でした。多くの講演資料は公式Webサイトのプログラムセクションで公開されています。ここでは午後のセッションから3つを紹介します。

参加者全員に配られた受講証を兼ねたマスク(昨年からバージョンアップ)「かめすい」

参加者全員に配られた受講証を兼ねたマスク(昨年からバージョンアップ)と「かめすい」

商用運用ができる実践的PostgreSQL技術者の育成

PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons)メンバである富士通Japan,多田明弘さんによる発表です。PGEConsの技術部会の活動としてPostgreSQL自習書を作成して公開しています。PGEConsがアンケート調査をした結果,PostgreSQLをもっとミッションクリティカルな領域に採用するための課題として,エンジニア不足が大きな比率を占めていることを受けて取り組んだ結果です。そして,自習する際のスタートラインとして,データベースをゼロから学ぶのではなくて,別の商用DBMSをある程度知っているエンジニアをターゲットとしました。

このセッションではこの自習書に記載されているノウハウの例も紹介されました。遭遇しそうな技術トラブルの対処ノウハウを,異種DBMSでよく使う用語やノウハウと対比をすることで,簡潔でわかりやすくなることが示されています。

Citusを使って分散列指向データベースを作ってみよう

日本ヒューレット・パッカード合同会社,篠田典良さんの発表です。⁠Citus」という名称は,AzureのHyperscaleを実現するものとして認知されている方も多いでしょう。もちろんそれは正しいのですが,Azureでサービスとして提供されるものだけではなく,オープンソースとしても公開されていることをこのセッションで知ることができました。したがって,自分たちでオンプレミス環境にて構築したPostgreSQLクラスタ環境にもCitusを導入することができるのです。もちろん必要な規模のサーバ環境を用意したり,環境構築作業を実施する必要があるので,クラウドサービスを利用した方が手っ取り早いのはたしかでしょう。

このセッションでは,Citusのインスタンス構成やテーブル構成がどのようになるのかの説明から,環境構築やテーブル作成,パーティション作成のコマンド操作などを具体例を示して解説されました。実際にCitusを使って見る際に,今回の説明はたいへんに参考になりそうです。

Google CloudにおけるPostgreSQLの使い方

Google Cloud 江川大地さんによる発表です。DBサーバにマネージドサービスを利用することで,DBサーバを構築,運用する際のインストールやバージョンアップなどいろんな作業を,クラウドベンダにオフロードして(肩代わりしてもらって)手間を減らすことができることが大きなメリットになります。このセッションは,Google Cloudで提供されるマネージドデータベースサービスのCloud SQLとCloud Spannerについての,PostgreSQL視点からの解説です。

Cloud SQLでは普通のPostgreSQLが利用できますが,Google Cloudが提供する各種サービス,例えばBigQueryなどとの親和性が特徴です。

Cloud Spannerは,大規模分散処理を実現するGoogle独自のリレーショナルデータベースであり,基本的にPostgreSQLとは別物です。このCloud SpannerにPostgreSQL互換のインタフェースが提供されました。これによってPostgreSQLで使い慣れたツールやノウハウを活用しながら,高い高可用性を実現できるというのがアピールポイントです。今回のセッションではこれを「Cloud Spannerの民主化」と呼んでいました。

著者プロフィール

梶山隆輔

MySQL Sales Consulting Senior Manager。

日本オラクル(株)において,MySQLのお客様環境への導入支援や製品の技術解説を担当するセールスコンサルタントチームのアジア太平洋地域リーダー。多国籍なMySQL部門にて,オーストラリア,インド,台湾などに在籍するチームメンバーを束ね,アジア太平洋地域の25以上の国や地域でのMySQL普及やビジネスの拡大をミッションとする。


溝口則行(みぞぐちのりゆき)

TIS株式会社

OSSコンソーシアム副会長兼データベース部会リーダ。他に,PostgreSQLエンタープライズ・コンソーシアム(PGECons),日本OSS推進フォーラム(JOPF)にも参画。また,OSS推進活動の他に,日本のIT業界がDX(デジタルトランスフォーメーション)の波の藻屑とならないように,DX推進と変革に微力ながら勤しむ。