テストエンジニアのコミュニティ活動のススメ

第2回コミュニティ活動の日常

前回は、TestLink日本語化部会の活動の概略を説明させていただきました。今回は、普段の活動の様子をエピソードを交えながら紹介します。

普段の活動の様子

私たちTestLink日本語化部会は主にメーリングリストで活動しています。かなり活発にメールがやり取りされていて、1年間で流れたメールは4500通以上。⁠何かあったらとりあえずメーリングリストへ!」というのが定型のスタイルになっています。

また、メーリングリストと対をなす、愛用ツールにWikiがあります。もともとは、フリーのWikiにTestLinkのソースコードを貼り付けて作業をしていました。部会立ち上げ時から「みんなでワイワイと、お手軽にWiki上でできれば」が方針となっていました。そのため、情報発信は独自ドメインのWebページ、リリース物件管理はSourceForge.JPへと移行した現在においても、部内の決定事項は Wiki上に記録されています。また、タスク管理も、「はてな」あしかの形式をWiki上で再現することで実現するなど、至る所でWikiが活用されています。

それではここで、メーリングリストとWikiを使った実際の作業の例を見ていきましょう。

まずは、一番初めの作業となった、TestLink 1.7のメニューの日本語化です。最初は、英語でかかれたメニューの言語ファイルをWikiに貼りつけて、みんなで好きなところを好きなだけ日本語に翻訳していました。疑問点があれば、メーリングリストに質問し、誰かが自然に回答することで作業が進みました。

続いて、TestLink 1.7のヘルプファイルとマニュアルの日本語化を行いました。こちらは分量があるため、まず、英文をwikiに貼り、別なページに章の一覧とその章の翻訳状況を書くようにしました。このように、XPのタスクカンバンのように作業を小分けにしました。翻訳状況は以下のように遷移していきます。

「未⁠⁠→⁠翻訳中⁠⁠→⁠翻訳指摘侍⁠⁠→⁠終了」

翻訳したいと思った人は、翻訳状況が「未」の章を選び、ステータスを「翻訳中」とすることで作業の競合を防ぎます。翻訳が完了するとステータスを「翻訳指摘侍」にしてメーリングリストに連絡します。レビューア「侍」もまた決まった担当者がいるわけではなく、斬りたい(レビューコメントをしたい)人がメーリングリストにコメントを返信します。

ここで、⁠翻訳指摘【待⁠⁠」ではなく「翻訳指摘⁠」なのもユニークなところです。いつの間にか、レビューアのことをサムライと呼ぶようになりました。このように楽しく作業することができています。また、訳語の検討も専用のページをWiki上に設け、一覧を作り候補をあげ、どの訳語が適しているか多数決を取る、という方式をとりました。これらの作業状況は実際のWikiページから参照することができます。

さらに、商用誌掲載用の原稿もWiki上で執筆作業を行いました。ソフトウェアテストPRESS Vol.6に掲載された原稿の場合は、まず章立てを考えました。その後、章ごとに「奉行」と呼ばれる担当者の立候補を募り、⁠奉行」を中心に記事を執筆しました。⁠奉行という名称も侍にちなんで付けられました⁠⁠。この記事は、部会内メンバのみが閲覧できるWikiページ上に保存され、全員で共有。さらに、その記事を他の人がレビューすることで、執筆作業をしていきました。

その他のツールとしては、最近Google Docsを試しています。JaSST'08 Kansaiのチュートリアルで使用した発表用スライドを、Google Docsのオンライン共同編集機能を使って作ってみましたが、すごく便利で好評でした。メーリングリスト、Wikiに続いて、第3の主要ツールになるかもしれません。

それ以外にもオフ会を開催したり、SourceForge.JPのサービスを利用してユーザーメーリングリストを運用したりしています。いずれにしろ、部会での作業は楽しく進めています。コミュニケーションの楽しさと、メールやWikiといったツールの便利さが相まって、コミュニティでの作業が加速されているようです。

コミュニティ活動でのエピソード

ここでは、コミュニティで活動する中で、楽しかったこと、大変だったこと、役に立ったことなどのエピソードを紹介します。以下はメンバー各人が記載しました。

Test Task ForceでのSeleniumテスト担当
私は主にTTFでSeleniumのテストを担当しています。私はテスト専門会社に勤めていてWeb系、組み込み系問わず色々な製品のテストをしていますが、Seleniumは普段はあまり使っていませんでした。こういったオープンソースの活動では自分の勉強したいことを自由に試すことができ、さらに人に喜んでもらえるので一石二鳥です。ソフトウェア開発やテスト活動は業務以外でも(やる気さえあれば)比較的簡単に行えますので自身のスキルアップという意味でも参加してみてはいかがでしょうか?
TestLinkの翻訳を担当
翻訳の作業はほとんどの部会メンバーが関わってきた作業です。オンライン上で分業する経験と、自分の翻訳に対し、レビューを行ってもらえるという特典を得られることが最大のメリットと言えるでしょう。レビューは時折(どちらかというと頻繁に?)余談を交えつつ、楽しく検討し合える雰囲気作りが自然と行われています。英語力とコミュニケーション能力を鍛えるのに大いに役立つと思います。
仕事でTestLinkを導入するための試行
発足のきっかけがTestLinkを業務に導入しようということであったように、部会のメンバーの中には実際TestLinkを導入していたり、導入すべく試行している人も多いです。私は、自社の工程管理基幹システムの内作をしている会社に勤めておりますが、工程管理基幹システムを主とし、Web系等も含め内作ですので、開発-リリース前テストの効率向上を日々考えており、今回TestLinkを試行中です。

当社にも、今までの会社の思想、コンセプト等しがらみがありますが、TestLinkの導入の効果と比較すると、その壁を打破する価値はあると思って導入に取り組んでおります。わからないことやトラブルが発生したとき、メーリングリストに投稿するとメンバーが親身になって回答します。そしてそれらはFAQとしてWeb上に公開されています。 一人では途方に暮れてしまったかもしれません。気軽に質問や相談する相手がいることの大切さを実感できる部会だと思います。
JaSST08での事例発表やチュートリアルの講師
JaSST'08 TokyoJaSST'08 KansaiにてTestLink日本語化部会で事例発表やチュートリアルを開催しました。発表用原稿作りは最初Google Docsを使ってオンライン共有でみんなで作りました。講師以外にもメンバーが参加して、受講者のフォローをして頂きました。準備や打ち合わせなど色々大変でしたが、とても楽しい経験をさせていただきました。
部会リソースの管理者
インターネット上でのWikiやXoops、Google Docsによる情報共有など分散開発用のツールがいろいろ使えて楽しいです。また、管理者としてSourceForge.JPを使ったのは初めてだったので、いろいろと勉強になりました。

メールの多さとイベントの締切

メンバーがあまりに積極的にメール投稿をするため、多いときには1日に50件を超えるメールが飛び交います(過去最高で86通⁠⁠。業務とは別の活動ゆえ、メールのやり取りを追っていくのはなかなか大変です。また、JaSSTや『ソフトウェアテストPRESS』の原稿など、それぞれのイベントは締切があるので大変でした。これまでいろんなイベントを無事乗り越えてこれたのは、他の部会のメンバーのおかげです。

また、部会がこなしたイベントでは文章を書くことが多いです。書いた文章や翻訳文のレビューは部会のメンバーによって行いますが、これらが文章の作成スキル、レビュースキルの向上に役立っていると感じます。このように大変な中で活動することで、身に付けられたスキルも多いと思います。

前回と今回で、私たちの普段の活動の概略はわかっていただけたのではないでしょうか。そこで、次回以降は個人の視点にフォーカスし「テストエンジニアのコミュニティ活動」について深めていきたいと思います。

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