概要
「もっとデータを活用して業績アップ」
「データドリブンで事業をもっと大きく」
このようにデータが重要といわれる現代では,一人一人がデータとの向き合い方を会得し,自分自身の意思と判断力を持つために「データリテラシー」を身に付けることが必要です。
データリテラシーとは,データ活用の意味から理解し,人間がデータとどう向き合うのかという視点で,どのような役割を担う人にとっても今必要なデータにまつわる知識です。データベースやSQL,難しいシステム,あるいはデータを可視化するデザインの話だけではありません。
本書は,著者が創設した「Tableauブートキャンプ」における師と弟子の対話を元に,8年間かけて会得したノウハウ・考え方をまとめあげた本です。
「データとはなにか」
「データを使ってどのように改善するのか」
「データを可視化して人々を動かすにはどうすればよいか」
これらの観点から,技術的な専門知識だけではない,データ活用の本質を考えます。
著者から一言
本書はすべての人が持つべき基礎的なデータリテラシーについて記した本です。
データが重要と言われ,久しい世の中になりました。しかし,私たちはなぜデータを資源と呼ぶようになったのでしょうか。データの量が増えたから? データの種類が増えたから? それは結果に過ぎません。
ビジネスにおいては,対面する顧客が目の前に物理的に存在しているケースは驚くほど少なくなりました。Web会議,Eコマースサイトの買い物客,IoTのデータなど,目の前にいるものを相手取ることは激減しています。さらに,今このコロナ禍という未曾有の事態により,自分と相手のいる場所が異なるケースはますます増えていくことも明確になりました。
では,判断するべき対象が目の前からほとんど消え失せている今,私たちはいったい何をもとに判断を下すのか? それがまさしくデータなのです。
データには,過去から現在のさまざまな履歴が記録されています。自分とは遠く離れた場所のことも記録されています。データを見ることで,時空間を超えて判断するべき対象の状態を,同時かつ即時に理解できるのです。
使えるのであれば使うというのが人の性でしょう。みなさんが意図しているかどうかに関わらず,みなさんと周囲の方々は生きているだけでデータを生成し,そのデータは数多の組織によって収集されています。そして,すでに世界はデータを通して理解され,次のアクションが導き出されています。
そう,すでに使える人はデータを使っているのです。
ただし,残念ながらそれはすべての人ではありません。このまま何もしなければ,ごく一部のデータを使いこなせる人たちにすべての意思決定を委ねる格差社会が到来するでしょう。しかし,それはあまりにも寂しい世界です。私は,すべての人がデータによる恩恵を受け,多様性があふれるコラボレーションによる発展的な世界へ向かうためにこの本を執筆しました。
本書で語るデータリテラシーというのは,リテラシー(読み書き能力)というまさに言葉の知識です。すなわち,データを通して世界を理解する新しい言葉の使い方です。
データリテラシーというと「SQLが書けるようになることかな?」「難しいシステムの話が出てくるかな?」と心配されるかもしれません。しかし,本書はいわゆる技術書とは異なります。技術的な話よりは,データ活用の本質から理解し,あくまでもすべての人がデータとどう向き合うのかという視点で,どんな背景を持つ方でも,どのような役割を担う方にとっても今必要なデータにまつわる知識をまとめました。
私が本書で記すことは,これまで私が出会ったTableauやSnowflakeというデータを取り巻くプロダクト,そしてそれらを中心に集まったコミュニティで出会った人々から8年近くかかって会得したものです。私自身もだれかの経験を自分に蓄積することで8年以上の知識を継承してきた自覚があります。一方でデータの重要性が加速度的に増す中,これからデータについて勉強したいと思う人が8年かけて1から勉強するのでは,どう考えても間に合わないでしょう。そこで,この本は私の8年間のうち,すべての人が知っておくべきデータリテラシーの部分を圧縮してまとめました。
この本によって多くの人が遠回りせずにデータリテラシーを会得し,データがあふれるこの世界の中で,自分の意思を持ち歩み出せるようになることを期待しています。
この本は,かつて私が教わったたくさんの師との対話と,私自身が師として愛する弟子たちに伝えた対話が元になっています。そのため,これまでに出会ったすべての方々へ敬意を表し,「Apprentice(弟子)」と「Master(師)」の対話で進んでいきます。この本の読むみなさんは,ぜひ自分も1人のApprenticeとなってデータリテラシーを学ぶ旅に出発してください。その旅は険しく,長いようでいて,同時に最高に楽しくあっという間に過ぎ去ってしまう日々になることでしょう。
願わくは,この本がデータの海に溺れ,迷う人の道標となりますように。
(本書「はじめに」より抜粋)