Android Weekly Topics

2021年8月第2週3番目のポストは元から存在しない? モバイルOS温故知新(2)

前回からの続きです。

Palmが開発したwebOSは、前回でも触れましたがLinuxとWeb Kitを中核技術としているOSです。

webOSは、2009年にPalmが自社開発のスマートフォン「Palm Pre」に搭載してリリースしました。このPalm Preは、ディスプレイをスライドすると下から親指打ちのキーボードが登場する搭載した端末でした。同じ年には、BlackBerryに似た見た目で、ディスプレイの下に親指打ちのキーボードを搭載したPalm Pixiが登場します。

HPに買収された後の2011年には、webOSとしては初めてとなるタブレットの「HP TouchPad」「HP Veer」「HP Pre3」とともにリリースされます。この頃は、iPad 2が登場するなどタブレットが盛り上がりを見せた頃で、HPもこの潮流にうまく乗っかった形になります。しかし、この後は、エンタープライズ事業に集中するために、世界1位を誇るPC事業の売却が検討されるなど、ゴタゴタに巻き込まれることになります。

こうした状況では製品が正しい方向へ進化するはずもなく、webOSを搭載したタブレットもTouchPadの1代限りとなり、後継のハードウェアの開発も行わないと発表されました。当時は、OSのライセンス事業も計画されていたようですが、結局うまく行くことはなく、webOSを持て余してオープンソース化の戦略を取ることになります。

今を先取りしたアプリ開発環境

webOSのアプリ開発がどういったものだったかも見ていきます。

webOSは、Web技術を基盤としているので、荒っぽく言えばOSがブラウザのようなもので、ここでWebアプリが動作していようなものです。よって、アプリ開発もWebアプリと同じでHTML/CSSとJavaScript、いわゆるHTML5を使います。Palmには先見の目があるメンバーが揃っていたのか、今はWeb全盛となりアプリの多くは、こうしたWeb技術で開発されています。

当時のモバイルアプリは、PCと比較するとリソースの限られたハードウェアでアプリを実行するので、ネイティブアプリをC/C++で開発するのが当たり前と考えられていました。Web技術を主とするのは将来を見据えた戦略ともいえますが、賭けとも言える決断だったはずです。

しかし、最初の端末「Palm Pre」が登場した2009年当時は、こうしたOSの作りや開発環境を懐疑的に見ていた目があって時期尚早との評価が一般的でした。パフォーマンスの問題を抱えていたのも事実で、最後の端末のTouchPadは、SoCがQualcomm Snapdragon S3 1.2GHz 2 coreでRAMは1GBでしたが、これでもサクサクと動作しているとは言えませんでした。余談ですが、TouchPadにハッキングしてインストールしたAndroidの方が快適に動作したので、ハードウェアの問題ではなく、ソフトウェアの最適化が進んでいないと話題になりました。

当時は、今のようにアプリ開発のフレームワークが選べるような状況ではなかったので、Palmがアプリ開発用のフレームワークとして「Palm Mojo SDK」をリリースしています。

これは、webOS 3.0を搭載したTouchPadの登場に合わせて「Enyo」呼ばれる新たなフレームワークに切り替わります。EnyoのファーストバージョンはTouchPadに特化していましたが、その後リリースされたEnyo 2では、iOSやAndroid、Safari、Firefox、ChromeのWebブラウザーで、Webアプリ開発のフレームワークとしても使えるようになりました。Enyoは、githubにソースコードが公開されていますが、残念ながら広く使われているとは言えません。

こうしたフレームワークでは、JavaScriptからOSや端末機能に対して、JSONベースのメッセージングシステムでアクセスできていました。また、各種イベントはDOMに基づくモデルが使われているので、今のWebアプリを開発する手法と同じでした。こうした、今でも通じる技術を選択しているところに、当時の開発メンバーのセンスの良さに驚かされます。

今は、Webサイト用とスマホ用(AndroidとiOS)と個別にアプリを作るのが当たり前ですが、時代が違っていれば、Webサイト用とスマホ用(webOS)に、個別にアプリを書く必要はなかった可能性もあります。

今週は、このあたりで、また来週。

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