新型コロナウイルス感染拡大、緊急事態宣言期間を経て、一躍注目されるようになったテレワーク。もともと下地があったためスムーズに実行できた企業が脚光を浴びた一方、大半の企業は急な対応を迫られたのが現実だ。
社会レベルで働き方の移行が進むと、評価される人材の姿もこれまでと変わってくる。テレワークが広まった社会では、優秀な人材の定義が変わるだけでなく、組織に必要とされる人とそうでない人の差が大きくなっていく。
テレワークが普及した世の中で、評価される人とされない人の違いは何か? 対応できなかった人には、どのような未来が待っているのか? 今回は、これから着実に進行する「人材の二極化」について考察する。
テレワーク対応に四苦八苦する企業
2020年4月7日に政府から緊急事態宣言が出されたことにより、企業はテレワークの導入を余儀なくされた。
すでに2~3年前から、東京オリンピック(延期されてしまったが)期間中の混雑緩和や、少子高齢化に伴う地方人材の活用、子育て・介護と仕事の両立、多様な働き方を認めることによる優秀な人材の確保など、さまざまな文脈の中でテレワークの必要性は認識されていた。
今回のコロナ禍においても、就業規則や運用ルールの整備、研修などすでに取り組みを進めていた企業は特に影響を受けなかった一方で、(職種としてテレワークが可能であるにもかかわらず)さまざまな理由を並べてテレワークに後ろ向きだった企業は、対応に四苦八苦することになった。
著名な大企業でありながら、感染の危険を承知の上で輪番出社させたり、全社員を自宅待機にしたのはいいが、社員はメールチェックくらいしかできず、事実上、業務が止まってしまった企業もあったようだ。もっとも、5月25日に首都圏と北海道で緊急事態宣言が解除され、テレワークをしていた人たちが出社を再開できるようになり、そのような企業は胸を撫で下ろしているだろう。
テレワークへの「賛否」を分けるもの
そのような中、Googleは約3000人のオフィスワーカーを対象に4月28日〜30日に実施したテレワークの意識調査の結果を発表した。調査の結果、新型コロナウイルス拡大の懸念が収まった後も、テレワークを「続けたい」「やや続けたい」と答えた人は49.3%で、「続けたくない」「あまり続けたくない」の23.1%を大きく上回ることになった。
同様に、日本生産性本部が1100名の雇用者を対象に5月11日〜13日に実施した意識調査の結果でも、新型コロナウイルス収束後もテレワークを継続したいかについては、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と答えた人は62.7%だった。
なぜこれだけ多くの人たちからテレワークが支持されたのか。さまざまな調査結果を見るに、通勤ラッシュから解放されたことや、通勤時間が無くなった分プライベートの時間が増えたことなどが歓迎されているようである。しかし、それだけの理由でテレワークを続けたいと考えているなら、考えを改める必要がある。
緊急事態宣言は一旦解除されたものの、再度感染が拡大して医療機関が逼迫する事態になれば再指定はあり得るし、そもそも、新型コロナウィルスに関係なく社会はテレワークに向かって進んでいる。では、今以上にテレワークが進んだ社会では、労働のあり方はどう変化していくのだろうか。
テレワークで評価が「下がる人」と「上がる人」の違い
まず、社員の評価は、成果物などのアウトプットや売上などの数字が出せるかどうかで、優秀かそうでないか判断されることになる。
勤務時間の8時間、デスクに向かって電卓を叩いて何度も計算をし直してExcelに数字を入力している人。いろいろな会議に参加して評論的なコメントをするだけで、いつもデスクと会議室を行き来している人。何か一生懸命にやっている感、真面目にやっている感を演出することに長けた人物は、世の中至るところに存在してきた。
テレワークをきっかけに評価が下がるのは、まさにこうした人々だ。その人の様子が周りから見えず、会議も気軽には開催されない環境では、「仕事を頼んでも全然アウトプットが出てこない人」、「何をしているのかわからない人」として徐々に居場所を失っていくだろう。
一方で、以前より評価が上がる人材も出てくる。ExcelのマクロやRPA(人の手作業で行っていた定型業務の自動化)を活用して、電卓で計算する人が8時間かけていた作業を1分で終わらせてしまう人や、無駄な会議に参加せず、パソコンに向かって黙々と成果物を作り続けていた人などだ。
このような人たちは、これまでは勤務態度が不真面目だ、協調性がない、というように正当に評価されなかったかもしれない。だが、テレワークが進んだ社会では、そのようにアウトプットを迅速に的確に出せる人こそが優秀な人として評価されるのだ。
テレワークで進む「人材の二極化」
そうなれば、優秀な人のモチベーションは上がり、生産性も高まることになる。効率的に成果を出せる人が、余った時間で副業を始めるケースもあるだろう(会社が副業を禁止できるのは、労務提供上の支障がある場合などの例外的な場合のみであり、原則として副業は認められている)。副業が一般的になれば、一つの会社に雇用されてそこでだけ働くのではなく、複数の会社から業務を委託されて働く人が増え、雇用と業務委託の境界は薄まっていく。
テレワークが進んだ社会では、アウトプットや数字を出せる人とそうでない人との二極化が進んで、前者の人はやりたい仕事を選べるにようになる一方で、後者の人は本当に仕事が無くなるだろう。現在の日本の労働法では、社員の解雇は例外的な場合しか認められないが、欧米のような金銭解雇(一定の金銭を社員に支払うことで解雇できる制度)が仮に将来法制化されれば、後者の人は職を失うことになってしまう。
企業だけでなく個人にとっても「生き残り」がかかってくる以上、必要な知識のインプットや仕事の進め方の変化からは誰しも逃れられない。ならば一刻も早く動き出したほうが確実に有利だ。そのためにもテレワークに関して正確に理解する必要がある。
今回筆者が法律監修を務めた『テレワークをはじめよう』は、テレワークの基礎知識や法律、テレワークで使えるツールやサービス、生産性向上のための考え方など、テレワークを導入する企業、テレワークで働く人にとって役立つ情報が網羅されている。「自分の職場は関係ない」と言わず、ぜひできるところから取り組みを始めてもらいたい。