連載
『電網恢々疎にして漏らさず網界辞典』準備室!
大手ネット企業の代表成田晋(なりたしん)は,ブラック企業,成り上がりと呼ばれることに怒りを感じていた。それっぽいことをゴーストライターに書いてもらった本を出版し,わかったふうな経営訓をメディアに垂れ流しても心は晴れなかった。どこまでいってもコンプレックスは消えない。血筋のいいネット経営者たちとは,なにかが違う。彼らの多くは海外生活が長く,英語が達者だが,漢字すら読めない。漢字の読み書きができる自分がバカにされる所以はないと成田はますます怒った。成田も英語を学んでみたが,落ち着きがないのですぐに挫折した。
成田は,ネットを通じて世界を網羅するまったく新しい辞典を作ることを決意する。それが「電網恢々疎にして漏らさず網界辞典」だ。莫大な予算を注ぎ込んだ一大プロジェクトを企画したものの,失敗することは誰の目にも明らかだった。そこで番頭役の専務が機転を利かせて小規模の窓際プロジェクトに矮小化して経営への負荷をかけないようにした。
プロジェクトメンバーに抜擢されたのは社内のはぐれ者メンバー4人。そんなこととは知らず,網界辞典準備室にやってきた。
室長は番頭役の専務宮内亮一(みやうちりょういち)だが,実務は室長代行の和田安里香(わだありか)が務める。和田は,ぽっちゃり眼鏡の人気者にして,怖いもの知らずの論理展開と実務的な手腕でいちもく置かれていた。
宮内は,和田に適当にサブカルでもやってお茶を濁せと命じる。それを聞いた和田は好き勝手に遊ぶことをひそかに決意し,常識と倫理を隅田川に投げ捨てる。
ひとくせもふたくせもある室員を前にした和田は,4人それぞれを寓話,法則,処理系,実例担当に任命し,テーマごとにレポートを書くように命じた。
かくして大手ネット企業を舞台に,奇妙な辞典作りがスタートした。
※本連載はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ありません。
- 第43話 『ブレードランナー』ドキュメントはネクロノミコンとなり,会社はインスマスと化し,ワインバーグの子供が産まれる。最終回&勝手アンケート
2015年7月21日
- 第42話 『羊たちの沈黙』どのようなシステムも究極的には正しく動作することを誰も保証できないという真理に目を背けるシステム屋は,致死量ドーリス。
2015年7月10日
- 第41話 『キャリー』和田はワインバーグのごとき叡智をつむぎ,堕姫縷は「すべてのIT企業は,マゾの雌豚の支配するSMアニマルファーム」と断じる。
2015年7月3日
- 第40話 『ヘルタースケルター』再帰的解法で世界が再生産される世界は,メタ数学の系譜につらなる世界解釈により,世界を破壊する。「“真理”を内包する世界は存在しえない。不完全な世界を愛するのだ」
2015年6月22日
- 第39話 『遊星より愛をこめて』感情防壁に対するアクティブ攻撃により,オキュラスは自縄の檻と化し,五感に基づくインタフェースを無効化される。
2015年6月12日
- 第38話 『ベティ・ブルー』オペレータ依存型のシステムの脆弱性を突いて,スーパードルフィーが舞い降り,常闇のアザトースの世界が顕現する。
2015年6月5日
- 第37話 『カウボーイゾンビ』岡崎京子展で充電した篠田は,ドローン操縦者にメンタル問題がある以上,オペレータ依存型防御機構の脆弱性は今後の戦略課題になると指摘する。
2015年5月14日
- 第36話 『ミックマック』バイタライトの光が堕姫縷の横顔を照らす時,曲芸士以上にレアで強力な歪莉というキャラはプラグスーツを身につけて出征し,水野はメンヘラ蟻地獄の講義を受ける。
2015年4月22日
- 第35話 『スーパー!』シンキングマシンズ社の漆黒の正六面体はマービン・ミンスキーを彷彿させ,TOYOTA2000GTがGPSハッキングによる時間攪乱攻撃を実現する。
2015年3月31日
- 第34話 『恋の罪』マルウェア産業革命を夢見る堕姫縷は,クレブス氏の『スパムネイション』を片手にギークハウスに思いをはせ,余市のカスクとマイスリーとエリミンをカクテルし,スカボロフェアを聴く。
2015年3月20日
- 第33話 『恋の罪』コペンハーゲン解釈に基づく多重世界は現象学的還元によって接近し,「生まれて初めてのお泊まりで発狂したら悲しすぎます」と『狂気の歴史』はドグラマグラ・シンドロームを呼び覚ます。
2015年3月13日
- 第32話 『アマルコルド』革命活動と温泉巡りに血道を上げる篠田は,NRJ47に反対し,歪莉はマルティン・ブーバーと対話し空中浮遊を試みる。
2015年2月13日
- 第31話 『世界の涯て』ウェアラブルデバイスに対するオペレータ依存型防御機構について内山が解説し,パントマイムの王子様はフィリップ・ジャンティに憑依されたパフォーマンスを見せる。
2015年2月6日
- 第30話 『歌麿 夢と知りせば』デパスに溺れたITプロレタリアートの悲哀は時代が安田講堂事件から秋葉原通り魔事件に変わったことを示唆し,サイバー自動迎撃システム=モンスターマインドは誤検知によって世界大戦の引き金となる。
2014年12月25日
- 第29話 『コントラクト・キラー』 システム屋の絶望再生産工場がITプロレタリアートを大量生産し,『昔ヒロポン,今デパス』の再収奪過程を加速する常習薬となる
2014年12月17日
- 第28話 『プレスリーVSミイラ男』イカ煎餅シャムシエルが「えすくれめんとぉぉぉ」と叫んで現象学少女をぼこ殴りするリョナ展開に妖精事務員たみこは敗退し,世界は「ザ・ブック」に回収される
2014年11月19日
- 第27話 『ライフ・オブ・ブライアン』妖精事務員たみこが脳内風景をスキップする時,F通は1円入札しサバンナの鹿を見た和田は手紙を書くことにする。
2014年10月31日
- 第26話 『未来世紀ブラジル』倉橋歪莉は拘束衣を着て現象学的に臨む。電影クロスゲージの明度は20でエネルギー充填する時,現象学少女は妖精事務員たみこに変身する。それはまるでカフカ的様相を呈している日本の日アサだ。
2014年9月26日
- 第25話 『KG カラテガール』ウェアラブルデバイスからの監視を逃れるニセ身体信号送信プログラム。悪魔は,いつも天使のふりをして現れる。オタサーの姫がいい例だ。
2014年9月11日
- 第24話 『BUNRAKU』ヱヴァンゲリヲン以降の日本文化は現象学的還元の繰り返しによってリアルを解体し,本質直感である『萌え』を経由して,哲学とヴァーチャルリアリティを融合させた。
2014年8月28日