モヤモヤ議論にグラフィックファシリテーション!

第20回 みんなが欲しいのは,ホンネを言える[安全な場]

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~時間と空間に〈逃げ場〉をつくっておく~

  • (4)〈物理的に〉参加者同士が〈近い〉
  • (5)自由に〈離れる〉ことを許している
  • (6)"第三"の存在を投入している
(4)〈物理的に〉参加者同士が〈近い〉

例えば,一泊二日の温泉宿での部研修でも,いつもと同じ会議室での部研修でも,本音は聞こえてきます。ただその時の会議室では,みんなで壁に並ぶグラフィックの前で立ったまま議論をしたり,机の上の模造紙にみんなで書き込んだりと,動きのある研修をしていました。

2つの研修の共通点は,お互いが「同じ釜の飯を食べながら」⁠ひざを突き合わせて」議論をするという感覚です。実際に食事を取るという意味ではなく,議論をするときの物理的な距離の近さです。椅子に座って机をはさんでお互い遠巻きに議論をかけあうのではなく,お互い物理的な距離がぐっと近くなる状況でした。同じ〈近い〉といっても時間を短縮するための全員が立ってする会議とは,目的が違います。

(5)自由に〈離れる〉ことを許している

<近い>と同時に,〈離れられる〉自由さがあるというのも共通点でした。みんなで壁に向かって肩を並べて議論して,時に少し離れたところに座って議論に参加することもできる。ワークショップの合間に「好きなときに休憩を取ってください」というアナウンスもその1つ。

ただなんとなく参加者に「リラックスしてほしい」⁠自然体で」⁠楽しんでほしい」という理由だけでカフェスタイルにしてみても,本題の議論の中身を力づけていない場は多々あります。ただ逃げるだけの場になってしまっては働かない。〈近い〉からこそ自由に〈離れる〉場や時間が有効になっていたように思います。

(6)"第三"の存在を投入している

"第三"の存在とは,例えていえば,夫婦仲をつなぐペットや子供,孫の存在。直接面と向かって愚痴は言えないけど,コイツになら言える,という存在です。利害関係者の集まる会議では,どこか発言がにごります。そこで効果的なのは,緊張をほぐし[蓋]をはずしやすい第三の存在です。

といっても大げさなものではなく,会議の参考資料として用意された他社・他部署の事例紹介,消費者の生の声といった,紙ベースのものでも十分です。それを見てこぼれた声から,本音が聞こえてきて,すごくいいなあと思います。まったく違う視点を持った他部署や社外の人間がその場に居るだけでも,その人への状況説明に愚痴が聞こえてきたりして筆はビビッと反応します。社外講師・著名な先生の講演やプロジェクトXなどのテレビの映像を見せることも,本音を拾うにはもってこいの第三の存在でした。

ちなみによく「あの講師の話は面白かった/面白くなかった」という評価・判断になりますが,絵にしている私からすると,マイナス評価「現場を知らない人に言われてもねえ」⁠うちの会社は違うんだよ」なんて声が聞こえてきたら,チャンスとばかりに筆が走ります。それこそが,トップやリーダーが聞きたかった本音と同じものだったりするんです。

~とにかく参加者を〈主役〉にしてあげる!

  • (7)参加者に十分語らせる
  • (8)主催者は,よそ見をしない!
(7)参加者に十分語らせる

今,どの場でも参加者の満足度を上げるのは「参加者自身がたくさん話ができた」という体験があることです。⁠ワールド・カフェ・ダイアログ」が一番わかりやすく人気の対話形式ではないでしょうか。50人でも100人でも,4~5人の小グループに分かれて15~20分の対話を,メンバーを替えて3~4ラウンド繰り返すと,いろんな人からの視点・気付きを得ながら,一人1時間充分話した満足感が生まれます。そして,そこには無防備な対話が生まれて,嫌でも本音が出てきます。

(8)主催者が,よそ見をしない!

ところで,場を乱す輩がじつは主催者側に潜んでいます。議論そのものの中身には興味がなく,壁際にただ座っている。部屋の後ろで小さな声で別のおしゃべりをしている。それでいて,用意してあるはずのペンが足りなくて困っている参加者に気付かない。そんな主催者側の,参加者に対する「無関心⁠⁠。それは,それでなくても恐る恐る[蓋]を開けて出て来ようとする人たちとの,その場の信頼関係を崩していきます。参加者は一気に[蓋]を閉じ始めます。最近の主催者側の口癖に「当日の場に任せる」⁠場で何が起こるかに任せたい」という声を本当によく聞きますが,参加者を"ほったらかし"にしている場って結構多いのです。

一方で,じぶんが参加する側のとき,例えばこんなことに気付いたことはありませんか?

机と椅子が正しく配置されている/必要な書類・備品がすでに机の上に揃っている/入ってきてコートを脱いだときそれを無意識に置ける机がある/席に迷わず着くことができる/ごみが落ちていない/入室時に「おはようございます」と迎えられる  etc。

あまりに当たり前のように事が進むので,気づきにくいことばかりです。ですが,スタートの時点から,私自身ためらいもなく描き始められる居心地のいい空間,つまりそこはすでに主催者側の気持ちで[場]の空気が温まっている状態でした。そして終始,議論以外は,何にも"つまずかない" "途中で中断しない"で進んだという気持ちの良い体験でした。主催者側がそこで起こることを注意深く一挙手一投足まで見守っているからできること。そこには本当に〈安全〉さがあって聞こえてくる発言にも緊張感も警戒心もありませんでした。

~発言の〈安全〉を本気で確保~

  • (9)トップ,リーダーの許可・お墨付きをとる
  • (10)主催者側の本気を伝える
(9)トップ,リーダーの許可・お墨付きをとる

さて,ここまでいろいろと[蓋]を外すポイントを並べましたが,本当の意味での[安全な場⁠⁠,本音を吐きだした後に力強い実行へと向かう場というのは,トップやリーダーにしか創り出せません。

というのも,会議の後のインフォーマルな飲みの場で,本当にガックリくることがあります。⁠そうはいっても実現は難しいでしょう」⁠上司の○○さんがなんて言うか」⁠ソレは◇◇部署の管轄ですから」etc。 さっきまでみんなで描き出した絵が,絵空事で終わってしまう瞬間です。

ここには私には見えないロジックがあります。そして,この見えないロジックから切り離せるのは,やはりその場のトップ,リーダーだけなんです。実際,本気のトップやリーダーは,メンバーたちが本音で語り合い自らが主体となって行動を起こせるよう,具体的に時間と場所をつくりだし,環境整備にすぐに手をつけます。

例えば,そもそもその[場]にトップやリーダー自身が不在(自分はその場にいない⁠⁠/結果を委ねる(数値成果を一定期間求めない⁠⁠/時間をつくる・許す(結論・結果を急かさない⁠⁠/実行のための障害を取り除く(関係部署に連絡を入れて根回しをするなど,みんなが不可能だと諦めている具体的な原因を取り除く)etc。 そして何より,⁠評価・査定から切り離す」という宣言が,メンバーたちに力強い発言を生んでいきます。

(10)主催者側の本気を伝える

トップからすると「そんなことが不安だったの?」と驚くようなことでも参加者の警戒心は計り知れません。実際,あまたの会議や研修という場が暗黙のうちに「言ったからにはやれよ」⁠結果次第では評価が下がっても文句を言うなよ」という踏み絵を踏まされる場になっていることが理由かもしれません。

でも,だからこそ,最初に特に「今日はいつもと違う場を用意した」ということを伝えることはとても効果があります。同様に,主催者側が[場]の準備にかけた思いを,司会者や進行役を通してストレートに伝えること。⁠今日は本音で議論してほしい⁠⁠。⁠そんなことは言わなくても場から伝わる」とこだわる方もいますが,やはり本音で語り合うには,主催者側から胸の内を明かすことが一番の近道です。そしてその温かい思いはちゃんと参加者に届きます。

と,以上,私の勝手な"筆判断"で,まとめてみましたが,こうして[蓋]が外れたおかげで聞こえてきた不平不満を,次回は「きちんと紙に定着させると消えますよ!」というお話です。今回はここまで。グラフィックファシリテーターのゆにでした(^-^)/

著者プロフィール

やまざきゆにこ

様々な議論の現場で,グラフィックファシリテーション(=グラフィックレコード+グラフィックフィードバック+グラフィックダイアログ)を実施する。300人超のシンポジウムから,企業も国籍も違う参加者の集まる研究会,組織を横断したプロジェクト,経営者・リーダークラスのビジョン研修,組織研修,顧客との協働プロジェクトなど多岐に渡る。企業・組織の事業判断・意思決定,プロジェクトや個人の意識・行動変革の一助になればと"絵筆を持って"活動中。

グラフィックファシリテーター(graphicfacilitator)は,やまざきゆにこの商標登録です。

グラフィックファシリテーション.jp:http://www.graphic-facilitation.jp/

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