モヤモヤ議論にグラフィックファシリテーション!

第19回リーダーに求められる ホンネが言える[場]づくり

こんにちは。グラフィックファシリテーターのやまざきゆにこです。さて、前回⁠社会のせい、会社のせい、上司のせいにする[他責]の議論をグラフィックに描いているうちに[自責]の議論に変わっていく」という話を紹介しました。そして「不平・不満こそ[紙に書いて定着]させる」ことをオススメしたのですが、そんな前回の記事に"くろめがねさん"から以下のコメントをいただきました。

  • 「⁠⁠みんな大好き!「できない理由」⁠ダメ出し」発言』これはよくわかります。それが自責の発言にそんなにうまく変わるのか? 経験がないので正直よくわかりません」

ごもっともです。そして実際、必ずしも、すぐに意識がうまく切り変わるわけではありません。放っておけば延々と「できない理由」の並ぶ議論と私は絵筆を長い時間(ときには丸一日)戦わせていることも多々あります。ただそこで、一人二人と「じぶんたちが」[自責の発言]に変わっていく会議には、共通して"いくつかの仕掛け"が重なって功を奏していると思います。

[自責の発言]を生み出すのに有効な仕掛けとは何だったのか? 日頃の会議でも使えるヒントを探りながら、⁠自責の発言]があふれ出るようになるまでの試行錯誤を振り返ってみたいと思います。

[他責な発言]こそ、未来への近道

そもそも、みなさんは「できない理由」「ダメ出し」発言が聞こえてくる会議室に居合わせたとき、どんな感情を抱きますか? 最近の私は「未来があるなあ」と感じるようになりました。というのも、私の筆がよく"走る"のです。

「会議で白い紙に絵を描く」という行為は何のためかと言えば「未来を描くため⁠⁠。一つ一つは、課題の洗い出しであったり、新しいマーケットの創造を議論している場で描いていますが、すべては未来を創り出すための議論の場です。そこで筆が"走る"というのは私にとっては「未来に向かっている」というバロメーターでもあるのです。

もう少し詳しく説明すると、単に「一枚の画用紙」に描くのではなく、どこまでも続く「絵巻物」に描くという行為は(※実際には大型ポストイットをどんどん横に並べて描いていくわけですが⁠⁠、未来に向かって模索し歩んでいる跡が、道となって現れてくる状態です。一枚一枚は、今つまずいている課題の絵であったり、認識のずれが見える絵だったりしますが、壁から2、3歩下がってグラフィック全体を俯瞰(ふかん)すると、それらがつらなって「未来に続いている」状態です。ちょっと格好よく言えば、古代の人が語り継いだ壁画のような、未来に語り継げるストーリーが見えてくるものです。

「一枚」の紙やホワイトボードに描くのと大きく違う、この「絵巻物」であるというグラフィックファシリテーションの特性から、筆がよく走るとき、それはどんなにネガティブな情報であっても「未来につながっている」と感じるんです。しかし、逆にいえば、私の筆が「どうも描きにくいなあ」といった違和感を抱いているとき、それは「どうも議論が未来に向かって進んでいない」という"信号"とも受け取れるのです。そして、その違和感が長く続けば続くほど、それは、何かしらの"キケン信号"と私は受け取っています。

キケン! 筆が進まない[本音が聞こえてこない]会議

最近、よく筆から"キケン信号"を感じるのは、次のような会議です。

  • 議事は滞り無く進んでいるのに、参加者から何の疑問も反論もない会議。
  • 意見が出たとしてもその後に発言が続かない会議。
  • 議論が交錯しない会議。
  • 議事を静観している人が大多数の会議。

そのときの参加者の心理状態の1つには、まさに第17回のコメント欄に頂いた以下の内容に近いのではないでしょうか。

  • 「余計なことは言わない方がいい。沈黙は金なり、といった価値観がはばを利かせているように思います。バカなことを言っちゃったらマズイとか、自分をさらけ出すことをよしとしないような文化みたいなものはやっぱりあるのかもしれない」⁠くろめがねさん)

黙っているけれどその場に座っている人たちの心の中では、じつは上記のような"会話"があるんですね。第三者には聞こえてこない本音の会話。

そんな本音に[蓋]をして、黙っていれば責任から逃れることもできますが、これも十分[他責]な行動です。そして、そんな[他責]な行動に囲まれた会議で生まれた絵には、本当に力がないんです。目標を掲げてこれから走り出そうという会議でも、その絵を見てだれからも「これいいよね」⁠いけるいける」という発言が聞こえてこない。現場は、どこか、やらされ感。みんな引いている。熱くない。乗ってない。予定調和の空気が流れています。

リーダーの感度が問われる[蓋]の重さ

私の右手が感じていた「本当に現場に戻って実行されるのかなあ」という違和感は、⁠本音が聞こえない]もどかしさからきていました。議論の結果に対して実行力の強い弱いは、本音を押し隠している[蓋]の重さでこうも変わってくるんだと思います。

会議で、いくら頭で「わかりました。やります」と言っても、心の中で「そうはいっても無理ですよ」という会話がある限り、その本音の会話は必ず行動を邪魔するんです。会議から現場に戻ると[蓋]がはずれて本音がこぼれ出す。⁠そうはいっても無理だよなあ」と。そして、その一見大したことのない愚痴のようにつぶやいた本音が、実行の一歩一歩を鈍らせ、結果、全体行動の進捗を遅らせていくんです。

経営のトップやリーダーとしては、⁠目標達成に向けて全員の気持ちを一つにした」つもりでも、本音が聞こえてこないまま終わった会議では、その合意はじつはとても脆弱なんです。そしてそのことを察知して悩んでいるのも、また経営のトップやリーダーたちです。⁠お利口さんな答えしか返ってこない」⁠下から突き上げる発言がない」⁠言ったことがどこか腹に落ちてない」⁠伝わってない⁠⁠。

[蓋]の重さに気付かないまま「意識合わせをしよう」と二度、三度と会議をしても大きな変化は起きてきません。⁠決めたことがなぜ実行出来ていないんだ」と詰め寄ったところで参加者の心の中で「そうはいっても無理ですよ」という会話がある限り、その組織が大きな成果を出すのは難しい。

[不平・不満]はみんなの共感を呼べる会議の起爆ツール

そこで[不平・不満]⁠他責な発言]がどのぐらい聞こえてくるかが、その[場]の本音の[蓋]のはずれ具合がよくわかるバロメーターとして使えると思うんです。その証拠に、ポロッと言っただれかの本音が絵になると皆さんすごく喜びます。⁠そうそう!そうなんだよ!」と指を差してきます。⁠言えなかったけど、じつは私もそう思っていた」ということが、絵に現れてくると、他の人の本音も一気に引き出してくるのです。そこで初めて自分が本音に[蓋]をしていたことに気付く人も多いのです。

ただ[不平・不満]の絵の種類は実はいくつもありません。たいていみんな共通した[不平・不満]の絵になって「そうそう!」と指を差します。⁠上は何を考えているのかわからない」という絵を描いたそばから聞こえてくるのは、⁠上司は部下が納得するように説明してほしい」⁠上司がどうしてこの目標を立てたのかわからない」と、ほとんどが同じ絵に描き足せる言葉です(この場合は"一方的な上司にいい顔をしていない部下"の絵にその"不平・不満を書いたフキダシ"を追加していくだけ⁠⁠。

ちなみに、そうやって[不平・不満]の台詞を書き足していたら、⁠もう、なんでわかるように言ってくれないの!」と親(上司)に向かってダダをこねている子どもように見えてきました。そのとき、私は「上司のせい」にしている発言が、必ずしも本意ではないんだなと思いました。根っこの気持ちは「未来に向かって進みたい」という同じ思い。ただ、それがうまく進まなくて上司のせいにした言葉となって聞こえてきている。本音の本音の声を絵の中に何度も見つけるようになってから、⁠他責」の発言も「未来があるなあ」と感じるようになりました。

黙って待てるリーダーたち

会議室でタブー視されがちな言葉も、⁠未来に向かって進みたい」気持ちの裏返しなら、声として聞こえてきたらラッキーです。本音が発言しやすい場がつくられている証拠です。それよりも、表に見えない心の中で[不平・不満]を溜め込んでいるほうがずっとやっかいなのです。

本音を言わない(言えない)会議というのは、大企業・大組織に限った話ではありません。中小企業でもトップの発言力が強い会社や、吸収合併を経て違う企業文化で育った人たちの集まる会社。全国の支店から、もしくは全事業部から管理職の皆さんが集まる場でも同じ情景に遭遇します。平均年齢の若いベンチャー企業でも経営者やリーダーが抱える悩みです。初対面ゆえに場の空気を読んだ気配り、配慮、遠慮から本音が出てこなくなるという状態もあります。

組織のリーダーであれば結果を出す責任を負っている以上、部下が並べる「できない理由」を聞くなんて、本当にもどかしい時間だと思います。しかし、

  • 現状どのくらい[蓋]の重い組織なのか。心の声が外に出てこない不健全な状態なのか。
  • 本音を言わない(言えない)状態が、どんなリスクを引き起こしている(いく)のか。
  • そもそも、聞こえてきた[不平・不満]にすぐさま[蓋]をして押さえつけていないか。
  • そもそも、声に出している本音をリーダー自身が聞き逃してないか。

こうした危機意識、自己認識が持てるかどうかが、⁠自責]の発言を促すためにも、まずは組織を動かすリーダーに求められている意識改革なんだと思います。

そして実際に、感度の高いリーダーたちは「腹を割ってをしよう」⁠膝をつけあわせて話をしよう」⁠インフォーマルな場が必要だ」[蓋]をはずしやすい[場]づくりに改めて今、力を入れています。⁠昔だったら飲みに行けばよかったこと」と思えることも、リーダーのほうがぐっとこらえて、ときには部下に気を遣って、⁠本音が聞こえてこない]会議に隠れているメンバーの気持ちと向き合い、危機意識を持って具体的に[蓋]をはずすこと、軽くすることに取り組んでいます。

そんな[場]づくりの具体的な仕掛けについては、⁠紙に定着させる」方法とあわせて次回ご紹介したいと思います。ということで、今回はここまで。グラフィックファシリテーターのゆにでした。(^-^)/

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