その2人も他の男性管理職と同じ働き方をしていました。
中途入社でマネジメントの役割を任されたCさんも他の管理職と同じように、早朝から深夜まで働き、自宅に帰ることができるのは週に何日かしかありませんでした。慣れない職場でプロジェクトを成功させるため必死でした。ですが過酷な労働に耐えられるのはせいぜい3ヵ月程度で、そのあとは仕事の能率がどんどん落ちて行きました。
そうなると残業時間はさらに膨れ上がり、マネジメント不全に陥り、本来部下に指示を出すべき仕事を徹夜でCさんがやらなくてはいけなくなるほど状況が悪化しました。
実はこの段階になっても、Cさんの部署の部長や他の管理職からは何のフォローもありませんでした。事態の異常さに気が付いた人事部が介入し改善の改良へ向けて活動を開始しました。なぜ周囲はCさんの異変に気が付かなかったのでしょうか。
“俺は今よりももっとひどい徹夜続きが当たり前の過酷な環境で働いてきて、やっとの思いでマネージャーになった。女性管理職だからといって早く帰るなんて許せない。同じくらい自分を犠牲にできなければ、俺達と同じ管理職とは認めない”といった男性管理職からの反発や、同じ女性同士であっても、“Cさんは私たちと違って管理職だから、他の女性社員の誰よりも苦労をして当たり前”といった嫉妬の感情が過重労働を見過ごしてしまうことがあります。
Cさんは男性社員からも女性社員からも孤立し、人事部が面談を実施した際には、周囲に相談できる社員もなく、とにかくプロジェクトの成功だけを考え今の辛い状況を耐えるしかないと思い込んでいました。そこで人事部、産業カウンセラー、産業医などの第三者が介入し、ヒアリングや面談を行いました。状況は未来に対して変えられること、仕事では出来ることと出来ないことを明確にして責任を1人で背負わないこと、自己犠牲をしないことなどについて考えていただきました。
同時にCさんの上長に現状を報告し、過重労働の原因を調査したところ、本人の能力が足りずに長時間残業となっているという回答でしたが、その後の調査で上長が業務の相談を受けていたにもかかわらず一切フォローをしていなかったことがわかりました。ここにも嫉妬の感情があったのかもしれません。部門長に調査結果を報告し勤務状況の改善の申し入れを行い、ようやく負荷分散ができ、徹夜続きの日々から抜け出すことができました。
母性の保護は社会の役割
企業は母性の保護を行う事が労働基準法により定められています。具体的には産前産後休暇、育児休業、深夜業の制限等があります。母性の保護の対象は妊娠中・育児中の女性に限りません。深夜時間帯の労働は人間の身体のリズムに反し、女性だけでなく男性にとっても健康を害し、生活リズムが乱れます。深夜の連続勤務や徹夜続きの働き方はとくに深刻で、健康や母性機能を損なう危険が指摘されています。出産を控えた女性だけでなく、一般の女性についても健康上または深夜帰宅の防犯上の観点からも必要な措置を行い保護することとなっています。
女性が出産・育児を理由にして差別されることなく、次世代を育む母性を保護することは社会の役割であるという認識は徐々に広まってきていますが、Cさんの職場のように時代錯誤な考えが残っているところもあるのが現状です。人事部や管理職の方は現在の法律がどのようになっているのか、就業規則ではどのような規定があるのかについて社員へ周知し、母性の保護について啓蒙することが求められます。以前は女性のみの保護でしたが、現在は男女ともに時間外労働について制限が設けられ、女性も男性も働きやすい職場づくりが進められています。
婦人科系疾患に伴うストレス
Cさんは入社前より婦人科系疾患で定期的に健診を受けていました。経過観察という状況でしたが、過重労働により症状が悪化し治療が必要となりました。仕事のストレスから持病を悪化させてしまいましたが、女性にとってはその疾患自体が非常に大きなストレスであり、うつ状態になる方を多数見てきました。
婦人科系疾患は症状が目に見えず、辛さが周囲に伝わりにくく、症状が現れにくいため気が付いたときには既に進行している場合が多くあります。上司が男性の場合は相談することもできず、上司も疾患に気がつかず、男性同様に働かせてしまうことがあります。同じ労働条件下であっても、個人差はありますが男性と女性とではやはり女性の方が身体への影響が大きく、婦人科系疾患を引き起こしてしまいます。
“なんとなく身体はつらそうだけど、他の社員もそれぞれ疲れているし、精神的には元気そうだから仕事を続けさせて大丈夫”などと考えずに、女性特有の疾患の恐れがあるかもしれないと考えていただきたいです。また、体調不良に気が付いたら、直接聞くのではなく、女性社員に代わりに話を聞いてもらうなどの配慮が必要です。
Cさんの場合は手術が必要なまでに症状が進行し、今の仕事を続けられるか大きな不安を感じていました。仕事だけでなくこの先の人生について希望を持てなくなりうつ状態となり、周囲へ不信感を抱くようになり、上司の助言も受け入れられない状態になりました。休職中に手術を行い、心理的な不安も徐々に軽減し再び働く意欲を取り戻していきました。
たった1人の上司の発言が企業の考えと受け取られる
Cさんが孤立し周囲へ不信感を抱くようになった背景には、上司の発言による影響もありました。“すぐに体調が悪くなるから女性には仕事を任せられない”“欠勤した分の仕事は結局男性社員がフォローしなければならない”などと漏らしていたことが他の社員を通じて耳に入ったのです。もちろんCさんの職場ではそのような考えは持っておらず、上司の発言はただちに訂正をしなくてはいけないものです。しかしたった1人と言えども上司の発言は企業全体の発言と受け取られても仕方がありません。それほど影響力があるのです。この発言がきっかけとなりCさんの職場では男性社員と女性社員の間に目に見えない壁が作られていきました。
人事部や管理者は、企業の考えが正しく伝わっているか、コンプライアンス違反やパワーハラスメントが行われていないか定期的に確認をし、企業の姿勢を文書にして周知するなどして社員へ正しく理解をしていただく必要があるでしょう。
多様な働き方とワークライフバランス
企業は女性だけに限らず男女ともに健康で能力を発揮できる職場環境を作ることが求められます。仕事と生活の比重は5:5が必ずしも良いということではありません。極端な話ですが高度経済成長期の時代、男性はほぼ10割仕事、女性はほぼ10割家庭であり、1世帯でのバランスを取っていました。これも1つのワークライフバランスの形だと言えるでしょう。生きる時代やライフスタイルによって理想となるワークライフバランスは変化しますし、一人ひとり異なります。企業は一昔前の10割仕事のスタイルを強要することはできません。社員が望むワークライフバランスがある程度尊重されるよう、働き方の選択肢を複数用意することで労働力の確保が可能となり、多様な労働力を活かすことができます。
Cさんの職場では、過去に育児休業から復帰した女性社員がいました。高い技術を持った社員であり、復帰後も以前のように仕事を続けたいという思いで子育てをしながら仕事をし、保育園の送り迎えと仕事の納期に追われながら分刻みの毎日を送っていました。
短時間勤務となったことで今までより短い時間で同じ成果を出さなくてはならず、そのために非常に高い集中力で仕事をし、自分が帰った後の仕事を同僚にサポートしてもらっているため、自分でも出来る限りのことはやろうと自宅でも仕事の準備をするなど努力していました。
ところが上司からの理解は得られず、仕事の成果や時間単価あたりの仕事の能力を評価せずに、フルタイムで働いている社員と単に勤務時間だけを比較し、短時間勤務の社員は評価しないと言われてしまいました。その言葉に深く傷ついた女性社員はその後どんなに説得をしても仕事を継続する気力を失い、上司との関わりを避けるようになり退職してしまいました。現在は新しい職場で大いに能力を発揮しています。企業として大事な戦力を他社に奪われてしまわないよう、様々な働き方ができる職場作りをしていただきたいと思います。
30代以降の女性の不安
これまでどんなに仕事に、趣味に、家庭に、順調に生きてきた女性であっても、30代に入ると仕事や結婚・出産・育児などの将来への不安が大きくなっていきます。仕事優先で働き続けてきた女性にとっては家庭を持ちたいと焦り、家庭優先で育児をしてきた女性にとっては働かない・働けないことへの焦りが出てきます。女性は男性よりも多くの選択肢から自分のキャリアを選択することになるため、どの道を選んだとしても、選ばなかった道への後悔を感じるのです。一方、仕事での自分、家庭での自分、地域社会での自分と様々な役割を楽しめ、環境に適用できるというのも女性の強みであると考えます。
女性は男性に比べ正社員での採用も少なく多くが非正規で働いており待遇も充分ではないため、女性1人で経済的自立をすることは容易ではありません。これほど女性の社会進出が進んでいるにもかかわらずまだまだ女性が1人で生きていくには不安が大きく、結婚や配偶者の転勤などによって自分のキャリアを変更しなければならない局面は多くあります。30代以降の女性は、常に不安な感情を抱えながら働いているということをおもんばかり、思いやりを持って関わりあえる職場を目指していただけたらと思います。