7月8日
日本では開発者以外にはあまり知られていなかったRancherですが、
Rancher Labsってどんな企業?
- ――日本では知名度があまり高くなかったRancherですが、
コンテナマネジメントの世界では非常に高く評価されていたと聞いています。桂島さんは今回の買収のインパクトをどのように捉えているでしょうか。 桂島氏:数多くあるコンテナ管理のスタートアップの中でも、
Rancherはガートナーの中で高く評価されていた1社です。たとえばガートナーが2020年3月に発行したレポート 「Competitive Landscape: Public Cloud Container Service」 の中では以下のようにコンテナ管理のメジャープレイヤーを分類していましたが、 AWSやOracle、 Red Hatなどのビッグベンダと同様にRancherも名を連ねています。 - ――Rancherの評価ポイントはどこにあったのでしょうか。
桂島氏:Rancherは2016年にKubernetesのサポートを開始しました。これはVMware/
Pivotal (2018年) やDocker (2018年) よりも早い時期でのサポートです。また、 マルチクラウド管理やエッジ対応で他ベンダに先駆けて新機能を提供するなど、 トレンドを読んだうえでのすばやい動きが顧客に評価されています。 - ――ここ数年でRed Hatによる旧CoreOS買収、
VMwareによる旧HeptioおよびPivotal買収などビッグベンダによるコンテナ市場の統合/再編が加速しているように思います。この流れは今後も続くと見ていいでしょうか。 桂島氏:コンテナ管理はプレイヤーが多く、
買収などによる市場再編が進むことは避けられないと見ていましたので、 今回のSUSEによるRancher買収に驚きはありません。ただ、 RancherやDocker (2019年11月にMirantisにDocker Enterpriseを譲渡) のような有力なスタートアップのビジネスが買収されたことは、 コンテナ管理市場において、 スタートアップが牽引してきた初期市場の段階が終わり、 大企業/プラットフォーマーが激しい競争をするメインストリーム市場の段階に入ったことをあらわすひとつの象徴と言えると思います。 - ――買い手がSUSEという点についても驚いたのですが、
SUSEのCEOであるメリッサ・ ディドナート (Melissa Di Donato) 氏はリリースで、 「SUSEとRancherのコンビネーションだけが100%真のオープンソースポートフォリオをグローバルで深くサポートできるOnly the combination of SUSE and Rancher will have the depth of a globally supported and 100% true open source portfolio)」とコメントしていました。これは競合のRed Hatに対する牽制のように思えたのですが、 一方でRed Hatもまた新CEOのポール・ コーミア (Paul Cormier) 氏をはじめ、 エグゼクティブが 「Red Hatだけが真のオープンソースベンダであり、 最近になってオープンを提唱し始めた企業とはレベルが違う」 と強気な発言を繰り返しています。今回の買収により、 SUSEはRed Hatに対してオープンソースとKubernetesという両方の市場で、 あらためて競っていく姿勢を示したように捉えたのですが、 桂島さんはどう思われますか。 桂島氏:私はオープンソース戦略に関しては直接カバーしていませんので、
Kubernetes戦略における両者の立場の違いについてのみ回答します。 Red Hatは他社に先駆けて2015年にKubernetesをOpenShiftでサポートするなど、
Kubernetesに関して早期から戦略的に取り組んできました。Red Hatは、 Googleに次いで、 Kubernetesアップストリームにおける第2位のコントリビュータになっています。その結果、 コンテナ管理ソフトウェアで最も大きなビジネスを展開するまでになり、 この市場のリーダー企業の1社となっています。日本でも、 富士通、 日立製作所、 NECなどの大手SIerの多くが、 OpenShift関連ソリューションを提供しています。 一方、
SUSEは 「SUSE CaaS Platform」 というKubernetesベースのコンテナ管理製品を出しているのですが、 今のところ、 市場でほとんど存在感を示すことができていません。現在、 最も勢いのあるオープンソースソフトウェアのひとつであるKubernetes関連のビジネスにおいて、 SUSEは出遅れてしまっています。Kubernetesアップストリームへのコントリビューションもあまりできていません。Rancherの買収により、 Kubernetes関連のビジネスにおける巻き返しを、 SUSEは狙うことになると思います。
Kubernetesとコンテナをめぐる今後の動向は?
- ――今後のコンテナ/Kubernetesトレンドについて、
桂島さんの見解をお聞かせいただけるでしょうか。個人的には、 昨年末から今年にかけて、 クラウドネイティブ指向がいっそう強まるなかで、 ローリソースなエッジ/IoTでのコンテナユースケースが増えているように見ていますが、 そのほかにも特筆すべきトレンドがあれば教えてください。 桂島氏:昨年、
「Top Emerging Trends in Cloud-Native Infrastructure」 で、 以下のようにコンテナ関連のエマージングトレンドをまとめています。 重要なユースケースとしては、
たとえばマルチクラウド環境でのコンテナの活用があります。たとえば、 RancherやVMware Tanzuがメジャーなパブリッククラウドのマネージドサービス (EKS/ AKS/ GKE) の管理機能を追加したり、 Red HatがAWS/ Azure/ GCP上でOpenShiftのマネージドサービスを提供したり、 メガクラウドベンダがKubernetesベースでマルチクラウド対応ソリューションを出す (Google AnthosやAzure Arcなど) などの動きがあります。 また、
ご指摘のようにエッジコンピューティングも重要なユースケースです。より軽量なKubernetesディストリビューション、 多数のエンドポイントの管理、 エッジにおけるネットワーク/ セキュリティ機能の統合など、 多くの新機能が開発されています。 そのほかに、
- サービスメッシュの統合
- サーバレスとの統合
- マーケットプレイスの提供
- ベアメタルコンテナのサポート
- ステートフルアプリケーションのサポート
- 機械学習プラットフォーム/ツールとの連携
なども新たな差別化ポイントになってきています。
桂島氏が所属するガートナーは、
Kubernetesがコンテナマネジメントにおけるデファクトスタンダードになった現在、
一方で、