無関心な現場で始める業務改善

第1回二度とやるものか……業務改善

はじめに

3月11日の東日本大震災から、3ヵ月が過ぎようとしています。震災直後に発生した食料品、ガソリンなどの物資不足は未だ記憶に新しいところです。製造業においては部品や原材料の供給が滞り、サプライチェーンの構造上の問題も浮き彫りになりました。

経済活動全体が停滞する状況下で、企業は売上を伸ばすことは当然ながら難しくなり、無駄を減らせ、コストを下げろと、経営課題の矛先は社内へと向くようになります。

さて、皆さんは業務改善と聞いてどんなイメージをお持ちでしょうか?

後ろ向きな仕事? できればやりたくない? 他にもっとすべきことがある? いろいろと思うところがあるでしょう。

業務改善がうまく進むところと進まないところの違いは何だと思いますか? 会社の風土や体質、社員の特性はもちろん、経営者の姿勢も大きく影響します。何事もそうですが、やりたくないことを無理にやらせても良い結果が出ることはありません。

私は業務プロセスの構築、標準化に軸足を置き、企業変革のお手伝いをしている経営コンサルティング会社を経営しています。いわゆる超上流工程と言われる領域をはじめ、経営から現場までの業務プロセスを細かくバラし、業務改善や標準プロセスの構築、システム導入支援などを行っています。

組織の利害関係、個人の感情などが入り混じり、一筋縄ではいかない業務改善ですが、我々コンサルティング会社が行う様々な仕掛け作りとノウハウを連載を通してお伝えします。

「無関心な現場で始める業務改善⁠⁠。業務改善のリーダーでも、業務分析を行うITコンサルタントでも、部門の生産性を高めたいマネージャでも、改善の勘所をきっちり押さえれば、怖いことはありません。

身の周りでの出来事

企業を取り巻く環境が順調で業績も好調な企業は、さらに売上や利益を高めるために、前向きなお金の使い方をします。大々的なキャンペーンや広告宣伝費の投入などです。言い換えれば景気が悪くなると真っ先に削減されるものです。

業績が良い時期に「業務改善をしよう!」という話はあまり出ません。それこそ、後ろ向きな話と片付けられがちです。しかし、業績が良い時期だからこそ、今一度、日常業務を見直してみようという会社もあります。事実、20年前のバブルで日本中の企業が浮かれている時期にも、危機感を持ちながら足元を固めようと地道に業務改善に取り組んでいた企業も多くあります。

さて、あなたの身の周りでこのようなことは起きていませんか?

  • いつの間にか業務が複雑になってしまった
  • ミス・トラブルが後を絶たない
  • 品質のバラつきが減らない
  • 残業が当たり前になっている
  • 業務がブラックボックス化している
  • 属人的な仕事のやり方がまかり通っている
  • 業務の全貌を誰もわからない
  • 業務プロセスの変更が多く対応できない
  • 分業(役割分担)が明確でない

「自分の職場でもあるある!」とうなずかれた方はいるでしょうか? ⁠別に今すぐ直さなくてもいいと思うけど…」と感じる方もいることでしょう。

根本的な改善は急に始めようと思ってもできない

業績が悪化し、新たな売上の拡充が見込まれない企業のやるべきことは、まずは耐えること。そのための時間短縮、そして賃金カット。現場に要求されることは、⁠効率的に仕事をしなさい⁠⁠ムダを省くように」などなど。この段階になって初めて、業務改善などの⁠効率⁠に注目して重い腰を上げるところも少なくありません。

さて、何をどこから着手しようとしても、日常的に改善に取り組んでいない企業では、まずはできることから始めようと、身の周りの無駄探しや経費の削減を行います。お昼休みに消灯したり、コピに裏紙を使うなどです。しかし、削減効果は頭打ちで、ある程度以上には絶対になりません。果たしてこれは改善だろうか、単にケチっているだけじゃないのと疑問に思っている人もいるでしょう。

目の前の仕事がなくなるわけではないので、どうしても改善は簡単なものに向かいがちになります。かといって、根本的に業務プロセスを見直し、品質やコスト、納期などの改善目標を定量的に掲げ、部門全体で取り組もうとなると、⁠そんな時間はない!」と現場から猛反発を食らうわけです。

このように、業務改善は急に始めようとしても、現場は動かないし動けない。動かそうにも動かせない。こういう状態に陥る羽目になります。

もし、あなただったら、どのように進めますか?

旗振れども動かず

我々のところに来る相談で最近目立つのが、これから業務改善に取り組もうとしている会社よりも、すでに改善に取り組んでいるもののうまく進まない状態に陥っている会社が多いことです。

具体的には、改善の事務局だけが一生懸命で、現場がさっぱり動かない。関心を示さないというものです。さらにひどい場合は、経営者も事務局に指示を出しただけで後は丸投げというケースもあります。

事務局がいくら旗を振っても、現場も経営者も動かない傍観者のままです。無理にやらせようとしたら、現場の上司から「仕事の邪魔をしないでくれ!」というクレームが入ることもあるそうです。

こういう状態から抜け出せずに、数ヵ月、場合によっては1年が過ぎてしまった会社もあり、深刻な表情で相談に見えられます。

企業が抱える課題は基本的に自然治癒することはないので、放置しておけばいつまで経ってもそのままです。病気の治療と同じで早期発見早期治療が鉄則であるにも関わらず、なぜ改善に着手できないまま時間が過ぎるのでしょうか?

たいした効果が出ないまま自然消滅

業務改善に限らず、組織の中で何らかの活動を過去に行い、うまくいかなかった経験を持っている組織には、⁠どうせ、またうまくいかないだろう」と最初から冷ややかに見ている人がいるものです。そのタイプも様々です。言われればやるけれども、言われなければ目の前の仕事のほうが大事なので、進んではやらない人、最初から露骨に拒絶反応を示し「やってもムダだ!⁠⁠改善など意味がない」などという言う人もいます。

すでに改善活動に入っている場合は、温度差が問題になる場合もあります。順調に進んでいるチームもあれば、そうでないチームもあります。進捗に差が開いてくると、進んでいるチームは遅れているチームに対して「俺たちはこんなに頑張っているのだから、向こうにもちゃんとやらせろ!」と事務局に不満が向かうこともあります。一方、遅れているチームにもちゃんと言い分があります。⁠あいつら本業が暇だから改善ばかりやっている」と。

順調に進んでいるチームは、いつしか「自分たちばかり馬鹿らしい」と思うようになり、改善活動は失速してやがて終了。たいした効果も出ないまま消滅する業務改善が多くありますが、本業ではないという意識の下では問題が表面化してきません。

改善が進まない理由

過去の失敗経験を学習してしまっている組織は、⁠そもそも、うちの会社では改善なんか無理だ」と考えています。

変化に対する拒否反応や、できれば関わりたくないという深層心理は、誰にでもあります。他人事のような発言や、⁠時間がない」が殺し文句となって、事務局を悩ませます。

経営者も最初は関心を示すものの、現場に一任、というより実際は丸投げにしていたり、効率化はそもそも言わなくてもやっていて当たり前と考えていることもあります。

いっぽう、推進役の事務局に問題がある場合もあります。事務局が業務改善の進め方を知らない場合もありますが、上層部から「やれ!」と言われて渋々引き受けた事務局と、自らが問題意識を持ち改善に手を挙げた事務局とでは、改善にかける思いが桁違いに違います。人から言われて行う事務局と、自ら進んで行う事務局。どちらがきちんと機能するかは言うまでもありません。

ここで考えたいことは、そもそも何のための改善か? 誰のための改善か? ということです。

  • 何のために……品質を上げるため、コストを下げるため、納期を短縮するためなど、大きな枠組みではいくつか挙げられるでしょう。
  • 誰のために……自分のため?お客様のため?それとも社長のため?誰か困っている人のため?

このように、改善が進まないワケにはいろいろあります。人間誰しも、少なからず損得で動くところがあります。自分にメリットがあるかないかが、積極的に協力するか、拒否するかの判断基準になるのは仕方のないところです。

働きかけで必要なこと

改善は誰かがやってくれるものではありません。自らの手で、自らの職場や会社を良くしていくという気構えが必要です。

改善の進め方にも工夫が必要です。現場や経営者の関心をいかに高めるか、どのように時間を確保するか、どうキーパーソンをいかに上手に巻き込んで、現場が改善しやすいような環境構築を行うか。当事者としての意識を高め、⁠やらされ感⁠をなくしていくことが重要です。

傍観者ばかりの⁠無関心な現場⁠で、いかに「現場主導の業務改善」を継続し、企業文化として定着していくかを、改善の教科書には書かれていないコンサルティングノウハウを交えながらお伝えしていきます。

今、業務改善に悩んでいる方も、これから取り組もうという方も、また、業務分析や現場の協力、経営のコミットメントが必要ITコンサルタントの方も必見です。

次回は、⁠業務改善のキッカケ」というタイトルでお話をします。

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