無関心な現場で始める業務改善【シーズン2】

第5回 大好きな会社にしたい(組織のソフト部分へ目を向ける)

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2・6・2の法則

さて,佐藤さんとはだいぶざっくばらんに話ができてきたS氏とW女史です。

  • 佐藤さん:「それで,現場は経営批判ばかりで,問題があるのに原因を追究しようとしないんです。製造,品管,営業の部長も話になりません」

  • S氏:「"2・6・2の法則"って聞いたこと,ありますか?」

  • 佐藤さん:「どこかで聞いたような気がしますが,はっきりとは……」

  • S氏:「上位の2割は積極的に動く,中位の6割は上位の2割にぶら下がる,下位の2割は動かない」

  • 佐藤さん:「僕が現場をざっと見た感じだと,積極的に動きそうな人が2割もいるようには見えないです」

  • S氏:「今はそこまで見えていないのかもしれませんが,まずは上位の2割を見出して動かすことを考えていきましょう!

組織の氷山モデル

S氏は,上位の2割をどう見出して動かすのかに触れることなく,話を続けます。

  • S氏:「もともと,GHテクノロジーズで起きていた問題は,海外EMS工場における品質不良発生でしたね」

  • 佐藤さん:「はい,そうです。それが発端で急激に収益性が悪化し,早期退職で300名の社員が辞めたのが先月のことです。少し前の品質対策会議ではあまりの腹立たしさで,途中で飛び出してしまいました」

  • S氏:「佐藤さんとしては何をすべきだと思いますか?」

  • 佐藤さん:「僕の先輩であるマーケティング部の坂本課長とも話したのですが,経営者がきちんと方針やビジョンを伝えなければいけないと……

  • S氏:「でも,それは中田社長がきちんと伝えると約束をしてくれたでしょう?」

  • W女史:(やんわりと)⁠佐藤さんなりに,社長に直訴するまで駆り立てた何かがあったことと,これまで現場の人と話をしてきた中で感じたことがあると思うわ!」

  • 佐藤さん:自分がこの会社が好きだから放ってはおけなかったし,現場の業務改善をすぐにやらないと本当にこの会社が沈むと思ったからです

  • W女史:「業務改善をすれば,佐藤さんが好きな会社になれそうですか?」

  • 佐藤さん:「現場のみんながもっと自分たちの問題だと認識しないとダメだと思っています。みんな,経営者のせいにする,自分は悪くないと思っていて,被害者意識の塊です」

  • W女史:「もう1回,聞きますね。2つ話します。1つ目は,経営者がきちんと方 針,ビジョンを伝える。2つ目は,業務改善を行う。これで,現場は変わりますか?佐藤さんの好きな会社になりますか?

  • 佐藤さん:「出る杭は打たれる風土,指示待ちで自発性がない体質を変えていかないと無理だと思います」

  • S氏:経営方針・ビジョンや業務改善だけでは,企業の変革は進まないということがわかったようですね!

S氏はホワイトボードに図2のような絵を描き,佐藤さんに説明をしました。

図2 ⁠組織の氷山モデル」「ハード&ソフト」

図2 「組織の氷山モデル」と「ハード&ソフト」

この図は,「氷山モデル」と呼びますが,その名のとおり,水面上に出ている"目に見える部分(ハード部分と呼びます)"と,水面下の"目に見えない部分(ソフト部分と呼びます)"の両方で成り立ちます。

おおよそ,図2をご覧いただけばおわかりになるかと思いますが,端的に言ってしまえば,「水面下のソフト部分が,水面上のハード部分に大きな影響を及ぼす」ということになります。

氷山の下から上に向かって見てみましょう。

もっとも深い層組織のOS層に"お互いに牽制し合う関係性""無関心"があると,その上の暗黙の判断・常識層では,⁠どうせ言ってもムダ」などとなります。結果,さらにその上の現象層では,⁠部門間の壁(セクショナリズム⁠⁠」が生まれ,⁠指示待ち」体質となります。

つまり,氷山の水面下の"ソフト部分"を放置したままで,水面上の"ハード部分"にある方針説明やシステム導入などを行っても,うまくいかないのです。業務改善もハード部分に位置付けられます。

現場が無関心,指示待ちのところに,自発的な業務改善など期待しても無理なわけです。

組織のメンタルモデル

  • 佐藤さん:「こうやって,水面下のソフト部分を眺めると,なんて嫌な組織だって思っちゃいます」

  • S氏:「あはは,そうですね。先ほど,W女史が好きな会社とはと聞きましたが,こんなイメージではないですか?」

S氏は図3-1のようなチャートを佐藤さんに見せました。

図3-1 メンタルモデルが組織メカニズムに与える影響

図3-1 メンタルモデルが組織メカニズムに与える影響

  • 佐藤さん:「そう!そうなんです!この右側のイメージです」

  • S氏:「ここで書かれている,"現象"と"メンタルモデル"との関係性は,先の氷山モデル(図2)とほとんど同じです。続いて,もう1枚見てもらえますか?」

  • 図3-2 変化対応・進化型組織に替える

    図3-2 変化対応・進化型組織に替える

  • 佐藤さん:「左側の組織はまさしく今の当社です」

  • W女史:「右側のような組織になりたいですよね!」

  • S氏:(W女史に追い打ちをかけるように……)⁠先の図図3-1と,ここ(図3-2)で書かれている,いずれも右側の組織に変えて実現できれば,佐藤さんの大好きだったGHテクノロジーズになりそうですか?」

  • 佐藤さん:「はい!!」

  • S氏:会社を変えるためには,ハード部分に着目をするだけではなく,ハードに大きな影響をもたらすソフト部分に目を向けないといけないということになります

ソフト部分を変える=組織風土改革

先ほど,S氏が佐藤さんに伝えた「ソフト部分に目を向けなければいけない」ということは,「経営改革,業務改善ができる組織風土を作り上げること」と言えます。社長が一人で一生懸命,旗を振っていても,経営者以下現場が誰も納得して動かなければ経営改革は進みません。現場の業務改善も同じです。

そもそも現場が聞く耳を持つ,理解・共感をする土壌ではないところで,いくら種をまいても芽は出ません。

もう1つ,意識改革とどう違うのかと思われる人もいると思うので,簡単に説明します。

会社に限らず,政治の世界でも「意識改革が必要だ!」などと叫ばれますが,意識が変わることが風土改革と混同されることが多くあります。

図4をご覧ください。

図4 風土改革と意識改革の違い

図4 風土改革と意識改革の違い

意識改革の働きかけは個人であり,⁠意識が変われば行動が変わる」という希望的観測が考え方の原点です。手法も研修やミーティングなどが中心で,頭で理解できても行動変革には時間がかかり,全く反映されない場合もあります。

一方,風土改革はご覧のとおり,組織(具体的には個人を取り巻く環境)に働きかけを行います。組織の身動きを取れなくしている風土を変えて,変革を起こしていくためには,埋もれている個人の主体的なエネルギーが顕在化される環境づくりがキーになります。

さて今回,佐藤さんはコンサルティング会社C社のS氏,W女史からいろいろとアドバイスをもらい,作戦を練ろうと考えています。次回は,このアドバイスの続きと,具体的な変革のシナリオ,プロジェクトとしての立ち上げについてお話します。お楽しみに!

著者プロフィール

世古雅人(せこまさひと)

メーカにて開発エンジニアと半導体基礎研究(国の研究機関出向)の計13年を設計と研究開発の現場で過ごす。企業風土改革,組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画責任者などを経て,技術の現場あがりの経験や知識を活かした業務改善やコンサルティングなどに従事。

2009年に株式会社カレンコンサルティングを設立,同社代表取締役。現場と経営を巻き込んだ「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを推し進めている。

株式会社カレンコンサルティング

URL:http://www.carren.co.jp/